別れ
日本ならどこでもあるような一軒家の中で、一人の青年と一人の少女が少女の部屋の中で向き合っていた。普通なら、その間には多少なりとも会話があるはずだ。しかし、その間には会話などなくただ重苦しい空気が流れていた。その理由は、青年が漏らした「これで最後。」という小さな呟きが少女に聞こえてしまったからだった。それについて少女が理由を尋ねても、青年は答えなかった。その答えを待つ少女が一度質問したきりで黙ってしまったため、2人の中の会話は途絶えた。
「……」
「……」
この空気を作り出してしまった少し背の低い男子ーー小野 奏は、耐えきれなくなったのかようやく決心がついたのか
「ごめん、好きな人がいるんだ。だから別れて欲しい。」
と、作り笑顔とわかる引きつった笑顔でこの沈黙を破るようにそう言った。それに対する綺麗な黒髪の女子ー八女 栞はつり目がちの目を細めながら、
「……へえ」
と、返した。その顔は笑っていた。しかし、その目からは光が消え興奮した猫のように瞳孔が大きくなっている。どんぐり目だ。その目を見た奏は、顔を青ざめさせ背中や顔からは冷たい汗がが滝のように流れ落ちていく。震えが止まらない奏は折れそうになる心を日本製ではなく海外製の頑丈なガムテープで強引に補強した。「何故外国製なのか?簡単な事だよ。それは日本のでは強度が足りないからだよ、ワトソン君。」と心の中で現実逃避気味にそんなことを考える。しかし、この話をすると決めた時に理由が理由だけに栞が怒ることはわかっていた。予想以上の怖さに負けそうになって、本当のことを言って、怒りを収めてもらおうかと、一瞬迷ってしまったが。しかし、ガムテで補強された心は予想以上の強度を発揮して
「中学から付き合っているけどさ、高校なって違う高校なったじゃん。それから、予定が合わなくて会える回数が減ったし、会うたびに栞の笑顔が消えていったし。もう、付き合っていることが栞に迷惑かなって思ったん...だ……けど……」
と悪くなる一方の栞の機嫌に怯えながら彼はあらかじめ考えていたセリフを告げた。
それに対し栞は、
「という建前で、本当は高校で気になる人でもできたの?」
と先ほどよりも深まった笑顔で返した。目からはついに科学では説明できない怪しい光がっていて、また黒い瘴気のようなものが体から出ているように見えていたが...…。その言葉に、奏は何も言わなかった。恐怖で何も言えなかったのだ。その沈黙を肯定だと受け取った栞は追加攻撃+威圧を加える。
「付き合ってる人がいるのに?」
奏はスモー◯ライ◯の光を浴びたかのように小さくなった。小さくなりながら奏は
「本当にごめん……なさい...…」
と言った。恐怖に負け、とりあえずは謝らないと死ぬと体が勝手に反応し勝手に口から出てきたのだ。
その返答を聞くまで、栞は奏が「ごめんごめん、タチの悪いジョークだったね。」と言うことを少しは期待していた。でも、否定せず、ただ謝るだけだったということが、そういうことだと示していた。だから彼女はこれ以上は問い詰めなかった。だけど最後に、
「ごめんなさいで済むと思ってるの!私は今日、久しぶりに会えるって思って楽しみにしていたのに!こんな気持ちになるのなら、会いたくなかった!こんなこんな言葉を聞きたくなかった!もう、あなたに会いたくない!顔も見たくない!」
そう叫びながら彼を家から追い出した。その時、彼女の涙が奏には見えた。追い出された奏の目にも光るものがあったが栞には見えなかった。
追い出された奏はとぼとぼと俯きながら、自分の家に帰って自分の部屋に入った。そして、事前に用意していた封筒二つと、リュックサックを持った。その封筒の一つは自分の机の上に、もう一つは隣の栞の家のポストに入れ、夜の闇の中に消えて行った。
夜明け前に、とある山奥にある崖の上に奏の姿はあった。周りは木が生い茂っており、生物の気配が一つもなかった。そこに立つ彼は何かを覚悟したかのような顔をしていた。そして、彼は周りを見回すと荷物を見つかりにくいところに隠して(といってもここにくるまでに必要だった財布とかロープぐらいだったが)、それから飛び降りた。奏は気持ち悪い浮遊感の中で、栞のこと、家を追い出されるときに見た涙を思い出していた。絶対に彼女は傷ついたはずだ。そのことをわからないなんてことはない。だけど、彼はそうすることが一番いいと思っていた。彼女が聞くとそんなことはないと言われそうだったが。自己中な考えで彼女を傷つけたのにおかしいと思いながら彼は栞のの幸せを願った。そこまで考えて頭に衝撃を感じた奏の意識は暗転した。真っ黒ではなく赤みがかった黒色に......
2000字とか言ってましたが足りませんでした。1500字もありません…