第六話
「はい、どーんっ!!」
「うおっ!? なんだよ、急に。つか、ドアを乱暴に開けるな。修理代を請求されるんだからな」
なんだかんだで、エルジェとパーティーを組むことになってしまってから数日。昼時に、宿屋のベッドでぼけーっとしていると、乱暴にドアを開けてくるアホ天使が。
昼食を食べて、もう転寝状態の俺だったがエルジェによって起こされてしまった。いかにも不機嫌そうにベッドから起き上がり、近づいてくるエルジェを見る。
「霊児! これをやろう!」
「ん? ……おい」
「ねっ!」
「ねっ! じゃねえよ。なんで、こんな緊急クエストなみの難易度を誇るものをもってきた? 俺達は、まだ成り立てなんだぞ?」
エルジェが持ってきた、依頼書を見つめて俺は呆れた。
俺達は、数日前に冒険者になったばかりだ。まだ冒険者ランクだってまだDだ。それなのに、こいつが持ってきた依頼書は緊急クエストなみの難易度を誇るものだった。
討伐クエスト。
討伐対象は《ブレード・リザ》。
クリア報酬は三万五千ルド。
どうだ? 俺達は今まで多い報酬でも三千ルドが限界だった。
最初にやった《ボルゴブリン》十倍ほどだ。
しかも相手はあの《ブレード・リザ》だ。《ブレード・リザ》とは、洞窟ダンジョンに生息するダンジョンボス並みに強いと呼ばれる魔物のことだ。
二足歩行のトカゲ型魔物。その体が強固な鱗に覆われ、鋭い剣の角、左手には剣、右手にも剣。
つまり、全身が剣のような魔物。出演率はかなり稀なので、出会うことはないだろうが……この依頼書があるということは現れたんだ。
こんなものランクDの冒険者に普通出すか? これぐらいの金額ならBランクぐらいだと思うんだが……いや、待て。
この依頼書よく見たら、自由依頼書じゃねえか!
自由依頼書とは。
冒険者なら、誰でも受けられる。この依頼書を受付に持っていく者は「戦場で死ぬなら本望だ!」的な考えの奴だけ。
この依頼書を受付に持っていくものはただの戦闘馬鹿か、死に急ぎ。だが、普通はこんな依頼書を取っていくやつなどいない。だってそうだろ? こんなの恐れ多くて、依頼書すら取れないって。おそらく、この依頼書は自由依頼書の中でも比較的簡単なものだと思われる。
でも、どう考えても、冒険者成り立ての俺達が受けていいクエストじゃない。このアホ天使め……報酬だけを目当てに選んできたな。
……ん? 待てよ。
依頼書がここにあるということは。
「ひとつ聞くぞ」
「なに?」
「お前まだ受注、していないよな?」
恐る恐る、聞いてみる。
「もちろん!」
「ほっ、よ」
「受注してきたよ!!」
(くなかった……このアホ天使は)
アホだ、アホだと思っていたが、ここまでアホだったとは。
呆れた俺を見て、不思議そうに小首を傾げるエルジェ。
「お前なぁ。こういうのは戦闘に自信があって、かなりの修羅場を潜り抜けてきた奴が受けるようなものなんだよ! お前、絶対報酬だけを見て受注してきただろ!!」
「なんでわかったの!? すごい! 霊児って、私の心を読めるの?」
読めなくてもわかるって。いまさらクエスト破棄をしてもなぁ。こういうクエストを受けてすぐに破棄すると「じゃあ、なんでこのクエスト受けたの? 馬鹿なの? 死ぬの?」的な冷ややかな視線で見られる。
本来なら実力に見合ったクエストを選ぶのが冒険者だ。だからこそ、ランクというシステムがあるんだ。
それを無視するこの自由依頼書はまさに裏技。本来なら受けられないレベルのクエストを受けられる。ちゃんと、注意書きもあったはずなんだ。
俺だって、一度ギルドを見回って知っていた。
しっかりと「この依頼書を取っていいのは死ぬ覚悟のある冒険者のみとなります。そうでない冒険者の方々は、地道にクエストをこなしランクを上げ、己の実力に見合ったクエストを受注しましょう」てな。
冒険者は、常に死と隣り合わせ。
その「死ぬ覚悟」を持った冒険者のみが受ける自由依頼書を選ぶわけだ。ま、ランクの低い者達は死に物狂いで魔物と戦っているのに報酬が少なすぎないか? とごねる連中も多いようだが。そもそも冒険者家業は、やっていることの割りに稼ぎが少ないとか、ボランティア活動みたいなものだろ? とか言われている。
魔物などと戦闘をするんだ。登録すれば身体能力は上がるにしても、粗糖名馬鹿か実力者じゃない限りやろうとは思わないのが現実。
しかし、AランクにもなればDランクとは比べ物にならない報酬が手に入るうえに、中央ギルドからの援助も得られるとかなんとか。
「ところで、この依頼書を受付に出した時に注意はされなかったのか?」
深いため息を漏らしながら、エルジェに問いかける。
「えっと、注意はされたよ。でもその後に」
「後に?」
「魔王様と天使様なら余裕ですよ。いつもみたくちゃちゃっとクリアしてください、ってユリアが」
(ユリアさんかぁ……そこはもっと止めるとかしてくださいよ、まったく。信用してくれるのはすごく嬉しいんですけど)
目に浮かぶようだ、あの人の笑顔が。すごく想像しやすい。まさかとは思うけど、俺が本当の魔王だから死んでもいいよ的なノリなのか? いやまさかなぁ、そんなことがあるはず。
あるはず……やべ、不安で本当にそう思えてきたぞ。
「ねえねえ! 早く行こうよ! 三万五千だよ! 三万五千!! ねーねー! 霊児ー!!」
駄々をこねる子供のように俺の体を揺らしてくる天使。
……もう諦めよう。そうだよ、俺は魔王でエルジェは天使だ。自由依頼書の魔物だって、簡単に倒せるはずだって、うん。
「わかったから、揺らすなって。ほら、行くなら早く準備を済ませろよ」
「私は常に準備万端だよ! 準備をするのは霊児だけじゃない?」
「……そうだね」
けど、俺はゆるりと冒険者生活をしたいんだけどなぁ。
・・・・・
洞窟ダンジョン。
初心者がよく来るダンジョンだ。比較的初心者向けの魔物ばかりが出てくるのでここで腕を上げたり、素材を集めるのが常識となっている。
さて、俺も今日で二回目の洞窟ダンジョンとなる。前回は、ただ鉱石を採取しにきただけだったが。今回は、ダンジョンボス並みの魔物を討伐しなくてはならない。さてはて、魔王と天使のパーティーはボス級の魔物とどう渡り合うのか。
これは見ものだな。
「くらえぇ! せいやあ!!」
「元気だなぁ、あいつは」
一人で出てきた魔物を片っ端から倒していく元気百倍の天使。
俺も地道に効率よく魔物を倒している。今回は、あまり戦闘はしないほうがいい。強力な魔物と戦う際は、それまで体力と魔力を温存しておくのが常識だ。
俺達は違う。魔王と天使なだけに、他の冒険者と比べれば多少飛ばしても余力はあるだろう。ま、よほど無駄に力を使わなければの話だけど。
そういえば、魔王様のへそくりも大分なくなってきたなぁ。そういうわけだから、俺達はぎりぎりの生活を送っている。アイテムなんて贅沢だ、甘えだ。極力アイテムの頼らず、戦い抜こう。別に縛りプレイではない。マゾではないのだ。
金が貯まったら、ちゃんとアイテムを購入するつもりだ。とはいえ、この魔王様の力とエルジェの力のおかげで、今のところはそんな必要ないんだよなぁ。
「エルジェー。あんまり飛ばしすぎるなよー。《ブレード・リザ》までは余力を残しておけよー」
「わかってるって! あっ! そこの魔物! くらえ!!」
本当にわかっているんだろうな。ダンジョンを進んでそろそろ第三層になる。ここのダンジョンは第六層まである。つまりもう中層辺りに来ているということだ。
敵も今までより強くなっていく。出てくるとしたら、ここ辺りからだと思うんだが。
周りを見渡す。
湿った空気。
削れた岩。
ヒカリゴケにより、薄暗くも少し幻想的な雰囲気のある洞窟ダンジョン。水辺も近くにあり、時々だが水属性の魔物も出てくる。
「いないな」
「霊児~」
「どうした?」
今まで魔物と戦っていたエルジェが急にうなだれ始める。気になって振り返ってみると、ゆらゆらと低空飛行をしていた。
「ここってあんまり光がないところだね~。さっきまでは、なんだかんだで光があったけど。あー! 光が欲しいよ~!」
「お前なぁ。討伐対象を倒すまではここからは出られないぞ? 早く光を浴びたければお前も真面目に《ブレード・リザ》を探しなさい」
「むぅ、わかったよ~。よっと」
翼を羽ばたかせ、俺からは見えない位置で見渡している。
やはり、飛べるというのはいいものだ。俺も飛んでみたいなぁと思いつつ、地上から討伐対象である《ブレード・リザ》を探す。
奴は、全身が剣のような魔物だ。だから、このヒカリゴケの光が剣に反射して目立つはずだ。妙な光を見たらそいつが《ブレード・リザ》だと思ってもいい。
依頼書が来ていたんだ。いまさらいませんでしたーとか、もうとっくに他の冒険者が倒してしまいましたーなんてオチはやめてくれよ。
「あっ!」
「ん? どうしたんだ、エルジェ! もしかして見つけたのか!」
上空で声を漏らす。それを聞き取った俺は声をかけた。すると、すぐ地上に降りていたエルジェ。指を指し、俺もそっちに視線を向ける。
あれは何かが迫ってくる?
ドドドドッ! とすごい勢いでこちらに迫ってくる影があった。
目を凝らして見ると……奴だ。
獲物を見つけた獣のような眼光でこちらに迫ってくるのは、俺達が探していた討伐対象の《ブレード・リザ》だった。
「やっときたね! 戦闘準備!!」
「わーってるよ!」
翼を大きく広げたエルジェに対し俺は【紅魔の鎧脚】を装備し、迫り来る魔物を迎え撃つ。両手に剣を持ち、頭にも鋭い剣を生やしている魔物。
《ブレード・リザ》の鱗は、刃の如き鋭さがある。そのために全身が剣などと言われているのだ。
「よーっし! これでも」
「馬鹿! 前に出るな!!」
早く終わらせたい。そんな一心で、前に出て構えるエルジェだったが、これはまずい。エルジェは接近戦を得意としない。
それに大して相手は。
「うわっとと! あっぶないなぁ! って、まだくる!?」
予想通り、ものすごい猛攻だ。《ブレード・リザ》は血の気が多く、戦いが大好きな魔物。俺の力がどれほど相手に通じるかを試したくてしょうがないのだ。
前に出てきたエルジェは、自分と戦ってくれる相手だと認識し、ああやって猛攻を仕掛けている。エルジェは、攻撃をしようとしても相手からの隙を作らせることのない猛攻で中々攻撃することができないでいる。
避けるのも疲れてきたのか、空中へと逃げていく。
「霊児~! なんとかして~!!」
「はいはい。俺が、なんとか隙を作る。そこにお前が攻撃をしろ。固定砲台はそこでおとなしく、な!」
ダン! と地面を蹴り《ブレード・リザ》へと接近。
接近してくる俺をロックオンした。
剣を構え、応戦しようとする。ここで【紅魔の鎧脚】の隠された機能を使うときだ! 相手から振り下ろされる剣。それを俺は避けずに受け止めた。
同じ剣で。ギリギリと力強く押し込む《ブレード・リザ》だが、押し切れない。俺の【紅魔の鎧脚】の鉤爪は伸び、それを防ぐ。
これこそ【紅魔の鎧脚】に隠された機能のひとつである伸びる鉤爪だ! ……ってそこまで隠された機能でもないか。
「でやあ!」
受け止めた剣を弾き飛ばし、間合いを取る。
「グギャ!!」
だがすぐに奇声を上げて、その双剣を振り回してくる。
ガキン! ガキン! と金属がぶつかり合う音が洞窟中に鳴り響き渡る。荒ぶる猛攻に俺はついていく。だが、そろそろ終わらせたほうがいい。じゃないと、体力がどんどん削れていき長期戦になった場合、敵の巣窟であるダンジョンにいる俺達が不利だ。
エルジェの準備も終わっているだろうし。
よし。
俺は、魔力を練る。それを刃へと収縮させ……発動させた。
「はっ!」
《ブレード・リザ》は驚愕する。自分の自慢の剣が意図も容易く切り裂かれたからだ。刃で刃を切り裂く芸当などそうそうできるはずがない。せめて叩き割るぐらいだろう。
だが、俺のちょっと違う。
俺のは熱を操る魔法により、刃へと高温の熱を纏わせたのだ。鉄でできた剣を切り裂くほどの高温を。
つまり、一般的な鉄の融点である千五百三十五度ぐらいまで。
普通ならありえない。そんな温度まで熱を上げたら、それを帯びた剣まで溶けてしまうのでは? と。そう思うだろう。
しかし、ここではその普通ならありえないことも当たり前のようにできてしまう。
魔法。
この非現実的な存在が、普通ではありえないことを普通のように実現している。
だが、千五百三十五度とは純粋な鉄の場合。相手の剣がどれほど純粋なのかはわからないために、俺は千五百度程度まで上げた。
結果……溶けて切れた。切れた刃は地面へと突き刺さる。驚愕した《ブレード・リザ》だったが、すぐさまもう片方の剣を振り下ろすも。
「グギャ?!」
同じように切り裂かれた。
そして、ここで隙ができた。《ブレード・リザ》の象徴であると言われている頭に生えている剣をいち早く切り裂き、そのまま距離を取る。
どうしてかだって? それは。
「やっと出番だね! よーっし! 待っていた分、でっかいの行くぞー!!」
上空でうずうずしていた天使の攻撃によって俺がダメージを受けないためである。魔王だろうと、天使の攻撃は痛いのだ。いやむしろ、天使の攻撃だからこそ痛いのだろう。
しかも、エルジェが放とうとしているエネルギーの大きさから察するに、俺が食らってしまえば大ダメージは確実。魔王だからってダメージを受けないわけじゃないんだよなぁ……まったく、なんで天敵と俺はパーティーを組んでいるんだろうか。
「天を走り抜ける閃光を食らえー!!! エルジェ・レイッ!!」
《ボルゴブリン》を誘き寄せた時の【聖天術】だ。術式が展開し、最初の時よりも太い閃光が《ブレード・リザ》を飲み込んだ。それにしても、自分の名前を組み込むとは。
最初聞いた時も思ったけど。
自分のこと大好きなのか?
「ふいー、すっきりしたぁっと」
「お疲れ様。だけど」
「え?」
閃光に飲み込まれた《ブレード・リザ》はまだ立っていた。シュウゥっと、蒸気を出し、焦げながらも立っている。
「えええ!? 私、もう術を使えないんだけど!?」
「だから、最初から飛ばしすぎるとだめなんだよ。まったく」
ため息を漏らしながら、俺は残り体力の少ない相手にトドメを刺した。
そして、光の粒子となり消えていく。さすがのエルジェでも、余力がないと完全に消滅させることはできなかったか。
これを気に、力を温存することを学んで欲しいものだ。
「よし、これでクエスト終了っと。おっ? やったな、素材が落ちたぞ」
「マジ!? うわあ、本当だぁ! これで、報酬の三万五千ルドも手に入れて」
と、落ちた素材である《ブレード・リザ》の剣頭を手に持つ。
「えっと、どうするの?」
「売るんだよ。こういうレア素材は高く売れるんだ。もしくは、武器の素材にするとかな。だけど、俺達には金が必要だ。そういうわけだから、帰ったらこいつを売って金にする。そうすれば三万五千ルドだけじゃなくて、もっと手に入ることになるんだ!」
「おお! すごい! すごい! よーし! じゃあ、こんなダンジョンさっさと抜けちゃおう!」
「おうさ!!」
大金が手に入る。テンションを上げっぱなしで俺達はダンジョンを出て行くのだった。 それにしても、どうしていきなり自由依頼書なんて受けてきたんだ? ちょっと知能が足りていないだけだと思っていたけど、なんか引っかかるなぁ。




