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第三話

 この街は、まだ魔王の進攻が及んでいない。そもそも、魔王はどうやって世界を征服しようとしているのか? 記憶によると普通に魔物などに村、町、街を襲わせているとか。


 ダンジョンも魔王が増やしていっているらしく、冒険者達はダンジョン攻略にも神経を注いでいる。

 この世界に魔王は四人いる。

 まずは、今現在真面目に世界を征服しようとしている魔王。次に、平和主義者で世界の征服よりも世界の生物と仲良くなることを考えている魔王。 

 さらに、まったく働きたくないとニート状態の魔王……というか、まだ現時点は魔王ではないんだがな。

 最後に部下に闇討ちをされて死んでしまった、現在は俺と融合している形になっている魔王。


 この四人の魔王がこの世界を征服しようと……いや、どう考えても一人だけだよな。真面目に世界制服をしようとしている魔王らしい魔王は。

 他は、平和主義者やニートに間抜け、いやちょっとしたお人好し?

 ……この世界ってどうなっているんだろうな。

 しかし、魔王もそうだけど。


「なあ、どうしてお前は俺と同じ部屋に居るんだ?」

「えー! だってー、同室のほうが安くなるって宿屋の人が言ってたじゃーん」

「あのな……俺は、今日からここをしばらく拠点としてクエストをやっていくんだ。お前が、ここにいるってことはお前の分まで払わなくちゃならなくなるだろ」

「ふっ」


 おい、なんだその笑みは。まさか、このまま俺に支払わせる気なのか? 同室ということは二人分が一人分ちょっとで済むことになる。

 しかも、なんだよ。「男女同室は半額です」って! 明らかに勘違いしているだろ、あの宿主。

 確かに、宿の中に張ってある張り紙にはそんなことが書いてあったけど。

 明日にでも、ここから出ようかな。

 もう異世界にきてからこいつと一緒に行動してばかりだ。あの時かかわらなかったほうがよかったかもな。

 てか、どういう状況だよ。魔王と天使が同じ部屋で寝泊りするって。

 普通ならありえない光景だな。


「いいか? 今日だけは俺が支払ってやる。だけど、明日からは自分の分は自分で支払え」

「えっ?」

「おい、なんだその予想外の言葉を聞いたような反応は。当たり前だろ。なんで、知り合って間もない俺がお前の宿代を毎日支払わなくちゃならないんだ?」

「それは、仲間として当然のことでしょ!」

「勝手に仲間にするな」


 ウィンクをして親指を立てる。

 こいつ。俺が本当の魔王だって知らないからこんな接し方ができるんだ。もし、俺が天使の敵である悪魔の王だと知れば……やめておこう。

 まだ戦い方を慣れていないうちにやるのは危険だ。

 それに相手は悪魔にかなりのダメージを与える聖なる力を持つ天使。そして、自分で天界ではかなりの力を持った天使だと言った。

 最初は、まあただの自慢だと思っていたけど。俺の悪魔たるゆえに感じるものが今の俺は、確実に負ける。

 アホに見えて、かなりの実力者ということだな。


「よいしょっと」

「あれ? どこ行くの?」

「買い物」


 ベッドから立ち上がり、俺は出て行こうとする。

 まだ昼過ぎだ。

 少し腹も減ったことだし、昼食でも食べてからクエストに行くとしよう。


「とう!」

「……おい、どうしてお前も来る?」


 翼を広げて飛翔する。

 そして、俺の隣に降り立ったエルジェはやる気満々な表情になっていた。


「買い物なら付き合うよ!」

「付き合わなくていいって。お前は、お前のことをどうにかしろ」

「と、いいますと?」


 自分が宿代する払えないほどの貧乏だと自覚していないようだな。

 嘘を言っているようにも見えないし。


「お前は、まず金を稼ぐんだ。何のために冒険者になったんだ? クエスト受注はまだランクが低いものなら無料でできる。簡単な採取クエストなりなんなりでまずは金を稼ぐ、それが今お前がすることだろ?」

「なるほどねぇ。そういえばそうだね、うん」


 ボケているんだか、そうじゃないんだかわからないやつだな。


「そういうわけだから、じゃあな」

「うん」


 ガチャっとドアを開けて俺は部屋を出る。鍵をしっかりと閉めて、階段を降りて宿を出る。

 そして、そのまま街へと。


「……あのさ」

「え?」


 くるっと振り返り、とぼけた顔のエルジェを見る。


「なんでついてくる?」

「だって、買い物するんでしょ?」

「そうだけど」

「じゃあ、私も付き合うよってことなんだけど」

「お前、俺の言ったこと聞いてた? お前は、今すぐクエストをクリアして金を稼いでこいて言ったよな? なんで、買い物に付き合うことになっているんだ?」

「だって、買い物のほうが楽しそうだし! 私、人間界に来たことなんてなかったから結構うずうずしているんだよね~」


 翼をぱたぱたと羽ばたかせて、うずうずしているということを表している。

 あの翼は尻尾かなにかなのか? それにしても、人の話を聞かない天使だなぁ。

 どうしてくれようか。


「だったら、一人で行って来い。ほら、小遣いやるから」


 エルジェを引き離すために俺は、三千ルド。つまり千ルド札を三枚をエルジェに差し出す。

 それを素直に受け取った天使様は、パァっと笑顔になり翼が広がる。


「いいの!?」

「ああ。だから、俺についてこなくていい。お前は、お前の買い物をしろ。それからは、ちゃんとギルドでクエストを請けて自分の金は自分で稼ぐこと、わかったか?」

「ガッテン!! うはぁ! 三千ルドもある! 何を買おうかなぁ。どうしようかなぁ」


 これでよし。俺は、三千ルドで何を買おうか考えているエルジェを放って置いてその場を離れて行った。




・・・・・




 街はかなり賑わっている。

 魔王が世界を征服しているなんて嘘のような。

 というか、魔王そのものが街の中を普通に歩いて、食べ歩きをして、買い物をしているんだけどな。誰も、俺が魔王だと思うまい。

 結構目立つ格好だと思っていたけど。

 ここには多くの冒険者がいる。初心者から熟練者まで。防具を見れば、それがどっちかが少なくともわかる。


 俺の防具は、魔王らしいローブ? 魔王らしい制服? を着込んでいる。

 これしかなかったんだ。

 最初から着ていたこれしかな。おそらく闇討ちをされた際に、何もかもが盗まれていったんだろう。


 残ってたのは、自分が着ていたこの服と隠し財産というかへそくり。結構黒髪は珍しいらしいから、目立つはずなんだけど。

 別に目立ちたいわけじゃない。

 でもさ、せっかく魔王なんだからさ。もうちょっと目立ってもいいかなぁ、なんて思ったり思わなかったりして。


「おうおう! 人にぶつかっておいて謝罪もなしか?」

「おいおい。こりゃあ、完璧に折れてるぜ」

「あ?」


 果実に齧り付いていると、なんだかいかにも悪ですよという風貌をした男二人が女性に絡んでいた。女性は、尻餅をついてどうしたらいいか困っている様子だ。

 あんなの本当にいるんだな。

 異世界だからかな?


「あ、あのすみません」

「謝って済む問題じゃないぞ? 折れているんだからよぉ」

「こりゃあ、医療費を払ってもらわないといけないなぁ」

「そ、そんな! ただ、少し肩にぶつかっただけじゃ!」

「あぁん? なんだってぇ?」


 と、女性を威嚇していたので。


「おい」

「なんだ? って、いてててっ!? な、何しやがる!?」


 折れているであろう腕を捻った。

 すると、痛みで男は俺の捻りを振りほどこうと腕を振るう。


「なんだ。折れてないじゃん」

「こ、この!」


 殴りかかってきそうだったので、適当に回避して疲れさせようとしたのだが。


「警備兵さん! あそこです!!」

「そこの二人! 何をしている!!」


 どうやら、誰かが警備兵を呼んできたらしく男二人は「くそ! 覚えてやがれよ!!」とありがちな捨て台詞を吐いて、逃げ去って行く。

 警備兵はそのまま男二人を追い通り過ぎた。

 それを見届けた俺は、尻餅をついている女性にそっと手を差し伸べる。


「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます」


 女性は俺の手を取り、そのまま立ち上がる。


「いえいえ。困っていたから助けたまでです。それじゃあ、俺はこれで」

「あ、あの! お名前は」


 なんだか、こういう展開は名乗るのは普通なのだろうか。それとも、名乗らないでかっこよく立ち去るのだろうか。

 そんなキザな事は俺にはできないから普通に名乗ろう。


「俺は」


 と、言いかけた瞬間。


「おーい! 霊児ー!!!」

「……霊児です。それじゃあ!」

「あっ!」


 前方から接近してくる大量の食べ物を抱えたアホ天使に向かってロケットダッシュ。


「ねえねえ! 人間界の食べ物ってどれもおいしいね! 例えばこれなんだけど」

「がぶっ!!」

「あああ!!?」


 説明する前に、食べてしまう。

 うむ、これは良い歯ごたえだ。肉汁が口の中であふれ出て来る。これはなんだか白米が欲しくなるな。

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