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17 私を抱いてもいいですよ

 少し肌寒いが、そんなことは気にせず町長の部屋を目指す。


「ここだな」


 コリンナはうなづいた。

 ガチャガチャ。


 クソ、開かないな。

 ならば、【鬼道】だ。

 すべての物質の状態を変化させるスキルに不可能など無いッ。


「【扉よ開け!】」


 ドバーンと扉が開く。


 ベッドで町長が寝ていた。

 頭に帽子を被って、枕を抱きしめている。

 ……可愛いじゃねえか。


「オラア! 起きろおおお!」


 オレはベッドから町長を引っ張り出し、ボディに一発正拳突きをかました。


「ゲフバアア!」


 町長はすっぱそうなカルボナーラを吐き出した。

 昨日はパスタだったっけ?


「何奴……ってリク様?」


 町長は目をぱちくりさせていた。

 

「とぼけた顔してんじゃねえぞ!

 この人でなし!

 おい、コリンナこっち来い」

「いやあああああ!」


 コリンナは後ろを向かされ、手で腰回りを隠した。


「隷属紋なんてコリンナの背中に彫りやがって、法律違反だぞ!

 そもそも、獣人だって人間と同じように奴隷にしちゃだめなんだぞ、知らないのか?」


 オレは、この世界の法律を町長に教えてやることにした。

 ふふ、隷属紋はオレ達がが禁止したし、獣人解放令だってルシアが言うからオレが必死になって実現させたんだ。


「な、なにを言ってるんですか、リク様。

 このベケットの町長である私が法を犯すとでも?」


 町長は曇りのない目でオレを見た。


「隷属紋の使用は、奴隷に対してのみ認められていますし、そもそもコリンナは獣人です。

 獣人は、奴隷にすることが法律で認められていますよ?」


 町長は理路整然とオレに話した。


「そ、そんなはずはないだろ?

 オレが、オレ達が頑張って辞めさせたんだ。

 獣人だっていい奴なんだ。

 話も通じる。

 一緒にご飯だって食べれるんだ、きっと仲良くできるってオレは思ってる!」

「リク様……」


 コリンナはオレに抱きついた。


「いつ、隷属紋が復活したんだ、オレが辞めさせたのに。

 奴隷制だって、オレが辞めさせたんだ……」

「ああ、リクの乱のことを言ってるんですか?」


 リクの乱、だと……。


「50年前のあれは失敗だったって、歴史が証明してますよ。

 奴隷がいなくなって国力が落ちたんです。

 だから、勇者パーティーが解散した後、すぐに戻りました。

 だから、私も心が痛まなくはないですが、必要悪なんですよ」

「なんだと……」


 町長は真剣にオレに話してくる。

 隷属紋がなくなってみんな喜んでいたんだ。

 オレは、間違ってなんかない……


「年端も行かない女の子に、隷属紋で痛みを与えるなんて……しかも町長、コリンナに色仕掛けをさせただろ」

「契約ですよ」

「契約?」


 町長はコリンナを見て話す。


「そもそも借金を返す代わりにってコリンナはウチの屋敷へ来たんだ。

 食べるものがないからってお金を借りに来た。

 コリンナ。

 キミの親は言っていたね、このお金があれば冬が越せますって」


 町長はコリンナに近づく。


「返せないなら、借りなきゃいいんだ。

 私のお陰で冬が越せたのに、いざ返すってなったら知らんぷりかい?

 獣人の誇りがあるんだろう?」


 町長はコリンナの顎を持った。


「色仕掛けが嫌なら、後5年この屋敷で勤め上げればいい。

 私はチャンスをあげたんだ。

 リク様と寝れば、明日にでも解放してやるとね」

「貴様アアア!」


 コリンナは振り上げたオレの手にしがみついた。


「いいんです、リク様。

 私のために怒ってくれた、それだけで私は幸せです」


 コリンナはオレを上目遣いに見上げると頬に手を当てた。


「私は、借金のカタに町長に買われました。

 町長は他の獣人奴隷と比べ、私にとても良くしてくださいました。

 温かい食事とふんわりとしたベッド。

 私は、嬉しかったんです」


 コリンナは覚悟を決めたようだ。


「その町長の頼みを聞けない私が悪いんです。

 リク様、私のために町長を殴るのはやめてください。

 町長はこの国の法律を何も犯していません。

 町長を殴って、リク様が捕まってしまったら……私は、私が許せなくなります」


 町長は、コリンナに話しかけた。


「コリンナ、早く故郷の町で待つ婚約者に会いたいだろう?

 さあ、リク様に抱かれ、自由を掴むといい。

 リク様は私に殴りかかってくるほどお前を気にいってるんだから」


 コリンナはうなづいた。


「リク様、私のために怒ってくれたあなたであれば、私は喜んで身を任せることができます。

 もし良ければ、私を抱いてもいいですよ?」


 コリンナは覚悟を決めたのか、オレの顔に手を当て唇を奪おうとした。

 オレは、唇を奪おうとしたコリンナの頬を流れる涙を見逃さなかった。


「フン、オレを見くびるのもたいがいにしろよ」


 オレは、コリンナの手を払う。


「リク様」

「なぜです、リク様。

 ここでコリンナを抱いても誰も損はしないのに」


 そうかもしれないな。

 ただ、それじゃ誰も幸せにはなれねえんだよッ!


「オレは、女に不自由したことがなくてな。

 『抱いてもいい』とかほざく女を抱いたことがないんだ。

 オレに抱いて欲しいならなぁ。

 『リク様ッ! 抱いてくださいッ!村で待つ婚約者なんかどうでもいいれしゅかりゃあ、わ、私をその大きい、ビ、ビッグすぎる奴でつらぬいてくだしやあああああああああい』

って言えよ」


 コリンナは目をぱちくりさせている。


「……ちょっとわかりづらかったかな?

 えっとね、婚約者よりリク様が好きです、抱いてくださいって言えよ」

「そ、そんなこと言えません!」

「ははっ、そうだよな」


 オレはコリンナの頭を撫でてあげた。


「「リク様!」」


 二人ともビックリしている様だ。


「オレはお前たち獣人を幸せにしたくて隷属紋を廃止したんだ。

 畜生、オレが50年前から逃げ出さなければ、コリンナの体にそんな痛そうな隷属紋を掘られずに済んだのになあ」


 オレが逃げ出したせいでヒドイ目に合ってる奴がいるんだ。

 せめてオレはコリンナだけでも幸せにしてあげたい。


「こんなとき、お前なら何とかしてくれるんだろう」


 オレは、空に願った。


「ウルスラ・レレム! 何とかしてくれよ!」


 ヒューーーーーーーーーン。


 お風呂場の方から、小さなホウキが飛んできた。

 

「あのねえ、リク。

 できれば、魔石を手放さないで欲しいんだけど?」

「手放したつもりはないけど?」

「キャアアアアアアア!」


 レレムが悲鳴を上げて飛び回っている。


「服を着なさいよお!」

「そんな場合じゃないんだ、レレム!」


 そんな些細なことはどうでもいいんだ。

 少し寒いくらいでどうでもいいことなんだ。

 へっくし。


「金を貸してくれ!」

「うわ、久しぶりに会った女に金をせびる男ほどクソな男はいないわよ」

「クソでも何でもいいから、早く金を貸せよ!」


 自分でもクソなセリフだと思いながらオレはレレムに頼む。


「どんなモンスターでもイチコロのリクがお金に困るなんて思わないけどね。

 ちょっと、探索魔法をアンタにかけるわよ」


 レレムは、呪文を唱えた。


「ふむふむ、アンタ、ゴブリンライダー倒してそのまんまじゃない。

 アレの獲得品でお金はなんとかなるはずよ。

 アンタ、そのまんまにしてるじゃない。

 よいしょっと」


 レレムが何やら呪文を唱えると、ゴブリンライダーからの戦利品が大量に現れた。


「何が起こってるんですか!」


 町長が驚いている。

 まあ、そうだよな。

 いきなり空間魔法見たらビックリするよな。


「けっこーいいもんあるじゃない。

 今、金が欲しいならアレを私が換金術で現金化してあげるわよ。

 手数料ハンパないけどね」


 レレムが戦利品を見ながらオレに話した。

 結局、レレムはオレに甘く頼りになるのだ。


「今、欲しい、頼むよ」

「じゃあ、わかったわ。

 ただ、換金術は私がいないところで使わないのよ。

 根性腐った悪魔相手の交渉だからね」


 レレムは呪文を唱えた。

 すると、手で持てる会話の道具が出て来た。

 レレムはそれを耳に押し当てた。


「悪魔? 手早く現金化してほしいのよ、出来る?……いや、それはボッタクリ過ぎでしょ……だいたいねえ…… ほら、私いつも利用してるじゃない……」


 レレムは会話を終えると自慢げに手から金貨を落とした。

 同時にゴブリンライダーの獲得品が消えていた。

 大した魔法だな。


「はい、リク」

「はは、持つべきものは魔女だな」

 もう一個お願いがあるんだけど、隷属紋を消す魔法かアイテムない?」

「……もう、リクほんっとうにずうずうしいわね……わかったわよ。

 これを手で塗り込めば治るわ。

 あ、温めた方が効果が高いから炎魔法のスクロールも置いておくね」


 レレムが便利アイテムを出してくれた。

 持ちやすい様に可愛いバッグまで一緒にくれた。

 

 本当に便利な奴だな。

 オレはとりあえず、町長に金貨を渡す。


「コリンナの借金これで返せるか?」

「じゃあ、これ以上長くなると『神』に見つかるから私は帰るけど……

 愛してたわ、リク」

「ひええええええええええええ! こ、こんなに金貨を私にくれるのですか、」


 レレムが何か言っていたけど、金貨がもらえてびっくりしていた町長の声にかき消された。

 

「何か言ったか? レレム」


 レレムの方を見ても、誰もいない。

帰ったのかな。

 

「慌ただしい奴だなあ」

「リク様、多すぎますよ!」


 町長が嬉しい悲鳴を上げていた。


「じゃあ、多い分返して」

「え?……あ、はい」


 町長はしぶしぶあまり分をオレに返してきた。


「さて、コリンナ。

 借金はオレが返した。

 この意味は分かるな?」

「……は、はい」


 コリンナは覚悟を決めたように頷く。


「……オレの部屋に行こうか」


 オレとコリンナはオレの部屋へ向かった。

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