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54 決着

「ヘルガ・ロート……貴様のふるまい、ギルドがこの国に牙を向いたということだぞ」


 スッパダカのブライアンが気丈にもヘルガを睨みつけていた。


「別に国に牙を向くとかそんなつもりはないよ。

 ただ、私は奴隷たちを解放したい。

 そのために人質をとっただけ。

 他の人がどう思うかなんて知らないよ」


 ヘルガはブライアンに剣を向け続けていた。


「ヘルガ・ロート。

 魔族に身柄を奪われ、眷属となったウワサは本当だったか。

 おい、仮面をつけていい気になってる冒険者ども……お前らも魔族の眷属になったのか。

 貴族にケンカを売ってただで済むと思うなよ」


 仮面の冒険者たちはブライアンの言葉に動揺したようだ。

 互いに顔を見合わせている。


「奴隷市場をつぶされたザイフリートも黙ってはいまい。

 お前ら、冒険者ふぜいが振り上げた拳の落としどころが分からなくなってるんじゃないのか?

 なあ、お前らこれからどうするつもりだ。

 町長の家に攻め込んで滅ぼすつもりでもあるまい。

 この町の町長は人望がある。

 町の民意も計算してないわけではあるまいな?

 どこで落としどころを付けるつもりだ。

 お前ら、この国を捨てる覚悟があってのことだろうなあ!」


 ブライアンの言葉に冒険者たちは押し黙った。

 奴隷たちに同情し、貴族たちに反感を持っていたとしても、彼ら冒険者とてこの国を攻め滅ぼす革命者になったつもりはないだろうな。

 先ほどまでとはうって変わって、冒険者の得物を握る手に自信がなくなってきたことがオレにも伝わった。


「ははは、さすが公爵令息ブライアン。

 政治や人心というものをよく理解しているようだな」


 オレは素直にブライアンに拍手と称賛を送った。


「お見事だブライアン。

 お前の一言で暴徒は一瞬にして闘志を失った。

 将来いい政治家になるかもしれないな。

 非常に助かったぞ。

 オレは冒険者の引き際を考えていたんだ」

「リク様、奴隷の解放終わりました」


 蝶の仮面をつけたマリーが冒険者を引き連れて奴隷たちを救い出してくれたようだ。

 身柄を取り戻してしまえば、隷属紋さえ後で解いておけばいい。

 ザイフリートの商館はすでに壊滅させているんだし。


「もう目的は果たせたな。

 冒険者のみんな、ありがとうな。

 解散!」


 冒険者たちは急に解散を告げられ、互いの顔を見合わせていた。


「オレはブライアンの言う通りだと思う。

 お前達も獣人奴隷を可哀そうに思って、楽しそうにしている貴族がむかついたからちょっと暴れてみたかっただけだろ?

 獣人奴隷は助けられたし、貴族たちには目にモノ見せてやったよな?」


 オレは冒険者たちを説き伏せるように話し続ける。


「依頼はもう終わりだよ。

 お前ら良く頑張ってくれたと思う。

 いつでもいいからさ、ギルドに来てくれよ。

 ヘルガと孤児院のみんなでクッキーをいっぱい用意しておく。

 こっそりそのクッキーを持って行ってくれ。

 お前らを貴族に差し出したくないしな」

「みんなありがとね。

 さ、帰ってお風呂でも浴びてスッキリしてきてね。

 そうしないと本当に暴動になっちゃうから」


 オレの意図を理解したヘルガがオレと手をつないだまま、冒険者たちに話し続けた。


「さあ、みんな解散だよ!」


 ヘルガの声に、冒険者は次々とその場から帰って行った。


「ブライアン以外の貴族も帰っていいぞ」


 貴族たちは呆然としていたが、一部の貴族が怒り心頭といった様子で立ち上がった。


「貴様らああ、こんなことして許されるとでも思っているのか!」


 貴族が3人立ち上がって、抜刀しこちらに迫ってきた。

 

「オレは許されるとは思ってないぞ」

「そうだね、リクの言う通りだよ」


 ヘルガがオレに頷いて手を離し抜刀した。


「吹っ飛べ!」

「ヒグ……」


 オレは抜刀して突撃してきた貴族の一人を【鬼道】で壁にふっとばし、ヘルガがもう一人の手首を斬った。


「グヘアア!」


 もう一人はまっすぐ剣を突き立てヘルガに向かって来ていた。

 ここからならマリーが間に合うな。


「ヘルガ、手を出すな!

 マリー、お前はどうする?」


 最後のひとりを斬ろうとしていたヘルガの動きを止めさせる。

 マリーが動かなければ、オレがギリギリで止めることになるけど……

 ヘルガは向かってくる剣に向かって体を開く。

 マリーが動かなければヘルガは刺されてしまう。


「へ、ヘルガ様!」


 マリーはヘルガに駆け寄り最後の一人の肩を二刀で突き刺した。


「ぎゃあああああ」


 肩を刺された貴族は痛みでのたうち回っていた。


「ああ、貴族を斬ってしまった。

 あああああ、もう。

 リク様とヘルガ様にこれからも付き合っていくんだったらこんな仮面つけてられません!

 すでにリク様に名前を呼ばれてしまいましたしね」


 マリーは、蝶の仮面を投げ捨てた。


「なあ、お前ら。

 帰れって言ったら素直に帰れよ。

 オレたちは別に正義の味方ってわけでもないんだからさ。

 顔出して貴族襲ってるやつらがまともだとでも思ったのか?

 さっさと帰れよ。

 警告はしたぞ。

 次は即死させるからな」

「「ヒ、ヒィイイイイイ!」」


 貴族たちはオレに睨まれ我先にと逃げ帰って行った。


「さて、目的は果たしたから帰るか」

「リク様、ブライアンはどうするんですか?」

「別にもうどうでもいいけどなあ」

「お前ら、オレをどうするつもりだ!」


 ブライアンは裸でわめき続けている。


「マリー、とりあえず服を着させろ。

 あとはそうだなあ……マリーに任せるぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!

 リク様!」


 マリーは慌てていた。


「マリー、とりあえず手足を縛って町長の家まで連れて行くよ」


 ヘルガがマリーに語り掛けた。


「マリー、私たちのしたいこと――あの子たちを解放することはできたんだ。

 だから、後は落とし前をどうつけるかって話になるよね。

 話が大きくなりすぎてるから、町長とミア様に相談しよう。

 ブライアンはとりあえずは人質にしておくしかないよ」

「はい、わかりました。ヘルガ様」


 オレたちはブライアンを連れて、奴隷市場を後にした。


 ☆★


 リク様が男たちを連れて行ってしまったから、残された蝶の仮面の一同は女子ども年寄りしか残っていないようだ。

 コリンナとオレ、キットとトビーはザイフリートの商館から救出された奴隷たちの隷属紋の解呪に大忙しだ。

 あちこちでドクヌキスライムを塗り込んでいるため「ひゃうん」という声が聞こえている。

 コリンナが隷属紋の解呪を願い出て、キットとトビーがそれを手伝っていた。


 その一方で、ザイフリートには仮面の人々からの石が投げつけられ続けている。

 リク様はあえて力なきものの留飲を下げるため、男たちを引き連れて行き、女子どもそれに年寄りをそのままにしたのだろうか。

 頭を手で覆い隠し投石に身をよじりながら、ザイフリートはそれでもまだ生きていた。


「や、やめてくれ……お願いだ……」

「私は息子が連れていかれれるとき、そう言った。

 何度も、何度もッ……!

 それで息子を返してくれたのか、お前は……」


 ケモノ耳の老婆がザイフリートを手にした杖で打ち付ける。

 きっと大した痛みはない。

 老婆はふりあげるので精いっぱいだったからだ。


「ひい、ひぃいいいいっ」


 ザイフリートはそれでも痛みに過敏になっているのか、老婆の杖を身をよじりながら避けようとしていた。


「ふう、ふう……」


 老婆にはもう打ち付ける力も残っていないようだ。

 それでも杖を振り上げる老婆の手をオレが抑えた。


「なんだい、アンタ。

 私の息子が受けた痛みはこんなもんじゃないんだ、それでも邪魔するってのかい?」


 老婆は敵愾心むき出しでオレを睨んだ。


「ハハハ、睨むなって。

 アンタ杖が重そうだからさ……オレがアンタの思うままザイフリートを殴ってやる」


 オレは老婆から杖を奪った。


「じゃあな、ザイフリート。

 斬られて死ぬより杖でボコボコに殴られた方がお似合いだろう?」


 オレは、杖を大きく振りかぶった。


「ヒ、ヒィイイイ!

 プロジア、やめろ、金ならだすから……」

「……やめな」


 老婆はそう言うとのろのろとオレに近づき、杖を取り返した。


「何も死んでほしいと願うわけじゃない。

 ただ、辛い思いを知ってほしかった。

 それだけさ」


 取り巻いている奴らもすでに投石はやめたようだった。

 許したわけじゃないんだろう。

 ただ、ザイフリートを殺しても何にもならないとあきらめているだけだ。


「オレが決めていい話じゃない。

 コリンナ、お前はどうしたい?」


 奴隷商人の処遇は、元奴隷が決めるべきだろう。

 オレは獣人奴隷の解呪で忙しいコリンナへ声をかけた。


「……私は町長の奴隷でしたから、みなさまよりは待遇が良かったのではないかと思います」


 コリンナは蝶の仮面の人々へ深々と礼をした。


「そんな私が、皆さまを代表することなどできませんが……少しだけ。

 私はリク様に助けられて奴隷ではなくなりました」


 コリンナは淡々と話し続ける。


「リク様はどこに行ってもいい、お前は自由だと言ってくれました。

 でもね、私はどこにも行きませんでした。

 奴隷であった時と同じように、主人のお世話をしています。

 今日のご飯は何にしようかと。

 リク様は今日は喜んでいるけど、何があったのかなと。

 毎日がとても楽しいのです。

 フフ、していることは変わらないのですが。

 枕を洗い、シーツを変え、ご飯を作る。

 町長からリク様に主人が変わっただけだと皆さまは思うかもしれません。

 ……でも、それでも好きな人の側に居たいからいるのと無理やりやらされるのは違うのです」


 コリンナはザイフリートの側へ行った。


「できれば、獣人たちがみな好きな人のところで好きなことをして欲しい。

 ザイフリート、あなたにはその手助けをしてほしい。

 私が望むのはそれだけです」


 ザイフリートにコリンナは手を差し出した。


「約束する……だから、命だけは助けてくれ」


 ザイフリートはコリンナの手を取ろうと、手をのばした。

 オレはその手を踏みつけた。


「ぐわああああ!」


 ザイフリートは痛みに悲鳴を上げた。


「プロジアさん、何を?」


 コリンナは動揺していた。

 全く、獣人ってやつはヒトがいいんだよな。

 コリンナだって頭は回るのに。

 だからいい様にされちまうんだ。

 オレはザイフリート、お前と同じような人間だからよくわかるぜ。

 ウソでもなんでもついてこの場を逃れようって考えだろう?

 結局、この類の人間は考えを改めることなんてない。

 自分が助かればそれでいい。獣人を傷つけたところで何の心も痛まないんだ。

 だから、オレはお前の土俵に立ってやることにする。

 コリンナ達獣人はヒトがいいから、きっと許してしまうだろうからな。


「今の言葉をザイフリートに順守させる。

 キット、トビーオレを手伝え。

 少し残酷だが、出来るな」


 キットとトビーはオレの言葉に頷き、ザイフリートの右手と左手を抑えた。

 オレはうつぶせになったザイフリートの上に馬乗りになり愛用の槍を握った。


「コリンナ、リク様が置いて行った魔石を渡してくれ」


 コリンナはオレに言われた通り、魔石を取ってきて渡してくれた。


「な、何をする?」


 困惑するザイフリートにオレは笑いかけてやった。


「お前がいつもやっていたことだよ」


 オレは奴隷狩りに手を染めていたから、隷属紋の書き方は知っている。

 この町に住むオレは嫌というほど隷属紋を見てきたからな。


「一言だけ言っておく。

 痛みを軽くする魔法など、オレはお前にかけてやる気はない。

 お前らだって奴隷が暴れるから痛みを軽くする魔法をかけてやるほどだけどな」


 オレはザイフリートの背中に槍を突き立てた。


「「ギイイイイイイイイ!」」


 悶絶するザイフリートの背中にオレは隷属紋を刻み続け、すぐに気を失ったザイフリートの背中を槍で彫り続ける。


「奴隷の元締めたるお前には最大限、奴隷たちのために尽くしてもらうぞ。

 それがオレの罪滅ぼしだからな」


 オレの言葉にキットとトビーが頷いていた。

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