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05 膝枕

 なんだかコンニャクがどうとか言い争うような声がしたけど。

 むにゃむにゃ。夢の中の話かな。

 うーん、気持ちよく寝ていたな。


 ガタンゴトン、と揺れている。

 馬車かな。


 それにしても柔らかな枕だな。

 ……最高だな!


 オレは枕をなでまわした。

 滑々していて弾力があって……いい素材を使っているのだろう。

 ツヤの良い生地を使っており……ってこの生地枕にしては高級過ぎだぞ。


 この枕の弾力の秘密は何だ!

 フハハハハ。

 オレが確かめてやる!


 オレは体を起こしツヤのある高級生地をガバっとめくる。


「キャッ……」


 何だか枕がしゃべっていた様な気がするが、枕はしゃべらないな。

 気のせいに決まっている。


 生地をめくると肌色。

 何だこの肌色のものは?


 触ってみるとピトっと吸い付くようでほのかに温かく、なんだか見覚えがあるなあ。

 オレは触るのが結構好きだった記憶があるけど。

 肌触りが気持ちよいのでなでなでしているとゆっくりと記憶が……


「……ぁ……」


 枕から鼻にかかった甘ったるい声がする、わけないか。

 枕だし。

 あ、思い出した。

 この肌色が何なのか。


「って、太ももじゃないか!」

「……膝枕ですから」


 太ももにかぶせられたツヤのある枕の高級生地がしゃべった。

 高級生地をたどっていくと。

 頬が真っ赤になった女性がいた。


「枕の生地かと思ったらなんだ、美女か」

「いえ、あの」

「美少女か」

「……どっちかと言ったら美女のほうが嬉しいですけど」


 金髪を腰まで伸ばした少女。

 大きな青い瞳がオレをじっと見つめている。

 というか、見下ろしている。

 なんだか恥ずかしいのか髪をくるくるいじっている。


「そうか、オレは膝枕されていたのか。」

「はい」


 オレはまだ寝ぼけているし、まだ眠い。


「もう少し膝枕してもらってもいいか?」


 ダメなら起きるかというくらいの気持ちで聞いてみると、


「……どうぞ」


 顔を真っ赤にして許可が出た。


「じゃあ、遠慮なく」


 美女(美少女の)膝枕って最高だな。


 とりあえず、お言葉に甘えるとして情報を整理しよう。

 

 頭が起き抜けのせいか回らない。

 えっと、ゴブリンに襲われているところを助けたんだったな。

 この少女はミア。ミア・グラフという名前だった。

  

「ミア膝枕ありがとう」


 オレは膝枕されながら伝えた。ミアの顔がオレの上にある。

 うーん、顔が近いなあ。

 吐息がかかるくらいの位置。


 ゴブリンと戦っているとき、ミアには抱きかかえられながら治癒魔法をかけてもらった。

 そのときの安心感を思い出してオレは膝枕されるがままにしていた。


「いえ、当然です」

「当然ってこともないと思うけどな。

 ゴブリン倒したら膝枕してくれるなら、また助けてあげてもいいぞ」


 オレは少しからかうつもりで冗談を言った。


「はい。いくらでも膝枕します。

 でも、ゴブリンから助けてくれなくても、毎日ちゃんと帰って来てくれたら、膝枕してあげますよ」

「どこに帰るんだ?」

「もちろん、家ですよ」


 ミアは当然といった顔。


「そりゃあ、帰るんだから家か」

「はい。私たちの……家です」


 少女は顔を真っ赤にして、オレの顔に手で触れた。


「リク様……」


 ミアが吐息混じりにオレの名を呼ぶ。

 ちょっと、膝枕で顔に手を触れるのは恋人みたいだろ。

 いつの間にそんな深い仲になったんだ?

 まあ、嫌な気はしないけどさ。


 瞳をうるませたミアの顔が近づいて来て……

 何だ? オレの顔に何かついてるか? 


 と、思っていたら――頬にキスをされた。

 ぷるん、とした唇の感触がほっぺに残った。


「へ?」


 思わず声が出てがばっと飛び起きた。


「は?」


 男の声がした。


「い、いたのね。トーマス」


 ミアが自分がしていたことに恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしていた。


「そうか、二人きりじゃないのか」


 飛び起きるとオレ達の反対側に騎士が座っていた。

 あんぐりと口を開けている。


「ええ。ビックリですよ。特にミア様。

 馬車に二人しかいない空気を出して……二人きりみたいにイチャイチャしだすんですから」


 騎士がミアに文句を言った。


「膝枕していただけでしょ」

「膝枕はまだしも、人前でほっぺにキスしますかね。」

「誰も見てないんだからいいでしょ」

「その誰の中に私は入ってないんですか、そうですか」


 ミアの隣にいた騎士。

 ミアからしたら父親くらいの年か。


「お前も無事だったんだな」

「おかげさまで。リク様があの大群を一人で片付けてくれましたから」


 騎士が頭を下げた。


「いや、感謝するのはオレの方だ。

 ミアのお陰で命を拾われたからな」

「そうですねえ。

 リク様生きているのが不思議な状態になってましたからねえ」


 腕が取れかけ、腹と手に剣が刺さっていた。

 どういうわけか知らないが、するすると剣が抜け体が回復していた。

 ミアが回復魔法を多重掛けしてくれていたからかな。


「いえ。私に瀕死のリク様をすぐに全回復させるような力はありません。

 あれは……神様がくれた奇跡なのです!」


 両手を組んで祈るように上方を見つめているミアの目はキラキラと輝いていた。


「死ぬような大怪我まで負って――それでも私に下がっていろと言ったリク様に、私は感動したのです! 

 そして、神様もリク様の願いを聞き届けてくれたのです。

 リク様の【治れよ!】に反応したのです」


 確かにオレは【治れよ!】と叫んだ。

 その結果、治ってしまった。

 ゴブリンも【死ね!】と言ったら死んだ。

 

 なんだかそういう感じの魔法みたいなのが使えるの?

 オレ武闘家だったのに?


 オレが自らの能力について考えていると、ミアがすぐ隣に座ってきた。

 ミアからはとてもいい匂いがした。


「一つの傷も負わない勇者様より、リク様のほうが何倍も素敵でしたよ」


 ミアは話をしている間、オレをずっと見つめていた。




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