14 一生懸命尽くします
ミアが言うことには、ヘルガには婚約者がいるらしい。
そ、そうか……。
知らなかったな。
ミアが詳しく説明してくれた。
長々と話してくれたんだけど、オレは呆然としていたからキーワードでしかとらえられなかった。
相手はここ、グラフ侯爵家の隣地、ヴァイスブルグ侯爵家の子息であること。
町民はみんな喜んでいること。
来月にも結婚するということ。
いわゆる政略結婚であるということ。
……ヴァイスブルグ家に嫁いでいくとしたら、うちの一門に籍を入れるってわけにもいかないかな。
弟子の幸せを願うのが、師匠というものだ。
笑って送り出してやるとしよう。
もっと強くしてやれると思ったんだけどな。
仕方ない。
ひとつだけ、確認したいことがある。
それを確認し終わったら、ヘルガを自由にしてやろう。
……なんだか胸が痛いな。
別れって辛いのかな。
胸が締め付けられるようだけど。
知力が低いオレには――原因なんてわからない。
魔族と蔑まれ、貴族からスラムに落とされて。
一人で生きていくために必死で剣をふるって。
人間として当然に湧く感情すら抑え込んで魔族と戦い続け――
その結果、ヘルガは『英雄』と呼ばれた。
オレはできれば、ヘルガには幸せになって欲しい。
それが拳と剣を交わしたものへの『友情』ってもんだ。
「ヘルガは、幸せになれるんだろうか」
ボソリとつぶやいたオレの隣で、ミアはキラキラと瞳を輝かせていた。
「ヴァイスブルグの子息ハンス様は評判の良い方ですよ。
いい婚礼の儀になるといいですね」
ミアの目にウソはなさそうだ。
悪い奴じゃないなら良かった。
「リク様、私たちの婚礼の儀も素晴らしいものにしましょうね」
ミアがオレにくっついてきた。
「ヘルガ様は素敵な人ですが、――わ、私、一生懸命尽くしますから。
リク様、そんな悲しい顔をしないでください」
ミアがオレにしなだれかかってくる。
ははは、こんな少女に心配されるくらい衰弱してたのかな。
オレは下をむいたまま、ミアの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「泣かないで、リク様」
え? オレは泣いてなんか……
涙が零れ落ちていたことにオレは気付いていなかった。
「顔を上げてください」
ミアは両手でオレの頬に触れた。
「私が、元気になる魔法をかけてあげますね。
……目をつぶってくれますか」
オレは言われたとおりにした。
唇が、ぷるんと温かい。
「ぷは」
ミアの真っ赤な顔が目の前にあった。
……オレが弱っていると、いつも助けてくれるんだな。
ありがとう、ミア。
でも、恋人でもないのにすぐチュッチュするのはオレ以外にはやめた方がいいと思うぞ?
ミアの優しさなんだろうけど、勘違いする奴だってあらわれると思う。
でも……今は、その優しさに溺れていたかった。
オレはミアを抱き寄せる。
「リク様」
ミアはオレをじっと見つめている。
「魔法が効いたみたいだ」
ミアがくすくす笑った。
「これからもずっと魔法をかけてあげますね」
どちらからともなく、唇を合わせた。
……ふ……ちゅぱ……
二人の心臓の鼓動しか聞こえなかった。
バーンと扉が開く。
「いやあ、お待たせしました」
村長とヘルガが部屋に入って来た。
ちょっと深めにキスをしていたところだったので、ビックリして固まってしまった。
「リク様、どうしたの?
っていやあああああ」
ミアは大声で叫んだ。




