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45 奴隷少女に幸せを 

「「リク様!」」


 キットとトビーを先頭に孤児院にいたリン、イルマ、アンナが町長の屋敷の庭へ入ってきた。

 地面に横たわっていたヘルガは慌ててオレを押しのけみんなに背を向けた。


「おお、みんなどうした?」

「リク様、大丈夫です?」


 ウサギ族の少女リンが心配そうにオレに駆け寄ってきたので、ふわりと抱きかかえてあげ肩に乗せてあげた。


「フハハハハハ!

 元気だぞ。心配してくれてありがとうな」

「良かったです!」


 リンは急いできたのか肩までの黒い髪が飛び跳ねていた。

オレを心配して走ってきたリンのことを思うと、笑顔になり黒髪を撫でてあげた。


「リク様!」


 リンは躊躇していたが、オレのほっぺにキスをした。


「ははは、大丈夫だから心配するな」

「リク様、どこで拾ってきたんです?

 その奴隷……」


 町長はまた厄介ごとを持ち込んできたのかとため息をついていた。


「ザイフリート商会からだよ。

リク達がザイフリートのゴロツキを倒して契約書を破り捨ててた」


 髪と洋服が乱れていたヘルガは庭のベンチに腰掛け、アンナに身なりを整えられながら、町長に話してくれた。


「え、ウソですよね。

 リク様、ウソって言ってくださいよお!

 グラフ侯爵家が懇意にしている商会ですよ!」


 町長は錯乱して、オレに掴みかかった。


「本当だ、ザイフリートは奴隷の扱いがひどすぎる」


 町長は掴みかかった手を離し、がっくりと肩を落とした。


「あああ、アンタはどれだけ敵をつくれば気が済むんですか……ただでさえ、ヴァイスブルグ侯爵家のハンス様にケンカを売ったようなものなのに……

 グラフ侯爵様になんとお詫びをすればいいか……」


 町長はウロウロと歩き回っている。


「あ、そうだ。

 早くリンの隷属紋を解いてあげないとな。契約書はないから隷属紋を発動させられはしないと思うけど」

「リク様、今からでもその奴隷ザイフリートに返すわけには行きませんか?」


 リンは怯えたような目をして、オレの肩から降りた。


「私がいると、リク様は迷惑です?

 それなら、私帰ります……リク様に迷惑かけたくないです」


 リンはぽたぽたと涙を流した。


「そんなことないよ。

 もう、お前はオレのモノだって言っただろ?

 大切なヨメなんだから……」

「リク様!」


 リンはオレの胸に飛び込んできた。

 オレはもう一度リンの黒髪を撫でてやった。

 まったく、こんな幼い子に鞭をあてるなんてけしからんな。

「リク様、アンタまさか今ヨメって言いました?

 今何でもない風に頭を撫でてましたけど……」

「リクがね、またすぐ女の子の頭を撫でちゃったんだよ」


 ヘルガは嬉しそうに笑っていた。


「はあ、アンタって人は……。

 もうこれ以上リク様のめちゃくちゃには付き合えません。

 出てってくださいって……言えればいいんですけどね……」


 町長は諦めたように空を仰いだ。


「うん。

 きっと私も町長もヴァイスブルグからはリクの仲間って思われてるよ。

 ザイフリートだって、リクが町長の屋敷を出入りしていたのは知ってるだろうし、私もリクと手をつないで歩いてたのが知れ渡っているだろうから。

 みんなで頑張るしかないね」


 ヘルガはすでに覚悟を決めているようだ。


「じゃあ、とりあえず会議をするか」

「屋敷は騎士たちに荒らされていますから、使用人に片づけさせようと思ってはいますが……」


 町長も気持ちを切り替えようとしてる。

 タメ息ばかりついているが。


「ギルドで会議にする?」


 ヘルガのOKがあれば、冒険者ギルドは使えるからな。


「そうだな、マリーとプロジア、コリンナも呼んでおいてくれ」

「わかりました。使いのモノを送って連絡しておきます」

「リンの解呪が終わって、そうだな。

2時間後に集まるとしようか」


 オレたちはリンを連れて庭を後にした。


 ☆★


 リンを連れてオレの部屋へ。

 なぜかヘルガもついてきた。

 動きづらいドレスからすでに戦闘用の赤装束に着替えていた。

 早く服屋で仕立てた服を着たヘルガを見てみたいところだけど。

 とりあえず、ベッドに腰かけた。


「孤児院の子たちね、獣人の子がいたんだけど、ちょっと目を離した隙にザイフリートにさらわれちゃったの。

 だから、あの子たちを見つけたら助けて解呪してあげたいから。

 獣人の子たちがさらわれても、ギルドはザイフリート相手に何もできなかったから」


 ヘルガは隷属紋に興味を示しているようだ。


「ヘルガ様、ありがとうです」


 リンはヘルガに駆け寄った。

 ヘルガはその勢いのまま、ベッドに倒れ込むとリンに抱きつきモフモフしているようだ。


「フフ、リンちゃん可愛いね。

 耳がモフモフする」

「ふ、ふみゃあ……ヘルガ様、みんなのためにありがとうです」

「ううん、あの子たちに会いたいだけ」


 ヘルガもザイフリートにははらわたが煮えくり返っているに違いない。

 ギルドマスターが表立って事を構えるわけにはいかないから今まで泣く泣く見逃してきたんだろうけど……


「じゃあ、たっぷりドクヌキスライムを用意してもらわないとな。

 じゃあ、準備するぞ。

 ウルスラ・レレム、解呪のグッズをたっぷり出してくれよ!」


 オレはいつものようにレレムを呼んだ。

 オレの胸元の魔石が光を発し、とんがり帽子を被った黒髪の魔女が姿を現す。

 ウルスラ・レレム。

 稀代の魔力を持ったオールドタイプウィッチ。

 今はとても小さいけどね。


 ふと、周りを見渡すとヘルガとリンは固まってしまっている。

 レレムが登場する瞬間、時間停止魔法を使っているのだろう。


「リク、ドクヌキスライムだよね。

 きっとリクが必要になると思ってたくさんストックしておいたわ」


 亜空間から、どさっとドクヌキスライムが可愛いバッグに詰め込まれて落ちてきた。


「ふう、バッグ手作りなのよ。

 可愛いでしょ」


 レレムは手作りのバッグや刺繍が大好きでオレにいつもいろいろなものをくれる。


「あれ? 今日は私が作った服を来てないのね。

 気に入らなかった?」


 しょんぼりしているレレム。

 実際、体にもフィットしていていい服なんだけどな。


「いや、街中だと目立つからなあ。

 また、街から出るときはあの服を着るよ」

「うん、ありがと」


 レレムは嬉しくって飛び回っている。

 飛び回るレレムの魔力の軌跡は蝶の鱗粉のように空中に残った。


「ねえリク。

 その子、私とサイズが同じくらいよね」

「リンか?」

「奴隷だったのかな。ちょっとみすぼらしいから、この服あげるわ」


 空中から黒のワンピースが落ちてきた。


「やっぱり黒なのか」

「しょうがないでしょ、魔術師は黒を着るの。

 魔力が高まるんだから」

「いや、助かる。

 きっと喜ぶよ」


 オレはレレムに礼をした。


「誰かが喜ぶプレゼントをあげるのが、楽しく生きるコツなのよ。

 その子は私のこと見えないだろうけど、幸せを祈ってるわ」

「ああ」

「いつか、私も幸せにしてね。

 リク……私、ずっとずっと待ってるから」


 レレムは消えて行った。

 いつも元気なレレムであるが、今日は少し寂しそうだったな。


「え? こんな量いつの間に運んできたの?」


 ヘルガは驚いていた。

 リンはバッグに興味津々だ。


「バッグ可愛いですね、薔薇の刺繍がしてあります」

「バッグの隣にさ、黒い服があるだろ」

「あります」

「それ、広げて見て」


 リンは黒い服を広げた。可愛らしい薔薇の刺繍。


「へー、刺繍いっぱいだね。

 これ、手がかかってるねえ。

 どうしたの?」


 魔女からもらったって言っても信じないだろうな。


「それ、リンが着てくれよ。

 友達のものだったんだけど、もういなくなっちゃったからさ」


 ウソは言っていない。

 レレムの本体はこの世界のどこかに封印されている。

 だから、その服を着ることはできないんだ。


「……嬉しい! 大切にしますね」

「これから隷属紋を解呪した後、風呂にでも入ってさっぱりしてから着るといいよ」

「わかりました。楽しみです!」


 リンは体に当てて嬉しそうにしていた。


「友達、か。

 大切な人だったんだね」


 ヘルガはオレの顔を覗き込んでいた。


「……私はいなくならないよ。

 リク、ずっと一緒にいるから寂しい顔しないで」


 自覚はないけど、少し寂しくなってしまっていたのかもしれないな。

 ずっと戦ってきたオレの仲間はいなくなってしまったんだから。

 ヘルガは、オレの表情の小さな変化にも気づいてくれるんだな。


 服に夢中になっているリンの目を盗んで、ヘルガはそっとオレにキスをした。

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