23 奴隷狩り
「いやあああああ!」
モグモグとナンドイッチを食べているオレ達にも聞こえるくらいの大きな声でどこかから悲鳴が聞こえた。
「悲鳴だな」
「ええ、街道のほうでしょうか」
トーマスは大剣を握った。
オレも持っていたナンドイッチを咥えて立ち上がる。
「はふれてひお、ひあ、ほひんは」
「何もわかりませんよ、リク様」
ミアが笑っている。
コリンナもつられて笑っていた。
「もぐもぐ……隠れててよ、ミア、コリンナ。
テオ、トーマス、お前らは行くぞ」
「はいはい、わかりましたよ」
「はい」
男衆で様子を見に行くぞ。
ミアが近寄ってきた。
「唇にナンクズがついてますよ」
ミアがオレの唇についたナンクズを取ってパクっと食べた。
ナンクズって初めて聞いたな。
それはそうとして……
「なんだか、夫婦っぽいよな。
唇についたものを取ってあげるって」
「だって、私リク様の未来の奥様なんですもの」
ミアは頬を染めて嬉しそう。
コリンナが近寄ってきた。
「リク様、指にジャムがついてますよ」
ぺろぺろ。
「それは、夫婦でもしないだろ……」
オレの質問にコリンナはしれっとして答える。
「リク様、嫌なんですか?」
「そんなことはないな」
とりあえず、肉球をぷにぷにしておく。
「もう……リク様。
お部屋に帰ったら思う存分にプニプニしましょうね」
「うん。じゃあ、行ってくるよ」
「「はい」」
ミアとコリンナは岩陰に隠れた。
☆★
「みんな、逃げてっ!」
そう叫んだ獣人族の少女はもっと小さな獣人の子たちを逃がすべく、冒険者の集団の前に身をさらし、小さなナイフを震える両手で握っていた。
赤髪のショートカット、健康で肉感的な肢体を彩る薄手の服。
意思の強そうな猫目。
「……来ないで、来たら刺すよッ!」
冒険者たちは変な印が書かれた馬車を中心に歩き、少女を取り囲んでいた。
「はッ!
多少戦えた護衛のジジイもここで寝転んでる」
頬に傷のある目つきの鋭い男は倒れていた初老の獣人を蹴飛ばした。
「ううう……」
初老の獣人は蹴飛ばされて呻いた。
「小娘一人が抵抗してどうなるって言うんだ。
大人しく狩られろ?」
目つきの鋭い男は初老の獣人の上に座った。
「く、くそお……」
初老の獣人は、力なく地面を叩いた。
「恥と言うものを知らないの? 精いっぱい戦った戦士を尻に敷くとはッ!
人間は戦士の誇りを知らないっていうの?」
少女はナイフを構えながら気丈にも啖呵を切った。
「さてと、獣人のジジイも倒したし、あとは小娘を残すばかり……楽勝だな。
おい、傷を癒せ」
「はい、プロジア様」
頬に傷のある目つきの鋭い男、プロジアがリーダー格なのだろう。
美人の癒し手が、プロジアに治療魔法を唱えていた。
「あとジジイ縛っとけ
獣人は体力回復が速いからな」
プロジアの尻に敷かれた獣人の手足を冒険者たちが縛った。
「ったく、割に合わねえよ。
このジジイのお陰で新人が重傷負ってしまったじゃねえか。
クソが、補償金を渡したらナンボも残らねえよ。
お前ら、今回給料ねえからな」
「そりゃ、ないっすよプロジアさん」
「ってことは、オレ達向けの褒美は現地調達っスか?」
プロジアに従う冒険者たちは舌なめずりしながら、獣人の娘を取り囲んだ。
「何をする気?」
「げへへへへ。
何をする気か、ゆっくり一晩中説明してあげるぜ、お嬢ちゃん?」
「……来ないでッ!」
獣人の少女は怯えていた。
「おい、トーマス」
「何でしょうか、リク様」
「助けに行くぞ」
オレは、てくてくと冒険者たちに近づいていく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
トーマスがオレの肩を掴んだ。
「何だよトーマス、早く助けに行かないと」
「いや、でもあの馬車に刻まれた印……グラフ家ご用達の商人が雇った冒険者ですよ。
てことは、グラフ家が認めた【奴隷狩り】です。
止めたりしたら、大変なことになりますよ!」
トーマスは慌てていた。
「トーマスは、ずる賢いのに馬鹿だなあ。
少女が襲われて奴隷にされる……これを超える大変なことなんかあるわけないだろ?」
オレはさっそうと少女と冒険者の前に立つ。
「ああああああ、リク様―!
わ、私は知りませんからね!
あー、もうミア様、ミア様!」
トーマスがオレを放って逃げ出した。
テオもいつのまにかいない。
うーん、友達甲斐のない奴だなあ。
ワイン飲んで怒られそうになったときオレがせっかくミアからかばってやったのに。
「な、何者だ!」
冒険者たちが突如現れたオレに問うた。
「はははは、正義の味方だ!」
「何だとおお!」
冒険者たちは浮足立っていたが、プロジアは落ち着いた様子で立ち上がりオレを見定めようとしていた。
「鍛えてはなさそうだ。だが、簡単に殺すと面倒なことになりそうだな。
その服いい素材を使っている、平民ではなさそうだ」
今オレはミアがくれた貴族っぽい服装をしている。
「ただの平民だよ、まあお前たちよりは立派な人間だがな」
「なんだとおお!」
今にも飛び出して斬りかかってきそうな若い冒険者を手で制し、プロジアがオレに近づいて軽く会釈をした。
ほう、このリーダー格の男プロジアは話くらいは通じそうだな。
「旦那、アンタツヤのいい服着てるから、きっと貴族なんだろ。
貴族様の気まぐれで、ネコ娘助けて正義気取るのはいいけどさ。
オレ達は、グラフ家の許しを得て獣人奴隷を捕まえてるんだ。
邪魔しないでくれないか。
オレ達にも養っていく家族くらいいるんでね」
プロジアはオレに槍を突き付けた。
へえ……そこそこ様になってるじゃないか。
冒険者のリーダー格なだけはあるな。
「年端も行かない少女を奴隷にした金で、食う飯はうまいか?」
オレはプロジアに問いかけた。