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第八話

 ロイスとルヴィアの一戦が終わってから、女子達は風呂に入ると言っていたのだが。


「まさか、先に入っていいよと言われるとは」

「まあよかろう。ルヴィアの魔剣のせいで、体が冷え切っていたからな。この温かみが体の芯まで染み渡るというものだ」


 女子よりも先に男子が入ることになったのだが、どうも引っかかる。あれだけの意気込みにも関わらず、俺達を先に入れるなんて裏があるんじゃないかと思ってしまう。ただ、キースの言うように【アシュレイ】の影響で体が冷え切っていた……まあ、俺は大丈夫なんだけど。

 一番影響を受けていたであろうロイスは、さすがに気持ちが良さそうだ。途中からは、聖剣の加護で護られていただろうが、最初はモロに受けていたからな。


「ふう……こんな大きな風呂に入るのは初めてだ。魔王ってのは、これが普通なのか?」


 軽く四十人は入れるであろう大浴場に浸かりながら、ロイスは俺達に問いかけてくる。


「違うと思うぞ。少なくとも、俺は違うからな」


 ただゼルファスの場合は、全ての記憶を受け継いでいるわけじゃないからもしかしたらあるのかもしれないが。


「俺の城も、ルヴィアに負けない大浴場を持っている。ただ、広いのもいいが。俺は地球にあるあのこじんまりとした風呂も好きだな」

「地球? なんだそれ」


 そういえばロイスは地球のことを知らなかったな。風呂から上がった後でも教えてやるか。丁度暇つぶしのためにゲーム機を持ってきてるし。


「その話はまた後だ。それよりも、どうだった? ルヴィアと戦ってみて」

「……強かった。その一言だな。世界を平和にするために、勇者として旅立って……誰よりも強くなるために鍛え上げたが、それでも勝てるかどうかわからない。あの時、お前達が止めたのはルヴィアが出そうとしていたものが関係しているんだろ?」


 ま、気づいてはいたか。ロイスは、静かに天井を見上げながらため息を漏らす。


「底知れないな、無敗の魔王っていうのは」

「あれだけ戦えたんだ。誇るべきだぞ、ロイス。あの剣を出させようとしたのは、百五十年ぶりだからな」

「百五十年か……」


 人間にとってはかなり長い年数だろうが、悪魔にとってはそれほどでもない。俺もゼルファスと融合して段々悪魔方向の考え方になってきているけど、ロイスの気持ちもわかる。


「さて、そろそろ上がるか。体も十分温まっただろ?」

「ああ、そうだな」


 そろそろ上がって女子と交代しなくてはならない。なんだかんだ二十分は入っていたからな。まだ余裕で浸かっていられるけど、女子達も体が冷えているだろうし……ん? この気配は。


「そうはいかないわ!!」


 近づいてくる複数の気配に、まさか!? と顔を上げた瞬間だった。タオルを体に巻いたルヴィアが、俺達の進行を妨げるかのように姿を現す。


「な、何入ってきてんだ!? まだ俺達上がってないだろ!?」

「あら? 何を言っているのかしら?」

「は? 何ってだから」


 やべ、視線が自然と下に行ってしまう。いかん、いかんぞ。ここで十五歳による思春期が発動してしまう。これは罠だ……落ち着け、落ち着くんだ。


「私は、先に入っててと言ったのよね?」

「あ、ああ。だから、俺達はこうして……ハッ!?」


 そこで俺は気づく。確かにルヴィアは俺達に先に入っていいよと言った。だからこそ、俺達は女子達よりも先に風呂に入ったんだ。 

 だが……別に、女子達が俺達が上がった後に入るなんて言っていないってことか!?


「いやいや!! そんなのありかよ!?」

「ふふふ。いいじゃない、裸のお付き合いよ」

「くっ! いったい何を企んでいるんだ!?」


 女の子好きのルヴィアが、男と混浴をしようだなんてまだ何かがあるとしか思えない。というか、さっきからキースとロイスの声が全然聞こえないんだけど。


「やっほー!! 私さんじょー!!」

「ばっ!? お前は、前を隠せ!!! アホ天使!!」


 湯気でギリギリ見えなかったので、俺はすぐ視線を逸らすことができた。ありがとう、湯気さん……! ルヴィアと言い争っている中、次なる刺客エルジェが現れた。相変わらず羞恥心というものがないのか、タオルも巻かずに入ってくる。

 

 そう、相変わらずというのは地球でも何度かあったのだ。俺が、一人でゆっくりと風呂に浸かっているところへ遅い! とばかりに我慢できずに突撃してくる。それを何度もレリルが止めていたっけ。


「え、エルジェさん! だから、せめてタオルを!!」


 こんな風に。なんてこった、レリルまで来てしまった。おそらく彼女は、強制的に連れてこられたんだろうな。普段はツインテールなのだが、風呂に入るんだ。束ねていた髪の毛は下ろされている。髪を下ろしただけだが、印象はやっぱり変わるな。

 ちょっと大人っぽく見える。


「くっ! 次から次へと!! お、おい! キース! お前から何か」

「霊児、もう遅い」

「はっ? なにが……キース?」


 さっきから何も喋らなかったキースに一発きつい一言を言ってやって欲しかったのだが、ロイスの静かなる声にキースを確認したところ。

 

「……」


 き、気絶してる!? しかも立ったまま、鼻血を大量に流して。ロイスは何とか耐えているようだが、こいつも少年だ。

 勇者と言えど、複数の女子の裸を前にして冷静では居られないだろう。


「そこへすかさず私も登場」

「どこから現れるんだ!?」


 最後の一人であるクロは、お得意の空間魔法で視線を逸らしている方向から現れる。


「ふふふ、さあこの布陣からお逃げになるのかしら?」

「だ、だから何をするつもりなんだ!」


 まるで、俺達を逃がすわけにはいかないような。これからいったい何がはじまるって言うんだ?


「何もしないわ。ただ一緒にお風呂に入ろうと思って。ねぇ? 勇者様」

「な、なんで僕に振るんだ?」


 何もしないは嘘だろ。その怪しい顔は絶対何かを企んでいる。


「クロちゃん」

「うん」


 ルヴィアが指示を出すとクロは空間魔法にて、ルヴィアをロイスの目の前に移動させる。


「な、なんだ!?」

「警戒しなくてもいいのよ。ふふふ」

「くっ! ……ぼ、僕は屈しないぞ!! 勇者が、悪魔の裸になんて!!」


 そうだ、我慢だロイス。ここで屈していたら、相手の思うつぼだ。


「ちらっ」

「ごはっ!?」

「ろ、ロイスー!?」


 しかし、タオルを少し取って肌をちら見せしただけで、ロイスは気絶してしまう。くっ! ロイスにはまだ耐性が少なすぎたか! こうなると残ったのは俺だけ。

 ロイスを撃退したことにより、ルヴィアはとても嬉しそうに笑っていた。


「私の勝ちー!!」

「お前、まさかこれだけのために?」

「さすがにそれはないわ。まあ、さっきの引き分けがちょっと悔しかったのはあるけれども、さて」


 ロイスを撃退したことで上機嫌になったルヴィアは、怪しい微笑みをしながら俺に近づいてくる。更にエルジェやクロまでもが俺を包囲するように動くではないか。

 ただ唯一の良心であるレリルは最後までどうしようかと悩んでいたが、恥ずかしがりながらも俺を包囲する。


「これで逃げ場はなくなったわ。さあ、仲良く一緒に裸のお付き合いをしましょう」

「こ、断る!!」


 確かに美少女達との混浴は男としては大歓迎だ。むしろ嬉しい。しかし! 片や鼻血を垂らして気絶しているキース。片やぴくぴくと痙攣して仰向けに倒れているロイス。こんな状況で一緒に入っても、素直に楽しめない。


「えー? どうして? 一緒に入ろうよー!」

「だから断るって言ってるだろ!」

「いつも私が体を洗ってもらってるから、今日は私が洗ってあげる」

「もう洗ったから別にいい!!」

「あ、あの……」

「レリル。付き合いは大事だが、時と場合を考えるべきだ」


 しかし、これはどうするべきか。逃げようにも、相手にはクロが居る。この包囲網を抜けたとしても、空間魔法で戻されてしまうだろう。


「……こうなったら!!」

「あら? 観念したのかしら」

「【熱血武装】!!!」


 こんな状況で導き出された俺の選択肢は、まず【熱血武装】を身に纏う。


「それで、どうするのかしら?」

「ふっ」


 俺は湯からまず出て、その場にどっかりと座り込んだ。


「お前達が出て行くまでこのまま黙ってる!!」


 鎧を纏うことで、肌を直接去られる心配もないし、熱を操ることで俺はいつでも涼しい環境で居られる。これで、相手のほうから出て行くまで耐える作戦だ。

 俺は【熱血武装】という名の城で篭城することにした。


「あらあら。これは大変ねぇ」

「霊児さんの【熱血武装】の強度はかなりのものです。それに、熱を操ることで自分は内は涼しく、外は熱くできるので、触ろうとしても火傷しちゃいます」


 うんうん、さすがレリルだ。その調子で他の三人にもわかりやすく説明して、早めに諦めるようにしてくれ。


「……しょうがないわねぇ」


 お? ルヴィアにしては早い諦め。


「【アシュレイ】」

「え?」


 どうもこの場にはあまり不相応なものの名前が出てきたので、目を開けると。


「なーんちゃって」

「ぐほっ!?」


 視界に映ったのは、とても豊かな胸からできる谷間さんだった……。一瞬、気絶しそうになるが俺はなんとか耐え抜いた。そうだ、俺が倒れてしまっては最初に倒れた二人に申し訳が立たない!


「あら? 霊児君は、少し耐性があったみたいねぇ。いったいどうしてなのかしら」

「し、知るか」

「私とエルジェのおかげ」

「ちょっ!?」


 クロさんや、何を正直に言ってるんですか。事実かもしれないけど、そんなこと言ったらルヴィアが調子に乗って。


「仲がいいのねぇ。羨ましいわぁ」


 いったい何が羨ましいのか。その後、俺はルヴィアを含めた女子達のあらゆる攻撃を耐え抜き、ほっとしたところで倒れるのだった……。




・・・・・・




「……霊児。何をやっているんだ?」

「ん? ああ、これか? これは、地球から持ってきたゲームだ」

「ゲーム? ……すごいな。こんな薄い板に人と魔物が動いている」


 風呂の騒動から一時間半が経った頃、男子三人はなんとか回復し客室で冷たい飲み物を飲みながら湯冷ましをしていた。

 俺は精神を安定させるために地球から持ってきたゲームをしている。 

 もうあれだね。完璧地球にいけるから、当たり前のように異世界でゲーム機を動かしているというな。

 なんていうかなぁっと思ったけど。

 隣では、地球のものに興味津々なようで、ゲーム機を物珍しそうに眺めている。

 ちなみにやっているのは狩りゲームだ。


「これが俺が言っていた地球の娯楽だ」

「地球か。僕も一度行って見たいものだ」

「来るか? クロに頼めば行けるけど?」

「そんな簡単にいけるのか?」


 別世界だと言うのに、簡単に行けるように言うのでロイスもたまらず目を丸くしている。


「まあな。今となっては、お前も仲間のようなものだからな。クロだって、きっと連れて行ってくれるさ」

「そうか。仲間、か。悪くないな。じゃあ、今度、連れて行ってもらうじゃないか」

「ああ。その時は、俺が地球の面白いものをみっちり教え込んでやるよ」

「ははは。よろしく頼む。……そういえば、キースはどうしたんだ? さっきから姿が見えないが」


 地球に行く約束をしたところで、ロイスがキースの姿が見えないことを言う。

 俺はあぁ、キースだったらと前置きをして、ある方向を指差す。


「ほら、あそこ見てみろ」

「あそこ?」


 応接間から見える、庭のような場所。

 そこには、キースの姿と数人の幼いメイド達が集まっていた。


「ふはははは! まだ幼きメイド達よ! 俺が特別に、十数えてやる! そのうちに精々見つからないように逃げくれるがいい!!」

《わー! 逃げろー!!》


 ……楽しそうだな、あいつ。キースは、高らかにいーち!! にーい!! と叫んでいる。もちろん目を瞑って。そんな普通ならばありえない姿を目の当たりにしたロイスは、苦笑するしかなかった。


「ははは。あれが、僕が倒そうとしていた魔王か。今となっては、もう倒す気にもならないな。どうやったら、あんなに変われるんだ?」

「絆の力ってやつかな?」

「絆か」


 ロイスは、心から楽しそうにメイド達と遊んでいるキースを見て、何かを思っているのか表情がとても穏やかだ。

 今の、この時間はとても平和だ。

 まさか、この平和な西で、今も尚謎の勢力がどこかを襲おうと考えているとは思いもできないだろう。


「ただいまー!」

「ふう、お風呂に入った後なのにまた疲れが……」

「あら? キースは……あらあら。楽しそうに遊んじゃって」


 そこへ風呂から上がってから、またどこかに行っていた女子達が戻ってくる。ルヴィアはとても満足気な表情をしており、レリルだけなんだか疲れているような表情をしている。

 エステでもしたのかな?

 俺は、女子達が戻ってきたのを見て、ゲーム機をスリープモードにする。


「よし。女子達も戻ってきたことだし。帰るか」

「えー!? もう帰っちゃうの~」


 俺の発言に、ルヴィアが不満げな表情で、エルジェに抱きつく。突然抱きつかれたが、驚くこともなく逆に抱き返している。


「まあな。ここには、謎の勢力が西に居るって伝えにきただけだし。それに、いつまでもここに居るのも悪いだろ?」

「私は、別にいつまでも居ていいと思ってるわ!」

「私、今日だけここに泊まってもいいよ?」

「エルジェちゃん! 好き!!」


 よかったな、魔王に好かれて。


「まあ、私もここに置いてある本を読んでみたいと思っていたので。今日だけなら」

「レリルちゃん! す」

「あっ、抱きつかないでください」


 エルジェ動揺に、ルヴィアが抱きつこうとしてくるが、エルジェに隠れることで回避した。


「霊児」

「……まあ、いいか。わかった。今日は、泊まっていこう。どうやら、キースもまだまだ遊び足りないようだし」


 ついにはクロに裾を引っ張られるので、俺は観念したように苦笑する。庭を見ると、今度はキースが逃げる側になっていた。

 それを聞くと、ルヴィアは明るい笑顔を見せる。


「うふふふ。それじゃあ、さっそくだけど……撮影会を再開するわ!!」


 パチン! と指を鳴らすと、あのメイド達が出現。

 一気にエルジェ達を取り囲み、多種なコスプレ用の服が用意される。そして、カメラをセットしたりともう何でもありだな。


「それじゃあ、僕達はどうする?」

「そうだなぁ」


 女子は撮影会。残った俺とロイスはどうするかと考えていると。


「我が親友霊児! そして、我がライバルロイスよ! どうだ? 暇ならば、俺達と一緒に追いかけっこでも?」


 などと、まだ幼きメイド達と一緒にキースが遊びの誘いに来た。メイド達も、すごく遊びたいという訴えの眼差しをこちらに向けてきている。

 追いかけっこか。


「どうする?」

「暇だし、たまには子供の純粋な気持ちになって遊ぶのもいいか。……よし! 参加するか!」

「じゃあ、僕も参加しよう。いやぁ、追いかけっこなんて何年ぶりだろう」

「よし! 参加者は揃った! では、ここに第二回! 掴まったら魔王の部下だぞ追いかけっこを開催する!!」


 なんだよ、その名前は。ただ情報を伝えにきただけだけど、一日中ルヴィアの城で大盛り上がった。明日からは、しっかりと冒険者らしいことをしよう。


「では! さっそく鬼を決めるためじゃんけんをする!! 皆の者! 用意はいいか!!」

《おー!!》

「やったるぞー!!」


 なんで、エルジェがこっちに加わっているんですかね。

次回第五章に突撃!

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