59 ヘルガと二人で夜の会話
「それでは、リクの新しい服と、マリーのドレスだよ」
ヘルガはマリーに代わり司会を務めていた。
オレはコリンナとヘルガによって新しい服を着せられている。
マリーは新しい服に着替させられていて下着も新しくしたらしい。
「マリー、呼ばれたから行くぞ」
マリーに声をかけるオレは全身黒のいかにも紳士って装いに変身させられていた。
中のシャツは白いものだが、黒のジャケット、黒のスラックスに黒のロングコート。
ネクタイまで黒いものだ。
縁には白の刺繍で飾りがしてあって割と上品な装いだ。
ミアが用意してくれたものはちょっと華美で子どもっぽかったからな。
ミアと同い年くらいの貴族が着る服だったんじゃないかな。
今、ヘルガが用意してくれたものは正装としても使えそうな貴族っぽい服でこのまま舞踏会にもいけそうだ。
オレはツカツカと舞台に出て中央で仁王立ちをする。
舞台での歩き方など知らないからな。
客席には着せ替えの手伝いを終えたマリーとコリンナがいた。
「リク様も私と同じ黒です!」
リンが立ち上がって拍手をしてくれた。
「ああ、私のご主人様にふさわしい装いですね!」
コリンナが姿勢を正して拍手をしてくれていた。
まあ、確かにメイドの一人や二人侍らせていそうなご主人感は出てるような気がするな。
「さて、マリー。
いつまで舞台の中央でオレだけ仁王立ちさせてるつもりだ?」
いつまでも袖に隠れているマリーに声をかけた。
「わ、わかっています。
ですが、ちょっと人前は恥ずかしいのです……」
恥じらっているマリーに向かってヘルガが低い声をぶつけた。
「マリー、リクを困らせないでね」
ヘルガは舞台上でマリーを見据えた。
「は、はい。ただいま!」
ヘルガに声をかけられて先ほどのモジモジ具合とはうってかわってマリーはシャキシャキと歩き出した。
ただ、その足取りは軍隊のもので色っぽくも何ともないのだが。
「素敵ですよ!」
コリンナがマリーに拍手しながら声をかけた。
舞台中央、オレの隣で歩みを止めたマリーは敬礼でもしそうな勢いで姿勢を正していた。
ヘルガと色違いの青のドレスは、ヘルガと同じようにウエストは絞られ、足部分には大きくスリットが入っているが……どうにもヘルガと違はう印象を受ける。
「なあ、ヘルガ。
マリーの服さ、スリットが大きくないか?」
ヘルガはペロッと舌を出してオレにひそひそ話をした。
「私よりマリーの方が背とか高いし、胸も大きいし、足も長いんだけど……私の服のデザインをそのまま大きくしちゃったらさ……露出が多くて過激になっちゃった」
スリット部分はヘルガよりも大きく胸の部分は大きく空いていてちょっとセクシー度合いが上がっている。
「マリーっていい体してるんだな。
まあ、鎧着てる時点でそんな感じはしたけど」
「そうだねえ、スリット部分を私と同じ感じで身長だけ伸ばして服を作ったんだけど、マリーは結構フトモモがいい感じだったんだよね」
オレとヘルガはマリーをジロジロとみていた。
「ジロジロ見ないでください!」
マリーは足を交差してスリット部分から足が見えないようにした。
「いい脚だと思うぞ」
「私、足が太いから……」
マリーは顔を真っ赤にして下を向いていた。
「ねえ、マリー。
私と色違いのドレス嫌だった?」
ヘルガはマリーに駆け寄り後ろから抱きしめた。
「ヘルガ様……いえ、嬉しいです。
私にも作ってくれるなんて……ですが、私、足が太くて……」
マリーは足にコンプレックスを持っているようだ。
「リクはどう思う?」
ヘルガはニヤッと笑顔を浮かべオレに聞いてきた。
ヘルガはマリーに対するフォローをオレに丸投げするらしい。
「オレはマリーの足、素敵だと思うぞ」
「でも、私だってヘルガ様みたいな細くて美しい脚が欲しかったです」
マリーは自分の足に自信がないようだ。
マリーはヘルガと比べると肉付きが良くて胸や太ももが女性らしさをこれでもかと主張してくるタイプだけど、けして太っているわけではない。
むしろ、すごく男から人気が出るタイプの身体をしてると思うんだけど……
「オレはとても素敵な足だと思うけどな」
「からかわないでください。リク様だって、私よりヘルガ様の足の方がお好みでしょう?」
マリーはオレを睨んでいるが、ヘルガはそれを聞いてケラケラ笑っていた。
「マリーは私を差し置いてリクに好かれたいんだね、嫉妬してる。
ふふ、可愛いね」
「あ、いえ……そんなことは……」
マリーは見てもわかるほどに困惑していた。
「マリー。
リクはミア様の旦那だから舞踏会にも出ることがあると思う。
私もマリーもリクのヨメとして舞踏会に行くことがあると思うんだ。
ミア様のためにも私たちがいい女じゃないとリクの株が下がるからね。
頼んだよ!」
ヘルガはマリーの肩をバシンと叩いた。
「……そうだったのですね。
ヘルガ様であれば舞踏会の話題の中心となれることでしょう。
あの美女は誰だ、ミア様の旦那様のヨメらしいぞとヘルガ様が社交界で注目を浴びることは目に見えております。
そうでした、私はヘルガ様の側に居るために何でもすると誓いました。
お供の私もヘルガさまの美しさを邪魔しない程度の美しさは身につけなければなりません。
ヘルガさまのためならば、私の足くらいいくらでも見せてあげます!」
マリーはオレと同じような仁王立ちのポーズをとった。
足が長いマリーは足元まで入ったスリットのせいでフトモモの奥の方まで見えていたが……
突如オレの視界をヘルガが抱きついて遮った。
「マリーはとても素敵な子だけど、リクは今日は私のモノなんだからね。
マリーの足ばっかり見てたら嫌だよ」
オレは、照れながらオレの前に立つヘルガの唇を優しく奪い、お披露目パーティーの終結を宣言した。
「今日は解散だ、みんなありがとう」
☆★
皆解散し各人の部屋へ戻って行った。
オレは、自分の部屋に戻り少しぼーっとした後、ヘルガの部屋を叩いた。
「リク、私まだ着替えてないんだけど……」
「じゃあ、部屋で待つよ」
オレはヘルガの部屋に入り、ヘルガが着替えるのを待った。
ドレスだから、脱ぐのには時間かかるんだろうな。
オレはヘルガの部屋のベッドに腰かけ、ヘルガが着替えるのを待った。
シュルシュル……
ヘルガが部屋の入り口でドレスを脱いでいる音が聞こえる。
寝間着にでも着替えているんだろうけど、その音を聞くだけで心臓の鼓動が大きくなっていくのを感じた。
はは、落ち着かないな。
ヘルガの部屋自体は昔から町長の家にあるそうだ。
ベケットの町がモンスターに襲われた際に冒険者ギルドと町長以下行政ラインとの連絡を密にするため、ギルドマスターの部屋が町長の屋敷に一部屋用意されているらしい。
孤児院の部屋でもそうだが、ヘルガは特に部屋にこだわりはないらしく、この部屋にも最低限のものが置いてあるだけだ。
ベッドとカーテン以外特に何もないこの部屋にヘルガの生真面目さを感じた。
オレはポテンとヘルガのベッドに横たわる。
ヘルガは身なりにあまりかまってこなかったらしいけど、最近は香水の類にも興味を示しているらしい。
横たわったベッドにはヘルガの髪と同じ香りが漂っていた。
甘い香りがするけど、ローズの香りだろうか。
「着替えたよ」
ヘルガはドレスを重そうに抱えながら、オレの側へ歩いてきた。
「とりあえず、ドレスはかけておくか?」
「あ、うん。
ドレスなんてどう手入れするのかわからないけど、後でマリーが整えてくれるって言ってたよ」
ヘルガはドレスを机の上に広げた。
「寝間着に着替えるのかと思っていたけど……」
ヘルガはオレと初めて会った赤い戦闘服に着替えていた。
「うん、寝間着は可愛くないからこの服を着たんだよ。
リクと初めて会った時の服だよ」
ヘルガはその場でくるりと一回転した。
「はじめて会った時から、オレはヘルガに惹かれてたんだと思う」
オレはぼそりと呟いた。
「え、なんて言ったの?」
ヘルガはオレにしがみついてオレを見上げていたけど、顔は笑っていたんだ。
……お前、絶対聞こえてただろ。
「……何も言ってないよ」
「ウソツキ」
ヘルガはオレの唇を強引に奪った。




