#2 世の中が広いってことを教えてやるよ。
正直な話俺は冒険者が大っきらいだ。力が全ての冒険者業界の中で弱々しい、物腰柔らかな奴じゃ生きていけないのはわかる。だがそれでも自分たちの常識とは違うところで生きている一般市民にも威圧的に振舞う姿勢はどうにかして欲しいものだ。
子供の時から近所の友達たちはそんな威圧的な態度の冒険者に強く憧れていて威圧的=強者だと思っているのだろう。俺はそんな常識になりつつある世界のあり方も嫌だった。
周りの友達たちが冒険者に憧れ、訓練という名のチャンバラごっこをしている間俺は一人黙々と素振りで基礎を固めていった。俺にはその頃から明確な目標があった。それは軍人になることだ。俺の住んでいるような田舎町では頻繁に魔物が村を襲う。大抵の場合は近隣の少し大きな街から派遣された冒険者が相手をするので特に問題はないのだが、たまに並みの冒険者では太刀打ちできない魔物がやって来ることがある。
15年前俺たちの村はある魔物に襲われた。その日を一日たりとも忘れることはできないだろう。恐怖に怯える俺を助けてくれたあの人のことも。
しかし俺の軍人になるという夢ももう叶うことはないだろう。正直自信はあった。しかし俺は一次試験で落とされたのだ。特に試験らしい試験を受けることもなく門前払いに近かっただろうか。
受験料はしっかりと払わせられたのでもうこの帝都で過ごすことはできない。それにこの帝都に来るために俺は10年間働いた金を使い切ったのだ。また来年受ければなんてことも出来ない。この帝都では仕事を探すことも難しいだろう。俺には計算なんてさっぱりだし、シェリーのようにてきぱきと注文を取ったり、おっちゃんみたいに料理を作ることもできない。
最初は夢が叶わなくなった喪失感から、自暴自棄になっていたが変わらずに接してくれたおっちゃんには救われた。見ず知らずの男に寝床を貸してくれた上に、本当の息子のように叱ってくれた。本当に感謝してもしきれないだろう。
そう。だから俺はこの家族に少しでも恩返しがしたい。そのためにもこの粗野で野蛮な俺の大っ嫌いな冒険者の代表みたいな奴らに分からせてやらないといけないだろう。
なんでも力で解決することはできないのだと。
―――――――
「なんだ。てめえはよぉ!」
俺がシェリーを厨房に向かわせた後リーダー風の男が俺に叫んできた。俺はシェリーがドミニクさんにしっかり保護されたことを確認したあと男たちの方へ向き直った。
「俺はさ。お前たち冒険者に常々言ってやりたいことがあったんだ。」
男たちは俺の言葉に思わず疑問符を浮かべる。周りの客たちも今から起こるであろう惨状――俺が銀翼の翼に惨殺される――に顔をしかめていたのだが、おれが突然話しだしたことで唖然としている。
「冒険者ってのはそんなに偉いのか?魔物をぶっ殺す力があれば偉いのか?なんで自分たちの常識や尺度でしかほかの人たちを見れないんだ?」
「うるせぇ!力がありゃ偉いに決まってんだろうが!冒険者ってのはそういう仕事じゃねえか。力がなきゃ務まらない。それにな、俺たちが魔物を狩らなきゃ誰がやるってんだよ。お前たちは俺たち冒険者に生かされてるも同然なんだから、おとなしく従ってりゃいいんだよ!」
そう言ってリーダー風の男が俺に殴りかかって来る。やっぱり冒険者は嫌いだ。すぐに力に訴えかけてくる。そんな生き方が悪いとは言わない。でもそれを押し付けるなら、その力で押さえつけるまでだ。
腐ってもAA級冒険者なのだ。パンチは鋭く、それでいて重い。それでも止められないほどじゃないし、所詮AA級の域を出ない。
俺はそのパンチをいなし、腕を掴みその勢いを利用して投げ飛ばした。もちろん投げ飛ばす方向は仲間の男たちがいる方向で、周りには被害が及ばないようにする。
「俺はお前たち冒険者が大っ嫌いだがそれでも今日だけはお前たちの慣習に従ってやる。だからお前たちは俺に従えよ。」
それを聞いた男たち三人は、怒りが頂点に達したのか自らの獲物にてをかけた。リーダー風の男が大剣使い。取り巻きAがハルバート使い。取り巻きBが魔法使いだろうか。
俺が分析しているうちに魔法使いの男の詠唱が始まり魔力が増幅していく。魔法使いの男を守るように大剣使いの男は俺に正対し防御の構えを取る。そしてその間にハルバート使いの男が俺に突撃をかけてくる。
悪くない連携だ。この連携の練度には素直に感心する。しかし、それでも俺は真っ向からねじ伏せるためハルバート使いの男にゆっくりと歩み寄る。
「死ねぇぇぇええ!」
容赦なく振り下ろされたハルバートを俺は腰に下げた刀を抜き、刃に沿わせるように受け流す。このまま地面に振り下ろされると酒場に甚大な被害が出るので途中でハルバートが刀の真ん中辺りまで振り下ろされた時に真横に強く弾き飛ばし無理やり方向を変えてやった。ハルバートが吹き飛び酒場の壁に突き刺さるがそれはぐらいの被害は許して欲しい。
己の武器を弾き飛ばされ何が起きたのかと呆然としている取り巻きAを峰打ちで気絶させそのまま大剣使いに接近する。
防御の構えを取っていた大剣使いだが、俺の急接近に焦ったのか剣を振り下ろしてきた。
「クライアー流居合術『雷鳴』」
『雷鳴』は俺の使える刀術の中で最速の抜刀術である。由来は師匠曰く「俺の知ってる一番早いのが雷だったんだよ。だから俺の最速の剣術の名前には雷をつけたっていいだろ?」だそうだ。なんとも適当な師匠だとは思うが
教えてもらったことは全てが一流で感謝してもしきれないほどだ。ただもう一度あの訓練の日々に戻りたいかと言われれば否と言わざるを得ないが。
俺の放った『雷鳴』は無造作に振り下ろされる大剣の横っ面に吸い込まれていき、そのまま大剣を中程から両断した。そのまま俺は返す刀で大剣使いの男に袈裟斬りを浴びせる。もちろん峰打ちではあるが、骨を砕く鈍い音が響きしばらくの間左腕は使い物にならないだろうと思案する。俺には知ったこっちゃない話ではあるが。
最後の一人である魔法使いの男は味方が一瞬のうちに倒されたにも関わらず、詠唱を一切途切れさせることなく俺に中位魔法を放ってきた。この短時間で中位魔法を放つことができる魔法使いは多くないだろう。
やはりこのパーティの練度がなかなかのものであることを再認識させられた。
俺にむかって飛んでくる風の刃を俺は刀でもって切り裂いた。その光景に呆然とする魔法使いは防御の魔法も使わずに俺の接近を許してしまう。
そうなればあとは言わずもがなである。
「なん・・・で・・・」
最後にそう一言だけ振り絞り、床に倒れた。




