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31 マリーと決闘

 マリー・シュナイダーは血走った眼でにらみながら『決闘』開催をオレに告げた。

 後をついてくるよう剣で指し示されたのでついていく。


「決闘の場所は稽古場でよろしいですね、リク・ハヤマ」


 『決闘』開催は既定事項でもあるかのように、マリーは話をすすめる。


「は? なんでだよ。

 決闘を受けた覚えなんかないぞ」


 オレはただマリーが投げつけた手袋を拾っただけだ。

 

 マリーは上がった口角を左手で隠してクスクスと満足そうに笑っていた。


「リク・ハヤマ。

 語るに落ちるとはまさにこのことですわね。

 投げつけられた白手袋を拾う、これ以上に『決闘の受諾』を意味することはありません」


 マリーは満足そうに体の前で手を組みながらオレを睨み付けたまま話続けた。

 そのポーズは胸が強調されるんだけどな。


「白手袋が『決闘』を意味する、ということをヒト族でしたら町民から貴族までみな知っています。

 それこそ頭を撫でることが『求婚』を意味するように。

 白手袋のことを知らない者がいるとすればーー魔族などの違う種族、ということになりますね」


 あー、やってしまった。

 拾ったことを知っていれば決闘許諾。

 知らないと言えば、魔族。

 決闘が決まってしまった。


 オレは後をついてきているプロジアに話しかけた。

 

「決闘かあ、プロジア相手しといてよ」


 オレは歩きながらマリーの白手袋を観察していた。


「いや、そういうわけには」

「プロジア、マリーの手袋いい臭いがするぞ。

 嗅いでみる?」


 オレは白手袋をヒラヒラと振り回す。


「リク様、挑発もそこそこにしておきましょう。

 マリーが怒っていますよ」

「マリー、何に怒っているんだ」

「……あなたが生きていることにです」


 マリーは、怒っているのか足音を大きくさせながら銀髪をなびかせている。

 オレは思わず口走った。


「キレイな銀髪だな。

 触ると気持ち良さそうだな」

「……これから決闘だと言うのに緊張感はないのですか!」


 マリーは肩を震わせており、プロジアがあっけにとられている。


「リク様は挑発の天才ですか?

 よくそこまでヒトを怒らせられますね」


 オレたちの先を歩くマリーは全身で怒りを表していた。


「なあ、マリー」

「呼び捨てにしないでください、魔族リク・ハヤマ」


 マリーはこちらを振り返らず、足も止めずに答えた。

 そうか、呼び捨てダメなのか。


「ねえねえ、マリーちゃん。

 ギルドメンバー内の決闘は禁止じゃなかったっけ?」

「ちゃん付けはもっとダメです!

 友達のように話しかけないでください!」


 ようやくこちらを向いてくれたが、マリーはなんだかプンプン怒っているな。

 せっかく美人なのにな。


「『決闘禁止』の決まりのことですか。

 例外的にメンバー同士の闘争が認められる場合があります。

 つきました、ついてきてください」


 マリーが稽古場の重そうな扉を開いた。


 中に入ると稽古場はだいぶ大きめの作りで、天井も高い。

 カンカンと木剣を打ち合っている音や、気合いを入れるためのかけ声が響いていた。

 この空気はオレは好きだぞ。

 真剣に汗を流すこの瞬間はきっと無駄になんかならない。

 

 組手を取っているものや剣術指南をしているものなどが、マリーに気づいて敬礼をした。

 マリーは敬礼した者たちに微笑みを返している。


 なんだ、可愛い顔で笑えるんじゃないか。

 マリーちゃんめ。


「今から特別に『昇格試験』を行います。

 申し訳ありませんが稽古を中断し、この場を立ち去ってください」

「はい。

 わかりました!」


 稽古場はざわついたが、そそくさと稽古を中断し皆すぐに出ていくようだ。


「マリー様、質問をお許しください。」


 その場にいた女剣士が尋ねた。


「何でしょうか」

「今から行われる昇格試験、どなたが行われるのですか」

「あなたも知っているでしょう……リク・ハヤマ」


 稽古場がどよめいた。


「ヘルガ様と渡り合ったという、かの武人ですか!」


 女剣士は興奮して体を震わせていた。

 決闘っていうのは見るのは楽しいからな。


「そうです、相手は我々ヴァルキュリア。

 全てのカラーに声をかけてあります」


 稽古場が一段とどよめく。


「ヴァルキュリア全員ですか!」

「そうです、我々の総力でもって迎え討ちます」


 会場が揺れた。


「コイツは見逃せねえな!

 おい、一階の奴らも呼んで来い!」

「ヴァルキュリアが出るのか!」


 稽古場の面々が騒ぎながら、会場から冒険者を呼びに行くと、すぐさま野次馬があっという間に集まった。


 冒険者たちなので荒事は好きなのだ。

 それに、上位者の戦いは参考になるんだろうな。


 マリーが腕を組んだまま近づいて、オレの鼻先に剣を突き付けた。


「これは昇格試験という形をとりますが、決闘です。

 お互いの主張の正しさを、決闘の流儀に乗っ取って戦わせる場ですわ。

 リク・ハヤマ、あなたもあなたなりの薄汚れた正義を語りなさい。

 そして、あなたの浅薄短小な望みをお言いなさい」


 マリーがよく梳かれた銀髪をかき上げると、髪に炊き込められた香がふわりとあたりに広がった。


「私の……私があなたに望むものはヘルガ様の身柄です!

 ヘルガ様は断じて魔族におもちゃにされていいお方ではありません!

 私があのお方をリク・ハヤマという魔の手から救い出します!」


 マリーは涙のたまった深い紫の瞳を大きく開き、オレを見据えた。

 

 知力の低いオレだが、マリーの涙にはヘルガを思う心が込められているんだなってことはわかったぞ。


 きっと、マリーはヘルガが好きなんだろうな。

 だから、助けようとしてるのか。

 オレから助けるために。

 だから、オレを精いっぱい挑発して決闘を受諾させたのか。


――ヘルガには心を預けられる人がオレの他にもいたんだな。


「何がおかしいんですか!」


 あれ。

 オレ、笑っていたのか。

 そうか、オレは嬉しいのか。


「……マリーちゃん、お前さ」

「ちゃん付けしないでください」


 マリーは口を尖らせている。


「大事な話なんだ、黙って聞いて欲しい。

 ……ヘルガのことなんだ。」

「急に真面目な顔をして、騙されませんよ」


 オレを睨むマリーを睨み返すとマリーの目の色が変わった。


「マリー。

 あいつの、ヘルガの秘密を知っているか」

「どういうことです?」


 マリーはいぶかしんでいる。


「……オレは魔族ではないが、ヘルガは魔族だ」

「フフ、何かと思ったらバカなことをおっしゃいますね。

 最も魔族を斬った剣士、ヘルガ・ロートが魔族ですって?

 笑わせないでください。

 そんなデマ、だれが信じるというんです」


 デマか。

 オレとヘルガの決闘でヘルガが魔族化したことを機密としたけどウワサとして流れているのかもな。


 そして、マリーはヘルガが魔族であることを信じない。

 デマであると思い込む。

 信じたくないからだ。


「正確には、魔族化することがある、だけどな」

「何を言ってるんです、そんなウワサを信じるとでもおっしゃいますか?

 バカバカしいですね、そんなウワサ……」


 オレはマリーの肩をつかんだ。


「マリー、ヘルガの笑った顔を見たことあるか。

 泣いた顔を見たことがあるのか」

「それと魔族と何の関係があるというのです」


 マリーはオレの手を払おうとしたが、オレはマリーの肩から手を離さない。


「ヘルガは感情が激しくなると魔族化するんだ。

 あいつはサキュバスになってしまう。

 だから、それを必死で押し殺して生活しているんだ。

 泣かないように。笑わないように」

「……ウソですよね、私をたぶらかそうとしてウソを言っているんですよね」


 マリーは不安げにオレに尋ねた。


「マリー。

 お前も侯爵家も、魔族であるヘルガを認めないだろう。

 だから、オレが奪うんだ。

 ヘルガをお前の元にはおいておけない」


 マリーの肩を持つ手に力が入る。


「い、痛いですわ」


 マリーは顔を苦痛に歪ませた。


「マリー、お前に邪魔はさせないぞ。

 ヘルガが魔族だと、魔族でもいいんだと――お前が認めない限りな。

 オレの望みは、お前がヘルガと金輪際近づかないことだ」

「……なんですって?

 そんなこと認められるわけがないでしょう!」


 マリーは肩からオレの手を引きはがそうとしている。


「フン。

 負けなければいいだろう」

「私は負けるつもりはありませんわ。

 ただ、ヘルガ様から離れるなんてことは私には出来っこありません……」


 マリーは決意を込めた瞳でオレを見据えた。


「私が負けたその時は……ヘルガ様と同じように、私もあなたのものになりましょう。

 私があなたの欲望のはけ口となれば、ヘルガ様が一時でも安らかでいられるでしょうから」


 オレは別にマリーはいらないけどな。

 可愛い嫁が二人もいるし、コリンナもいい子だから。

 部下は欲しいから、リク・ハヤマ傭兵団にでも入れてやろう。

 トビー、キット喜べ。

 後輩が出来るぞ。


「仕方ないな。

 正直マリーなんて欲しくないが、くれるというならもらってやろう」

「あなたは、私をバカにしているんですか!」


 マリーは怒っているようだ。


 扉が開き、武装した女たちが登場した。


「来ましたか。

 ヴァルキュリア・カラーズ」


 マリーはオレの手を振り払うと、女たちに合流し一列に並んだ。

 ひいふうみい、マリーを入れて9人もいるんだけど。

 色とりどりの武装で、美女達が勢揃いしていた。


「喜びなさい、リク・ハヤマ。

 あなたの腕を認めていますから、我らヴァルキュリア・カラーズ全員であなたの相手をしてあげますわ」

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