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51 キットとトビーを取り戻せ

 目に光を取り戻した子ども達にゴロツキからかっぱいだ服を着せた後、しらみつぶしに部屋を開き、キットとトビーを探した。

 後の部屋にはゴロツキが数人いたくらいで子どもたちは囚われていなかった。

 子ども達はみな不安がっていたから連れて回ることにした。


「市場に奴隷を連れて行く時間過ぎたからね」


 ネコ耳の獣人少女シャルが答えてくれた。


「クソ、どこにもいないな。

 これで2階は全部見たぞ」

「……もしかしたら、一階の部屋かも。

 魔法陣があるの」


 ヘルガに寄り添っているイヌ族の少女レインがオレに教えてくれた。

 レインはまだ幼くて心細いのかヘルガの袖を持って指を咥え、とことことヘルガに引っ付いて回っていた。


「ふふ、レインは可愛いな。

 指なんて咥えて」


 ふとオレがつぶやくと、コリンナが指を咥えてオレの袖を引いていた。


「私も可愛いですよ。

 指も咥えますし」

「あのな、コリンナ。

 かわい子ぶるなら自分の指を咥えろよ。

 昼間っからオレの指を咥えるな」


 コリンナがオレの袖をつかみ、嬉しそうにオレの指を咥えたりぺロペロしたりしていた。


「みゃふ……」


 オレの指から口を離して息継ぎをしたコリンナは、またぱくんとオレの指を咥えた。

 ふるふると身体を震わせ興奮していくコリンナの眼がだんだんトロンとして、吐息が鼻にかかった声に変わっていく。

 ヘルガがオレとコリンナを見ていた。


「あの、リク。

 コリンナのこと可愛がってって言ったのは私だけど……

 今すぐにここで可愛がってとは言ってないよ?

 のんびりしているとプロジアが持たないよ」


 そうだな、プロジアは多勢に無勢で頑張ってくれている。


「良し、おあずけだコリンナ」

「ふみあ」


 理性を失っているかのようなコリンナだったがオレの言うことにはすぐ従ってくれた。

 オレはコリンナにお預けさせて一階の魔法陣のある部屋を目指した。


「クソ、ここにもいないな」


 魔法陣の部屋に入っても誰もいなかった。

 

「「おお!」」


 表の通りからひと際大きなどよめきが起こるが、少し経つとうってかわって静寂が訪れた。


「クソがあああ、ザイフリートおおおお!」


 その後、プロジアの叫び声だ。

 何かあったらしいな。


「ヘルガ、ここを任せるぞ」

「わかった。

 人の気配はしないけど、一応全部の部屋を開けておくね」

「……ゴロツキなら別に殺したってかまわないから、お前は泣くなよ」

「うん」


 ヘルガは頷いてくれた。


 オレはまっすぐに玄関へと向かった。

 扉を開くとゴロツキが10人ほど道端に転がされていた。

 良くやったな、プロジア。

 先ほど上がった歓声はお前がすべてゴロツキを倒し終えたことによるものか。

 プロジアは息が上がっていて、体重を槍に預けていたが、眼光は鋭く目の前の少年二人に向けられていた。


 キットとトビー。

 二人は上半身裸にされ、剣とスリングを握らされていた。

 二人の背中には大きく隷属紋。まだ新しいからなのか、紋からは血が流れ出ていた。

 チクショウ……できれば隷属紋をかけられる前に二人を助けたかった。

 

 ニヤケ顔でプロジアをみつめる白髪の小男、右目には片眼鏡をはめ込んでいた。

 白髪の小男はプロジアの槍から逃れるようにキットとトビーの後ろに控えている。

 正装をしていて胸元のループタイまで白いものを付けており、白手袋でこれまた白いステッキに手をかけている。

 白一色の白髪の小男の傍らには巨躯のスキンヘッドの護衛が二人。


「ククク、弟子みたいな二人と戦う気分はどうだい?

 プロジア君」


 白髪の小男は片眼鏡のおさまりが気になるようでたびたび触れて位置を調整していた。


「ザイフリート、てめえ……後で覚えておけよ。

 オレの槍でお前の背中に隷属紋を刻み込んでやる」


 プロジアの突き出した槍からザイフリートを守ろうとキットとトビーが歩み出た。


「あああ……体が勝手に動くんだ」

「プロジアさん、ボク達もう邪魔しかできない……かまわずに戦って」


 キットとトビーは二人で目を合わせ、息を止めた。


「ククク、愚かですね。

 【キットとトビー息を吐け】」


 二人は魔石に指示され止めた息を無理やり吐かされた。

 隷属紋は一般的な痛みを与えて行動を制限させるモノではなく、無理やり意にそわない行動をさせる術式を背中に彫り込まれているようだ。


「「ゲホ、ゲホ」」

「息を止めて気絶して逃れようなど、甘いですよ。

 二人にはお仕置きが必要ですね」


 ザイフリートは懐から魔石を取り出し空に掲げた。


「やめろおおおおお!」


 プロジアは叫ぶが、キットとトビー自身がプロジアの身体にしがみついてプロジアを押し返す。


「ありがとう、プロジアさん。

 オレ達のために怒ってくれて」

「ごめんね、ごめんね……」

「クハハハハハ!」


 笑みを浮かべたままザイフリートが魔石に力をこめようとした瞬間、オレは瞬間移動して魔石を奪い取った。


「ハハ……ハ?

 ま、魔石がない?」


 ザイフリートは手元の魔石がなくなったことに動揺し、あたりを探していた。


「「リク様!」」


 オレは瞬間移動してキットとトビーの前に出る。


「二人ともよく頑張ったな」

「遅いですよ、死ぬとこだったですよオレ」

「すまん、すまん」


 オレはキットとトビーとプロジアの頭に手を置いて労った。

 キットとトビーは魔石での支配から逃れ嬉しそうにしており、オレが指示したプロジアの後ろに隠れた。

 プロジアは杖代わりにしていた槍をグッと握りこみ、オレの傍らに立つ。

 ただ、ちょっとつらそうなので少し下がらせた。

 プロジア本当に良く頑張ってくれたな。

 あとはオレに任せてくれ。


 オレは右手に持った魔石をこれみよがしにザイフリートに見せつけた。


「さて、ザイフリート話がある」

「ククク、どういう魔法を使ったか知りませんが魔石を盗んで勝ったつもりですか。

 まだ私には屈強な部下たちがいます」


 ザイフリートは傍らにいるスキンヘッドの強さに自信を持っているようだ。


「一対一でこいつらに勝てる奴なんているもんですか」

「ここにいるよ」


 ヘルガは玄関から飛び出してきて流れるような動作でスキンヘッドの手足の腱を斬った。

 レベルの低いオレには太刀筋すべてを見ることはできなかったが、スキンヘッド達の手足から血が噴き出しているのにヘルガの剣にはさほど血がついていないことから考えると、両手足8回無駄なく剣を振るったのだろう。


「「ギャアアアアア!」」


 スキンヘッドは地面に崩れ落ちて顔をゆがめていたが、手足を封じられているためただただうめき続けることしかできない。


「一対一はしてないからわからないけど、一対二でなら勝てたよ」


 ヘルガはそう言いながらザイフリートに剣を突き付けた。


「私、アンタたちがあの子たちにしたこと、絶対に許さないから」

「ヒ、ヒイイイイイ!」


 ザイフリートは腰を抜かしてその場に崩れ落ちたが、ザイフリートを見下ろすヘルガの眼には炎がともっているようだった。

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