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50 神は左に悪魔は右に

 オレとヘルガ、プロジアにコリンナとマリーがザイフリートに乗り込むことになった。

 メイドのコリンナは置いていくつもりだったが、ついてくるときかないので同行を許した。

 さて……少し離れたところで商館の様子を探る。

 門前には護衛が二人。


 プロジアによるとザイフリートの商館の北側の一番奥の部屋が怪しいらしい。

 反抗的な奴隷が、そこに入って行くのを見たという。

 キットとトビーが大人しくしているとも思えない。

 まず初めにそこを目指すとしよう。


「リク様、作戦はあるのですか?」

「キットとトビーの部屋を目指す。邪魔する奴は倒す。

 以上だ」


 マリーの質問にオレはこれ以上ないという作戦を示す。


「ザイフリートとの全面対決をすることになるのですが……」


 マリーは、まだこの奪還作戦に乗り気ではないらしい。

 

「……結局、冒険者たちはついてこなかったのか」

「ザイフリートに反感を持つものは、商館の前に集合しろと掲示板に張り出してはおきました。

 私なりに、ギルドができることには全力を示したつもりです。

 きっとまだ、準備に時間がかかっているのでしょうね」


 乗り込むのに準備もないと思うのだが。

 

「リク、孤児院の子たちも助けていいんだよね」


 ヘルガは期待を込めた目をオレに向けていた。


「もちろんだ、オレはヨメの頼みなら何でも聞いてやる主義だからな」

「リク、ありがとね」


 ヘルガはオレにもたれかかってきた。


「私の頼みを聞いてくれたことはないのですが」


 マリーはまだまだブツブツ言っていた。


「よし、じゃあ役割分担だ」


 マリー以外が頷いた。


「オレとヘルガは、飛べるから2回から侵入。

 プロジアは正面から突入、なるべく時間を稼げ。

 マリーは、商館の出口で待機。逃げ道を封鎖してくれ。

 コリンナは……そうだな、オレと同行して子ども達を見つけたら、館からマリーのところまで連れていけ」

「「はい!」」


 みんな、いい返事だ。


「じゃあ、プロジア突入しろ。

 マリー、なるべく見つからない様に外にいてくれ」

「了解しました」


 プロジアが正面を目指している間、オレとヘルガは裏に回って北側へ移動する。

 プロジアが派手に暴れたところで、突入だ。

 

 プロジアは護衛に大きな声で話しかけた。


「おお、お前ら。

 元気してたか」

「プロジア、よく顔が出せたな。

 奴隷狩り失敗だなんて笑わせるぜ」


 長髪の男はプロジアをあざけるように笑い声をあげた。


「だれがやっても成功するだろ、あんなもん。

 へ、10何人連れてって負けるなんてなあ。

 敵は何人だったんだよ」


 短髪の小男はナイフをちらつかせながら、プロジアに近づいてきた。


「一人だよ」

「は? くくく、たしかお前が負けた相手は人間だったろ?

 ははは、飛んだお笑い草だ」


 小男は、プロジアの鼻先にナイフを突きつけた。


「プロジア、てめえ腑抜けたんだよ。

 ニンゲン一人に負けやがってよお……ククク、まあオレならそんなへまはしなかっただろうぜ」

「そう思うなら、仕掛けてきたらどうだ?

 てめえみたいな小物だったら素手で相手してやる」


 小男は、怒りに体を震わせていた。


「小物だと、てめえオレが一番嫌がることばをよくも言ってくれたな」

「さっさと来いよ、一人で立ち向かってきた男よりお前は強いんだろう?」

「後悔するなよ、プロジアあああ!」


 小男は、プロジアに飛びかかった。

 プロジアは微動だにせず小男が突き出してきた手を掴むと内側に折り畳み、小男の額にナイフを突き立てた。


「あ。あが?」

「お前、一人で立ち向かってきたリク様より強いんだろ?

 あの人は脳天に風穴開けられてもピンピンしていたぞ?」


 プロジア、それは言いすぎだぞ?

 さすがにオレもピンピンしてはなかった。

 すごい、痛かったけど気合を入れていただけだ。

 脳天に風穴開けられても、気合さえ入れてれば死なないからな。


「おい、何事だ!」


 扉を開けて男たちがぞろぞろと出てきた。


「頃合いか、良し。プロジアが注目を集めてくれた。

 忍び込むぞヘルガ」

「ねえ、プロジアは大丈夫なの?

 あの数……」


 魔族化し、オレを掴んで空を飛んでいるヘルガはプロジアを心配していた。

 コリンナはオレにしがみついているから魔族化したヘルガの翼の強さは大したものだと思う。


「キットとトビーがアレくらいの人数に突っ込んでいったんだ。

 師匠があいつらに負けるわけには行かないだろ」


 頼んだぞ、プロジア。


「よし、突入するぞ」


 オレは窓を蹴破って北側の部屋に侵入する。


「な、何者だ!」

「リク・ハヤマ」


 裸の獣人奴隷に鞭を振るっていた男にオレは名乗ると同時に右手からエネルギー覇を出す。


「「ウギャアアアア!」」


 男は、壁を突き破って下に落下していった。


「こ、これは……」


 オレたちが侵入した部屋には血の匂いがしていた。

裸のまま鎖につながれた獣人たちが、背中をこちらに向けてつるされていた。

 どの子にも背中に無数の鞭の後がついている。


「だ、だれ……何でもするから鞭をうたないでください……」


 一人だけ少年がオレたちに反応していたが、後の子どもたちは無反応だった。


「大丈夫、何も怖いことはありませんよ。

 リク様が助けてくれますからね」


 コリンナは怖がっている少年を後ろから抱きしめて声をかけていた。


「キットとトビーはここじゃなかったか」

「ねえ、シャル。

 ねえ、レイン。

 私だよ、ヘルガだよ。

 助けに……来たよ。

 遅くなってごめんね」


 ヘルガは、少女たちに話しかけていたが目に光を失った少女たちはヘルガに返事をすることはなかった。

 ヘルガの孤児院にいたという子たちだろう。

 ヘルガの声も今は届かないようだ。


「行くぞ、ヘルガ。

 コリンナ、頼む。

 この子たちの側に居てやってくれ。

 もう、この子たちは自分で逃げ出すことなんてできないだろう。

 商館を制圧した後、助けに来るから」


 コリンナは頷いていた。

 

 オレが歩き出すと、ヘルガは無言でついてきた。


「しらみつぶしに部屋を回るぞ」


 ヘルガは頷き、オレが入ろうとした隣の部屋に入った。


「おい、ヘルガ」


 オレの声を無視し、ヘルガは隣の部屋に入って行く。


「「ひああああああ!」」


 その部屋にはゴロツキ達が詰めていたらしく、オレが部屋に入った瞬間には手足の腱を斬られたゴロツキ達が5人地面に転がっていた。


 窓際には獣人の少年が裸で吊るされており、体には絵の具のようなもので模様が円が描かれ、円の中には数字が刻まれていた。

 少年の身体には無数の傷跡が残され、ヘルガは泣きながら少年に刺さった細く鋭利な鉄の棒を引き抜いていた。

 的あての的にさせられていたのだろう。


「ウアアアア!」


 少年は鉄を抜かれる痛みに耐えかね、気を失ったようだ。


「ごめんね、ごめんね……」


 ヘルガは引き抜いた鉄を右手に掴み、振り返るとゴロツキの身体目掛けて投げつけた。


「「ひぎゃあああああ!」」


 ゴロツキ達は痛みに耐えかねのたうちまわっていた。


「的あては、楽しかった?」

「やめてくれ、お願いだ……」


 ヘルガの足にすがろうとした男の手の動脈をヘルガが斬った。


「ひあ、ああああああ」

「あの子たちはやめてって言わなかったの?

 それなのにアンタたちは……」


 涙を流して剣を振り上げたヘルガの腕をオレがつかんだ。


「ヘルガ、やめておけ」

「リク、どうして?

 こいつらはあの子たちが泣いて頼んでもやめなかった

 どうして止めるの?」


 ヘルガは瞳から涙をあふれさせながら激高していた。


「ヘルガが辛そうだから。

 プロジアは楽しそうに戦っていたぞ。

 オレは額に穴が開いた小男が死のうがどうしようが別にどうでもいい。

 でもな、ヘルガ。

 お前が泣くのは嫌なんだよ。

 笑って剣を振るなら、オレは手を離す」

「そんなことできない……」


 ヘルガはその場に崩れ落ちた。

 ハンスだって殺すのをとめたお前がヒトを傷つけて平気なわけないんだ。


「へ、へへへ。

 アンタは話ができそうだな」


 先ほどヘルガに手を斬られていた男が、オレの足を掴んだ。


「そうだな、オレは優しいぞ。

 お前ら、隣の部屋に来い。

 オレが回復してやるから」

「リク、なんでこいつらにそこまでしてやるの?」

「いいから」


 オレはゴロツキ達をコリンナ達の部屋に連れて行った。


☆★


「「や、やめてえええええ!」」


 オレたちがいても反応しなかった獣人の子たちが一斉に悲鳴を上げ、体を震わせていた。

 お前らが、この子たちから光を失わせたのか。


 オレは鬼道でゴロツキ達のケガを癒した。

 ヘルガは流血させるために斬っていて骨までは傷つけていなかった。

 ヘルガは優しい子なんだ。

 きっと、生きていくために必要がなければ剣だって握っていなかったのだろう。


「へへへ、旦那。

 恩に着るぜ」


 ゴロツキ達は傷を癒し、屈伸運動をしていた。


「リク、どうしてこいつらから先に傷を癒したの?

 この子たちにも無数に傷があるのに……」

「ヘルガ、お前がしたかったことをオレがしてやる。

 この子たちに与えた苦しみをこいつらに与えてやる」


 そのためにはゴロツキ達を回復させる必要があった。


「へへ、アンタ話が分かるやつだな。

 オレたちはザイフリートに雇われていただけだ。

 アンタがザイフリートにケンカ売るってんなら、協力するぜ」


 男たちは体を癒されてご機嫌の様子だ。


「あいにく、すぐに裏切る奴なんていらないな」


 オレは両手を合わせ、鬼道に集中した。


「オレのエネルギーを人に与えると、レベルが低いせいかすぐに倒れてしまう。

 ただなあ、他の奴のエネルギーを動かすのに、オレのエネルギーはいらないんだよ」


 オレは左手を子どもたちに、右手をゴロツキ達に向けた。


「神の左手、悪魔の右手。

 癒しを左に、苦しみを右に。

 痛みと癒しの相転移、自分の与えた痛みで地獄に堕ちろおおおお!」


【痛いの、痛いの飛んでいけ!】


 オレの身体は光を発し、ゴロツキ達から体力を吸収、子どもたちに分け与えると同時に子どもたちが受けた痛みを全てゴロツキ達へ食らわせた。


「「あ、ああ! ぎゃああああああ!」」


 この子たちに味合わせた痛みがゴロツキ達を襲っていた。

 ゴロツキ達はのたうち回り、目を見開き、口から泡を吹き、血尿をもらしていた。


「「へルガ様!」」


 子どもたちの眼には光が戻っていて、子どもたちはヘルガを思い出したようだった。


「みんな、ごめんね。

 遅くなったね、ごめんね、ごめんね……」


 涙を流し続けるヘルガの周りに子どもたちは寄り添い、ゴロツキ達は全員気を失って白目を向いていた。


 ふう、疲れた。

 オレは壁に寄り掛かり、光を取り戻した子ども達を眺めていた。


「リク様、子どもってかわいいですね」


 コリンナは疲れ果てたオレに胸元からバナナを取り出し、オレの口に突っ込んでいた。

 

「もごもご」


 疲れた体に糖分が行き渡る。


「ふう、ありがとう。

 気が利くな」


 コリンナはぺこりとオレに礼をした。


「ありがと、お前の言う通り子どもってかわいいよな」


 コリンナは尻尾をふるふると震わせていた。


「あ、リク様。

 バナナのかすがついておりますよ」


 コリンナはそう言ってオレの唇をペロペロしてくるが、バナナにかすなんてないと思うんだけど。

 オレは近くにコリンナの手があったので、癒されるために肉球をプニプニしていた。


「もう、リク様ったら。

 子どもって可愛いなって思ったら、ヘルガ様の寝静まった後、私の部屋に来てくださいね。

 きっと可愛いんでしょうね。

 リク様との子ども……」


 コリンナの肉球を堪能していたら、ヘルガと目が合った。


「リク、モテるのは仕方ないから浮気しても怒らないけど、可愛がってあげるんだよ。

 コリンナはいい子なんだから、幸せにしてあげてね」


 ヘルガにコリンナを幸せにしろと言われてしまった。

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