26 寝技の練習
「プロジア。
侯爵家につながりのある商人があくどい商売をしていて苦労をかけたわね」
「じゃあ、アンタが侯爵令嬢ミア・グラフ……」
プロジアは、平伏した。
「あ、ありがとうございます!
ミア様!」
「そのお金は、リク様のだから。
リク様にお礼は言ってね」
プロジアはオレに向きなおって頭をこすりつけるように礼を言った。
「リク様、ありがとうございます!」
「ん? フハハハ。
ミアが何とかしてくれたんだろ?
オレの嫁は偉いからなあ」
プロジアは涙を流して喜んでいる。
ミアがぱちんと手を叩いた。
「リク様、私いいことを思いつきました」
「ん、どうした?
ミアは賢いからきっといいことを思いついたんだろうなあ」
「もう、そんなに褒めないでください……」
ミアが顔を真っ赤にしている。
ふふふ、なでなでしてやろう。
「もう、人前ですよ」
と言いながら、ミアはオレの手を離そうとしない。
オレの手を胸の前に持ってきて、話を続けた。
「お父様にリク様を認めていただくために、ベケットの町で功績を積み上げていきましょう。
ふふふ、リク・ハヤマ傭兵団を結成するのです」
「おお、いいなあ」
オレは一門、とか傭兵団、とか騎士団とかの言葉が好きだぞ。
ワクワクするよな。
「あなたたち、することないならリク・ハヤマ傭兵団に入りなさい。
リク様と一緒に世直しするのよ!」
「フハハハハ、今なら傭兵団員には小銭をあげるぞ」
オレはプロジアだけでなく、キットとトビーに小銭を渡した。
「それで、2,3年はご飯には困らないでしょ。
どう、やってくれる?」
「こんなに、くれるんですか? 一人10万チロルも……」
プロジアが驚いていた。
「だって、リク様があげちゃったんですもの。
私が決めていいなら少し減らすけど」
ミアがタメ息をつきながら、オレを見ていた。
「ミア様、リク様とはどういう関係で?」
プロジアがミアに尋ねる。
「ふふ、将来の旦那様よ。
そのために、プロジア。
あなたにはいっぱい働いてもらうわよ」
「ミア、プロジアと難しい話は終わったか?」
「あ、はい。リク様」
ミアが近寄ってくると、小石に躓いてバランスを崩した。
「きゃ……」
「おっと、大丈夫か?」
オレはミアを支えた。
ミアはぎゅっとオレを抱きしめてくる。
「それーーー」
「きゃあーーーー」
オレは抱きついてきたミアをくるくる回した。
ミアはきゃあきゃあと楽しそう。
ミアは計算もできるし、傭兵団もつくるし、出来る奥さんだな。
そのうえ、笑顔も可愛いのだ。
☆★
ミアはキットの腕に魔法で応急処置をし、初老の獣人を介抱し頑張っていた。
オレは倒れたコリンナに力を戻さねばならない。
「コリンナ……」
オレは眠っているコリンナに覆いかぶさってキスをしてエナジーを分け与えてあげる。
……ちゅ……
「リク様……」
コリンナが目を覚ましたようだが、もういちど唇を合わせてきた。
寝ぼけているのか?
って思ったけど、オレの頬に触れながら足でオレを挟み込んで来たので、きっと意図的だろうなあ。
「リク様、結局私が助けられてしまったのですね」
コリンナの手と足はちっともオレを放そうとしない。
「コリンナ、お前は自分を犠牲にしようとし過ぎるぞ」
「はい。
私は悪いメギツネです」
コリンナは瞳をうるませながら耳としっぽをふるると震わせた。
「そんなことではオレの側から手放せないな。
コリンナがそんな悪い子だと婚約者のとこにはいつまでたっても行けないぞ」
コリンナはオレに唇を合わせてきた。
「私、悪い子ですから……いつまでもリク様の側においてくれますか?」
コリンナは耳元でささやいた。
「リク様もメイドさんをお手付きにする……悪い旦那さんになってもいいんですよ?」
「フハハハハ、だから言ってるだろう。
いいんですよ、だとしてあげないぞ」
コリンナはくすくすと笑った。
「悪い旦那さんになってください。リク様」
コリンナの吐息が耳にかかり、オレは頭がくらくらしてきた。
うーん、コリンナはヘルガと違ってサキュバスでないはずなんだが、完全に誘惑されてしまったぞ。
「コリンナ」
オレは、コリンナの太ももを撫でた。
「リク様、ボール遊びしようよ」
ミアの魔法が良く効いたらしいキットは、オレをつんつんとしてきた。
トビーは顔を真っ赤にしてキットを引っ張っている。
「リク様、寝技の練習するより遊ぼうぜ」
キットは子どもなようでオレをひっぱってくる。
「大人はみんな寝技が好きなんだ。
キット邪魔しちゃだめだよ。
でも、リク様見ててもいい?
ボク、話には聞いたことあるんだけど……寝技の練習見るの初めてなんだ」
トビーは顔を真っ赤にしながらも、耳年増であり、妙な積極性をアピールしてきた。
「リク様、別に外でも私が言うことじゃございませんがね。
この子たちに見せつけるのはやめていただけませんかね」
むむむ、プロジアは真面目だな。
さすがにオレもキットやトビーが見ている前では寝技はちょっと難しいぞ。
しょうがない。キットたちと遊ぼうかな。
フフフ、オレもボール遊びは好きだぞ。
寝技も好きだけどな。
「リク様―、そっちそっち」
「おお、キット。
お前投げるの上手いな」
ネコ族は丸くてコロコロするものが好きらしい。
ネコ族の子ども達と丸いおもちゃを使ってキットやトビーと遊んでいた。
「リク様、あの子たちと遊んでくれてありがとね」
先ほど、両手にナイフを持ち子どもを守ろうとしていた少女。
「ん、別に遊んでやってはいないぞ。
オレはこのボール遊びが好きなんだ。
一緒に遊んでるだけだぞ」
「リク様、こっちこっち」
おお、オレの足元に丸いボールが。
「それ」
あ、レベルが低くて力がないから飛ばないぞ。
「リク様、へたくそ」
ネコ族の娘たちはオレを見て笑った。
「うるさいな、ちょっと大人の話をしてるから。
キット、トビー面倒見てあげてくれ」
「あ、はい。
ね、みんなこっちで遊ぼうね」
トビーの方が面倒見がいいみたいだな。
それにしても、子どもはすぐに仲良くなるな。
「リク様、あたしラウラ。
助けてくれてありがとうね」
ラウラはオレの手を取った。
赤髪のショートカットのラウラ。
薄手の服が出るとこ出てるよと主張している。
意思の強そうな黄色い猫目。
手の肉球がプニプニと柔らかい。
オレは差し出された手を揉み込んだ。
「プニプニするな」
「ネコ族だもんね。
ね、リク様。お礼がしたいんだけど」
「肉球が気持ちいいからお礼なんかいいぞ」
ラウラはむずむずしながら身体をくねらせる。
「ひにゃぁ」
ラウラはくねくねしている。
オレはそれが面白くてラウラの手をぎゅっと握って肉球をプニプニ触った。
「うにぁ、リク様は恩人だし、そこまで言うならデートしてあげる」
「ん?」
「来週、ネコ族の村で待ってるね」
「何のこと?」
ラウラはいたずらっぽく笑った。
「には。
リク様ったらはぐらかして。
肉球全て触るのは『デートしよう』のサインじゃない」
ラウラは手をブンブンと振って帰って行った。




