第三話
「せい! はっ! そいや!!」
「え、エルジェさん。そんなに力強く叩いたら壊れちゃいますよ」
「えー? でも、強く叩かないと釘って打てないよね?」
今日も、太陽の日差しが心地いい晴天。そんな中で俺達は、久しぶりに討伐クエストや採取クエスト以外のお助けクエストなるものをやっていた。
お助けクエストとは、名前から察しがつくだろうが、巻き割りとか畑仕事とか猫探しとか……冒険者じゃなくてもできそうなことをするクエストだ。プロの冒険者や、早くランクを上げたい冒険者達はあまりやらないクエストなのだが、本当に初心者やゆっくりとしたい者達にはぴったりなクエストだ。
その中でも、俺達は先日の嵐のせいで壊れた家や村を囲う柵などの修復をするクエストを受注した。その嵐のことは俺達も知っている。丁度、討伐クエストをしている真っ最中に突然天気が悪くなってきたんだ。俺達は、クロの転移魔法でどうにか逃れたが、こうして村や町などに被害が及んでいる。
これを何とかするのが、冒険者としての勤めの一つだ。
「こうやってバランスのいい力で打ち付けるんです。ただ力強くではなく、リズムよく」
お手本とばかりにレリルが、金槌を手にクロが抑えている木の板に釘を打ち込んでいく。エルジェのやり方とは違い、リズムよく気持ちいいほどに釘が真っ直ぐ入っていく。対して、エルジェのほうは力任せにただ打ち付けただけなので、釘が曲がって打ち付けるはずの木の杭から外れていた。
「なるほど! こうやって……」
レリルのやり方を真似したおかげで、さっきよりも真っ直ぐ釘を打ち付けることができたようだ。
「あれなら大丈夫そうだな」
「そうだな。では、霊児よ! 俺は次の屋根へと向かう! さらばだ!!」
ちなみに、俺とキースは屋根の修復を行っていた。
「ははは! 元気のいい若者だね」
「元気だけはいいですからね、あいつ」
そうそう。当然のことだが、こういう修復作業には俺達のような素人だけではなく、専門の職人達も参加している。俺達のように知識がない者達だけではただ板を打ち付けるだけだと思ってしまうからな。経験者の指示をあおりながらやっている。
キースを元気のいい若者と笑いながら言ったのは、ここの修繕作業の責任者である親方さんだ。
「最近は、冒険者達もこういう作業のクエストをやらなくなってきたからな。君達のように率先してやってくれる冒険者は本当に尊敬するよ」
「これも冒険者の仕事ですから。お金を貰うからには、しっかりとやりますよ。っと、ここは終わりですね」
「よし、では次はこっちだ。ついてきてくれ」
「はい」
昔は、どんなクエストでも金を稼ぐためにやっていたようなのだが。時代が進むと、こういう地味なクエストをやらないで、魔物の討伐クエストを中心にやっていく冒険者達が増えてきたんだ。まあそれに、冒険者は冒険をするものだという意見もあるわけで。
こういった特定の場所で作業をし続けるのは冒険者としての役目ではないのだと思っているようだ。そんなことはないと思うんだけどなぁ。
「君達は、冒険者の中でも筆頭級の冒険者達と聞いていたから、まさかこんなクエストを受けるとは思ってもいなかったよ」
梯子を降りたところ、親方が正直な感想を言ってきた。確かに、俺達はいまや凄腕の冒険者と言われるほどになっていた。ランクにそぐわない実力者揃いのパーティーだと。
まだ冒険者になって二ヶ月ちょっとぐらいだが、メンバーがメンバーだけにそう思われるのは仕方ない。
「俺達は基本なんでもやりますよ。これが冒険者として当たり前なことだと思ってますから」
「うんうん。そういう考えはいいと思うよ。……ところで、話は変わるんだがね」
ん? なんだろうか。別の屋根に登ったところで、親方がなにやら深刻そうな表情で切り出す。
「最近、妙な連中がこの辺りをうろついているらしいんだ」
「妙な連中?」
そうだ、ここはクロの城がある地域だ。となると、親方が言う妙な連中っていうのはあいつらの仲間か?
「ああ。通り掛った旅人を片っ端から襲っているとか」
「それは、かなり危険な連中ですね」
「俺の同僚も仕事に向かう途中で襲われたそうなんだ」
「それで、同僚の方は?」
「かなりの深手だったようだ。今は、病院で療養中なんだ。今日も、仕事の前に見舞いに行ってきたんだ」
どうやら、これは本格的に暴れ回っているようだな。ルヴィアのほうも相当なようだが……。
「っと、すまねぇな。さ! 仕事するぞ!!」
・・・・・
お助けクエストはまだまだ続く。屋根や柵の修繕の後は、別の村で畑仕事である。こっちは嵐の影響はあまりなかったようだが、嵐の被害を利用して暴れている山賊達に、畑を荒らされたようだ。
それで、畑を耕す作業と山賊の退治……かな。
俺とエルジェは畑を耕し、レリル、キース、クロの三人はまだ近くに居るであろう山賊退治へと向かっている。山賊を倒すことで、追加報酬がギルドからくるのでこういうチャンスは見逃さず積極的にやっていこうと思う。
「えいさ! ほいさ!!」
「よーし、その調子だ。次はこっちの畑な!」
「ほい!!」
エルジェは、ともかく体力馬鹿だ。あれだけ地球でだらだらと堕落した生活を送っているというのに、全然衰えている様子がない。これの前も働いていたというのにな。俺も今の体になって、体力が化け物みたいになったけど。
普通なら、最初のクエストで結構疲れが溜まるはずだよなぁ、普通の人間だったら。
「ありがとうねぇ、冒険者さん達にこんなことさせちゃって」
俺達が畑を耕していると、畑の主であるおばあさんが申し訳なさそうに近づいてくる。そんなおばあさんに、元気いっぱいのエルジェが太陽に負けない笑顔でくわを天へと掲げる。
「大丈夫!! 私、体力だけはすごいから!! それに、牧場ゲームをやってたからずっと畑を耕してみたいなって思ってたんだ!!」
あー、だからすごいやる気を出していたのか。役割分担をする時に、やたらと畑担当をしたいってうるさかったなぁ。
「牧場がゲーム? よくわからないけど、そう言ってもらえるとちょっとほっとするよ」
こっちの世界にもゲームはある。しかし、チェスとかトランプとかそういうボードゲーム系だけ。他には魔法などを使うファンタジー世界だからこそできるゲームもある。なので、おばあさんには牧場とゲームの結びつきがどういうものなのかさっぱりなようだ。
「俺達のことは心配しなくても大丈夫ですよ。本当に体力だけはすごいですから」
「そうかい? でも、やっぱり心配だから後で何か食べ物を持ってくるからね」
「わーい!!」
それはありがたい。これで、より一層頑張れるというものだ。それから、三十分ほどが経ち山賊を倒しに行っていたレリル達が戻ってきた。
「帰還!! 山賊どもは一人残らず捕らえたぞ!!」
「やっぱり空間魔法は便利ですね。一度逃げられましたが、すぐ移動して捕まえることができましたからね」
しかしながら、その山賊達がいないようだが。
「山賊達は、私が先にギルドに引き渡してきた」
と、空間魔法で戻ってきたクロが言う。
「仕事が速いな。じゃあ、一仕事終えたところ悪いが、こっちを手伝ってくれないか?」
「了解だ!! 俺のくわ捌きを見せてやろう!!」
「……ちょっと土にマナが枯渇してますね」
さっそくキースが畑を耕そうとしたところで、レリルが土に触れてマナが足りないと言う。マナが足りないのか? ……俺にはよくわからないな。
精霊王であるレリルだからこそわかることなのか。
「マナが足りないとどうなるの?」
「このまま耕しても、育ちが悪く質も悪くなります。ですので、マナを譲渡します。少々お待ちください」
土に触れたまま目を閉じる。すると、レリルの体から大量のマナが溢れ出し、村中へと広がっていくではないか。
「これでいいです。さあ! 張り切って耕しましょう!!」
「そいやー!! どんどん耕すぞー!!」
それにしても……なんだ最近は嫌な空気っていうのか? そういうのが漂ってる気がする。ただのそういう感じがするってだけなんだけど。




