01 魔王死す
目を覚ますと、身体が完全に動かない。
おい、どういうことだ。
ドーム型の装置に閉じ込められてしまっている。
叩いたが、力で何とかなるような類いのものではないだろう。
こんなこと出来る奴はアイツしかいない。
勇者パーティーの魔法担当。
とんがり帽子のオールドタイプウィッチ。
【黒髪の魔女】ウルスラ・レレム。
☆★
――オレがドーム型の装置にぶち込まれるちょっと前。
オレ達、勇者パーティー魔王城攻略中。
襲い掛かる敵を倒して上へ上へ。
出てくるモンスターも大物ばかり。
手こずるものだと思っていたが、敵があっという間に死んでいく。
優れた球技の選手は、バットでボールを打つときボールが止まっているというが、そんな感じだ。
敵が死んで見える。
そういえば伝わるだろうか。
いや、伝わらないんじゃないか。
敵を殴っても豆腐よりも感触がない。
「来たな、勇者達よ」
アークデーモン。
悪魔系最上位モンスター。
先代の勇者パーティーはこいつらに殺されたらしい。
「死ね」
オレはそう叫んで拳を振るおうとすると
「うあああああ」
アークデーモンが死んでいる。
おかしい。
オレは武闘家で、拳が当たっているわけでもないのに。
オールドタイプウィッチの基本装備のホウキ。
ホウキで空を飛ぶレレムがオレに声をかけた。
「強いわね、リク。拳が当たる前に敵が死んでるみたいだわ。
速すぎるわ、さすがね」
レレムがオレを称賛した。
「実際その通りなんだ。当たる前に死んでいる」
「は?」
レレムが隣に来た。
「そんなわけないじゃない。新しく変なスキルでも覚えたの? スキル鑑定するわよ」
レレムはスキル鑑定者として一級品なのだ。
レレムがわからなければ誰もわからない。
オレに魔力を帯びた葉を加えさせ、唾液を採取する。
その唾液がついた葉を青水晶に乗せ、聖水をかけた。
青水晶から、光が、文字が映し出される。
名 前:リク・ハヤマ
職 業:武闘家
レベル:255
個人スキル:【鬼道☆】
クラススキル:【貫通☆】
おお、オレ強くなってるなあ。
頑張ってきた甲斐があった。
「驚いた、アンタレベルこれマックスじゃないの? 私見たことないわよ、255」
「そりゃうれしいな」
「それよりなに? このスキル【☆(ほし)付き】じゃないの」
「【☆(ほし)付き】スキルってなんなの?」
「火炎魔法1、2それで最後が☆、みたいな最高ランクを示すわね」
レレムは得意げに説明した。
「【☆付き】になったらすごいのかな」
「スキル説明読んでみるわね」
また、聖水をかけた。
光と文字が浮かび上がった。
――個人スキル :【鬼道☆】 この世のすべての物質・状態に変化をもたらす
――クラススキル:【貫通☆】 だれにもスキル効果を妨げられない
「考えようによっちゃ強いか?」
「はー? ありえない強さでしょ、これ」
レレムが驚いている。
「鬼道って、あんたが東方で覚えてきたナゾスキルじゃん。こんなに強かったっけ?」
「バカいえ、最強だぞ?
人間でなくともすべての物質は【鬼】というエネルギーを持っていてな。
【鬼】を扱うことで身体を癒したり、壊したりする【鬼道】っていう由緒正しい武術の考え方なんだから」
また、理屈っぽいこと言ってるって目はやめろよ。
好きなんだよ、解説。
「はいはい、理屈っぽいことは置いといてさ。すべての物質・状態に変化をもたらすって個人スキル【鬼道】だけでやばいのにさ。
スキル効果を妨げられないってなに? 武闘家のクラススキル強すぎ」
「ほら、武闘家って武器使わないからさ。敵が装甲硬いと地味にありがたいんだよね」
そう、地味なスキルだったのだ。【貫通】。
それが【貫通☆】になって出世したのかな。
「まあ、まさか。【生きてる状態】から【死んでる状態】に変えるとかできるのかな。
いやー、さすがに魔王には効果ないでしょ」
「そ、そうだな。いやー、でも【鬼道】の可能性は無限大!
なんつってな。はははは」
☆★
勇者、オレ、魔女、癒し手の4人の勇者パーティーは魔王の間へ到着。
「よく来たな、勇者達よ。思えば先代の~~~~~かくがくしかじか」
話が長いな。
勇者はマメなのか、話に付き合ってあげる。
「なんだと?」「許さない!」など丁寧な反応だ。
オレはちょいと眠い。
レレムを見ると、やはりレレムも眠そうだ。
「眠いな」
「ちょっと話長いし、試して見たら? スキル。どうせ効くわけないんだし」
「そうだな」
エライ人の長い話の途中で私語する感じで言ってみる。
「死ね」
「うぼああああああああ」
魔王は死んだ。
「えええええええええええ!」