40 お前はオレがもらったんだ
さて、悪党どもをそろそろぶち飛ばすか。
それにしても、トビーとキットは威勢よく名乗っていたな。
オレも大人になったってことなのか、悪い奴を見つけても大事になるのを避けようとしていた。
ありがとうな、キット、トビー。
お前らに教えてもらったよ。
自分の名を背負って行動する。
それが、「リク・ハヤマ傭兵団」のポリシーだ。
肝に銘じておこう。
オレが行動したことでどんな結果になったとしても、それはオレが背負うんだ。
「何だ、てめえ。
リク・ハヤマ傭兵団だと。
そんな傭兵団知らねえ、木っ端傭兵団がザイフリートに楯突くっていうのか!」
ひげの男がわめいていた。
「ふん、うちは人数は少ないけどかっこいい奴らがそろっている。
そうだな、トビー」
オレの言葉に力強く頷くトビー。
キットも、うつぶせに倒れながら拳をつきあげた。
「リク様、もうボクは奴隷狩りなんてしたくない。
鞭で打たれたウサギ族の子を見て、ボクがした奴隷狩りがどんなことか分かったんだ」
「トビー」
トビーの目は決意を固めているようだった。
「何言ってんだ、獲物が落ちてたら狩るのが狩人ってもんだ。
甘えたこといってんじゃねえ。
獣人奴隷の商いが一番儲かるんだよ」
ひげの男はニタアと笑う。
「……一応聞く。
奴隷扱いをやめるつもりはあるか」
「は、こんなオイシイ商売はねえ。
やめるわけが……」
【エネルギー覇】
オレの右手から金色のエネルギーが飛び出し、男たちを吹っ飛ばした。
「「ウギャアアアアアア」」
荒くれ男たちはひげの男を残し、みな地面に倒れている。
「て、てめえ! 何してるのかわかってるのか」
「ザイフリート商会が雇ったゴロツキをリク・ハヤマ傭兵団がボコボコにしてるんだと思っているが……何か オレの認識が間違っているか?」
「ち、ちくしょう!」
ひげの男は、その場から逃げ出そうとしていた。
「トビー、思いっきり行け」
「任せて! これ高いんだからね!」
スリングから勢いよく飛び出していった黒色の玉がひげの男の胴体に命中すると、パアァンと凄い音がした。
ギャアアアアア。
男は爆発の衝撃で叫んだ。
おお、火薬の玉か。トビーめ、奮発しやがって。
「ち、ちくしょう」
バターン、とひげの男は倒れた。
パチパチパチパチ
ん? 何だ?
街の人たちが拍手をしてくれていた。
ハハ、ザイフリートめ。実は街の人たちに嫌われていたと見える。
さて、と。
ひげの男の焼けた服をまさぐる。
「リク様、男もいけるんですか?」
トビーがオレに聞いてきた。
「アホか。
探し物だよ」
オレは男の服のポケットや持ち物をまさぐった。
悪党ほど周りを信頼しないから、大事なものは自分で持っているはず……
「あったぞ!」
半分ほど焦げた上等な紙を見つけた。押印もしっかりされているようだ。
「トビー、これを読め」
「あ、うん。
ボク字は読めるんだよ」
オレはひげの男が持っていた紙をトビーに渡した。
「名前の欄は無事のようだ、なんて書いてある?」
「えっとね、リンって書いてある」
オレは少女に近づく。
「名前はなんて言うか確認させてもらっていいかな」
少女はコクリと頷いた。
「……リンって言います」
「そうか、これがお前の奴隷契約書だ」
「え?」
リンは事態が飲み込めていないらしい。
「この男は嫌な奴だから、オレが君をもらうことにした。
契約書もオレがもらったからね」
「で、でも……」
リンは背中を気にしているようだ。
「大丈夫、背中に彫られた隷属紋ならオレが解いてあげるから」
「……だ、大丈夫ですか? ザイフリートはとっても大きな商会です」
リンはまだ怯えているようだ。
「大丈夫だよ、リク様は強いんだよ。
ボクも助けられたんだ」
トビーはリンに笑いかけた。
オレは優しい声でリンに話しかける。
「ついておいで」
「え……」
少女はまだ戸惑っているようだ。
「来なさい。
リン、お前はオレがもらったんだ」
オレはリンの頭を撫でた。
「ああ! リク、何してるの!」
遠くで様子を見ていたヘルガが叫んだ。
少女は顔を真っ赤にしていた。
「私をもらってくれるって言うのは……本気ですか?」
「もちろん、ひげの男から自由にした。本気だよ」
「あー、リク。
手が早いんだから」
ヘルガは頭を抱えているが、手が早いって何のことだ?
「リク様って言うんですね、私でいいならお願いします!」
顔や耳を真っ赤にしたリンはオレに抱き着いて離れない。
「リク様、だーいすき」
オレにくっついたリンは耳や尻尾をふるふると震わせていた。
……あ!
忘れてた。
そういえば、頭をなでるのは求婚だったな。
仕方ない、オレはレベルが低くて知能が低いから物覚えが悪いんだ。
ミアの時に何も考えず頭を撫でてしまって結婚することになったんだった。
仕方ない、頭を撫でてしまった事実は消えない。
こうなったらこの少女、リンもオレが幸せにするしかないな。
「とりあえず、隷属紋を解こうか」
「じゃあ、リク。
隷属紋を解くなら、ここからならギルドや家より今から行くところのほうが近いから早く行こうよ」
ヘルガがオレの手を引いた。
「お、そうか。
風呂もあるか? 隷属紋を解くとヌルヌルするからな。
よーく洗ってあげないと」
「うん、お風呂ちゃんとあるよ」
ヘルガは頷いた。
「よし、じゃあ行くぞ」
「リク様、待ってよ。僕も行きたい」
「デートなんだけどな。ヘルガ、トビーも連れて行っていいか」
ヘルガは手をパチンと叩いた。
「あ、いいと思う。あの子たちも喜ぶよ」
「あの子たちって?」
「ふふ、歩きながら説明するよ」
オレはトビーに手招きをする。
「よし、じゃあトビー行くぞ」
「やったあ!」
オレたちはヘルガを先頭に大通りを進んだ。
後ろからうめくような声がした。
「……リク様、オレも連れてって……」
あ、キットを忘れていた。
待ってろ。今回復させてやるからな。
キットに近づき、オレはキットの体に手を当て、【鬼道】を発動させた。
【オレのエネルギーをキットに与えろ】
見る見るうちにキットは元気になった。
「え? 力が溢れてくる! なにこれ?」
キットは驚いていた。
「フハハハハ、これが鬼道だ」
すべてのモノには「鬼」というエネルギーが流れている。
オレはそれを自由自在に操れる【鬼道】という技術を習得しているのだ。
あれ、急に目が回ってオレはぶっ倒れた。
「「リク様!」」
みんなが駆け寄ってきた。
「キット、お前ちなみにレベルいくつだ?」
「えっとね、30になったよ」
以外に強いじゃないか。
オレはレベル1だ。キットにエネルギーを渡しすぎて死にそうになっているのだろう。
「あらら、目が回る。死んじゃうかも」
オレは意識が飛びそうになっているのを感じていた。
「本当にリクって強いのか弱いのか、わからないよね」
ヘルガが優しくオレを抱きかかえた。
「リクにはさんざんやられたからね、お返しだよ。
世界2位のキスをしてあげるね」
オレを強く抱きしめるとヘルガはオレの唇に唇をあわせた。
ちゅぱ……ちゅぱ……
いや、ちょっと待て……なにこれ凄い!
赤い瞳になったヘルガの唇からドクンドクンとエネルギーが流れ来るのを感じる。
興奮すると魔族化してサキュバスになってしまうヘルガは唇からエネルギーを奪うことが出来る。
それを応用して唇からエネルギーをオレに与えてくれているようだ。
オレが見せたことのある技術をヘルガは吸収しているようだ。
さすが、オレの弟子だな。
ヘルガのエネルギーを唇からしこたま注がれ、オレの体はすこぶる元気になった。
「ありがとう、ヘルガ」
バサア、興奮して魔族化してしまったヘルガの体から黒翼が生える。
「「ええ?」」
リンたちは驚いていた。
ま、まずい!
ここは大通りだぞ!
ヘルガが魔族になるって言うのがばれてしまう。
通りを歩く人たちが黒翼の生えたヘルガを指さしていた。
【ヘルガの翼と瞳を元に戻し、魔族化を解け!】
オレの鬼道で瞬時に翼はしまわれ、赤い瞳は元に戻った。
通りを歩く人に向かって適当なことを言ってごまかしておこう。
「フハハハハ、さすが世界2位のキスだな。
まるでサキュバスのようだったぞ、幻覚すら見えてしまった」
「私はリクの奥様だからね」
胸をはるヘルガ。
オレの説明に通りを歩く人々は納得したようで、ヘルガに興味を失って歩き始めた。
まったくヘルガめ、街の人たちに魔族化がばれる危ないところだったんだぞ。
「奥様は、あんなキスをするんですね……私もいつかできるようになりますからね!」
リンは張り切っていた。
いや、リンにはまだ早いと思うが……