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02 妹勇者に殺されかける

 【死ね】といったら魔王が即死したので勇者たちはみな驚いている。


「やば。オレのスキル強すぎ」


 グサリ。


 へ? オレの背中に聖剣がぶっ刺さっている。


「おい、マジか」


 金髪を肩まで伸ばし、丁寧に切りそろえた髪。

 オレの妹で勇者のルシア・ハヤマ。

 身内びいきなしに可愛い。


 ……あー、やっぱり可愛いわ。ルシア。

 で、今その勇者ルシアに刺されている。

 

 元々キレイだったブルーの瞳は、赤く濁り怪しく光っていた。


「……ルシア、操られているのか?」

「魔王を倒した今、それ以上の存在がいるってこと?」


 レレムが驚いている。


「お前は強すぎた。魔王を倒すという役目を終えたのだ。ゆっくり眠れ」


 機械みたいな声で、勇者ルシアが告げる。


「役目かあ。兄ちゃん、お前の結婚式まではお前を守ってやりたかったなあ……ゲホッ」


 ダバダバと口から血を吐く。

 あ、これやばい。死ぬ。


 癒し手が、妹勇者ルシアに呪文をかけた。


沈静化カームダウン


 ルシアの目がもとに戻る。


「お兄ちゃん……どうしたの?その傷」


 え? お前にぶっ刺されたんだけどな。

 そうか、操られて覚えてないんだね。

 よーし、お兄ちゃん精いっぱい強がるからな。


「蚊に刺されたら血が出た」

「へー……ってそんなわけあるか!」


 的確な頭へのツッコミは今はやめてほしかったな。

 死にかねない。


 あ。


 意識がブツンと切れた。


 ☆★


 ドーム型装置にぶち込まれる前のことを思い出していた。

 オレはルシアに刺された。

 操られていたようだが、それにしてもなぜなのか。

 

――聞こえる、リク


「レレムか。おい、冗談はいいからここから出せ」


――出してもいいけど、出た瞬間ルシアがあなためがけて飛んできて殺されるわよ


「なんでルシアは操られてるんだ」


――勇者は【神の実行者】って言うでしょ。おとぎ話でもよく勇者に神が【憑依ひょうい】したりするじゃない。勇者の起こす奇跡も【神のひいき】って呼ぶ人がいるくらいだしね


「ってことは」


――そう。魔王以上の存在がリクを狙ってる。【神】とでも呼ぼうかしら。


 なんてことだ。


――しかもルシアに取りついてる。他の人ならまだしもルシアと戦えないでしょ、アンタ。


 もちろん、無理だ。

 我が妹ルシアに「心臓を捧げよ」と言われるのなら喜んで捧げよう。

 ただし、操られてなければの話だ。


「どうすればいいんだ」


――何ともならないわ。ただ、上位存在は忘れっぽいって言うからね。ほとぼりが冷めれば許してもらえるんじゃないかしら。


「ほとぼりっていつのことだよ」


――そうね、50年くらいかしら


「長いわ!」


――上位存在もすぐにリクのこと忘れてしまうかもしれない、そうなったらすぐに目覚めさせるから


 ポチッ。


「おい、今何押した!」


――さよなら、リク


 プシューッ。

 装置の中に寒風が吹きあれる。

 

「おい、冷たいぞ。

 マジか、おい」


――寂しくないようにアイテム入れておいたわよ、一人じゃないからね


「自己完結するな、オレの話を聞け」


――さよなら、リク。服は私のイメージカラーと同じ黒のものを私が手縫いしたのよ。ずっと、あなたと一緒にいたかったけど。一緒にいられないから。


「だから、一人で突っ走るな。

 まだ解決方法はあるかもしれないだろうが、バカ!」


 さ、寒い。コールドスリープに本当になるかも怪しいじゃねえか。

 凍死になっちゃうんじゃないかな。

 ホントに後で生き返れるかな。

 

「おい、こら……」


――リク……私、あなたのことが好きだった。


「……え?なに、風がうるさくて聞こえない」


――上位存在に見つからないよう、弱くしておくねリク。死なないでね。こんなことならもっと早く、好きって言っておけばよかった


「……え? なに、やっぱり風がうるさいんだけど。

 聞こえない」


 レレムがなんか言ってるけど風がビュービュー吹いてるのに聞こえるわけねえだろ。

 あ、マジで寒い。死ぬ……

 

 死、死にたくねえええええ!

 薄れゆく意識の中、オレはこんなことを思った。

 

 次、目が覚めたら、マジで好きに人生、生きてやるからな。

 ずっと、魔王討伐のために来る日も来る日もトレーニングして来たのに、バカヤロー!

 

 ほんっと自分のためだけに生きてやるからな。覚えてろよおおおおおおおおお!


 ☆★


 その瞬間、コールドスリープマシーンが大きな音を立てて、小さな破片を飛び散らせた。

 

――リク、大丈夫?


 壊れた装置の中にはリクはどこにもいなかった。


――リク、リク!

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