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64 飛べない鳥

予告ではリク様出す予定でしたが、変わりました。

すみません。


 ふう、自分の部屋から一歩も出られないんじゃつまらないわね。

 お父様ったらあんなに怒らなくてもいいのに……。

 でも、まあいいわ。

 とりあえず、私とジークムント家の縁談はこんな状況じゃ進みようもないからね。


 でも、やっぱり私とリク様の間には問題が山積みね。

 もはやお父様が簡単に許してくれるとは思えなくなったし……


 はあ……もう、こうなったらお父様を説得するなんてどーでもいいけど、さっさとリク様に会いたいわ。


 ベッドで横になっていた体を起こし、窓から外を眺めてみた。

 私の部屋は城の最上階にあるから、窓から脱出ってわけにもいかないわね。


 コンコン。


「はあい。入っていいわよ」

「はあ、散々な目に合いましたよ」


 部屋に入るなり、ソファにどっかりと座った私のお付きの騎士トーマスはベケットでの私とリク様について質問攻めにあっていたようだ。


「お疲れ様」

「一応リク様は人間ですって言っておきましたけどね。

 全く信じないどころか、魔族は人間だと騙る――お前もだまされたのかと叱責されました」


 トーマスは持ってきた木箱を部屋の隅に置くと、椅子に身体をゆだねたまま全身で疲労を表現している。

 まあ、お父様に詰問されてとっても疲れたのは事実なんでしょうけど、トーマスって自分の手柄や困難をホント大げさに表現するのよね。

 ……ホント、小物よね。この男は。


「はいはい、私のためにトーマスがお父様に怒られたことは悪かったって思ってるってば」


 私はトーマスが座っているソファの隣へ行き、小声で話しかけた。


「ねえ、トーマス。

 それで、リク様へ連絡する方法は確保できた?」


 私はお父様に軟禁されてしまっていて、外へ連絡する方法も遮断されてしまっている。

 魔導具の類も取り上げられてしまっているし、使用人への連絡も制限されている。

 

「いやあ、参りました。

 テオとの連絡も取れませんでした。

 ミア様だけでなく、私も監視対象としてきっちりマークされてしまっているということでしょうか」


 どこで誰が聞いているかわからないから私とトーマスは自室にもかかわらず小声で話し続けた。


「ミア様の部屋の前には、護衛……というか監視者でしょうかね。

 5名ほどいらっしゃいまして、金に興味のなさそうな実直な青年がミア様をお守りするぞと息巻いておりました」

「ふう、私の人気も困ったものねえ。

 金になびいてくれる人だったら買収しようもあるけど……」


 貴族の未婚の令嬢はとりわけ従騎士や若い騎士に人気があるものだ。

 私もそういうことは知識として知っていて、戦地に派遣する際の士気などに関わるものだから、立派な令嬢であろうと日々努力してきたし、彼らに笑顔で手を振ることも時にはあった。


「特にミア様にあこがれを持つ騎士たちを数人選び、侯爵様は言い含めたようですね。

 『ミアが魔族に狙われているから守ってくれ。

  ミア自身も淫術を仕掛けられ自分を見失っているようだ。

  魔族が体に刻み込んだ淫術を解くためにしばらく軟禁する。

  ミア自身が部屋から逃げ出したり、魔族へ連絡を取ろうとするかもしれない。

  ミアの眼を覚まさせるのはお前たちしかいないのだ』

 騎士達は涙を流して魔族からミア様を守りするのだと固く誓っておりますよ」


 うーん、お父様に既に先手を打たれてしまっているわね。

 護衛の騎士たちをこちら側に抱き込もうとしてリク様は魔族じゃないと誤解を解こうとしても、既に私は魔族の術を掛けられてしまっているという設定だから、リク様の都合のいいことはすべて術のせいだと思ってしまうよね。


「だからですねえ、通信手段は何一つ確保できませんでした!」


 トーマスが唐突に大声を出した。

 ……私に向かってにやりと笑って見せながら。

 


「ば、ばか。

 声が大きいってば」


 私も素知らぬ顔で大声で返す。

  

「ですから、通信手段は諦めました。

 代わりにこれを」


 トーマスは部屋の隅に置いた木箱を私の前のテーブルに置くと、ゆっくりと中身を取り出した。


「飛べない鳥。

 ミア様にはピッタリでしょう?

 まだ若い鳥なのですが、イタチに襲われ翼を傷つけられてしまいました」


 トーマスは傷ついた鳥に余計な痛みを与えないよう気を配って木箱から取り出し、私の手の甲に乗せた。

 ……この鳥は翼を傷つけられてはいるけれど、気の強そうな顔をしている。


「ほら、このふてぶてしい顔なんて特に起こった時のミア様に似てるでしょう?」

「あのねえ、私を怒らせる人なんてトーマスくらいよ。

 もう少し気を使いなさいよ」

「リク様もだいぶミア様に迷惑をかけていると思うのですが……」

「リク様はいいの。

 そもそも怒るようなことしてないし」

「え?

 あの人やること無茶苦茶じゃないですか。

 すぐ愛人作るし、商会つぶすし、侯爵令息誘拐するし……とんでもない男ですよ!」


 そう。

 確かにリク様はとんでもないことをする。

 でも……

 

 私を冒険に連れて行ってくれた。

 私やヘルガ様が泣く泣く見逃してきたザイフリートをつぶした。


 リク様は、私がしたいことをさせてくれて、私がなんとかしたいけど我慢していたことをあっという間に自分でしてしまうのだ。


「はあ、もういいですよ。

 ミア様の今の笑顔を見ていたら嫌味を言う気も失くしましたよ」


 トーマスが私の顔をまじまじと見て、ソファから席を立った。

 ……自分で顔は見れないけど、頬が緩んで熱を持っていることは私も感じることが出来る。


「トーマス、感謝してるわ。

 役に立たない籠の鳥を連れて来てくれてありがとう」


 私は大声で、外の護衛にも聞こえるようにトーマスに話しかけた。


「もったいないお言葉です」


 トーマスは珍しくきちんと会釈をして、私の部屋から出て行った。

 いつもみたいな態度だと、トーマスまで魔族と通じていると怪しまれてしまうからだろうけど。

 トーマスは実はきちんとした騎士の振りだってできる。

 私の前だと適当な態度だけど、誰か他に貴族がいる場合はきちんと忠実な騎士を務めてくれる。

 ふふ、実は優秀な私の騎士から預かった飛べない鳥でも眺めて暮らすとしましょうか。


 手の甲に乗せた傷ついた鳩に小さくちぎったパンくずを与える。

 ふふふ、勢いよく食べてるね。


「ミア様、失礼いたします!」


 金髪碧眼の美男子が、私の部屋をノックもしないで入ってきた。


「ローゼンクランツ、あなたは領主の娘の部屋にノックもなしに入るようあなたのお父様から教育を受けているのかしら」

「許してください、ミア様。

 この無礼もすべてあなたを守るためなのです!」


 私にかしづき頭を垂れたローゼンクランツは、グラフ領辺境の子爵の息子なのだが留学のため成人するまでお父様の居城、ここグラフ城に住まわされている。

 まあ、体のいい人質ね。

 

 ローゼンクランツはお父様にうまく言いくるめられて私の護衛として、外界との連絡手段を絶ち、私を軟禁するのに一役買ってくれている。

 「忠節と誠実さをあわせ持つ」といえば聞こえはいいけど、「悪く言えば融通が利かなくて頑固」なのよね。

 そもそもお金では動かないタイプの人間だし、とってもわかりやすい人間だから私に向ける所作と表情だけで好意を持たれているのが分かってしまう。

 私がリク様に惚れていることを、魔族に淫術でたらし込まれたと父から聞かされたのだろう。

 私を見る目線が、憐憫と義憤に満ちており、時折宙を見上げては激しい怒りに顔を染めていた。


「ローゼンクランツ。

 顔を上げて。

 小さなころから知っているあなたにひざまづかれると、距離を感じてしまって私は悲しいわ」


 私はローゼンクランツに手を差し伸べる。

 ローゼンクランツは震える手で私の手を掴み、手の甲にキスをしようとした。

 ……これから一芝居うつわけだけど、リク様以外の人にやっぱり触れられたくない。


 私がスウっと手を引いたので、ローゼンクランツはバランスを崩して床に手を突いた。

 ……しまった。恥をかかせてしまったわね。ローゼンクランツの顔が真っ赤っか。


「ごめんね、ローゼンクランツ。

 恥をかかせたかったわけじゃない。

 ただ急に、私とあなたが似てるなあと思って怖くなったの」

「私とミア様が似てる?」


 ローゼンクランツは真っ赤になった顔をぶんぶんと振って直立の姿勢を取り、私の言葉に不思議な顔をした。


「二人とも、籠の鳥よね。

 どこにも行けやしない」


 私は、小鳥が啼くような声を出し、上目遣いでローゼンクランツに話しかけた。

お読みいただきありがとうございます。

次回は7月21日投稿予定です。



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