29 冒険者ギルド
トーストはカリッとしているし、いいバターを使っているのか香りがいい。
ハムエッグは黄身を半熟にしてあって塩をかけるとトロリと美味しい。
「ハムエッグうまいぞ、さすがコリンナだな」
オレの専属メイドのコリンナは紅茶を入れながら、笑っている。
「私の手柄にしたいところですが、それはミア様が作ったものですよ」
「ミアが?
それならオレと一緒に食べればいいのに。
おなか減って一人で食べたのかな」
コリンナがくすくす笑っている。
「もう、リク様じゃないんですから。
ミア様は父上に呼び出されて朝早く出立されましたよ」
コリンナからのミアからの手紙を渡された。
ほうほう……と言いたいところだが、オレは知力がないのでもちろん読めないぞ。
「コリンナ、読んで」
「私も難しいのは読めませんけど……」
コリンナが手紙を見た。
「あ、これなら私も読めます。
ミア様はリク様あてにわかりやすい言葉を使って書いてくれてますよ」
「フハハハハ、それでもオレは読めないのだ」
少ししょんぼりしているオレにコリンナはニコッと笑いかけた。
「得意不得意がありますからね、苦手なことを苦手と言えるリク様は素敵ですよ」
「そうだな、オレもいいところあるしな」
「リク様にはいいところが物凄くいっぱいありますよ」
コリンナはぎゅっとオレを抱きしめた。
「リク様……」
コリンナは瞳をうるうるさせてオレを見た。
「手紙、読んでくれるんじゃないの?」
「あ、そうでした。
お昼なのにすいません。
しょんぼりしてたリク様が可愛くて、つい尻尾がビクンって動いてしまって……
我を忘れて思わず抱きしめてしまいました」
ペロッと舌を出すコリンナの尻尾が上下左右に動いている。
その様子が可愛らしくてオレは尻尾を握った。
「えい」
「ひぁうぅ」
コリンナは床にへたりこんだ。
「コリンナ、手紙読んでよ」
「……リク様のいじわる」
コリンナはうらめしそうな顔でオレを見たが、立ち上がって姿勢を正し手紙を読んでくれた。
「『リク様、お父様がうるさいのでいったん帰ります。
その間、健康に気遣ってくださいね。
あと、女遊びはほどほどにしてくださいね。
あ、あと私が戻ってきたらデートに行きましょうね。
それから、それから……」
その後はミアがオレとしたいことについていっぱい書いてあった。
いやあ、ミアはとっても元気だな。
フフ、オレは嫁を甘やかす主義だからいろいろ連れて行ってやるぞ。
「ミア様に愛されていますね、リク様」
コリンナはオレの目を見つめた。
なんだか、少し寂しそうだ。
「黄身とパンくずが唇の周りについてますよ、リク様」
「あ、そうか」
オレは手でそれを取ろうとしたけど、コリンナが抱きついて来てオレの唇の周りについているパンくずをなめとった。
ぺろぺろ……ぺろぺろ……
「えっと、そんなにいっぱいついてる?」
「……私がついてるって言ったらついてるんです」
コリンナの瞳が燃え上がっているように見えた。
ぺろぺろ……ガチャ。
「リク様、ごはん食べ終わりました?」
プロジアが扉を開けてオレの部屋に入って来た。
「ノックくらいしてください!」
コリンナはオレから離れると、プロジアを睨んだ。
「いや、ノックはしたんだが……聞こえてなかったようで……」
ちょっとコリンナが燃え上がっていたからな。
「プロジア、何の用?」
オレの問いかけにプロジアはかしこまって礼をした。
「ミア様の不在中、私、プロジアがリク様の護衛をさせていただきます。
よろしくお願いします」
☆★
さて、冒険者ギルドへ行くことにする。
コリンナを不動産探しに向かわせ、オレは、いやオレ達は冒険者ギルドへ向かう。
一人でいいっていうのにプロジアが聞かないのだ。
ミア様に頼まれていますからってさ。
ミアは心配性だなあ。
オレは強いから平気だぞ。
まあ、いいか。
プロジアとは年も近いし。
さあ、出発しよう。
フフ、やっぱり冒険者ギルドは心躍るものだ。
町長の屋敷は奥のほうだが、冒険者ギルドは比較的町の真ん中、町の関所に近いほうにある。
モンスターの侵入にいち早く対応するためらしい。
この小さな町ベケットは高い壁を作らなきゃならないほどモンスターの脅威に晒されているのだ。
冒険者ギルドの質は、町の防衛の質であるからな。
衛兵も多少はいるけど、大事となればギルドにも声がかかる。
ギルドへ到着。
扉を開けて、中に入る。
右手は、酒場か?
食堂も兼ねているのか、広めの作りになっていて、食事を済ませているものもいれば、エール片手によろしくやっているものもいた。
朝っぱらから飲むとはご機嫌だな。
1階奥には何やら人が集まっているが、左手にカウンターがあり、受付嬢と目が合ったので、まずはそちらと話そう。
「はじめての方ですよね」
「フ、オレを知らないのか。
最強の武闘家、リク・ハヤマだ」
受付嬢は目を見開き、近くにいたギルドメンバーに目配せした。
頷いたギルドメンバーの女性は、小走りに階上へ走って行った。
「何か、あったのか?」
「い、いえ。
何もございません」
側にいたプロジアが受付嬢を睨むが、荒事大好きな冒険者を日ごろさばいている受付嬢は、プロジアににこりと笑顔を返す。
「では、ご説明いたします」
受付嬢は、フリーダ・ベッカーと名乗った。
赤髪のショートカット、大きな瞳のスレンダーボディ。
笑顔のとても素敵な子だ。
とても丁寧に、冒険者ギルドのシステムについて教えてくれた。
まず、冒険者登録。
登録すると、ランクが定められそれに応じた依頼が出来るようになる。
依頼は掲示板を見てチェック。受付嬢に話して依頼を受ける。
依頼は難易度に応じて、報酬も変化する。
ランクは活動実績によって昇格できる。
S、A、B~Fまである。新人はFかららしい。
Cランクがベテラン。A、Bランクは町に数名、Sランクは国に数名いるかいないかであるとのこと。
ヘルガはSランクなので、個人としては最強戦力である。
ヘルガは頑張り屋さんだなあ。
オレは勇者パーティー御一行様だったので、自動的にSランクだったのだけど。
とか思いながら、受付嬢の説明をボケーっと聞いていた。
まあ、わからなければ後でヘルガに聞こう。
「では、冒険者登録をしますね、リク・ハヤマ様」
受付嬢から食堂で待っているように言われたので、その通りにし、適当なテーブルを見付け腰をおろした。
腹が鳴った。
「おなか減ったな、プロジア」
「何か食べますか?」
「プロジアお金持ってるの?」
「ええ。
って、リク様お金持ってないんですか?」
プロジアが不思議そうにオレを見た。
「え?
持ってないぞ、プロジアとキットとトビーにあげたので全部だぞ」
「え?
ぜ、全部ですか?
リク様、お金持ちではなかったのですか?」
プロジアは目を見開いて驚いている。
「ないなあ、コリンナのために使ったのと、あと残りはプロジアにあげたからな。
お金なんてもってないぞ」
「リク様は私たちに、残り全部をあげたと……我々が2、3年食べていけるだけのお金を……」
「オレは財布持たない主義なんだ、ミアがお金は管理してくれるし。
邪魔なだけだからな、小銭なんて」
プロジアは瞳に涙をためて感激していた。
「リク様、アンタ、それじゃあ損してばっかりだろう。
全部人にあげちまって……」
「ん?
別にオレが持ってなくたって、ミアが払ってくれるだろうしな。
それに知ってるか、オレの嫁のヘルガもいっぱい稼いでくれるんだぞ」
「ヘルガさん、ですか。
どこかで聞いたような……」
プロジアが思い出そうとしている。
そうこうしていると受付嬢が戻って来た。
「リク様、2階へおあがりください。
冒険者ギルドのサブマスター『マリー・シュナイダー』様がお呼びです」
「え?
ヘルガじゃないの?」
「ヘルガ様は所用で出かけられているとか。
マリー様がお呼びです」
オレは腰を上げた。
「わかった。
じゃあな、プロジア。
行ってくるよ」
「私も、ついていきます」
オレについていこうとしたプロジアの間にフリーダが割って入った。
「プロジア・レーマン。
マリー様は、叩けばホコリがでる悪徳冒険者であるあなたに用はありません。
冒険者の資格をはく奪されたくなければ大人しく座って待っていなさい。
あなたみたいな悪徳冒険者は、ホントいなくなって欲しいわ」
「……ク……」
プロジアは言い返せなかった。
奴隷狩りにさえ手を染めていたプロジア。
汚い小銭稼ぎくらいしていたかもしれない。
でも、本当に汚い奴だったらトビーもキットもプロジアをかばったりはしない。
身体を震わせて屈辱に耐えるプロジアを見て、フリーダは追い打ちをかけた。
「プロジア。
あなたみたいなドブネズミは、何をしたって一生ドブネズミよ」
「……」
プロジアは拳を握り、歯を食いしばっていた。
「訂正しろ」
オレはフリーダにつかみかかった。
「お、女の子になにするの?」
フリーダは逃げようとしたが、当然オレは許さない。
「フリーダ、お前はプロジアを悪徳冒険者だって馬鹿にした。
そこまでは許そう、プロジアもすねに傷を持つ人間だ。
叩けばホコリだって出るかもしれない。
そこをぐっと我慢したプロジアの瞳を見たお前はさらに追い討ちをかけた。
屈辱を黙って耐えた男の誇りがわからなくて何が女だ!
オレが根性鍛え直してやる!」
「キャ、いやああああああああ!」
オレは、受付嬢フリーダをつるし上げた。
フリーダの叫びに人々が集まってきた。
「何があった!」
建物奥のひと際立派な扉の奥から、青い鎧を装備した女が姿を現した。
銀のポニーテールに深い紫の瞳。
背筋をピンと張った気位の高そうな女だ。
すらっとした長身でありながら、鎧越しにも男をその気にさせるだけのメリハリの効いたいい体を持っている。
「マリー様……」
フリーダはマリーに助けを持てめるように呼び掛けた。
「おい、マリー。
この受付嬢なってないぞ。
オレがヘルガに言っておくからな」
「そうか、お前が……リク・ハヤマ」
マリーと呼ばれた鎧装備の女は、今にも斬りかかってきそうな勢いでオレを睨んだ。




