11 これからは二人の世界だ
急に動き出したヘルガが放った横薙ぎを跳躍して躱す。
「え、何? 聞こえない。何か言ったか?レレム」
「何も言ってないわよ!」
何だか怒っているレレム。
「っていうか、時間停止魔法が切れて攻撃されてるんだけど」
「はああああああ!」
ヘルガが気合十分に上段から斬りかかってくる。
オレは体を横にずらしてかわす。
「ってことだから、またな。レレム」
「はは。【黒髪の魔女】と相談してるふりか?
芸が細かいなあ、リク・ハヤマ」
ヘルガの連撃をステップでかわした。
「レレム、お前ちょっと遠くに行ってろ。危ないぞ」
「……うん、ありがと。もう、魔石にもどるよ。
3分立ったら、また呪いがかかるようにしておくから。
また、レベル1だとどうにもならなくなったら私を呼んでね。
あ、何回も私を呼ぶと、それはそれで『神』にばれちゃうから注意してね。
それから……」
オレは思わず笑ってしまう。
「お前は、オレのお母さんか。
心配し過ぎだぞ。」
「ふふふ。リクが元気でいられるように祈っているわ。
もし、寂しくて仕方ないようなら私を探してくれてもいいわよ」
ヘルガの攻撃を、後退してかわした。
「必ず助け出すって、言っただろ?」
「待ってる……じゃあね、リク」
レレムは消えた。魔石に戻ってると言っていたな。
よっしゃ。
いまは、ヘルガとの決闘だな。
「おのれ、ちょこまかと!」
「すまないな。逃げ回るのはここまでだ。
ここからは全力で相手してやろう。ハハハハハ!」
オレは拳を握り構えなおす。
明らかにさっきとは違う感触。
これこれ! この感触だよ、力が戻ったな。
しかし、さっきのオレにも言えることだが、刺せるときにはとどめってのはきっちり刺しておくべきだな。
「残念だったな、ヘルガ。
お前は勝つためのたった一回のチャンスを棒に振った。
今なら負けた時にバツゲームはお尻ペンペンで我慢してやるぞ」
オレが挑発すると、ヘルガの顔は湯気が出そうなほど真っ赤になっているが、怒っているのかな。
「な、なにを言ってるんだ変態め。
わ、私のお、お尻をぺ、ペンペンするだと?
やっぱり私の体を弄ぶ気だな!
やはり魔族! 下劣な奴だ!」」
観客席からもブーイング。
「お尻をペンペンだ、なんて破廉恥よ!」
「このスケベ!」
「へ、変態よ、見ちゃダメ!」
えっと、どうやらお尻ペンペンは50年後の世界でとんでもなく卑猥な意味を持つらしい。
ヘルガはめちゃめちゃ怒っているようだ。
謝っても仕方ないしな。
さて、さっきやられたことをリベンジするか。
【エナジードレイン】だったな。
力を奪う能力か。
なるほど、魔族の力見せてもらったぞ。
「ハハハ。お前の力、オレに見せたことを後悔するんだな」
ヘルガには唇を奪われた落とし前はきっちりつけさせてもらう。
オレは軽く挑発した。
「どうした、腰が引けているぞ」
「減らず口を!全力で行くぞ!【紅魔爆炎破!】」
ヘルガが奥義をぶつけてくる。オレも本気で行くとしよう。
ヘルガから受けたエナジードレインを体内で逆流させ、メカニズムを解明した。
ほう、体内の【鬼】を直接口づけすることにより奪っているんだな。
フ、仕掛けがわかれば簡単なことだ。
それくらい、【鬼道】の使い手であるオレならば触れずとも出来るッ!
すべての物質には【鬼】というエネルギーが流れているのだからッ!
【ヘルガ以外の全員からエナジードレイン!】
「うう、力が」
「な、何これ」
騎士や魔導士はエナジーを奪われて調子悪そうにしているが、手加減はしているんだからな。
良し!【鬼】が相当集まったぞ。
ヘルガの奥義がオレに炸裂する瞬間、
【ヘルガの奥義を爆発だけ残してダメージ無効化しろ!】
爆発を煙幕替わりに利用する。【煙幕を上げ続けろ!】
「な、何が起こってる?」
と騎士たちが騒ぎだした。
さて、フフ、騎士や魔導士から奪った【鬼】で煙幕も張り終えたし、これからは二人の世界だ。
ヘルガの心の歪みを正してやらないとな。
「どうして、私の奥義を食らってピンピンしてるんだ!」
「オレの方が強いから、じゃ不満か?」
「……何者だ、魔族。
四天王か、まさか魔王か?」
へルガがじりじりと後ずさる。
完全に魔族扱いしてやがる。
「ヘルガ、オレは魔族ではない」
「どうだか。私の奥義を食らって平気なレベル1の人間がいるってのが信じられないな」
「さきほどのエネルギー波といい、どうなってるんだ。
魔法を使ってるんだろう」
オレは首を横に振る。
「武闘家は修行すれば、【エネルギー覇】を使えるようになる。
体内の【鬼】を操作すれば、空だって飛べるし、お前が使ったエナジードレインだって使える」
「バカな。サキュバスの力を使えるっていうのか」
「お前の魔族化だって、オレは戻してやれる」
「ウソだ、できるわけ……」
【ヘルガの翼をしまえ。】【赤い目も戻せ。】
オレがそう告げると、翼は元に戻り、瞳は元の黒色へと戻った。
「う、嘘だ……」
ヘルガは魔族化から戻って動揺している。
魔族の疑いをかけられただけで水牢にぶちこまれ拷問される国。
魔族へ先祖帰りした少女がこの国で暮らしていくのはたくさんつらいことがあったに違いない。
「オレがお前が魔族になっても戻してやる」
「どうしてそんなことができるの……」
信じられないといった様子だ。
「先祖帰りってだけで大変なのに、サキュバス化は大変だったな」
「お前に何がわかる!私は、私は」
ヘルガの瞳に涙が溜まっていき、その瞳はみるみるうちに赤くなっていく。
「また、魔族化したじゃないか」
「大丈夫、オレがそのたびに戻すから」
オレが魔族化から戻してやった。
「ありが……礼なんか言わないからな」
ヘルガは涙を拭う。
「別に礼なんて求めてない」
感情が跳ね回って魔族化するヘルガ。
オレはそのたびに人間に戻してやる。