69 ミアと二人で
ミアも帰ってきたことだし、大広間でささやかな宴会をした。
コリンナやマリーが腕によりをかけてくれたので、肉、魚、ケーキの類など美味しいものがいっぱいあった。
彩られた料理たちを見てヘルガやミアは歓声を上げていたけど、見栄えだけでなくしっかり美味しかったよ。
明日からクーデター準備に取り掛かるので、みな深酒はせずあっさりと解散となった。
オレが寝室に帰ろうとすると、当然のようにコリンナがついて来ていたけど、ヘルガとマリーに引っ張られていった。
ヘルガとマリーはたぶん気を使ってくれたのだろう。
久しぶりに会うミアとの時間を作れるように。
――ミアは広間に残ってなにやら書き物をしていた。
邪魔するの良くないかな。
オレが入ってきたことにも気づいてないみたいだし……
そうだ、紅茶でも入れてやるか。
えっと……いつもコリンナに入れてもらってるからやり方がわからないし、火の起こし方がわからんな。
仕方ない、鬼道に頼るか。
水をカップに入れて、【水よ熱くなれ】
よし、熱くなったな。
後は茶葉を入れて……良し。
いい匂いが広がってきた。
はっぱをすくって……出来たかな。
「ん……」
ミアが背伸びをしている。
一区切りかな。
ミアへ紅茶を届けた。
「あら、ありがと……ってリク様?」
「ああ、オレがいれたぞ」
「え……うそ……」
「飲んでみてよ」
「はい……そうですね」
ミアはお行儀よく紅茶を飲んだ。
「……美味しいです。
ふふ、リク様が入れてくれたってだけでとっても美味しく感じました」
「頑張ってたみたいだからな」
いつもだったらコリンナを呼んでるところだけど、今はミアと二人の時間を楽しみたかったからな。
「何を書いてたんだ?」
「ジークムント侯爵に婚約破棄の手紙を書いていました。
リク様と結ばれるにあたって、手続きが必要ですからね」
「手続きか」
「はい」
オレも紅茶を飲んだ。
ミアはオレと一緒のタイミングで飲みたかったらしい。
わざわざタイミングを合わせて見つめあって紅茶を飲んだ。
「ふふ、美味しい」
「落ち着くな」
「ええ」
「……なあ、父親とは仲良かったのか?」
「そうですね……」
ミアは斜め上を見上げながら、微笑みを浮かべて話し出した。
昔のことを思い出しているのだろう。
「頑固な父親ですが、私を可愛がってくれました。
後継者となる男の子が欲しかったようですけどね。
父としても侯爵としても十分合格点を上げられる父親だったと私は思います」
ミアは淡々と話しだした。
「男の人のように政治に口を出すことも、癒し手として冒険の旅に出ることも、父は反対しました。
けれど、父にとっては世間一般の常識を私に示したにすぎません。
そして、貴族ではないリク様と結婚することも……父として侯爵として、反対するのは当然のことなのかもしれません」
ミアの碧い瞳は、凛とした決意を秘めているように見えた。
「だから、悪いのは私です」
ミアの隣に座り、手を握ってやる。
「リク様……」
「オレはミアと一緒に冒険の旅に出たいぞ。
政治だって、好きなようにしたらいい。
みんなミアのことを頼りにしているんだからな」
頭を差し出してきたミアを優しく撫でてやる。
「……ありがとう、リク様」
オレの手がミアから罪悪感を取り除いてあげられればいいんだけど。
でも、たとえ悪いのはオレたちの方だとしても、ミアとつないだこの手を放したくはなかった。
座ったままのミアの頬に手をあて、顔を近づけていく。
ミアはそっと瞳を閉じてオレを待っていた。
「……えっと、リク様?
あの……まだですか?」
オレがいつまでたっても唇を近づけないので、ミアは眼を閉じたまま催促をした。
「ごめん、見とれてた」
「もう……」
口をとがらせるミアの顔が可愛かった。
もしかしたらオレはミアの困った顔が見たかったのかもしれない。
「ミアの選択、後悔はさせないからな」
「……ン……」
唇を重ね抱きしめ合い、指を絡ませる。
オレもミアもずっとお互いを手放そうとしなかった。
「……息が続かないぞ」
さすがに窒息しそうなので、身体を離す。
「はあ……はあ」
ミアは顔を上気させ、ぐったりとしていた。
「歩くのも辛そうだからな」
そう言うとミアの身体を抱き上げた。
「わわ」
急に抱えられたミアは驚いていた。
「寝室まで連れてくぞ」
「リク様、でも今日はまだダメですよ」
ミアは割としっかりしていて結婚するまでは婚前交渉はダメらしい。
「わかってるよ、ベッドまで連れてってやるだけだ」
「ほ、ホントにだめですからね?
ちゃんと我慢できますか?」
おい、その言い方だとオレが我慢できないみたいだろ。
とりあえず、口でも塞いでやるか。
「……んんー……」
寝室にまで口づけしながら連れて行った。
「ぷは」
「……おろしてください」
ミアは部屋の前について暴れ出した。
「いてて」
そうっと下ろしてやると、ミアは慌てて部屋の扉を開けてバンっとしめた。
「……もう、ずっとキスしたまま連れて行くなんて……このままベッドに連れてかれたら私、我慢なんてできません」
部屋ごしに話してきたミアの声はとっても甘ったるかった。




