47 犯罪者リク・ハヤマ
スライムでヌルヌルになったリンをお風呂場へ連れて行く。
「リク様一緒に入ります?」
廊下を歩きながらリンは上目づかいにオレに聞いて来ていたが……
「おお、そうだな。
一緒に入るか」
「ダメだよ、リク。
リクは私とも一緒に入ってないのに」
ヘルガがリンを抱きしめながらそう言った。
そうだな、ヘルガと一緒にお風呂に入るのは『婚約破棄してないから』とヘルガに断られていた。
「リンちゃん、私と入ろうね」
「は、はい!
私が洗います」
リンは奴隷として身の回りのことをさせられてきたのだろうから、自然とそういう言葉が出る。
悲しそうな瞳をしていたヘルガと目が合って、どちらからともなく頷いた。
この子は、リンは、オレたちが幸せにしよう。
ザイフリートにさらわれた子たちもきっと助ける。
「ふふ、洗いっこしようか」
「え、は、はい!」
リンは嬉しそうにヘルガにお風呂に連れられて行った。
さて、脱衣場の前にじっとしているのもおかしいからオレは広間に戻っていようか。
廊下を歩いていると、話し声がする。
町長と来客だろうか。
広間に出ると、町長が玄関で訪れた町人風の男と話をしていた。
きらびやかな装飾はしていないが、刺繍や差し色など気を使ってあって上等な品だ。
おそらく、有力な商人だろう。
皮鎧に身を包んだ護衛も二人連れていた。
金銀などの装飾を貴族以外がするのは褒められた行為ではないからそれ以外許された部分で見栄を張るのだ。
金銀宝石を使ったアクセサリーやティアラ、装飾剣などを貴族以外が身に着けると罰せられるから。
ただ、シルクを使うのも認められているし、刺繍に金色や銀色を使うのも黙認されている。
オレが勇者パーティーに所属していた50年前から、斜陽貴族より豪商の方が金を持っていた。
ヘルガとベケットの街を見て回った時、この町の賑わいは相当なものだったから、豪商の財力は爵位を持つ貴族に迫っているだろう。
さすがに、侯爵ともなると桁違いだろうけど。
町長相手に揉み手をしながらいやらしい笑みをしている男は、一応貴族の町長に礼を尽くしている。
「だから、行ってるだろう、リク・ハヤマは今ここにいない」
「いるぞ、何か用か?
お届け物か?」
商人がオレに何か用だろうか。
ミアかヘルガがオレのために何か注文してくれたのかな。
「はあ、お届け物なら私が受け取っておきますって……勘が悪いですねえ、リク様」
町長がしまったという顔をしながら、ため息をついた。
なんだか、馬鹿にされてるな。
むかつく。
ブチィツ。
「あいた!」
オレに文句を言うとはげるぞ。
オレは瞬間移動して町長からむしり取った後ろ毛をごみ箱に捨てた。
「ああ、あなたがリク・ハヤマさまでしたか」
一礼した後、揉み手をしながらにやにやと笑い、書状を見せつけてきた。
「私、ザイフリート商会でこういった小間使いをしております」
「だれが小間使いだ。
ザイフリートでは息子のことを小間使いとでも呼んでるのか」
町長が吐き捨てるようにつぶやく。
ザイフリートの使いだったのか。
ああ、町長のタメ息の理由が分かった。
オレ顔を出さない方が良かったらしいな。
「私はアルベルト・シュミット。
ケチな小さい商会の代表の愚息でございます。
まあ、私の身の上など興味はございませんでしょうが……」
あくまで揉み手を続けるアルベルト、ただ瞳は勝ち誇ったような光を灯していた。
「あなたに逮捕状が出ています。
奴隷略取、傷害、凶器準備集合罪」
ザイフリートはミアの親であるグラフ侯爵家から許可状をもらっているれっきとした商会だ。
そして、獣人奴隷を扱うのは法律で認められていて、キットとトビーとともにゴロツキを倒し、リンをザイフリートから奪ったオレは――立派な犯罪者だということになる。
「そして婦女暴行……」
「は?」
オレはびっくりして間抜けな声を出した。
「リク様、アンタ魔族の血が騒いで……」
町長はオレを睨みつけた。
「オレは魔族じゃねええ!」
その目はやめろ、その目は。
「クフフフフ、それはこの証拠を聞いてから言っていただきましょうか」
皮鎧の護衛が布を開くと、青水晶が現れた。
「この水晶にはね、魔法陣が刻まれていて集音・畜音することができるんですよ」
護衛に水晶を持たせたまま、アルベルトが水晶に開いた手を乗せ、何やら呪文をつぶやいた。
【おしゃべり妖精】
青水晶が光を発したと思うと、話し声が聞こえてきた。
『じゃあ、リン服を脱いでベッドに腰かけてくれ』
ん? 誰だ、男の声か?
『……あ……』
どこかで聞いたことあるな。少女の声だ。
録音も途切れ途切れ、魔法も万能ではないのか?
『行くぞ』
オレの声だな。
『ふみぃ! ひにゃぅ……んんん! 声が、でちゃいます……』
少女の何かに耐えているような、鼻にかかった甘ったるい声がしている。
少女の声と混じってにちゃにちゃぴちゃぴちゃという音と、体を震わせるような音がしてくる。
それにしても少女の声はどっかで聞いたような声だなあ。
んー、知力が低いから思い出せないな。
最近、聞いたような気がするけど。
「クフフフフ、ザイフリートの奴隷の服には伝達魔法をかけていましてねえ。
もし、奴隷がいなくなったとしても、服の周りの音を伝えてくれるから回収に向かえるんですよ。
世の中にはリク様のように奴隷を盗んでいく輩がいますからねえ」
アルベルトは口を押えてクククと笑っていた。
「では、この声はあの奴隷少女か、たしかリンとか言った……
先ほどの男の声は間違いなくリク様だ。
見損ないましたよ、リク様!
女ったらしの乱暴者のバカだとは思っていましたが、まさかあんな小さな子まで無理やり毒牙にかけるなんて!」
え? この声そうか、リンか。
何かに耐えているような声だと思っていたが、痛みに耐えているリンの声か。
掴みかかってきた町長にオレは掴み返した。
「いや、無理やり毒牙になんてかけてないって!
あと町長、ドサクサに紛れて死ぬほど悪口いいやがったな!」
もめている間にスピーカーは一番大きな声を出した。
『ふみゃああああああああ!』
スピーカー越しでも周りを揺るがすような声。
ああ、リン。
良く痛みに耐えて頑張ったな。
オレの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「アンタ、何感動した風な顔で泣いてんだあああ!
あんな小さな子に無理やりしておいてえええ!」
町長がオレの首を絞めた。
「だから、無理やりなんてしてないってば!」
オレは町長に無罪を主張し、首を絞める町長の手を押さえ続けた。
スピーカーはマイペースに録音した声を読み上げ続けていた。
『リン、よく頑張ったな』
『リク様……気持ちよかったです。
天国が見えました』
青水晶の光が消えた。
録音は終わりらしい。
「無理やりじゃなかったみたいですが……無理やりじゃなかったらあんな小さな少女に何やってもいいと思ってるんですか、アンタはああああ!」
町長の攻撃は終わらない。




