55 リク、ブチ切れる
「おい、お前ら自己紹介しろ」
オレの目の前には3人の捕虜。
町長は口から泡を噴き出し、今にも失神しそうな様子である。
オレの回りには奴隷市場から帰ってきたヘルガとマリー。
リンとプロジア、キットとトビーもザイフリートの館から帰ってきていた。
「あわ、あわわわわわわわ。
公爵令息ブライアン様まで捕らえてくるなんて……」
町長は髪をかきむしり、いつにもましてハゲ散らかしている。
「ったくしょうがないやつらだなあ。
おい、ブライアン。お前人見知りか?
公爵の息子のくせに口下手なのか?
おい、マリー。
町長にこいつらの紹介してやれ」
まったく自分で名前ぐらい名乗れよな。
お前ら子どもか?
「リク様、この人たちが口を開かないのは人見知りのせいではないと思いますが……」
マリーは頭を抱えため息をついている。
なんだ、マリーも人見知りなのか。
使えないな。
「おいヘルガ、お前の部下がオレの言うこと聞かないんだけど」
「……マリー、なんでリクの言うこと聞 か な い の?」
ヘルガの眼に冷ややかな炎が宿っているが、それを見たマリーはニンジンを見た馬のように涎を垂れ流して悦んでいる。
「す、すいません!
ヘルガ様のお言いつけであればすぐにでも言うことを聞くのが我々部下の務め。
見事に果たして見せます!」
マリーはうってかわって従順になり、こいつら3人の紹介を始めた。
マリーはヘルガの部下であるが、オレのヨメでもあるんだけど全くオレの言うこと聞いてくれない。
困ったやつだ。
「アルベルト・シュミット。
ザイフリート商会の次代を担うお方でございます」
「なんだかムカついたからオレが倒しておいたぞ」
マリーの紹介にオレが補足を入れる。
「さすがリクだね!」
ヘルガはオレの身体にむぎゅっと全身を押し付けると、甘い香りがオレを責め立てる。
うう、誘惑されてしまう。
「フフ、ヘルガが孤児院の子たちを助けたいって言ったからな」
「リク……」
オレは、感極まって震えるヘルガの唇を奪った。
「リク、みんな見てるよ……」
とか言いながらも、ヘルガは嬉しそうにオレの唇に吸い付いてきてむぎゅっと体を押し付けてきた。
「マリー、早く続きの奴らを紹介しろ」
まったくマリーときたらオレが催促しないと紹介すらできないのか。
おちおちヘルガとキスすらできないじゃないか。
「……こちらがザイフリート。
ザイフリート商会の頭目です」
「オレが倒したぞ。
獣人たちをいじめる悪い奴らだからな」
「さすがリク様ですね!」
コリンナがオレにしっかりと音のする拍手を送ってくれた。
「リク様、奴隷のみんなを助けてくれて私嬉しいです!」
リンがオレの傍らに突撃してきたのでそっと抱きしめてやる。
奴隷達はコリンナやリン達がドクヌキスライムを使い、既に隷属紋を解呪してある。
「うんうん。
みんな幸せそうでよかったな」
「リク様、リンばっかり可愛がってはいけませんよ」
コリンナがオレの側に来てぱくんとオレの指を咥えてすり寄ってきた。
「うん、やっぱりコリンナの肉球は最高だな」
コリンナが近くにいるとついつい肉球をぷにぷにしてしまう。
「リク様、私肉球以外もとても美味しいんですけど……味わってみます?」
コリンナはオレにべったりくっつき上目遣いでオレの指を咥え続けている。
……ぴちゃぴちゃ……
「はあ……」
マリーはため息ばかりついている。
「マリー、ため息ばかりついてないで早く残りの奴を紹介しろ」
「わかりました。残りの奴を紹介します」
なんだかめんどくさくなったらしいマリーはどうでもよさそうに紹介した。
「残りのどうでもいい奴はブライアン・アルダーソン公爵令息らしいですよ」
「ふはははは、奴隷市場の客であるブライアンに、自分が売られる辛さをわからせてやったのだ。
ちなみにブライアンは0チロルだぞ」
「リク様、私500チロル(1チロル=20円)です!」
リンは自分の値段を嬉しそうにオレに告げた。
「そうか、リンは可愛いからなあ。
オレはリンなら3人買ってもいいぞ。
ブライアンは性格が悪いから0チロルだけどな。
フハハハハハハハ!」
オレはリンの頭とウサギ耳をなでなでしてやる。
リンは辛い目にあってきたんだ。
だれかが幸せにしてやらないとな。
「き、貴様バカにしやがって!」
「ひいいいいいいい、皆さま。
すいません、すいません!」
ブライアンが叫ぶと町長は3人の捕虜に頭を下げていた。
「町長。お前、私にこれだけのことをしてどれだけのバツが下るかわかってるのだろうな!」
「ひいいいいいい、す、すみません!」
ブライアンの言葉に顔を真っ青にした町長は3人の捕虜にぺこぺこし続けていた。
「まあ、町長そういうことだからミアが来るまでこいつら預かっておいてよ」
「はあ?
ブライアン様達を捕まえただけでなくまだ拘束し続けるんですか?」
町長はオレを問い詰めた。
いま、オレはヘルガ達とキスしてて忙しいから身動きが取れないんだけど。
「うん」
「私にはできませんよ、こんなお偉方を!
公爵家のご子息ですよ?
グラフ侯爵様より偉いんですよ!」
町長はオレに掴みかかってきた。
「キット、トビー。
町長がこいつら飼えないらしいから世話してくれるか?」
「へへ、オレペット買うの夢だったんだよな」
キットがウキウキしていた。
「エサはキュウリに木の枝刺したやつでいいのかな」
「ブライアンは貴族だからズッキーニの方がいいんじゃないかな?」
キットとトビーがブライアン達の飼育計画を楽しそうに立てていた。
「お、お前冗談だよな。
最高位の貴族である公爵の息子をペット扱いにしていいと思ってるのか?」
ブライアンはキットとトビーの飼育計画に体を震わせていた。
「ちょっと預からせるだけだぞ。
キット、トビー。
きちんと一日一本のキュウリだけは与えてやるんだぞ」
「え?
オレが飼ってるコオロギは一日でキュウリ半分くらいなのに贅沢な奴らだなあ」
キットはぶつぶつ文句を言っていた。
「いや、私が預かりますから!
あり得ないでしょ!
キットとトビーも冗談はやめなさい!」
町長が怒っているが、キットとトビーは首を傾げていた。
「え?
キュウリもっと多く欲しいってことなのか?
こいつらぜいたくなやつだよなあ」
キットは贅沢なペットは嫌いなようだ。
「まあ、町長がそこまで言うならこいつらのことミアが来るまで預けたっていいぞ」
オレはヘルガ達から離れ町長の肩に置いた。
「ミアだと……グラフ家の侯爵令嬢風情が私を捕まえる計画を仕組んだっていうのか。
あの小娘、私が解放された暁には顔に消えない傷をつけてやるぞ!」
ブライアンは悪態をついていた。
「お前、ミアを傷つけるって言ったか?」
「ああ、言ったぞ。
侯爵令嬢風情が、奸計を巡らせて私を捕まえるだと?
ゴロツキどもに襲わせて体に一生消えない傷をつけてやるからなあ。
ヒハハハハハハ!」
オレはブライアンに近づき顔面を蹴り上げた。
「フギャアアアア!」
ブライアンは鼻血を出していた。
「ちょっとリク様!」
町長がオレを止めようとしたが、手を払って足を踏みつけブライアンの手を取った。
「私に何をする気だ」
オレはブライアンの小指を折った。
「ギアアアア!」
ブライアンは痛みに体をよじっている。
「ミアに何をするって?」
「や、やめろ……」
「オレの質問に答えろ」
オレは薬指を折った。
「ひ、ひいいいいいい」
「ミアの身体に傷をつけるってお前言ったよな?」
「わ、私にこんなことをして正気か、お前は」
ブライアンは痛みをこらえ、オレを睨みつけてきた。
指の一本や二本何だっていうんだ。
奴隷市場の奴隷たちの光の消えた目を見てもなんとも思わないお前にミアを傷つけさせるわけにはいかないんだ。
「お前が正気だって言うなら、オレはずっと狂っていてやるよ」
オレはブライアンの中指、人差し指、親指を折った。
「ギャアアアアアア!」
「……なあ、ブライアン。
お前ミアにどうする気だ、答えろ」
「た、助けて……」
ブライアンの言葉に町長は目を背けた。
ザイフリートもアルベルトも顔面を青白く染めオレの顔を見ないふりをしていた。
「誰もお前を助けに来ないんだな。
キットとトビーはゴロツキの集団がいてもリンを助けに飛び出していったけどな」
「リク!」
ブライアンのもう片方の手をオレがつかむと、ヘルガがオレの手を取った。
「「リク様!」」
コリンナとリンもヘルガに続いてオレの身体に抱き着いてきた。
「リク、ブライアンはもう気絶してるよ」
ヘルガの言葉にオレは、はっと我に返った。
ブライアンは片手の指を全て折られ痛みで失神していた。
つい、カッとなってしまったな。
「町長、オレが預かるわけにいかないんだ。
プロジアやヘルガ、コリンナやリンもこいつらに恨みがある。
すまない、預かってくれないか」
オレは町長に頭を下げた。
「わ、わかりました。
預かるだけですよ。
もう私の力ではこの事態をどうにも納めることなどできません。
ミア様に全てお任せします」
町長は捕虜たちを別室に連れて行った。




