第四話
「あの、このクエストお願いします」
「お願いしまーす!」
「はい、かしこまりました。討伐クエスト。ランクD。クリア報酬千五百ルド。討伐対象は《ボルゴブリン》四体ですね。パーティーメンバーはお二人でよろしいでしょうか?」
「……はい」
冒険者登録をした受付のお姉さんに依頼書を提出。
まだランクがDなのでクエストにかかる金額は0だ。しかし、ランクがCに上がったらちゃんと依頼書に書かれている金額を支払いクエストを受注しなくちゃならない。
Cまでギルドでサポートしてくれる、ということだ。まだ金があまりない初心者の冒険者にとってはとてもありがたいシステム。
でも、Cに上がったらそうも言ってられない。
クエストを受注する時に金がかかり、クエストに失敗したらその金は戻ってこない。
だから、慎重に。そして、自分の実力に見合ったクエストを選ばなくちゃならない。そうじゃなかったら、一気に金が減っていってしまう。
軽い説明をしたところで、今俺が置かれている状況を説明する。
俺は実に疲れている。
それはなぜか?
簡単だ。このアホ天使とパーティーを組んでクエストをやらなくちゃならないからだ。どうしてだかはわからないけど、エルジェは俺に懐いている。
というか、くっついて来る。
俺が、この討伐クエストを手に取った瞬間に「一緒にやろう!」と言ってきた。俺は無視して、隣にあった採取クエストを渡してその場を去る。
が、またもや背後から突撃。一緒にやろう! 一緒にやろう! と子供のように駄々を捏ねる。
周りに変な視線で見られる。
どうにかその状況を打破しようと考えた結果……一緒にクエストをすることに。もう何なんだよ。あれか? 俺がこいつに変に優しくしたせいで良い人だって思われたのか? 優しくしたって言っても、ほとんどが金関係のことだと記憶しているんだけど。
「受託しました。では、頑張ってくださいね」
「はい」
「おー!」
クエストを受託した俺達は、ギルドから出る。俺の斜め後ろでは、周りの目などお構いなしに低空飛行して移動をしているエルジェ。
いいなぁ、飛べるって。
「よしよし! 初めてのクエスト、頑張るぞー!!」
「頑張るのは良いけど、あまりやり過ぎるなよ?」
「どーいうこと?」
こいつは、自分の力がどれほど大きいか理解していないようだな。
「お前も自分で言っていただろ? お前は天使の中でも結構な力を持っているって。考えもなしにぶっ放せば色々とやばいんだよ」
「やばい?」
「ああ。例えば、地形が変わったり。自然に悪影響を及ぼしたり。あんまり調子に乗ってぷっぱはやめろよ?」
「うーん……わかった!」
本当にわかったんだろうか。低空飛行しながら、指を顎に当てて一瞬考えたエルジェだったが、あの顔はどうも信用できない。
こいつから感じられる力の波動。俺が悪魔になったからじゃない。
この波動は、かなりやばい。
よくあるが、アホな奴ほど結構強力な力を持っている。このアホ天使が、周りを気にせずに力を解放しないか心配だ。
(あれ? なんだか俺、いつの間にかこいつの保護者みたいになっていないか? おかしい……俺は仮にも魔王だ。それが天使を心配している? いや違う。俺はエルジェを心配しているんじゃない。俺は環境や周りの生物達を心配しているんだ)
チラッと、背後を見ると俺が渡した3000ルドで買ってきたサンドウィッチをおいしそうに飛行しながら食べているエルジェの姿が見えた。
呆れるほどに緊張感のない奴だ。
(大体、こいつが俺に付きまとわなければこんな考えもしなかったはずだ。そもそもの原因はこいつとかかわったせいだ)
「ねーねー、霊児ー」
「なんだ?」
つんつん、と肩を突かれる。
振り返ると、口元にパンくずを付けたエルジェの顔が目に入る。
「そういえばさ、霊児ってどんな武器使うの? 武器屋とかに行った素振りはなかったし、持っているようには見えないよね?」
「あぁ、そのことか。心配するな、ちゃんと持ってる」
「え? でも、そんなもの見えないけど」
説明すると、俺の中にある魔王の記憶からこの魔王専用の武器があることがわかったんだ。この魔王の記憶は完全に知り尽くしたわけじゃない。
共有しているとはいえ、他人の記憶。
なんだかブラックボックス的なところもあるんだ。
そのブラックボックスがなかなか強固で、今もなお開かない。どうやら、ブラックボックスは絆紡ぎし時、開くであろうと記憶にあったが……そのうち開くだろうと、いかにも強力そうな魔王専用武器を使わせてもらうことにした。
これで、節約することができる。防具も今身に纏っているもので事足りるしな。
「簡単に言えば、俺はもともと武器を持っていたってことだよ。そういうお前は、武器どうするんだ?」
「私は【聖天術】があるから大丈夫! 武器は必要ないよ! なんて言うか、私の武器はこの翼! かな?」
バサッと翼広げ上空へと飛翔。すぐに降りてきたエルジェは、満面な笑顔になる。
翼が武器、ね。
そういうのもありなのかな。それにしても【聖天術】か。魔王の記憶が正しければ、それは天界の住人のみが扱えることができる魔法のようなもの。
浄化系統から、攻撃系統までさまざまなものがあり、人間界の僧侶が扱うものより強力なのは確かだ。
悪魔やゾンビなどがそれを受けてしまえば…ひとたまりもないだろう。
だが、それも力の差で一発か耐えられるかになる。ちなみに今の俺は魔王であるが、この天使の浄化系統の術を食らえば……ちょっとやばいかもなぁ。
「へー、羽で攻撃するとかか?」
「翼で攻撃? なるほど! そういう攻撃方法もありかもね! 試してみよう!」
「試さなくて良い。それより、街を出たらいつでも魔物に襲われてもいいように構えておけよ?」
「ほーい」
注意はしたけど、一番注意しなくちゃならないのは俺のほうか。
大丈夫だ。
今の俺は普通じゃないんだから。ぎゅっと拳を握り締めて、俺は街の外へと向かった。
・・・・・・
広がる平原。見渡す限りの平原だ。向こう側に見える森。あそこに俺が居たボロ小屋がある。どうやら、結界が張られていたらしく普通に探しては見つけられない小屋だったらしい。
仮にも魔王の住処だ。
そう簡単に見つけられては問題がある、ということだろう。
そうじゃなくてもあのボロ小屋を魔王城だと思う奴なんて……いないだろうなぁ。
真正面が北で森がある。
そして東には洞窟。
あそこはダンジョンのひとつである【微闇の洞窟】だそうだ。初心者にぴったりなレベルの魔物が出てくるダンジョン。
冒険者や成りたての騎士などはあそこでよくレベルを上げたり、腕を磨くらしい。あれは、昔から存在するダンジョンで、定番中の定番のダンジョンだと言われている。
そして、西には崖が目立つ山。
あそこには、中級者ぐらいじゃないと倒すのが難しいモンスターが生息しており、そこじゃないと採取できない薬草なんかが大量にあるらしい。
噂では、どこかに隠し通路があって、そこを通れば秘密の花園が! みたいな。
本当かどうかはわからない。そこに辿り着いた老人がいるらしいけど、ただ行っただけ言ってばかりでどうやって行けばいいか道順を忘れているとのこと。
さて、後は南だが……南は俺達が出てきた大都市がある。
その奥には国境を越えるための場所があり、見たいな感じだ。
説明はこのぐらいだろう。
俺達の今回の目的は《ボルゴブリン》と呼ばれる。普通のゴブリンなのだが鳴き声がボルらしい。それで《ボルゴブリン》という名称に決定したという。
なんて単純な。
そんな魔物を俺達は今回討伐することになっている。初心者でも比較的倒しやすい魔物なので、難しくはないだろう。
ただ、奴らは集団行動が得意らしく。
調子こいて長期戦をしていると仲間を呼んでタコ殴りされるらしから気をつけたほうが良い。
討伐対象の《ボルゴブリン》は洞窟近くに生息している。洞窟近くに群がって近づいてくる者を襲う習性がある、とのこと。
なので、初心者が必ず戦うことになるモンスターなのだ。
「あれが《ボルゴブリン》って魔物じゃない?」
「……だな。お前、よくこんな遠くからすぐ気づいたな」
目的地に向かっている途中で、エルジェが指を指す。
その方向には確かに、四体も《ボルゴブリン》が存在していた。
「ふっふっふ。私は結構目がいいんだよ。それよりも、早く倒そうよ! 早くお金をゲットだ!」
「慌てるな。相手は四体。まずは、こっちに引き付けてだな」
「引き付けるんだね? よーし!」
と、翼を広げるとエルジェの周りに光が集まってくる。
「お、おい! まだ」
「エルジェ・レイ!!!」
魔法の方陣とは違った術式が描かれた陣が展開し、複数の光の線が《ボルゴブリン》めがけて一直線に飛んでいく。
「こんな距離から届くわけ」
ここから《ボルゴブリン》まではかなりの距離がある。
俺にはここからだと《ボルゴブリン》がぎりぎり形が見えるぐらいの距離だ。そんな距離から攻撃があたるはずが。
「届いたー!」
「えええ!?」
なんということでしょう。攻撃はぎりぎり届いたらしく、予想外の攻撃に驚いた《ボルゴブリン》は何事だと周りを見渡している。
そして、攻撃方向を見つめ、しばらくすると突撃していきた。
マジかよ。こんな距離から届くってどんな射撃性能しているんだ、こいつ。チラッとエルジェを見ると、どうだ! と言わんばかりにドヤ顔を決めていた。
「ほらほら! 届いた! 届いたよ!」
「あー、うん。そうだなぁ。これはかなり予想外だったけど、これでなんとかなるな。仲間を呼び出される前に全部叩くぞ!!」
「おうさ!」
さあ、戦闘開始だ。異世界に来て、魔王となぜか融合して、その力を振るわせてもらおうじゃないか。俺は腕を突き出し、念じる。魔王専用の武器を、内にある力を具現化させる。
光は両足に収縮し、形となっていく。
それは鋭く、紅い。紅蓮の輝き、熱く燃え盛る炎の如く。
これこそ、魔王専用の武器。
熱を操ることができる魔王セルヴィスの【紅魔の鎧脚】だ。




