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06 馬車でイチャイチャ

 ミアがさらにもう一段階オレとの距離をつめてきた。

 これは近いというよりくっついているんじゃないか。


 ミアはオレにピッタリくっついている。

 そんなに広くない馬車だけど、そこまでくっつかなくてもいいじゃないか。

 

 いつの間にか腕も組まれているし。

 グイっと一気に心の距離をつめられたら動揺してしまうぞ。

 

 ミアを間近でみると、上品なたたずまいの中にあどけなさが残っている。

 質の良さそうな身なりなのに、さほど化粧っ気がない。

 

 腰までの金髪と整った顔に大きな碧眼。

 表情の読みやすい顔からすると、まだ少女と呼ばれる年なのかもしれないな。


「そんなに見つめられると、照れてしまいます」

「ああ、すまない」

 

 とはいえ、ここまでめり込むように近いと嫌でも目に入るんだけど。

 質の良いマクラだと思っていた鮮やかな青いドレス。

 華美な装飾ではないが、とても良い生地を使っているのだろう。

 ミアに良く似合っている。

 

 ブロンドの髪を腰まで伸ばしているけど、よく手入れしてあるんだろう。

 思わず口走った。


「綺麗な髪だな」

「あ、ありがとうございます。

 良く褒められます」


 謙遜せず、にこっと微笑む。

 素敵な笑顔だ。


「あのイチャつくのも結構ですが。

 ミア様、そろそろリク様に私をご紹介願えますか」

「トーマス、髪について話していただけよ」


 ミアは口を尖らせた。


「でもそうですね、護衛のトーマスです。リク様」


 ミアがオレと少し距離をとった。


 ミア付きの騎士、トーマス・ミュラー。


 トーマスがミアのことも教えてくれた。

 あまり自分で家名を伝えるのも嫌味であるし、部下が説明するのが貴族の礼儀らしい。


 ミアはこのあたりの領主グラフ侯爵家のご令嬢だそうだ。

 港町カリギュラから内陸の町ベケットに向かうところだったらしい。

 二つの町は両方ともグラフ侯爵家所有の町だ。


「それにしても、リク様すごかったですね。

 一瞬でゴブリンライダー100匹を倒してしまいました」

「ええ、リク様が一歩も歩かないまま、ゴブリンライダーが倒れてましたから。

 いやあ、リク様の足さばきが見えませんでした」


 トーマスも頷いている。

 足さばきが見えなくて当然だ。

 歩いてないからな。


「フハハハハ、オレにかかればゴブリンライダーごときなんということは無い。

 最強の武闘家リク・ハヤマに倒せない敵など存在しないのだ」


 ミアがくすくす笑っている。


「ほ、本当だぞ? 

 斬られたのはちょっと油断しただけなんだ」


 オレはミアに頑張ったんだぞって主張したい。


「リク様はかっこよくて強いです。

 私の誇りですよ」

「いや、そこまで褒められると照れるぞ」

「ふふふ」


 やっぱりニコニコと笑っている。

 ミアはご機嫌みたいだな。


 この少女と一緒に過ごせる男は幸せだろうなあ。

 ミアはくるくると表情が変わる。

 今見せた笑顔なんて免疫がない男が見るとイチコロなんじゃないかな。


「それにしても、リク様。

 どこかで聞いたようなお名前ですね」


 トーマスが何か思い出そうとしている。


「……そうか? 姓も名も珍しいわけでもないからな」

「あ、リク様。故郷はどちらですか?」


 ミアは興味津々といったご様子。


「ミア、私の故郷が気になるのか?」

「そうですね。お父様に会っていただくんですから、リク様のこと知っておきたいですし。

 それに婚礼の儀なども各地によって違うようですからね。

 リク様の故郷の地の婚礼の儀についても知っておかねばなりませんし」


 ミアは楽しそうに婚礼を語っている。


「婚礼に興味があるのか?」


 女の子は素敵な婚礼の儀を上げたいものらしい。

 正直オレはどうでもいい。

 めんどくさい。


「女の子ですからね、自分の婚礼に興味があるのは当然ですよ」

「そういうものか」


 妙に頭が近いな、ミアは。

 撫でて欲しいのかな。

 寂しがり屋なのかなあ。

 よし、撫でてやろう。


「ふふふ、幸せです。私」


 頭を撫でられたミアは本当に幸せそうな笑顔を浮かべる。

 

「本当に可愛い笑顔をするんだな。

 ミアと一緒に居られる男は幸せ者だな」

「リク様!」


 ミアが感極まったように、がばっとオレに抱きついてくる。


「私、絶対にお父様を説得して見せますからね。

 だから、二人で一緒に頑張りましょうね!」


 へ? 何を頑張るんだ? 

 領主への面会か? 

 まあ、それなりに気を遣うんだろうな。

 

 ミアが頑張ってくれるなら助かるな。

 オレは偉い人と、かたっ苦しい話をするのは得意じゃない。


「頼むよ」

「はい!」

 

 ぎゅっと抱きしめてきた。

 ミアのからだの柔らかさが服越しに伝わってくる。

 この子の愛情表現は勘違いする男が出るぞ。

 オレも思わず抱き締め返した。

 

「……リク様」


 ミアは目をつぶり、顔を近づけてきた。

 唇が、近い。


「ミア様、ほどほどにしましょうね。

 離れてください。

 水かけますよ」


 トーマスが慌てて声をかけた。


「それは発情した犬に対しての作法よね。

 私は犬じゃないわトーマス」


 ミアはトーマスに言い返した。


「でも、そうね。

 人前ですものね。

 もうじき、結婚するとはいえ」

「え? 何?」


 ミアが耳とほっぺを真っ赤に染めながら上目遣いでオレになにか喋っているが、馬車からガタンゴトンと音がして聞こえなかった。


「ベケットが見えてきましたよ」


 御者テオが到着を告げた。

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