王都オストワルト Ⅱ
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幸樹達のいるこの街はオストワルト王国の王都で、中央には王の居る王城がある。街全体の名前は王都オストワルトという。国王の名はヴィルヘルム八世という。
この国では貴族制を採っており、中央と海沿いを王族が、その他の平地などを王から任ぜられた貴族が1代限りで治めている。
国土はそう広くないものの、実り豊かな土壌や広大な森、恵み豊かな海など自然に愛されている。
隣国には南にハーバー帝国。東にソルベー王国。西の森の奥にエルフの里がある(と言われている。)
ここしばらくの間、国同士の大きな戦争はなく、平和が保たれ、国家間での貿易も行われるほどだ。
その理由には、どの国にも共通して夜間にモンスターが森から溢れ出る事や、帝国などにはダンジョンが存在する事などがあるが、何よりも大きいのは主要各国が不戦協定を魔法紙で結んでいることだろう。
魔法紙で結ばれた契約は絶対神に誓う形で行われるため、契約に背く者はそうそういない。もし背いた場合、神罰として自身だけでなく周囲にも罰が及ぶことがあるからだ。
この魔法紙の製法はエルフが秘匿しており、かなり希少なものとなっている。
...少し話がそれたかの。
他にもいろいろ言っておきたい事はあるのじゃが、まぁ、それはまたの機会にでも言うとするかの。またの!
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検査も何事もなく終わり、城門をくぐる。
その瞬間、腐った人糞などの匂いがする。ことも無く、空気は意外と綺麗だ。最悪道に糞尿を放り捨てていることも予想はいていたが、いい意味で予想が外れた。下水道でもあるのだろうか。
この街は王都なだけあって、門へとつながっている大通はかなりの人で賑わっている。道の端には屋台がでており、肉を串に刺してシンプル焼いたものや、黒パンに肉や野菜を挟んだものなど色々な食べ物が売られている。屋台ではなく店舗を構えている八百屋、肉屋、武具屋などの店もある。
また、この人混みのなかには、頭に耳を生やしていたり尻尾を生やしている獣人や、周囲よりふた周りほど背が低いが体格の良いドワーフをチラホラと見かける。正しく、異世界!という感じだ。
見た感じ、全身に毛が生えている、動物が二足歩行しただけのような獣人はおらず、みんな人に動物耳や尻尾があるだけだ。
街にも入れたのは良いが、もう日が傾き始めている。せっかく街にいるのにベットで寝れないなんて嫌だ。なので、宿屋を探しつつ歩くことにした。
歩いているといろんなセールス文句を言ってくる人が多い。
ーそこの兄ちゃん!うちで果物買ってきな!
ー変わった服だね。うちの店で流行りの1組揃えてかないかい?
ーひょろいやつにも使える武器が揃ってるぜ。寄ってきな!
ーうちのマジックアイテムは...ウヒヒッ
...最後のは聞かなかったことにしよう。こんな大通に店を構えれてるんだから人気はあるんだろうけど、あの文句じゃ入りづらい。
声をかけてくれたふくよかなおばちゃんのお店でリンゴみたいな果実をあるだけ買って、マジックバックへと入れてゆく。
「へぇ。兄ちゃんはマジックバック持ちだったのかい。珍しいね。」
「ええ。色々と便利ですよ。」
「羨ましいねぇ。そんな高価なもの持ってるなんてお貴族様か何かかい?」
「いえ、ただの商人ですよ。」
「商人だったのかい。まぁ、また来ておくれよ。」
話しやすいおばちゃんだったな。また果物を買いに行くか。
それにしても、冒険者らしい服装の人が多いな。ガチガチの重装備の人は見かけないが、レザーアーマーに剣を腰に帯びてたり、チェーンメイルに槍を持っていたりと様々だ。
この街には冒険者ギルドがあるらしいし、登録だけでもしてみようかな。...噴水で叫ぶかどうかも考えとかなきゃな。
「お兄さん旅の人?」
明日のことを考えていると、髪をツインテールで纏めた小学校低学年くらいの可愛らしい女の子から声をかけられた。
「まあ、そうだね。」
「泊まる場所決まってる?」
「まだ決まってないよ。君のおすすめの宿屋はどこかある?」
「こっち!ついてきて!」
宿屋の勧誘だと思いさりげなく誘いやすいようにもっていけたと思う。おすすめ宿屋を聞くと少女は満面の笑みを浮かべて僕の手を引っ張ってゆく。
先程までいた大通から脇へ少し離れ、裏路地へ入った所で少女は掴んでいた僕の裾を離した。
「ここだよ!パパ〜お客さん連れてきたよ!」
宿屋の外装自体は傷がついたりしていて、それなりの年数を感じさせるが、決して汚れている訳では無い。木製の扉を引いて中へと入ってゆくと、正面には受付らしきカウンターがあり、そこでニヤニヤした大男と先程の少女が話している。
「アンナ、大丈夫か?あの兄ちゃんに何もされなかったか?」
「もー。パパは心配性だなぁ。される訳ないじゃん!」
「そうかそうか。
さて、旅人の兄ちゃんよ。ここは'狸の寝入り亭'だ。泊まるのはいいが、娘に手を出すなよ。」
そんなことを言う宿屋の主人風の男は、強面だ。僕の背を優に超える巨体な上に体格もよい。額には一線の傷跡が痛々しく残っており、いかにも引退した冒険者のようだ。そして、ロリコン。キャラ濃いよ。
ちなみにハゲだ。
「1泊いくらですか?」
「素泊まり1泊で銅貨10枚。隣の食堂で朝夜に飯を食べるなら1泊銅貨20枚だ。」
そうなると一月で銅貨600枚、銀貨6枚が飛んでいくわけか。僕は神様の記者としての給料で月金貨1枚を受け取っているし、マジックバックに白金貨10枚と金・銀貨50枚ずつ、銅貨30枚が入っていた。懐には余裕しかない。
"調子にのってるとすぐに無くなるわよ。"
「うるさいぞ。」
「あ??うるさいってなんだ?」
"どうしてくれるんだよ。"
"知らないわよ♪"
街に入ってから念話をしてこないと油断してた。声に出して返事してしまうなんて。
この空気、どうしてくれるんだよ...。
「ええっと...」
「まぁ、いい。うちに泊まるんだな?」
「あ、お願いします。」
「飯を付けるかと日数はどうするんだ?」
「食事付きで、とりあえず1週間で。」
「それなら、銀貨4枚でいいぞ。」
「え...。高くなってないですか...。」
「ガッハッハ!さっきの気分料だ。その分サービスしてやるからよ。」
この世界では、1週間は10日間だ。つまり、銀貨1枚分余計に払うわけだ。日本円で1万円。高いぞ。
「まさか、嫌だとは言わないよな?」
「...ちょっと考えますね。」
「お兄ちゃん、うちに泊まってくれないの?」
小さい子の推しには弱いんだよな。
「こちらに泊まらせてもらいます。」
「よし。まだ名前すら言ってなかったな。俺はゴラン。こっちは娘のメリーだ。」
「あたしメリー。朝起こしに行ってあげるね!」
「僕は矢嶋...。いや、ユーキといいます。」
「ユーキか。娘には手出すんじゃねえぞ。」
"朝は私が起こしてあげるんだから、大丈夫よ。"
"それはそれで心配なんだよ。"
そんなこんなで泊まる宿は'狸の寝入り亭'に決まった。さて、部屋はどんな感じだろうな。
「あたしが部屋まで案内するね。こっち!」
メリーに袖を引っ張られて、右手にあった階段を登ってゆく。手前から3番目が借りる部屋みたいだ。
「今はあんまりお客さんいないから空いてるんだ。
部屋はここだから自由に使って大丈夫だよ!朝は何時に起こしに来よっか?」
「んー。7時でお願いできるかな?」
「わかった!」
...客が来ないのはゴランさんが原因だと思うけどな。
部屋は5畳程でベット、机、椅子だけが置かれていて質素だ。掃除もしっかりとされていて埃一つ落ちていない。窓もあって、裏路地ではあるが外を見ることも出来る。
「しばらくはここを拠点にするか。冒険者になって魔物を狩るのもいいし、図書館へ行って本を読むのもいいな。」
"手紙の件忘れないでよ?"
「わかったよ。明日ね。」
老人(神)から頼まれた記者としての依頼など、異世界に舞い上がっているユーキの頭には浮かばないのであった。
次は来週の水曜にあげれればと思ってます