32 ヴァルキュリア・カラーズ
目の前には容姿端麗なカラフルな装備に包まれた美女たち。
ひいふうみい……良かった。指が足りるから数えられるぞ。
マリーを入れて9人だ。
「決闘って1対1じゃないのか?」
マリーは悔しそうな目でオレを睨んだ。
「ホントウは私ひとりであなたを倒したいのです。
ですが……ヘルガ様に認められたあなたを、私一人で相手できるわけありません。
ヘルガ様には残りのヴァルキュリア9名でかかっても敵わないくらいなのですから」
マリーの瞳は輝いており、ヘルガに心酔している様子がありありと見て取れる。オレはそんなマリーを見て笑ってしまった。
「マリー、ありがとな。
ヘルガと仲良くしてくれて」
「……あなたに言われなくてもそうするつもりですよ」
「じゃあ、そろそろ始めるか」
オレは、重心を低くし拳を握りしめた。
「それでは、手短に自己紹介しましょう。
自分が殺される相手のことくらい知りたいでしょうから」
マリーはギラギラとした目をオレにぶつける。
「整列!」
ヴァルキュリアは、整然と列を整えた。
「点呼!」
美女たちは右から順に敬礼しながら、自分の色を叫んだ。
「緑、黄、桃、紫、銀、金、黒、白」
「そして私が、序列2位、青のマリー・シュナイダー。
ちなみに赤はもちろん、ヘルガ様です。
フフフ、リク・ハヤマあなたの命、頂戴しますわ」
ヴァルキュリア・カラーズみなジャンプして着地し、思い思いのポーズをとって叫んだ。
「「盗賊や、魔族に魔獣を許さない。
神に代わって、一族郎党打ち首獄門!
我々が、女性冒険者チーム『ヴァルキュリア・カラーズ』!」」
ビシィッと決めポーズをとってわざわざ神聖魔法でフラッシュをたいてやがる。野次馬は大喜び。コイツら冒険者に人気あるみたいだな。
「まあ、いいけど……敵へのお仕置きが重くないか?
今時、犯罪者を一族郎党打ち首獄門って……一族に及ばないよう法律が変わっただろ?」
盗賊しただけで、家族のみんな孫まで城門に斬られた首をさらされる「獄門」なんてひどすぎる。
オレが50年前にせめて一族へ罪が及ぶのはやめさせたのに……
「ああ、リクの乱のことね。
50年前の一大『改悪』。歴史を知るものはみな言ってるわ。
リクの乱は、失敗だったって」
リクの乱……
マリーは、オレの顔色が悪いのを見て笑った。
「ふふ、あなたの同じ名前の裏切り者の夢想家が一時、一族郎党打ち首獄門をやめさせたそうね。
軽犯罪なら許しを与えて、その結果、世の中は犯罪であふれたそうよ」
「ウソだ! きっかけさえあれば立ち直るやつだっているんだ」
オレは、正しいことをしたんだ……どうしようもない悪人はいるけど、ほとんどが食うに事欠いて盗賊やってたんだ。
仕事さえ、金さえあれば立ち直るやつだって……
「さ、そろそろ始めるわよ。
顔色が悪いみたいだけど……はじめさせてくれるかしら」
「マリーさん、オレも戦わせてもらうぜ」
プロジアがオレの横に立つ。
肩を落としたオレの側にいようとしてくれているようだ。
「リク様、元気出してください。
リク様のしたことは間違ってないですよ。
オレが、人間は立ち直れるんだって、アンタの下で証明し続けますから」
プロジアは頬の傷を触りながら、笑いかけてくれた。
ううう……オレはちょっとうるうるしてしまった。
「一度汚した手が、キレイになることなどないわ」
ヴァルキュリア・カラーズ、白が近寄ってきて、オレの後ろにいたプロジアを指さした。
白いフードをかぶっており、顔はわかりづらいが赤髪のショートカットで線の細い体系をしている。
はて、どこかで見たぞ。
「戦場で親を亡くしたキットとトビーの親代わりとなったあなたを私は尊敬していた。
私は孤児院育ちだから……」
「お前……」
プロジアは、白と知り合いのようだ。
「それなのに、獣人奴隷を狩りにいくなんて……」
「金がなかったんだ……」
「言ってくれれば、私が貸してあげたのに……」
「え?」
プロジアが驚いている。
白は袖で涙を拭うと、フードをとった。
なんだ、さっきオレがつるし上げた小生意気な受付嬢フリーダ・ベッカーか。
「勝手に憧れた私が悪いのよ。
あなたなんて大っ嫌い!」
フリーダは髪を乱暴に引っ張ると、ウイッグを床に投げ捨てた。
短髪のウイッグを取ると、白くて長い髪と、同じく白くてぴょーんと長い耳が現れた。
「フリーダはウサ耳獣人だったのか」
プロジアは唖然としている。
「フフ、低俗な魔族のご友人はやはり低俗ですね。
プロジア・レーマン、あなたもリク・ハヤマの隣に立つなら死んでいただきます」
ヴァルキュリア・カラーズは武器を取り出し、構えた。
「よし、元気になった。
プロジア、いけるか? 呆然としているが……」
オレがプロジアに声をかけると、プロジアは両手で頬を殴って気合を入れていた。
「行けます!」
「フフ、頼もしいな」
オレとは拳を作り、プロジアは槍を構えた。
「プロジア、何人ならいける?」
「2人でしょうか。オレより格上はマリーだけですが、一度にこの数相手ですからね」
「じゃあ、命令だ。
2人倒して、1人には一発殴られて来い。
オレがついフリーダをつるし上げてしまったが、話聞く限りお前も悪いぞ」
「わかりました」
さて……
「行くぞ、リク・ハヤマ」
「来い、マリー・シュナイダー」
【死 合 開 始】
オレとプロジアをヴァルキュリア9人が取り囲んだ。
自然と背中合わせになるオレとプロジア。
ヴァルキュリアたちはじりじりと距離を詰めてくる。
「そらよ」
ヴァルキュリアが飛び掛かってくる直前、プロジアが動いた。
懐の砂の入った布袋を緑にぶつけ慌てさせると目に砂の入った緑を攻撃する素振りを見せて陣形を揺るがし、緑を守るべく動きたヴァルキュリア達から孤立した真反対に位置するスリング使いの黄を槍で突く。
「クッ……」
虚を突かれ、やっとの思いで横に飛びのいた黄。
「刺突を避けるのは人の本能だが、フェイントかどうかくらい見極めをつけろよなあッ!」
突きから転じる横薙ぎにすべてを込めていたプロジアの一撃を避けきれず、黄は激しく打たれ意識を失った。
「貴様あ!」
矢が放たれプロジアはすんでのところでしゃがんでかわすがさらにチャクラムでの追撃を受けた。
チャクラムを後退しながらステップでかわし、もう一度放たれた矢を槍で払う。
プロジアは受け流し、かわしながら走り続けて詠唱を始めた魔法使い達に近づいていき、拾ったチャクラムを投擲して逃げ場を狭めたのち、槍で突く。
逃げ場を狭められた魔法使いはしゃがむしか選択肢がなく、突っ込んできたプロジアに背中を踏みつけられた。
「ヒグゥ……」
プロジアは、全力で動き回ったため肩で息をし、歩くのも辛そうだ。
「プロジア、もういい。
フリーダから一発殴られてノックアウトされて来い。
あとはオレに任せろ」
オレは、プロジアに近づき肩に手を置く。
白ことフリーダが近づいてきていた。
プロジアは、肩で息をしながら頭を下げた。
「……すまなかった。
オレはもう、奴隷狩りなど汚れた仕事はしない。
リク様がオレを立ちなおさせてくれたんだ」
「そう……プロジアのバカ!」
フリーダは思いっきりグーでプロジアの腹を突いた。
「グヘア!」
プロジアは腹を抑えてうごめき、やがて泡を吹いて気を失った。
え? 今の流れはフツー『パー』で顔を平手うちじゃないの?
それで、そのあと愛し合う二人は抱き合うんじゃないの?
「私の可愛い可愛いトビーに奴隷狩りなんてさせて……プロジアなんてマジで死ねばいいのよ」
えっと、フリーダはそっち系の趣味の方なんだね。
一発殴られて来いなんて言ってごめんね、プロジア。




