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71 城門突破

 ローゼンクランツの魂の叫びが辺りに響き渡った。

 その場に現れた騎士たちは眼の色を変えて、槍を握る手に力を込めた。


「ミア様を守れ!」

「ミア様をお救いするんだ!」


 喧噪につつまれた城門前で、オレはつかつかと前に出た。


「オレは話がしたいだけだ。

 グラフ侯爵を呼んできてくれないか」

「ふざけるな!」

「「ミア様をこちらに渡せ!」」


 遠巻きに騎士たちは叫んでいる。


「お願いだ、オレは話をしに来ただけなんだ」


 しっかりと頭を下げた。


「柔和な態度に騙されるな!

 ミア様もその手で絡めとられたのだ!

 射殺せ!」


 ローゼンクランツの指揮でオレに向かって矢が射掛けられた。


 ふん、そんなもの鮮やかに躱してみせ……


 ブスブスブス。


 あ、そういえばオレレベルが低いんだったな。


 ブッシャアー―――


 矢がオレの身体に刺さり、あちこちから血が噴き出した。


「リク様!」


 ミアが慌ててオレの元に駆け付けた。


「来るな!」


 矢の雨の中、ミアはオレに回復魔法をかけようとしていた。


「今、回復魔法をかけますからね」

「来るなって言っただろ……」


 ミアがオレの側に来ても、矢は止まる気配がなかった。


「ミア!」


 ミアに当たりそうになった矢からかばって背中に矢を受けた。


「リク様!」

「リク」


 ヘルガが飛んでくる矢を払いながら、オレの側に来た。


「リク、よく我慢したね。

 ……悪いけど、私もう我慢できないから」

「ヘルガ、ミアを守ってやってくれ」


 オレはそう言い残すと、瞬間移動した。


【エナジードレイン】


 ローゼンクランツ達の側へ行ったオレは、奴らの生命力を吸収した。


「「ぎゃああああ」」


 城壁周りの射手も沈黙してもらうか。


【矢よ、放ったものへ戻れ】


「「ぐぎゃあああ」」


 あちこちに潜んでいた射手は矢に刺されて沈黙した。


「ク.クソが……」


 地べたを這うローゼンクランツに近づいた。


「オレに矢を放つのは構わない。

 でも、ミアが近づいたら撃つのやめさせろよ。

 お前は誰のために戦ってるんだ?」


 図星を刺されたローゼンクランツは床を叩き続けた。


「畜生、畜生……」


 辺りを制圧したオレたちは、城門を突破し、城の中へ。


 あら?

 目が回る。


 その場にオレはドタンと倒れた。


 ★☆


「リク様……」


 目を覚ました時にはミアが目の前にいた。


 ふっかふかのベッドで天蓋付き。

 ここはミアの部屋だな。


 体の傷はふさがっているから、ミアが手当てをしてくれたんだろう。


「ミアが治療してくれたのか」

「英雄が怪我したときに手当てをするのが、癒し手の務めですからね」


 ミアの顔には涙の跡が残っていた。


「心配かけたな」

「……フフフ、このくらいで心配してたらリク様の嫁は務まりませんからね」


 今日はクビが胴体とつながってたから、ミアの言う通りいつもよりはマシだな。


「そうだな、苦労をかけた」


 すっと立ち上がってみたが、ミアの魔法のおかげか、身体が軽い。


「ミア、腕が上がったんじゃないか?

 いつもより身体が軽いんだけど……」

「もしかしたら、そうかもしれませんね。

 一般的な癒やし手でも、瀕死の方を救助することはまれですが、私、何度も経験してますから」

「ふははは、オレのおかげだな」


 オレはミアを抱えてぐるぐる回った。


「きゃあ」


 ミアはオレに抱えられるのが好きなんだ。

 ミアのおかげでこんなに元気になったぞという意味も込めてミアを抱え上げて部屋中走り回った。


 そんなとき、バアンと扉が開いた。


「ミア様!」

「あら、トーマス」

「おお、トーマスじゃないか」


 一応、トーマスと話してみるけど今はミアとじゃれてるところだ。

 少し待ってくれ。


「ふははは、今度は鷹のように飛ばしてやろう」

「うわー、リク様に旅行に連れていかれますー」

「あのねえ、何やってるんですか!」


 トーマスが怒りだしたので、仕方ない。

 ゆっくりとミアを下ろす。


「リク様、また高い高いしてくださいね」

「ふははは、今度はもっと飛ばしてやろう」

「遊んでる場合ですか」


 トーマスは嘆いていた。


「あら、トーマス。

 若い騎士たちの暴走を止められもしないベテラン騎士がなにか御用かしら?」


 ミアはトーマスに対して敬語はふつう使わないから、嫌味を言ってるんだろうな。


「あのねえ、ミア様。

 若いとはいえ、あの人たちは伯爵や子息の令息ですよ?

 私が止められるわけないでしょ?」


 トーマスはミアの部下で、小物だ。

 権威にとても弱い。


「それで今からどうするんですか?

 ヘルガ様たちが城内の騎士たちをぶっ倒して回ってましたけど……」

「よくトーマスは狩られなかったわね」

「いやあ、それがマリーさんとは面識がないから普通にやられそうになってましたけどね。

 ヘルガさんが止めてくれました」


 ヘルガと面識があって良かったな。


「ねえ、トーマス。

 城門の前に居てくれない?

 ベケットの町長が来たら、教えて欲しいの」

「その方法はないよ」


 ヘルガとマリーが現れた。


「遠くに馬車が見えた。

 警護しているプロジアが見えたから、もうすぐ来ると思う」

「そうですか、町長が動いてくれたようですね」


 ミアはニヤリとほほ笑んだ。


「さて、リク様。

 これから私が町長たちを説得します。

 リク様はゆっくりしててくださいね」


 ミアはオレ以外の者たちを連れて出て行った。


「あ、そうだ。

 コリンナも他のメイドもいないんだった。

 マリー、会議は私だけで行くからリクのお世話するんだよ?」

「いえ、ヘルガ様。

 私も会議に……」

「マリー、私の言うことが 聞 け な い の?」

「いえ、ヘルガ様の言うことは絶対です!」


 マリーはヘルガに絶対服従だ。


 マリーを残してみなは会議に行ってしまった。


「えっと……」


 あまりマリーと二人きりになることがないから、二人ともちょっと落ち着かないようだ。


「私、お茶入れますね」


 マリーは使い慣れていない部屋でもさほど苦にせずオレに紅茶を入れてくれた。


「美味しいよ」

「ありがとうございます」


 マリーは褒められて照れたように笑った。

 初めて会った頃、オレを睨みつけるようだった紫の瞳は今は穏やかなものに変わっていた。


「ローゼンクランツさんを見てると、昔の私みたいで恥ずかしかったです」


 マリーは頬を掻いた。


「そうだな、オレの話を聞かないところとかそっくりだったかもな」

「……すいません」


 謝らせたいわけじゃなかったのだが。

読んでいただきありがとうございます。


ブックマークや評価【★★★★★】を頂けると、執筆の励みになります。


次回もお付き合いくださいよろしくお願いいたします。

次回、1月22日に更新予定です。

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