プロローグ
第二章開幕です。
本日は晴天なり。
いつものように俺は冒険者としてクエストをこなし、ギルドへと報告。その帰りに、小腹が空いたのでエルジェと共に焼き鳥を購入し食べ歩きをしていた。
エルジェの場合は、食べ飛びだが。これぞまさに俺が考えていたゆるりな冒険者生活!
っと、そんな普通に過ごしていた時だった。
「おいおい! お嬢ちゃん! この服、高かったんだぜ? どうしてくれるんだよ!」
「こりゃあ弁償だな! 弁償!!」
「お? あいつらは」
「あれー? 何があったんだろう」
見覚えのある二人組み。どこかで見たことがあると思ったら、あの時の二人組みじゃないか。女性に自分からぶつかっておいて折れてもいないのに腕が折れた。
金を払えと、どこぞのチンピラみたいなことをしていた奴らだ。
そいつらが、また懲りずにチンピラなことをしている。
今度は女の子か? 小学生ぐらいの女の子が一人。
色鮮やかな四色。
赤、青、緑、黄色の髪留めがよく似合う白銀……いや、なんだか髪の毛の色素もカラフルっていうか綺麗なツインテールの女の子だ。
男二人に絡まれているが、冷静になぜか真面目に頷きながら聞いていた。
「弁償? つまり、私はお金を払わなくちゃならないのですか?」
「あぁそうだよ、お嬢ちゃん。これは十万ルドもする服なんだよ?」
「十万!? 本当ですか!?」
「マジマジ! でもお嬢ちゃんはどう見ても十万も持っているようには見えないから、親御さんからちょっと拝借してきてだな」
そこまで言ったところで俺は男の肩をとんとんと突く。
「あぁん? なんだよ。今、取り込み……って、お前は!?」
「あの時の!?」
「オッス。まだこんなことしていたのか、お前達は。懲りない奴らだな。それに今度は小さな女の子相手にか? 大人気ないなぁ」
「だね! ここは天使として天罰を下してあげなくちゃ!」
などと、驚く男二人に対して敵意剥き出しのエルジェ。羽がまるで犬の尻尾のように、ざわざわと逆立っているかのように大きくなっている。
「おい、そんな使命感みたいなのは今はいい。とりあえず、お前らはこのまま引け。じゃないと、そこのアホ天使が本当に天罰を下すことになるぞ?」
「くそっ! 覚えてろよ!」
「はいはい。ありがちな捨て台詞ありがとうございますっと。さて、大丈夫か?」
小悪党が去った後に、女の子に優しく話しかける。
すると、小首を傾げて。
「あの方達に弁償代を払わなくていいのでしょうか?」
「いや、いいだろ普通。大した汚れもなかったし」
「でも、あの服は十万ルドもするって」
「いや、嘘だって。あの服、この間五百ルドで売っていたところ見たから確かだぞ」
「五百ルド!? 十万ルドじゃなかったんですか!?」
「うん、そうだけど……。本当に信じていたのか?」
「は、はい。あまり服に関しては知識がないので。そうだったんですか。あれは五百ルドぐらいの服と」
いい情報を手に入れた! みたいに頷きつつメモ帳を取り出して、ペンでメモッていく。
この子、大丈夫か? 心配そうにじっと見ていると、メモを書き終えたようで、メモ帳を仕舞ってこちらに一礼をした。
「ありがとうございます! 助けていただいたうえに貴重な情報を教えて頂き、ありがとうございます!」
「いや、別にいいよ。大した情報じゃないし」
「いえ! それでもありがとうございます! あっ、申し送れました。私は、レリルと申します。以後、お見知りおきを」
「レリルか。いい名前だ。俺は霊児。冒険者をしてる」
「私はエルジェ! 同じく冒険者をしてまーす!」
軽い自己紹介を終えると、レリルはなぜか目を輝かせた。
「冒険者! ということは、二人はギルドの場所を知っているんですか?」
「なんだ? 冒険者登録をするためにここに来たのか?」
「はい。この世界で冒険者となり、活動しようかと。でも、その途中であの二人に」
なるほどな。
てか、この世界で? ちょっと気になるけどまあいいか。
「そういうことだったら案内してあげるよ! いいでしょ? 霊児」
「ん? ああ、いいぞ別に」
「いいのですか?」
「もちろんだ。ここで知り合ったのも何かの縁だし。案内ぐらい」
それに、この子を放って置くとなんだかさっきのように騙されてしまいそうで心配だからな。
「それじゃあ、お願いします!」
「了解。着いてきてくれ」
「はい!」
「あっ、そうそう! レリル! ちゃんと登録料は持ってる? 千五百ルドするんだけど」
「はい、もちろんあります」
急にそんなことを問いかけるエルジェだが、レリルは何事もなく普通に即答した。
「なに当たり前のことを聞いているんだ? お前は」
「経験者からのアドバイス!」
「何が経験者だ。もう少し他のアドバイスをしろよ。例えば、金がない時は採取クエストで地道に稼ぐ、とか」
「なるほど。お金がない時は、採取クエストでっと」
俺が言うとさっそくメモ帳に書く。なんだか、新人アルバイトが研修を受けているような感覚だな。俺は中学生だったから、一度もアルバイトをしたことがないんだけど。
「じゃあじゃあ! 私からも! いい? ギルドのご飯はかなりおいしいから一度は食べたほうがいいよ」
「何のアドバイスだ!」
「なるほど! では、一度ギルドで食事をして見ます。おすすめのメニューはありますか?」
そんなアドバイスを真面目にメモしながらエルジェに聞いているレリル。
真面目すぎるな、この子。いや、知りたがり? 知らなさ過ぎか? そんなレリルの問いかけにエルジェは、ふふんと自信有り気な表情で答えた。
「私のおすすめはポテトだね!!」
「ポテトかよ! もっと、いいのがあっただろ? いや、確かにポテトはおいしいけどさ」
「なるほど! ポテトですね! では、さっそく登録が終わったら注文してみます!」
「その時は、私も一緒に食べていい?」
「あっはい。もちろんいいですよ」
「お前、また集る気か……って、そんなことを言っている間にギルドに到着したぞ」
いったい何の会話をしていたのか。何はともあれ、無事にギルドへと到着した。いつものようにドアを開けるとそこは冒険者達の声が響き渡る広々としたギルドホールが。
初めてみる光景におお! と子供のようにレリルは目を輝かせていた。
「んじゃ、入るか」
「はい!」
わくわくした表情で中へと入っていく。
相変わらず、中は賑やかだな。昼間から酒を飲んでいる者や、会話に花を咲かせている者。受付でクエストを受注、報告をしている者で溢れている。
「ここが、ギルド! わぁ、すごく賑やかですね」
遊園地に来た子供みたいな反応だ。何をメモしているのかわからないけど、メモに一生懸命書いている。それを終えると、すぐ振り返った。
「登録は受付でするんですよね?」
「ああ。あそこにある三つの受付でするんだ」
「わかりました。では、行ってきます!」
「頑張れー」
一礼し、そのまま受付へと駆けていく。どうやらユリアさんのところに行ったらしい。ユリアさんは、俺達のことを見ていたらしく笑顔を一度向けると、すぐ営業モードになる。
「そういえばさ、レリルってどんな職業になるんだろうね?」
「職業、か。どうだろうなぁ」
そういえば、レリルから何か異質な波動を感じる。
この波動は……どこかエルジェに似ている。出会った時から感じていたけど、何なんだろう?
「どうやら、ギルドカードはできたらしいな」
「そうみたいだねー」
受付からすぐ近くの席に座って、レリルを観察している。レリルはギルドカードを作り、今は説明を受けている真っ最中だ。
相変わらずメモをしながら真面目に頷き、ユリアさんからの説明を聞いている。
「おーい! レリルー! こっちこっちー!」
登録が終わったレリルは、ギルドカードを持ったまま目を輝かせていた。
すぐエルジェが呼びかけると、真っ直ぐこっちに駆けてくる。
「待っていてくれたんですか?」
「うん! だって、一緒にポテト食べようって約束したでしょ?」
「登録は終わったらしいな。どうだ? 冒険者になった感想は?」
「そうですね。感動しました! これから冒険者として魔物と戦ったり、冒険者ランクを上げたり、採取や採掘をしたり……考えただけでわくわくします! 胸もドキドキです!!」
大喜びだった。
そこまで喜ぶとは思ってもいなかった。確かに、冒険者というものに憧れる者達は多いが、レリルぐらいの歳だともうちょっと別のものに憧れてもいいぐらいだ。冒険者は、命を落とす確立がもっとも高いからな。親とかに止められることが多いらしい。
「ねえねえ、レリル! そういえばレリルってどんな職業だった? 私は《天使》なんだけど!」
感想を言い終えたレリルにエルジェは近づきギルドカードを取り出して問いかけていく。
相変わらず気が早いなぁ、この天使様は。
「職業ですか? えっと……これでいいですよね? だったら私は……《精霊王》ですね」
「……ん? お、おい。レリル?」
「はい?」
俺の聞き間違いだろうか? なんかさっきとんでもない単語を耳にしたような気がするんだが。
「さっき、なんて?」
「職業のことですか? だったら《精霊王》です。おそらくですが、私が人間界に交友を深めるために精霊界から訪れた精霊の王だから、職業も《精霊王》になったんじゃないでしょうか?」
くすっと、普通に自分の正体を明かしつつ笑うレリルに、俺は唖然としていた。おいおい、まさかの精霊の王だって? だから異質な波動を感じたのか……。
それにしても、魔王や天使に続いて、精霊王まで冒険者登録をするって。
どうなっているんだ? この世界は!