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27 おはよう、ヘルガ

「うーん、オレ、ラウラにデートを申し込んでしまったのか。

 ただ肉球をプニプニしてただけなんだけどな」

「リク様―」


 ミアがオレを探していた。


「おお、治療終ったか?」

「はい、ネコ族のおじ様、目を覚ましましたよ」

「うんうん、良かった。

あ、ミア。

 来週ネコ族の村に行ってくるね」

「あ、リク様に助けたお礼をしてくれるんですかね」


 ミアが腕を組んだ。


「来週はさすがに私はお城に帰らないとですねえ」

「そっか。じゃあ、一人で行ってくるよ」

「あ、リク様。

 プロジアと一緒に行くといいですよ」

「じゃあ、そうする」


 ☆★


 ――少し前――


 さて、キットの治療は終わったわね。

 ネコ族の初老の男性の処置も終わったし。


 さ、早くリク様に会いに行きましょ。

 私、癒し手としてとっても頑張ったんだから、リク様に誉めてもらわないとね。


 私がリク様を探していると……

 目の前にはプロジア。

 リク様と槍で戦っていた様子を見るにかなりの実力者だと思う。

 

 まあ、リク様が負けるわけないんだけど。


「ミア様」


 プロジアが私に語りかけていた。


「罰金の支払いから、書状から、これからの仕事まで――何から何までありがとうございました!」


 プロジアは深々と頭を下げた。


「そうね、プロジア。

 あなたに投資した金額は安いものではないわ。

 せいぜい、一生懸命私とリク様に仕えるのよ」

「はい、わかりました!」


 プロジアはほっとした様子だった。


「どうしたの?」

「いえ、ミア様みたいに『これからの働き期待しているわ』って言われるとオレもこれから頑張ろうって思えるんですけど……」


 プロジアはどこか困惑しているようだった。


「フフ、確かにリク様は違うわね。

 別に何も見返りは期待してないと思うわよ」

「ええ、それがわかるからこそ……自分はあの人のことが理解できなくて」


 私は少し話しただけだけど、プロジアは生きていくのに必要な知恵を身に着けていることはわかる。

 きっと貴族階級できちんとした教育を受けることができたのであれば、何か一つ学問でも修めていたと思う。

 そうであるが故に、リク様のことが理解できないのだ。


「あなたに奴隷にされかけた獣人の子たちのように、あなたも助けたかっただけよ」

「……本当にそれだけなのでしょうか」


 プロジアはいぶかしんでいるようだ。


「うーん、いろいろ考えているようで、何も考えてなさそう。

 それが、リク様の魅力の一つよ」


 ああ、リク様のことを話す私の口角はきっと緩みきっているのだろう。


「それでね、プロジア。

 あなたにお願いがあるの」

「なんなりと、ミア様」


 プロジアはかしづいた。

 

「私は侯爵令嬢と言う立場上、リク様と離れなければならないときがあります。

 その時の監視を頼みましたよ」


 プロジアは眼光を光らせて答える。


「怪しいことがあれば、報告せよ、ということですか」

「え? リク様がどんな活躍をしたか、知りたいだけよ。

 でも、どこかで愛人を作ってるようだったら教えてね」


 プロジアは真剣なまなざしを浮かべていた。


「浮気を防止する、ということでしょうか」

「え? だって、リク様はいい男ですから、女は寄ってきます。

 次期侯爵なのですから、愛人くらい甲斐性の範囲内ですが……

 愛人と暗殺者は紙一重。

 プロジア、命に代えてもリク様をお守りなさい。

 わかった?」

「ははー」


 プロジアは平伏していた。


 ☆★


 ベケットの町長の屋敷へ。

 

 オレはボール遊びに疲れたぞ。

 何でトビーもキットもオレより上手いんだ。

 ネコ族女子(幼女)はトビーとキットに夢中だったぜ、ちくしょう。

 くそう、こっそりボール投げ練習してやるんだからな。 


 とりあえず仮眠だ。

 寝てしまってもいいのだが、ミアが夜にもヘルガが目を覚ますといっていたので、すこし仮眠を取ったら起きておこう。

 

 オレの専属メイドさん。

 コリンナにお茶をリクエスト。

 目が覚めるヤツをお願いしよう。


 ふぁあ。

 お茶を飲んでもやっぱり眠いな。


 ☆★


 ――ん。あら、寝てしまった。

 いつの間にか毛布が掛けられている。


「……リク、起きたの?」


 少し会ってないだけなんだけど、すごく久しぶりに感じる。

 決闘の時よりも随分柔らかな声だ。

 落ち着いた声。

 本来の話し方なんだろうな。


 ゆっくりと振り向く。

 ヘルガだ。

 ……傷ついて休んでいたというのに、ヘルガはきちんと紅を引き、朱色の装束に着替えていた。

 凛とした姿のヘルガ。

 

 決闘した時のままだ。

 起きてからわざわざ着替えて、化粧してオレが起きるのを待ってたのか。


「オレに会うから、化粧したのか」

 

 上目遣いでオレを覗き込むヘルガ。

 きっとヘルガなりにきっと頑張ったんだろう。


「……私、頑張ったよ」

「ははは。

 偉いぞ、ヘルガ」

「なんだか、子ども扱いしてない?」

「ははは、むくれるな」


 ヘルガはオレと正面の椅子に座った。


「その服似合ってるな」

「……これね、私がデザインしたんだよ」


 ヘルガはくるりとその場で回った。

 基本の動きが、身のこなしが洗練されており、ちょっとした動きでもヘルガは舞っているように見える。


「案外、器用なんだな」

「案外は余計。

 ……お母様が教えてくれていたんだ。

 貴族でなくなっても生きていけるように」

 

 ヘルガの頑張りを、案外って言葉で終わらせたのは悪かったな。


「お母様譲りか。

 ヘルガのためになることを教わってたんだな」

「一人で何でもできるようにね。

 ふふ、そんな私が、誰かと一緒にいたいって思うなんてね」


 ヘルガはオレを見つめて笑った。


「ははは、オレの婚約者になったのだし、オレの弟子にもなったんだからずっと一緒だぞ」

「こんな幸せなことってあるのかな?

 私、恋人も師匠も居なかったけど、全部手に入ったよ」


 ヘルガはとても嬉しそうだ。

 それにしても夜になぜ戦装束なんだ?


「とても似合ってていい服だと思うけど、戦闘中以外は他の服着たらどうだ?」

「……この服以外、持ってないの」

「へ? 

 持ってないことないだろ」

「もう……リクに見せたい服がないの」


 ヘルガはなじるような視線を送ったあと笑ってくれた。

 少しふくれたような仕草を見せながら、それでも怒ってないよないと伝えてくれる。

 ヘルガは誠実に自分の気持ちを伝えたいのだろう。

 それが嬉しいので、オレも笑いかけてやる。


「私に服なんて必要ないって思ってたから可愛いのがないの。

 そりゃ、パジャマとか作業用の服はあるけど。

 そんなのリクの前で着たくないよ」


 戦闘用の服が、ヘルガの一張羅だったんだな。

 


「じゃあ、明日、服を仕立てに行こう。

 オレはヘルガの婚約者だからな」

「ほんと? 家用の服とか、町用の服とか、いっぱい欲しいんだ」


 ヘルガの顔がぱあっと明るくなった。

 フフフ、じゃあ、明日は町で服を仕立てに行こう。


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