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22 暗躍する女狐

「いや、私は止めたんですけどね。

 リク様がワインが飲みたいって言うから私は仕方なく……」


 うお、トーマスの人に罪をなすりつける鮮やかな手口。


「そうなんですか、リク様」


 ミアはちょっと悲しそうな声を出した。


 はあ、やれやれ。

 トーマスをかばってやるとするか、ミアはちょっと部下に厳しそうだからな。


「ああ、オレが飲みたくなった。

 薬草採りの最中に……すまないな。

 ミアとコリンナは頑張っていたのに……

 どうすれば、許してもらえるか?」


 オレが頭を下げると、ミアは困ったような顔をした。


「リク様。

 そこまで謝らないでください」


 ミアは頭を下げたオレを覗き込んだ。


「私は、一緒に飲んでくれないから、すねていたんです。

 ……私も一緒に飲みたかったです」


 上目遣いでオレを見るミア。

 ミアってお酒飲んでいい年なのかな。


「今度一緒にお酒でも飲みに行こうか」


 ミアの顔がぱあっと明るくなった。

 ミアは思ってることが本当によく顔に出るな。


「リク様、明日一緒に街を回りませんか?

 おいしいパンケーキのお店があるらしいんです」

「ぱんけーき?」


 50年前にそんなものはなかったけどな。

 でも、ミアがとても楽しそうだし断る理由はない。

 

「楽しそうだな。一緒に行こう」

「はい!」

「とりあえず、キノコ食べる?」


 オレは焼けたキノコをミアに見せる。


「食べます。

 あ、でももうお昼ですからごはんにしましょうか。

 コリンナ……ってもう用意できているのね」


 コリンナとテオが会話を先回りして用意していたのだろう。

 布が引かれ重箱が上に用意されている。


「ふふふ、やるじゃない。

 優秀なメイドで嬉しいわ」


 座席とお茶の用意ができたので、待ちに待ったお昼の時間。


 ん? 布が2種類あって、こっちにオレとミアとトーマス。

 あちらにテオとコリンナ。


「なあ、ミア。

 何でコリンナとテオは一緒に食べないんだ?」

「使用人ですからね。

 身分が違います。

 取り分けたり、殻を取ったりさせたければ普段はコリンナに命じればいいですけど、今日は私がしますからね」


 そうか。

 身分が違うもんな。


「トーマスってこんな奴なのに貴族なの?」

「ええ。一応騎士ですから」

「こんなとか、一応とか、私の評価っていったい……」


 トーマスは嘆いていた。


「オレ、平民だからあっちで食べるよ」


 オレは、立ち上がるとコリンナとテオの方へ行った。


「ちょっと、リク様!」


 ミアがオレを追っかけてきた。


「お邪魔するよ」


 オレはコリンナの隣に座った。


「リク様、どうしてこちらに?」


 テオが驚いている。


「んー、だって、オレ平民だもん」

「もう、リク様こっちで一緒に食べましょうよ。

 リク様は私の旦那様ですし英雄様ですし、こっちでいいんですよ」

「嫌だ、行かない」


 オレはミアのすがる手を振り払った。


「どうしてですか、リク様。

 私と一緒に食べましょうよ」


 ミアが半泣きになっている。


「ミア、オレと昼ごはん一緒に食べたいか?」

「そんなの決まってるじゃないですか。

 私、一生懸命作ったのに」


 ミアは涙を溜めてオレを引っ張りつづけた。


「コリンナ、オレと一緒に食べたいか」


 コリンナは少し躊躇しながら頷いた。


「テオも一緒に食うだろ?」

「わ、私は……」

「一緒に食え」

「は、はい」


 オレは泣きそうなミアの頭を撫でた。


「ほら、ミア。

 みんな一緒に食べたいみたいだから、一緒に食べようよ」

「は、はい。

 わかりました」

「ミアがいるほうが広いから、コリンナとテオ。

 みんなで移動するぞ。

 ほら、さっさと行くぞ」


 オレが急かしてみんなで同じ布に集まった。

 そもそもこの布は広いのでみんなで一緒に食べられるのだ。


「ほら、ミア。

 泣くなってば」

「だ、だって。

 リク様が怒った……」


 ミアがオレに抱きついてきた。


「みんなで食べようよ。

 身分で食べる場所を分けなくてもいいだろ?

 それにオレはミアが二人きりで食べたいって言えばそうしたんだ。

 二人は婚約したてホヤホヤなんだから」

「リク様……」


 コリンナがこっそり布を渡してきた。


「何これ?」

「これでミア様を拭くんですよ」


 コリンナが耳打ちしてきた。

 おお、賢い。

 オレもミアをいじめたいわけじゃないからな。


「はい、涙を拭くよ」


 ミアの涙を拭いてあげた。


「リク様も私と一緒に食べたい、ですか」


 ミアがうるんだ瞳で問いかけた。


「うん」

「リク様は二人っきりが良かったのに、気づかずにすみません」


 ミアが謝ってきた。


「うん。それなら二人でも良かったけど、トーマスがいるならみんなで食べたほうがいいだろ。

 みんな冒険の仲間なんだから。

 英雄物語だと、みんな一緒に食べるだろ?

 冒険者はみんなそうなんだ。

 明日死ぬかもしれないんだ。

 だから、一緒に食べるんだ」

「リク様、リク様……」


 ミアが抱きついてきた。


「私、間違ってました。

 みんなが『パーティー』なんですね。

 『パーティー』は一緒にご飯を食べるんですね」


 ミアはまだ泣いてるのでもう一回拭いてあげた。


「そうそう、楽しい旅にしたいからみんなで食べような」

「はい!」


 ミアも元気を取り戻したようだ。


「よし、みんなで食べよ」

「はい!」


 重箱をミアが、取り出した。

 ミアは涙を拭って、説明してくれた。


「リク様の好きなものわからないから、私いっぱい作ってみたんです。

 好きなものがあったら、言ってくださいね。

 覚えておきますから」

「ありがとう。

 いいお嫁さんになりそうだな。ミアは」

「……頑張ります。

 ヘルガ様には負けていられませんから」


 ミアは十分いいお嫁さんになる思うけどなあ。

 早速いただこう。


 オレは「いただきます」と言って手を合わせたが、食べる前の儀式はみなそれぞれだった。

 ミアはものを食べる前に、広げたスカーフの上で呪文を詠唱し、食べるものを清めている。

 殺生をして手に入るもの、「肉類」は清めてから食べるらしい。

 テオは両手を組み祈った。

 トーマスは「うはー、うまそうですね!オレ一番でかいのからもらいますよ?いいっすね?」と言ってから食べた。特に祈らない。

 コリンナは両手を組み、祈った。

 そのあと、いただきます的なことを言っていたが聞き取れなかった。

 獣人には古語が伝わっているから、それかな。


 オレは両手を合わせ、小麦粉を練って焼いたナンをいただく。

 具は鳥のモモ肉の燻製かな。

 香ばしくて食が進む。


「このモモ肉の具を挟んだやつ美味しいよ」

「ナンドイッチですね、良かったです。

 王都でも流行っているみたいですよ、ナン」


 へー、今はナンが流行ってるのか。

 50年前は一部の部族しか食べてなかったけどな。


「ナンドイッチのお勧めの具はですね、これです!

 ベリージャム入りのものですよ」


 ミアがジャム入りのナンドイッチを食べてほしそうだ。

「私頑張って作ったんでとてもおいしいですよ」とミアの顔に書いてある。

 ありがたくジャム入りナンドイッチをもらおう。


「ミア、食べさせて」

「…え…」


 ミアは恥ずかしがっている。


「では、私が」


 コリンナがベリージャムナンドイッチを持った。


「はい、リク様。

 大きく、口を開けてくださいね」


 コリンナが食べさせようとしていた。


「ダメ、私があげるの」


 ミアがコリンナを制した。

 コリンナはミアに見つからないようにオレに舌をペロリと出した。


「じゃ、リク様。アーンしてください」


 オレは口を開けて待つ。

 ミアが手で持って食べさせてくれた。

 なんだかぎこちない。

 ミアの手が震えていて、オレの唇に手が触れる。


「……どうですか?」


 甘みがちょうどよくて爽やかな香り。


「とてもおいしいよ」

「……良かった」


 ミアが胸を撫でおろしている。


「このジャムもミアが作ったの?」

「はい! これはお手製なんですよ、お母様直伝で、朝ごはんのナンにいつもつけて食べるんです。

 これはグラフ侯爵家にだけ伝わっているんですよ!」


 ミアがものすごくいいものだと言いたいらしく、力説してくる。

 一生懸命頑張って作ったんだろうな、と思うと微笑ましい。

 本当に美味しかったよ、ミア。


「もうひとつ頂戴」

「はい。

 あ、お茶も入れましょうね」


 ミアが淹れようとしたが、コリンナが既に淹れてくれていた。


「用意しておきました。

 どうぞ、リク様」


 コリンナはオレにお茶を渡す。


「お茶もナンと合うな」

「あ、リク様。

 ジャムが口の周りについてますよ」


 ミアが拭くものを探す。


「あれ、ないみたい」


 あれ、さっき涙を拭いた布どこだっけ。


「私、馬車まで取ってきますね」

「あ、私が……」


 テオが名乗りを上げたが、ミアが首を振って断った。


「今日はテオもパーティーのメンバーなんだからね。

 馬車も動かして一番働いているのはテオなんだから。

 ゆっくり味わってね。

 私が布を取ってくるよ」


 ミアが馬車まで走って行く。

 コリンナはオレに耳打ちをした。


「私だって、リク様に食べさせてあげたかったんですから」


 コリンナはさっきオレがミアの涙を拭いた布を胸元に隠し舌を出して笑うと、オレの唇周りについたジャムを舐めとった。

 

 ぺろぺろ。

 

「甘くておいしいですね。

 リク様の唇」


 コリンナはそう言って笑うと、ミアへ声をかけた。


「ミア様、布がありました。

 リク様の唇、私が拭いておきましたよ」

「あ、ありがとう、コリンナ」


 ミアがとことこと戻って来た。


 コリンナの策士ぶりにトーマスとテオが口をぱくぱくさせている。


「トーマス、テオ。

 金魚みたいに口をパクパクしてどうしたの?」

「女狐……いえ、コリンナは優秀だなあと、はい」


 トーマスがコリンナを見つめてそう言った。




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