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60 人間の女の子として愛してくれる?

 ヘルガをベッドに押し倒したオレはヘルガの唇を貪ったあと、身体を起こしてヘルガの身体をじっと眺めていた。

 赤い戦装束はヘルガの身体にぴったりフィットしていて体のラインがくっきりと出る。

 横たわったヘルガのラインは女性らしい曲線を強調するようにしなを作って息を荒げていた。


「ねえ、リク。

 ずっと体を見られてたら恥ずかしいよ」


 ヘルガはそう言うとシーツで体を覆い隠した。

 シーツを口の上まで上げ、両の手で端っこを握っているヘルガの仕草が初々しく可愛くてオレは笑ってしまった。


「何で笑ってるの?」


 シーツから顔をのぞかせるようにしてヘルガはオレに尋ねた。


「嬉しいからかなあ、ヘルガと一緒に寝れるから」


 オレはヘルガにそう話しかけてシーツをはぎとる。


「もう……」


 体を重ね合わせ、もう一度キスをした。

 息継ぎをしたくなる限界までヘルガの唇を求める。

 ローズの香りがヘルガの髪から漂ってきて、甘い匂いに包まれながらオレは夢中で唇を合わせた。

 

「ぷは。

 苦しいってば」


 名残惜しそうにオレの顔に触れながらヘルガは唇を離す。

 ヘルガの顔は赤く染まっていて、呼吸は荒く時折鼻にかかった吐息を漏らしていた。

 キスしすぎて呼吸が荒くなったのはオレも同じで、オレは体をヘルガに完全に預けた。

 ヘルガは顔の隣にあるオレの頭を腕を回して撫でてくれていた。


「私も、もちろんリクと一緒にいれて嬉しいよ」


 ヘルガはオレの髪をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。


「こら、髪が乱れる」

「さっきのお返しだよ」


 さっきヘルガのお団子をくしゃくしゃにしたのをやり返しているようだ。

 ヘルガはニヤッといたずらっ子のように笑うとオレの頬にキスをした。

 ヘルガはこういう無邪気な笑顔はオレ以外にあまり見せていないようで、オレに心を許してくれているんだと妙に嬉しくなってしまう。


 頬が緩むのを感じながら、仰向けで横たわっているヘルガの赤い戦闘服の裾をたくし上げた。

 赤い装束からヘルガの白くて長い脚があらわになって、ヘルガははだけた下半身を手で隠そうとするが、オレはその手を止めてヘルガの顎を上へ向けた。


「なにするの?」

「触る」


 オレはヘルガに端的に答え、ゆっくりともう一度キスをしながらヘルガの太ももを優しく撫でた。


「……ん……こそばゆいよ」


 体をくねらせるヘルガの反応が可愛くて、もっと体をくねらせたくてオレはヘルガの首筋に吸い付いた。


「あぅ……もう、ダメだよ」


 ヘルガはオレが首筋に舌を這わせる度に体を震わせ悶えており、感情を揺り動かされて瞳が赤くなるのを抑え込んでいるようだ。


「我慢するなよ、オレはヘルガが魔族になってもいいんだから」


 シーツを握っているヘルガの手を取って指を絡ませぎゅっと握ってヘルガの首に唇をあて、思い切り吸い付いた。


「ん……あぁ」


 ぎゅっとオレの手を握りしめ、ヘルガは体に押し寄せる衝動に耐えているようだったが、オレが体を強く抱きしめると、耐えかねたように体を跳ねさせ、瞳を真っ赤にして背中から翼を生やした。


「……我慢してたのに、魔族になっちゃった」


 ヘルガは袖で涙を拭い、体を震わせている。

 怖がらせてしまったのかな。

 ヘルガは魔族化したことで子どもの頃よくトラブルを起こしていたそうだから。

 オレは首にキスをするのを止め、ヘルガを優しく抱きしめた。


「……大丈夫だ。

 魔族化して嫌な思いをしてきただろうけど、魔族になってもオレがすぐ戻してやるからな。」


 オレはヘルガに手をかざし、魔族から元に戻そうとした。


「大丈夫だよ」


 ヘルガはオレの手を取って首を振ると、おもむろに立ち上がった。


「リク、これが私だよ」


 ヘルガは姿勢を正してオレに笑顔を見せた。


「そうだな、魔族になったヘルガもとても可愛いぞ」


 ヘルガはオレの言葉に頷くと、オレに背中を向けた。

 ヘルガは服に手をかけ下着も脱ぎ終わると、生まれたままの背中をオレに見せつけるように背筋を伸ばして立っていた。


「子どもの頃は小さかった羽も、今はリクと一緒に空を飛べるくらい大きくなったんだ」


 魔族になったせいで辛い目に合ったヘルガは、今オレに黒い羽根を見せつけている。

 カーテン越しに差し込む月の光に照らされたヘルガの裸身は、黒い羽根を備えてより魅力的になっているんだ。

 この羽も、赤い瞳も、すべてがあってヘルガを形作っているんだから。


「羽に触っていいか」

「……うん」


 オレは立ち上がってヘルガの黒翼に触れた。


「この羽は今まで誰にも触らせたことないんだよ」


 ヘルガの黒い羽根からすべすべとした感触がオレの手のひらに伝わってくる。


「これからも誰にも触らせるつもりはないけどな」

「いつか魔族にならなくなる日を夢見てた。

 そうしたらこんな私でも幸せになれるかもって……」

「ヘルガ……」


 話しながら涙を流すヘルガを後ろから抱きしめた。


「でもね、違ってた。

 私は魔族になっちゃうけど、このままでも幸せになれるんだ。

 リクが教えてくれたんだよ」


 後ろから抱きしめているオレだけどヘルガの顔が見たくなって、ヘルガの身体をこちらへ向け、涙で濡れたヘルガの唇に優しくキスをした。


「絶対、幸せにするからな」

「もう幸せになってるけどね」


 ヘルガも抱きしめ返してきた。

 ヘルガは今何も着ていないから、柔らかな体の感触が伝わってくる。

 

「んー、もう我慢できないぞ」

「わ、急に持ち上げないで」


 オレはヘルガをひょいっとお姫様だっこをしてベッドに優しく寝かせた。

 白い肌をあらわにしてベッドに横たわったヘルガの身体をオレがじっと見つめていると、ヘルガは胸と腰回りを手で隠した。


「さっきは隠してなかったよ」

「抱きしめあってるときはいいけど、じっと見られると恥ずかしいよ」


 体をくねらせているヘルガを見て、オレは完全に誘惑されてしまった。

 腰回りは細く足はすらりと長く全体的にはスレンダーであるが、抱きしめると胸の豊かさがダイレクトに伝わってくる。

 ヘルガは頬は完全に上気していて、白い肌は今は桃色に染まっていた。

 オレは心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、ベッドに寝てヘルガと横向きに向かい合った。

 見つめあうとなんだかおかしくて二人は同じタイミングで笑ってしまった。


「ねえ、私だけハダカなの恥ずかしいからリクも脱いでよ」


 そう言いながらヘルガはオレのシャツのボタンに指をかけ、ひとつづつ外し始めていた。


「じゃあ、オレ耳にキスしてるからその間に脱がせて」


 ちょっと意地悪をしたくなったオレは少し体を起こしヘルガの耳たぶを甘噛みしながら耳元に息を吹きかけた。


「ひぁあああ」


 ボタンを外していたヘルガは体を震わせながら黒翼をはためかせオレの身体にしがみついた。


「耳はだめだよ、脱がせられないよ」


 オレの攻撃に耐えながら、それでもシャツを脱がし終わったヘルガは満足そうに笑った後、オレの胸に顔を押し当てじっとしていた。


「何してるの?」

「心臓の音を聞いてるんだよ」


 ヘルガは目をつぶり、オレの心音に聞き入っているようだ。


「ドクンドクンって鼓動が聞こえる……

 ふふ、ドキドキしてるのは私だけじゃないんだね」


 ヘルガがオレの心音を聞き嬉しそうにしているので、オレもヘルガの心音を聞くことにした。

 ヘルガの胸に手をピトッと当て、顔を胸の真ん中に押し当てた。


「ヘルガの心臓の音も早いな」


 ドクンドクンと鼓動が聞こえる。

 ん? 異常に早くなっているな。

 よし、もっとぴとっとくっついて心臓の音を聞いてみよう。


「ヘルガ、どんどん心臓の音が早くなってるんだけど」

「……当たり前だと思うよ?」


 ヘルガはむぎゅっとオレを抱きしめた。

 このぽよんとするオレの頭を包み込む柔らかいものは何だろう?


「いきなり胸に触られたらドキドキするに決まってるよ」


 そうか。

オレは心臓の音を聞くためにヘルガの胸に手を当て、ヘルガの胸に頭を突っ込んでいたらしい。


 それにしても……いつもより柔らかいような気がするんだけど……


「あのさ、大きくなってないか?」


 ヘルガの戦装束は体のラインを強調しているから、細い腰などスタイルがいいのは知っているけど、こんなに胸は大きかったか?

 ヘルガははにかみながらオレに答えた。


「リクに言うのは恥ずかしいんだけど、魔族化――サキュバスになると胸が大きくなるみたいなんだよね。

ここ最近、何回かサキュバスになっちゃったから」


 魔族化することによる秘密を打ち明けたヘルガは本当に恥ずかしそうにしていたから、オレはヘルガに向き直り、抱きしめて髪を撫でてやることにした。


「髪を撫でてもらうと気持ちいいよね。

 リクのことを好きになってからいつもより丁寧に梳いてるんだよ」


 ローズの香りのするヘルガの黒くて長い髪は、ヘルガの白い肌を一層引き立てていた。


「ヘルガの黒髪、とても素敵だと思うぞ」

「……ありがとう」


 抱きしめながら髪を撫でているけど、ちょうどオレの胸のあたりにあるヘルガの息がオレの肌にかかって興奮してしまう。


「ねえ、リクってさ。

 人間なの? それとも魔族なの?」


 オレの胸に顔をうずめていたヘルガはオレを見上げて真剣な表情をしていた。


「前からヘルガに言ってる通り、オレは人間だよ」


 オレを見つめるヘルガの赤い瞳にはオレしか映っていなかった。


「ねえ、リク」

「何だ、ヘルガ」

「私魔族になっちゃってるし、これからリクと一つになるから、きっと感情が高ぶって魔族になっちゃうと思うんだけど」

「魔族でもサキュバスでも、それがヘルガなんだからありのままでいいよ」

「ううん」


 オレの言葉にヘルガはふるると首を振った。


「私も他の子と同じ人間なんだ。

ねえ、リク。

私を、人間の女の子として愛してくれる?」

 

 オレの胸に顔をうずめているヘルガはオレを強く抱きしめた。


「リクと一緒がいいから」


 感情が高ぶると魔族化するヘルガを、人間の女の子として愛することができるのはオレだけだ。


「わかった。

 でも感情を外に出すのを我慢するなよ。

 嬉しいのも苦しいのも、ヘルガの気持ちは全部オレにぶつけて欲しい。

 ヘルガが魔族化したって、オレが何度だって元に――人間に戻してやるから」


 オレはヘルガの髪に触れ、ヘルガを魔族から人間に戻した。


 オレは少しヘルガと距離を取って人間になったヘルガをまじまじと見つめた。


「どうしてじっと見てるの?」

「魔族のヘルガも、人間のヘルガもとても綺麗だと思うから」


 ヘルガの黒くて長い髪と、整った顔に涼やかな瞳。

 すらっと伸びた長い脚に引き締まった腰、スレンダーな身体なのに主張してくる豊かな胸元。

 

 オレはヘルガを抱き寄せ、ぎゅっと二人の身体を密着させてヘルガの耳元でささやいた。


「とても可愛いぞ、ヘルガ。

 大事にするからな」

「……うん。

 ずっと大事にしてね」


 ヘルガはとてもいい体をしていて美人だと思うけど、何より笑うと可愛いのだ。


 どちらからともなく唇を合わせ、肌を重ねた。

 オレが激しく求めるたびにヘルガは瞳を赤くする。


――オレはその晩、何度も何度も魔族化するヘルガを人間に戻し続けた。


お読みいただきありがとう


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