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07 尋問

 さて、ベケットの町に入るため馬車から降りるか。

 降りようとしたオレにミアが腕を絡ませる。


「リク様、ベケットはですねえ。

 美味しいものがいっぱいあるんですよ。何が美味しいって……」


 あの、腕が絡んでると馬車から降りづらいんだけど。


「ミア様、領地の中を腕を組んで歩くのはさすがにまずいですよ。

 せめてお父上にご紹介した後でないと……」


 などと言っていたので、ミアは仕方なくオレの手を離した。


「速く終わらせてくださいね。

 私、待ってますからね!」


 ミアはオレに向けて手をブンブンと振ってくれた。

 ミアは何だかオレを気に入ってくれたようだ。

 好意をストレートに伝えられるのは嬉しいものなんだな。


 ミアとは別の入り口から街へ入った。

 オレみたいな新参者はチェックが厳しいらしい。

 入り口はミアと別だ。


 ☆★


 出身や目的などを答えるらしい門番からの審問に、浅はかで記憶喪失なオレはこう答えてしまった。

 

「最強の武闘家リク・ハヤマだ。出身? 目的? 知らん。忘れた」


 すると途端に

 魔族の疑いをかけられ、

 羽交い絞めにされ、

 変な液体をかがされ意識を失ったと思えば、

 さかさまに吊られ、

 水槽に突っ込まれたり出されたり。

 

 プーっと口から水を吐く。

 【治れ!】と唱える。

 瞬時にオレの体は元気になる。


 オレにこの能力がなければ普通に死んでいるか、無実の罪を認めて刑に処されて死んでいるだろう。

 しかし、水責めは辛い。

 水責めを食らって仲間の名前を吐いた奴がいてもオレは許してやろうと思う。


 いつまでも生きているオレに観念したようで、水牢から出される。

 ついでに、水責めした奴の名前を覚えておく。

 後で絶対同じ目に合わせてやるからな。


 ボロゾーキンみたいに外に出されたオレは、ムカついたので【牢屋なんか燃えちまえ】と叫んでおいた。

 赤い光と熱と煙が出ていたが何かあったのかな。

 フハハハハ、いい気味だ。


 牢から出たオレは門番に案内され、町の入り口にほど近い天幕の中に通される。

 着席を促され、お辞儀をして座った。


 オレの席の後ろには、抜刀した騎士に、魔法陣の上に立つ魔導士。

 今すぐにでも攻撃可能なほど準備されている。

 自己紹介を促されたので答えた。


「武闘家リク・ハヤマ。

 それ以外のことは覚えてない」


 目の前には3人の面接官。

 左から、

 黒髪で赤装束の女性、派手な衣装であるがキツ目の美人。

 人のよさそうな老人。

 そして、ミア。


 ミアと目が合うと、ウインクをしてきた。

 私に任せて、とでも言ってるのだろうか。


「記憶喪失の武闘家リク・ハヤマか。

 ハハハ、自分はアヤシイものですって言っているようなものじゃないか」


 黒髪美人が冷ややかに笑う。


「フハハハハ、どこが怪しいというのだ。

 勇者パーティー最強の武闘家リク・ハヤマを知らないのか? 

 フン、貴様武芸者と見えたが大したことは無いな。

 このオレ、リク・ハヤマを知らないとはな!」


 オレも冷ややかに笑い返してやるぜ、コノヤロー! フハハハハハ!


「あ、どこかで聞いたことがあると思ったんです!」


 ミアが驚いている。

 まあそりゃ有名だろうな。

 勇者パーティーでも最強の武闘家なんだからな。


「クククク、ハハハハハ! 

 わざわざ裏切りの魔拳士リク・ハヤマの名前を騙るものがいるとはなあ」


 黒髪の女性は大笑いしている。


「ミア様、この者――いえこのお方がゴブリンライダー100名ほどを一瞬で倒しミア様を助けた、と」


 黒髪の女性は、ジロリとオレを嘗め回すように見た。


「ええ。リク様は身を挺して私たちを助けてくれたのです!」


 ミアが力説してくれたが、黒髪の女性には響かなかったようだ。


「私も武術の心得があるから、体を見ればどれくらいの腕前かはわかる。

 この者はとても鍛えているとは思えない。

 ヘナチョコじゃないか。

 【聖石判別】の結果は?」

「ここにある」


 ヘナチョコまで言われるとなー、傷つくなー。

 黒髪の女性は老人から、石の板を受け取る。


「ありがとうございます。町長」


 黒髪の女性が石の板を読み上げる。石の板は魔力を使った装置のようだ、弱く発光している。


名 前:リク・ハヤマ 

職 業:武闘家

レベル:1

個人スキル:【鬼道☆】

クラススキル:【貫通☆】  

状態異常:【魔女の呪い☆】


「「「レベル1!」」」


 オレ以外の全員に動揺が走る。

 

「貴殿の精神を疑うぞ、ごまかしとしてもこれじゃ弱すぎる!

 レベル1なんて5歳児でもいないぞ」


 黒髪の女性が叫んだ。

 弱くなった気はしたが、それほどか。


「な、なにかの間違いよ!

 リク様は、目にもとまらぬ速さでゴブリンライダー100匹を倒したのよ。

 レベル1だなんて……ゴブリンライダー100匹倒してレベルが上がらないってあり得るのかしら」


 ミアが動揺している。

 疑われてもミアがなんとかしてくれるんじゃなかったのか?


「しかも、聞いたことのないスキルの目白押しだな。

鬼道きどう】の【☆付き】だと? 

 私は冒険者ギルドリーダーとしてメンバーのスキルは全員把握しているが、見たこともないレアスキルだな」


 眉をつり上げるヘルガ。


「そして、【貫通】の【☆付き】だと? 

【貫通☆付き】は今まで唯一リク・ハヤマがたどり着いた境地だと言われているが……

 まさかな。

 リク・ハヤマがレベル1な訳がない」


 責め立てるような口調でオレをにらみつけている。


「ふむ。ミア様がウソを言っているとも思えない。

 ただ聖石をごまかすことのできるものなど……

 いや、聖石に祝福をかけたものの魔力を上回れば別かもしれぬな」


 町長がオレから目線を外さず、問い詰めるように話す。


「聖石への魔力付与は、聖教会から派遣されたAランク以上の神聖魔法使いが行っているはず」


 ヘルガがミアに問いかける。


「はい」


 ミアがうなずく。神聖魔法のことは詳しいのだろう。


「聖石の魔力をごまかせるものがいるとすると、Aランク以上の……魔族」


 ヘルガの呟いた可能性に思うところがあったのか、一斉にオレを見つめる町長とミア。


 ざわめく騎士たち。剣や槍を握りなおす音や息をのみ込む音がした。


「落ち着け。

 Aランク以上の魔族がレベル1の人間のフリをしているという可能性があるだけだ。

 貴様が欺こうとしているなら、私がこの剣で貴様が魔族であるという真実を白日の下にさらすだけだ」


 剣を鞘から取り出し、オレの鼻先に突き付けた。

 よく手入れのされた名剣だろう。

 反射して刃が光っている。


 構え方は様になっている。

 身体を見ると、黒髪の女性は剣士として鍛えてあるようだ。

 均整の取れたいい体だな。

 ついでに言うといい女だな。


「腕試しをさせてもらおうか、魔族。

 それとも、怯えてしっぽを出すか?」


 口角を上げて挑発的に笑う。

 オレを怒らせたいのだろうな。

 激昂して正体を現すとでもいうのか。


「オレは魔族でもないし、裏切りの魔拳士などと不名誉な名前を付けられるようなことはしていない」

「フフ、私についてこい。

 魔族ではないというのならば」


 黒髪美人は立ち上がり天幕から出ていった。

 オレも立ち上がってついていく。


 ミアが心配そうにこちらを見ている。

 心配するな、と手を振って出ていく。


 どう切り抜けたものかな。


 即死させたら、まあ、魔族っていわれそうだな。


 負けたら――まあ負けるわけないけどな。

 

 いつものように楽勝だな。

 ただ一つ気がかりがあるな。

 あの剣士、の流れが良くない。

 フ、オレが導いてやるとするか。


 刺すような日の光を浴びて、外に出た。

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