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75 お前が魔族になるのなら

 辺りに光を感じる。

 オレの周りに癒しの魔法陣が書かれたのだろう。


「リク様、リク様……」


 この声はコリンナか。

 ずっと、オレの手を握ってくれているようだ。


 辺りは騒然とする中、心地よい歌が聞こえてくる。

 

 だんだんその歌が近づいて来て、どうやら血だらけのオレを誰かが抱きかかえられてくれたようだ。


 暖かな腕から癒しの魔力が流れ込んできた。


 心地よい歌も、この魔力もオレは忘れたことなどなかった。

 

 ぽたぽたとオレの顔に涙が落ちる。

 また、オレはお前を泣かせてしまったな、ミア。


「ヘルガ様、敵襲です!」


 マリーの声が聞こえる。


「あの旗は……ヴァイスブルグ家の旗だ。

 ハンスが攻めてきたんだ!」


 ヘルガが婚約破棄した侯爵家令息「ハンス・ヴァイスブルグ」。

 そうか、攻め入ってきたのか。


「ヘルガ様はリク様のそばにいてください、私とトーマスが騎士たちを指揮しますから」

「いい、私も戦うよ」


 ヘルガの眼が赤く光っていた。


 ヘルガをハンスと戦わせたくないな。

 ヘルガは自分を責めてしまうだろうから。


 ヘルガは抜刀し、ヴァイスブルグ兵の方へ向かっていった。


「ミ……ア……」

「リク様!」


 よし、声が出た。

 

「リク様、大丈夫ですか?」

「キス……して……くれ」


 やっとのことで声が出た。


「え?」


 ミアは少し戸惑っていたので、コリンナがオレを抱きかかえてくれた。


 やっとの思いで手を動かし、ミアの頬に手を当てる。


「眼をつぶ・・・って」

「……はい」


 オレは優しくミアの唇にキスをした。


 悪いな、ミア。

 お前の力、借りるぞ。


【エナジードレイン!】


「ん……んんー!」


 全力のキスとともに、唇を通じてミアの身体から魔力を奪い取った。

 

「ふふ、ミアの魔力は最高だな」

「……もう、立ち上がれません……うう。

 リク様のばか……」

 

 体を真っ赤に染めたミアは、荒い息を吐き、ぼうっと虚空を見つめていた。


【傷よ、治れ!】


 よし、身体が完治。


「待て、マリー、ヘルガ!」


 オレはヘルガの元へすっ飛んで行った。


 辺りは既に戦場になっていた。

 ヘルガもマリーも剣を取り、敵兵と斬り合っていた。


「リク……大丈夫?」


 ヘルガはオレに気づくと駆け寄ってきた。


「ああ、最高に元気だ」

「本当に非常識な人ですね。

 なぜ脳天に穴が開いて、ピンピンしてるんですか?」


 マリーは呆れたように呟いていた。


「【鬼道】で塞いだ。

 それに、気合があれば死なないんだ」

「気合ですか……いや、もうリク様のことを真面目に考えるのはやめます」


 マリーは笑った。


「さて、ハンスが攻めて来てるんだよな」

「うん……私のせいだから、戦わないと」


 悲壮な決意を胸に、ヘルガは剣を取っているように見える。


「ヘルガ」


 オレはヘルガを抱きしめた。


「……リク」

「婚約破棄したせいで、ハンスが攻めてきたと思っているヘルガを戦わせられない。

 プロジアやトーマスみたいに人を殺すことをなんとも思わない奴だったら、オレだって気にしないけどな」

「あの、リク様?

 オレ、普通の騎士ですから多少は気にしますよ?

 盗賊くらい殺しますけど……」

「ぎゃあ!」


 トーマスがそう言いながら、敵兵を大剣で薙ぎ払い、キッチリとどめを刺していた。


「いや、だってここまでが一連の流れじゃないですか!

 薙ぎ払ったら、突きますって!」

「まあ、オレは言い返す言葉がないですけど……」


 プロジアは話している間も手を止めず、敵兵に向かって3段突きを食らわせていた。


「ぐふ……」


 脳天、胸、丹田。


 うーん、見事な突きだな。


「じゃあ、どうするの?」

「よし、俺に任せろ」


 【空を飛ぶ!】


 ぐんっとオレは空中に浮いた。


「将軍はいるかあ!」

「いたら何だというんだ!」


 ひときわ立派な馬に乗った将官が、オレに向かって槍を投げてきた。

 まあ、その距離で当たるわけもないんだが。

 どうやら、ハンスは来ていないみたいだな。


「降伏しろ」

「誰がするものか、この魔族風情が!」


 やれやれ、やっぱり無理か。


【エナジードレイン! この場のヴァイスブルグ兵の体力・魔力を奪え!】


「「ぐああああ」」


 すべての敵兵がばたばたとその場に倒れていく。


「トーマス、将官を捕らえてくれ」

「マリー、兵士をすべて捕縛してくれ」

「「はい!」」


 二人はオレが命じたように動き出した。


 敵兵が無力化したので、ミアやヘルガ、コリンナたちもオレの元へ集合してきた。


「あっという間に戦いが終わりました」


 ミアはあたりを見回している。


「ねえ、リク。

 これからどうするの?」


 ヘルガは心配そうにしていた。


「すべてグラフ領と同じようにしていく」

「侵略していく、それしかないのかもしれませんね」


 ミアは頷いていた。


「ダメだよ、戦いになったら死人が出ちゃうよ」

「じゃあ、どうする? 逃げるか?

 今逃げたら、獣人たちはまた奴隷に逆戻りだ」

「……そうだね」


 ヘルガも頷いた。


「一応、戦わないよう外交努力して、無理だったら、少人数で侵略に行こう」

「「はい!」」


 皆頷いてくれた。


「じゃあ、ヘルガ、ミア行けるな」

「え? もう行くの?」

「ヴァイスブルグはきっとほとんどの兵力を連れて来てるはずだ。

 今だったら余計な戦いをしなくて済む」


 オレの周りにプロジアも集まって来た。


「ふふ、ザイフリートに乗り込んだ時を思い出すな」

「リク様といると、退屈せずに済みますよ」


 プロジアは笑っていた。


「ヘルガ、出来るだけ誰も傷つかないようにするからな」

「うん。

 でも、リクが傷つくのが私は一番嫌だよ?」

「ヘルガ、お前は可愛いな。

 オレだって、お前が苦しむのは一番見たくないんだ、オレに任せてくれ」


 握られた手を握り返した。


「ミア、お前には後片付けを頼むと思う。

 できるだけ、うまくやってくれ」

「……私は、リク様がやるっていうのなら世界征服だって、うまく事後処理して見せますよ?」

「ふふふ、頼もしいな」

「……私、リク様がみなが傷つかないように頑張ってくれてることを知ってますから」


 ミアは飛び切りの笑顔を見せてくれた。


「よし、近くにいる人の手を握ってくれ」


 オレはミアとヘルガの手を握った。


「瞬間移動する、離れるなよ」

「「はい!」」


 オレたちはヴァイスブルグ家を目指して飛んで行った。


 ――こうして、オレたちはヴァイスブルグ侯爵家を侵略、ハンスや侯爵を捕らえて無理やり停戦状態に持ち込んだ。

 

 その後も、他領地から攻め込まれても、すぐに逆に侵略し返して、侯爵などを捕らえて行った。


 ――グラフ領、領主の部屋。

 まあ、つまり、オレの部屋だな。


「フフ、他の領地ではリクのこと、みんな恐ろしい魔王だって噂しているらしいよ」


 風呂上がりのヘルガは、ベッドの上でオレにしなだれかかった。


「フハハハ、別にそれならそれでいい」

「……リクがすぐに無力化するから死なない戦争になってるのにね。

 私、本当は他の領地の人にも、リクは優しい魔族なんだよって伝えたいよ」


 ヘルガは怒っているようだが、あのさ、オレ、本当に魔族じゃないんだけど?


「オレは魔族じゃないぞ」

「えー、私が魔族になるから、リクも魔族でいいんだけどな」


 ああ、そうか。

 ヘルガは寂しかったのかもしれないな。

 自分だけが魔族に変身してしまうことに。


「ヘルガ、お前は一人じゃないからな」

「うん」


 ヘルガに優しくキスをした。


「ん……」


 ヘルガは興奮して赤い目になった。


「リク、人間に戻してよ」

「やだ」

「え?」


 興奮すると魔族になるヘルガをオレは人間に戻してやっていたが、今日はそれはしない。

 ヘルガが魔族になるんだったら、オレも魔族になればいいんだ。


【オレよ! 魔族になれ!】


 4枚の黒翼。紫の体色に、皮膚には黒い文様が刻まれている。

 だれが見ても、ザ・魔族だ。


「リクの正体だ!」


 オレが魔族に変身したことで、ヘルガも思う存分サキュバスになることにしたらしい。

 背中に黒翼を生やし、瞳を煌々と赤く光らせている。


「綺麗だぞ、ヘルガ」

「……ありがとう、リクもかっこいいよ」


 オレはヘルガを連れて、外に出た。


 誰かに見られたら、魔族が出たって怯えさせてしまうかもしれないな。

 

 でも、今日くらいはいいだろ?


 ヘルガもオレも、生きたい様に行きたいだけだ。


 二人で夜のデートに繰り出す。

 

 夜風は冷たかったけど、つないだその手はとても暖かったから。

 疲れてへとへとになっても、いざとなったら瞬間移動で戻ればいい。

 つないだ手を離したくなくて、オレとヘルガはいつまでも夜の空を飛び続けた。

これにて完結です。

皆様お付き合いいただきありがとうございました。


リクのお話いかがだったでしょうか?


新作始めておりますので、よろしければ下から飛んで読みに行ってください。


剣術アクションファンタジーになってます!


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