幕間 広場の変態
誤字脱字等ありましたら教えて貰えると有難いです。
幕間です。飛ばしても問題はない(はず)
次話は来週の土曜日を目標に投稿できればと思います。
「やあやあ、皆さん初めまして。いや、何回も来てくれる人もいるのかな?今から語るのは...
ーーご清聴ありがとうございました。明日も今日とは異なる話を語る予定なので、お楽しみに!」
さて、自己紹介からしようかな。
僕はさすらいの吟遊詩人だ。この大陸各地を転々として、その土地ならではの話を聞いたり、珍しいことを体験して物語を作ったり、これまで作ってきた話を弾き語ったりしている。
ここ1ヶ月程、この王都オストワルトの中心付近にある噴水近くの広場で、子供達の多い時間に僕は御伽噺を語っている。
夜になるとチップを弾んでくれる人の多い酒場に移動するんだけどね。
大抵、広場には多くの子供達が聞きに来てくれて、それを見守る親達も結構来る。
1ヶ月も同じ場に陣取っているから、相手も僕の顔を覚えてくれているだろうし、僕も大抵の人の顔を覚えているつもりだ。
初めのうちは僕が得体の知れない旅人だからか、御伽噺を語っていても人が集まってくれなかったが、今ではそれなりに人気も出てきている。嬉しいことに個人的に仲良くなり、話をする相手もできた。
この街での話も集まってきたし、そろそろ次の街へと行ってもいい頃かな。
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僕が起きるのは決まって朝の7時頃。窓から差し込んだ朝の光が僕の顔を照らしてくれる。雨の日は宿屋の女将さんが起こしに来てくれる。
今日は朝日が起こしてくれた。
「今日もいい天気だ。」
そう呟き、窓から広場を眺めつつぼーっと惚ける。なんだか幸せな気持ちで溢れるから、この時間が僕は大好きだ。
広場ではまだ朝早いのに、屋台の大将が今日の準備をしていたり、子供がペットと一緒に走り回ったりしている。元気なことだ。僕には出来そうにないや。
そんなことを考えた後に、ぐっと伸びをしてから朝の支度をする。
今日も黒のコート着て黒の帽子を頭に乗せて、ギター片手にもう定位置となった中央広場の片隅に陣取り、弾き語りの準備をする。
もう一月もここで弾き語ってるから、準備も手馴れたものだ。
「お集まり頂いた皆さん、ありがとうございます。本日語るのはこの国より遥か東方にある島国の物語でございます。その国では独自のーーー」
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「ーーそれでは、本日もご清聴ありがとうございました。またのお越しを!」
弾き語りも終わり、後片付けをする。お昼頃から始めたので、もうお昼時はとっくに過ぎている。
広場にはまだたくさんの子供たちがいるが、そろそろ帰る頃だろう。
そんななか、辺りをキョロキョロと警戒するように不自然に見つつ、噴水の方へとコソコソと行く男を目にした。
ん?なんでそんな男が目に入ったかだって?
人間って案外同じペースで動いてるんだよ。だから、この広場に顔を出す人間も基本的に同じわけ。1ヶ月もここに居るんだから、大抵の顔は覚えてるよ。
そんな知ってる顔ばかりの中に知らない30歳くらいの男。それも不振な動きをしていたら目に入って当然だよ。
僕は面白そうだから、そんな初見の男を観察することにした。とは言っても、じーっと見ていたら今度は僕が不審者と思われそうだから、楽器を奏でたりしつつ視界の端っこに入れておく程度に留めておく。
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冒険者ギルドを出た僕は、サポートフェアリーにこの街に入るちょっと前に指示された通り、噴水のある広場へと向かった。
広場へと来たのはいいのだが、多くの子供たちやその保護者らしき大人がいる。ここにも屋台が出ていたり吟遊詩人がいたりするので、常にある程度の人はいるのだろう。
これからやることが事なので、かなり恥ずかしい。顔を少しでも隠そうとしつつ辺りをキョロキョロと見ているので、かなり不振な行動をしている自覚もある。
今更思ったのだが、自然体で行けば目立たなかったのではないか...。
まぁ、本当に今更だな。よし。今からでも自然体に...
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不審者は噴水の前へと止まることなく移動した。途中で急にさも当たり前かのように自然体になったが、余計に怪しい。
ーーおい、あいつやばそうじゃないか
ーーそうねぇ。子供たちが何かされないか気をつけとかなきゃ。
あいつ、子供を誘拐するのではないか。広場にいた大人達は男の動向に注意している。
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"お前の名前はフェイだ。"
噴水の下まで行く間に、サポートフェアリーへ名前を伝える。するとすぐにサポートフェアリーの体が輝き始める。
だが、足を止めることは無い。不審者認定されたくないし。
...それも今更か。周囲の大人はチラチラとこっちを見てくる。その目には疑いの色が隠されてすらいない。
"...私はフェイ?フェイね。ふーん、、いい名前じゃない。あなたは?"
...ん?記憶抜けてるっぽいし、黒歴史作らずに済むか?
"まあ、あなたの名前は後で聞くことにしましょ。じゃあ、手紙の通りによろしくね♪"
っ期待して損した。はぁ、、
噴水の前に着いた僕は肺へと大量に空気を送り、腹に力を込める。
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なんだなんだ?急に不審者が叫んだと思ったら、内容意味わからないぞ。
フェイ?一生大切にするからついてこい?...告白か。
王都ではこんな不思議な告白もあるものなのか...?
まあ、いいネタにはなりそうだし、子供たちも襲われなかったし良しとするか。
さて、この話をどうやって物語に変えてあげようかな。身分差の恋でも面白そうだし...
この日からしばらくの間、恋愛劇では男が自らの心のうちを民衆の前で曝け出すシーンを含むものが続出したり、吟遊詩人の話のなかで騎士が愛を叫ぶ事が多々あったという。