21 キノコとワインは芳醇な香り
オレとの決闘で傷ついたヘルガのために薬草が必要だ。
ミアはオレと冒険に行きたいってことだったので、レッツゴー。
コリンナと、ミアの付き人トーマスもついて来るぞ。
あ、御者のテオもね。
オレ達を乗せた馬車が町を出ると、爽やかな風が吹きつけた。
外出するのにちょうどいいな。
天気がいいので薬草を採りに行きがてら外でご飯を食べることになっている。
ミアとコリンナがきゃっきゃうふふしながらさっきお昼の弁当を用意してたな。
楽しみだなあ。
ミアの隣には重箱がこれみよがしに置かれている。
いい匂いがしている。
果実のジャムのような甘い香りがしてきた。
「ヘルガも来ればよかったのになあ」
オレはポロっとつぶやく。
ミアが怒るかな、って思ったけどヘルガはミアの患者さんだからな。
お医者さんミアが登場なので嫉妬はしないみたいだぞ。
「ものすごく傷が深ければ、すぐに治る魔法を使うんですけどね。
自然治癒力に任せた方がいいことが多いんですよ。
無理せず、薬草や薬湯で直したほうが身体にはいいんですよ」
ミアがものすごく真面目な顔をして話してくる。
「なんか難しくてわからないんだけど」
オレが正直に話すと、コリンナが褒めてくれた。
「難しいものを難しいと言えるリクさまは素敵です」
ニッコリ笑ったコリンナは入れ物に入っている紅茶をコップに次いで渡してくれた。
「どうぞ」
「うん、美味しい」
うん、楽しいピクニックになりそうだな。
昨日はゴブリンと戦ったり、ヘルガと決闘したりで忙しかったからなあ。
今日くらいはまったり過ごしたいものだ。
「今日行くところって安全なのか?」
「そうですね、街道から少しだけ外れたところですから、比較的安全ですよ」
トーマスが周囲を見渡しながら答えた。
「この前、ゴブリンライダーが出たの街道じゃなかったっけ?」
「100体も出ましたからねえ。
町長が冒険者を雇って原因を調べているらしいですけどねえ」
「でも、今日はリク様がいるからどんなモンスターがでても安心ですね」
ミアが街道を見ながら話しかけてきた。
「もちろんだ、どんな敵が出ても守ってやるぞ」
「はい、私の旦那様は頼もしいです」
「私のご主人様も頼もしいです」
オレの隣に座っているミアはオレにピッタリ身体をくっつけてくる。
反対の方に座っているコリンナもこっそり対抗してくるのだが、オレがつぶれてしまうぞ。
「コリンナ、何で私にいちいち張り合ってるの?」
「ミア様。
奥様の座は譲りますけど、一番の寵愛は私がいただきますからね」
馬車がゴトンゴトンして良く聞こえないが二人ともワイワイ話してるから仲がいいんだろうな。
「そろそろ着きますよ。
外に出る準備お願いします」
御者テオが声掛けをしてくれた。
さて、降りよう。
今日の目的地は、ここ。
「夜の森」と呼ばれるエルフ居住区の入り口。
エルフは奥のほうで幻覚魔法をかけて人間から隠れて生活しているらしい。
だが、人間が入り口のあたりで狩りを行う分には森への立ち入りは構わないそうだ。
夜の森は街道よりは多少危険で侯爵令嬢が一人で行くようなところではなく、普通は冒険者ギルドなどに依頼するそうだ。
ミアも普通は冒険者ギルドに依頼して済ませるらしい。
でも、ミアはおとぎ話の英雄物語などが好きで冒険者になりたいという夢があったらしい。
未来の旦那様としては、嫁の望むことはできればさせてあげたいからな。
侯爵と奥様が厳しかったから自由に冒険はさせてもらえなかったそうで、ミアはオレと手を組んで馬車を降りているけど興奮冷めやらぬといった様子。
「ああ、リク様と冒険ですねッ!」
スキップでもしそうな様子。
「腕を組んでると、モンスターが来ると危ないぞ」
「……名残惜しいですね」
ミアはソロリと腕を外した。
クルッとトーマスとコリンナの方へ向き直った。
「じゃ、私薬草取ってくるわよ。
トーマス、先行して森の奥を見張りなさい。
コリンナ、ついてきなさい。
グラフ家のメイドたるもの薬草の選別くらい覚えてもらいますよ」
「は、はい」
「お任せください!」
コリンナとトーマスはきびきびとしたミアの指示に従った。
うーん、ミアは素直で可愛いけど上に立つ立場の教育をしっかり受けているなあ。
指示が的確、頭の回転が速い。
「ミア、オレはどうすればいい?」
オレはミアに尋ねた。
「……すみません、私、旦那様に指示を出すことはできません。
でも、できれば……近くにいてくれますか?」
おっと、貴族の淑女って言うのはそういうものなのか?
男を立てるのかな。
オレは貴族じゃなくて流儀がわからないんだけど、じゃあそうしよう。
「トーマスが森の奥だから、オレは入り口側にいようかな。
なるべく近くにいるからな」
「はい!」
ミアは元気よく返事をして、薬草採取を始めた。
☆★
ミアとコリンナはせっせと薬草をとっているようだ。
んがー、ヒマだぞ。
ミアとコリンナと離れないようにしながらもあたりを見回す。
護衛って言ってもこの辺は比較的安心らしいけどね。
とはいえ、ゴブリンライダーが100体現れたりもするから気は抜いちゃいけないけど。
森の中をトーマス、街道側をオレ担当。
しばらくボーッとしていたが、ヒマだな。
トーマスが、森の中でしゃがんで作業をしている。
「トーマスなにやってるの?」
「ああ、キノコを採ってます。
これ、つまみにちょうどいいんですよ。」
本当にうまそうだな。
「火起こしましょうか」
「頼むよ」
木と木をくっつけて、オリャアアアアアアとトーマスが火起こしを頑張っていた。
「頑張れー」
オレはそこら辺で渇いた木を探す。
ふと、コリンナとミアを見ると二人とも真剣に薬草を採取している。
ミアが薬草の種類について教えている様だ。
邪魔するのは良くないかな。
「ふうー、ふうー」
「お、火がついたな」
トーマスが頑張った。
「ええ、私も魔法が使えれば楽なんですけどねえ」
「ああ、そうだなあ」
昨日スライムを温めるのに使った魔法の巻物スクロール。
あれだって貴重なものなのだ。
「ああ! 火が消えた」
トーマスがまた、ふうふうと息を吹き替け頑張っていた。
ん? オレ、【鬼道】で火がつけられるんじゃない?
「【火よつけ】」
オレが言うとすぐさまボワっと火がついた。
「……リク様」
「ん? なんだ?」
「魔法が使えるならそう言ってくださいよ」
トーマスが恨めしそうに見ている。
「す、すまん。
忘れていたのだ。
それよりキノコ焼こうじゃないか」
「そうですね、焼きましょう」
馬車には野営用のアイテムが結構入っているらしい。
馬車から石と網を取ってきたトーマスが、石を積んで火を囲み、その上に網を置いてキノコをのっけた。
ジュウジュウと、焼けてそうないい匂いがしてくる。
「食べますか」
「そうしようか」
モグモグ。
キノコはうまい。
野外でワイルドに食べるのもいい。
きちんと火を起こして焼いてるから香りもいいなあ。
騎士トーマスも美味しそうに食べている。
「お酒が欲しいな」
「我々護衛ですからね。
お酒なんか飲んじゃっていいんですか?
アレ? こんなところにワインが」
馬車からワインを取り出すトーマス。
「うわ、リク様。
ワイン昼間っから開けてたら、怒られますよ。
うわ、コップなんて持ってきて。
えー、オレ仕事中に酒飲むの怒られると思うなあ」
とか何とか独り言ちながら、コップなぞ取り出してワインの蓋を軽快にあけるトーマス。
こら、勝手にオレを共犯にするなよな。
「リク様飲まないんですか?」
「……飲むよ。
もう開けてるんだろ?
さっきから何一人芝居やってるんだ」
トーマスは誰が見てるわけでもなくひとり芝居をやっている。
「いや、だってオレが飲みたいって言いだしたって知られたらミア様に怒られるじゃないですか。
リク様が飲みたいって言ったらきっとミア様怒りませんよ」
「オレのせいにするのかよ」
トーマスはオレにコップを渡し、ワインをついだ。
「そんなこと言って……飲まないんですか?」
「いや、飲むけど」
乾杯。
チリン。
二人でグラスを鳴らし、ゴクゴクゴク、ぷはあ。
うおおおお、超うめえ。
「いや、結局リク様だったら飲んでるのがミア様に見つかっても、押し倒してチュッチュしたらいんですよ。
侯爵令嬢とか言ってますけどね、結局小娘なんですから!
リク様の大人テクでメロメロピーにしてやればいいんですよ!」
「だれが小娘よ。だれがメロメロピーよ」
ミアが薬草を抱えて戻ってきた。
「あ、小娘さま、どうしました?」
「小娘に様を付けたところで何がどうなるのよ」
「ミア様違うんですよ」
トーマスは赤ら顔で、ミアに言い訳をする。
こいつ、いつの間にワイン一本開けやがったんだ。
オレ一杯しか飲んでないんだぞ。




