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第七話

「聖剣ねぇ。ふふ、面白くなってきたわ」

「ああ。ここからが本番だ」


 離れた場所からでもわかるこの輝き。ロイスの体から解き放たれた【パラディアス】は、悪魔には確実に毒であろう聖なる力が宿っている。

 勇者にこそ相応しい武器。


 いくらルヴィアでもあれに切られたら無事ではすまないだろう。ここに居ても嫌な感じがするからな。ルヴィアの場合はほとんど直で受けている。

 外面でも余裕そうな表情を見せているが。


「まさか、聖剣を所有していたとはな。さすがは勇者と言ったところか」

「むぅ、気分が悪くなる光」


 聖剣を抜いたロイスは、一度深呼吸をする。

 ぎゅっと柄を握る力を強め、開眼。

 動いた。


「はあっ!!」

「はっ!」


 ぶつかり合う聖剣と魔剣。

 二つの相反する力がぶつかり合った時、渦巻く二色のオーラが絡み合い、捻じ曲がり、弾けるように闘技場内へと溢れていく。


「あれ? ロイスの剣が凍ってない?」


 エルジェが、そこで疑問を漏らす。ルヴィアの扱う氷の魔剣は、その刀身に刻まれた術式を展開することで、相手を凍て付かせることができる。

 だがロイスの聖剣は凍り付いていない。


「おそらく聖剣の力によるものだろう」

「どういうこと?」

「【アシュレイ】の凍結効果は、魔法によるものだ。刀身に刻まれた術式を展開することで、魔法を発動。それにより相手を凍り付けにする。だが」

「ロイスさんの扱っている聖剣の魔なる力とは相反する聖なる力が防御壁のような役割を果たし、その魔法を受け付けないようにしている、ということです」


 そして、続きをメモ帳に書き込みながらレリルが言う。

 魔法は魔力により発動するもの。それが聖剣に宿る聖なる力によって、防がれている。だからロイスの武器は凍りつかないんだ。


「な、なるほど」

「エルジェ。理解したの?」

「と、当然だよ! つまり、えっと……ロイスの剣がすごい力で守っている! てことでしょ? 霊児」


 そこで、俺に振るか。てか、天使であるお前が聖なる力に関して、あまり知らないのはどうかと思うんだが。


「まあ、その解釈でも間違ってはいないな。ともかくだ。今のロイスは聖剣を手にしたことで、そう簡単に負けないようになったってことだ」


 今までは、ロイスとルヴィアの実力は互角だったが、武器の分ロイスがかなり押されていた。しかし、今となっては聖剣を手にしたことで、その不足分が補われている。

 さあ、どうするんだ? ルヴィア。

 何度も何度もぶつかり合う聖剣と魔剣。ルヴィアが【アシュレイ】を振り下ろす。が、それを盾で防ぎ、すぐさまロイスが【パラディアス】で攻撃をする。


 盾が凍りつかないのは聖剣による加護のおかげか。

 ルヴィアは聖剣の攻撃を一発でもかすったらアウトだ。

 悪魔にとって、聖剣は相当やばいのだ。

 それなのに。


「くすっ」


 ルヴィアは笑っていた。

 この戦いを楽しんでいる。

 命と隣り合わせのこの戦いを。


「どうしたんだ? 余裕がなくなってきているようだが?」


 距離を測りながら、ロイスが煽っていく。確かに最初よりは、ルヴィアが押されているように見えなくもない。【アシュレイ】唯一の能力である凍結効果も【パラディアス】の力によって効かないおで、ただの剣の打ち合いになっている。

 違うか。ただの打ち合いじゃない。ルヴィアは、一度でも食らったら大きなダメージを受けるという恐怖と戦っているため、ロイスのほうが優勢かもしれないな。


「あら? あなたには、そんな風に見えているの? おかしいわねぇ。私は、まだまだ余裕なのだけど。確かに、その聖剣の力は絶大。かすりでもしたら、悪魔にはかなりのダメージを与えられるでしょうね」

「わかっているじゃないか」

「ええ。わかっているわ。だって」


 くすっと、不敵に微笑み【アシュレイ】をロイスに突きつける。


「私は、聖剣を三本も折ったことがあるんですもの」

「なに?」


 これは大きく出たな。だが、事実ではあるんだよな。


「せ、聖剣を三本も折った? 本当なんですか?」


 ルヴィアの発言に、レリルは驚きを隠せないで居る。

 それもそのはずだ。本来聖剣とは他の武器と違って、簡単には折れない代物だ。

 あるものは、天より授かった。

 あるものは、人の命の輝きで造り上げた。

 あるものは、試練を超え、掴み取ったと言われている。


 聖剣は、普通では手に入らないし数も多くない。

 今現在、知られている本数は十にも満たない。その中の三本をルヴィアは折っている。それを聞いたレリルが驚くのも無理はない。


「本当だ。まだルヴィアが魔王に成りたての頃の話だ。当時のルヴィアは、今と違って戦うことしか生き甲のがない奴だった。今では、平和主義者になっているがな」


 懐かしいものだとキースは若干震えながら、エルジェ達に説明した。ゼルファスの記憶からだが、あの時のルヴィアはまさに悪魔の中の悪魔だったなぁ。


「昔は強い実力者を見つけては勝負を挑み、心を折るまで戦い続けていた。その時に、聖剣使いとも戦っていて」

「聖剣を折った」

「ルヴィアが」

「信じられませんね。あんなに温厚なルヴィアさんから想像できません」

「今はちょっと昔に戻ってきているようだぞ? 久々の強敵との戦いで、血が騒ぎ始めているようだ」


 ルヴィアは昔とは違い、無益な戦いはしない。ただ仲間が、大切なものが危ない目にあった時は剣を取り戦いに赴く。今のルヴィアは、ロイスという強敵と戦うことで昔の血が騒いでいるようだ。

 目つきが細く、口元も高揚感に合わせる様に釣りあがっていく。


「なるほどな。……だが、それで怖気づくほど僕は弱くない!!」


 そんな衝撃の事実を突きつけられても動じないロイス。

 地面を蹴り、ルヴィアへと恐れることなく突き進む。


「ふふ。本当に……面白い勇者さんだわ!!」


 正面からの攻撃。ルヴィアは【アシュレイ】を振り下ろし床に突き刺す。

 刹那。

 地面から大量の氷の刃が突き出てくる。真っ直ぐロイスへと向かっていく。


「甘い!!」


 ロイスも負けてはいなかった。【パラディアス】を地面へと振り下ろし、聖なる力を解放する。一瞬にして氷は高熱で溶かされたかのように水蒸気を発し消えていく。

 その水蒸気は周りを覆うように広がり、二人の姿が見えなくなった。


「わわ! 見えなくなっちゃった!?」

「ど、どうなっているのか気になります!」

「……む?」

「どうしたの? キース?」

「どうやら、この戦いもっと面白くなりそうだぞ」

「どういうこと?」


 水蒸気が徐々に消えていく。

 戦いの場が見えてきて、現れた二人の姿。

 どうやらまだ決着はついていないようだ。


「ふう。どうだ? 僕は……君に一撃を与えたようだが?」

「……」


 開口一番ロイスが言っていることは本当だった。

 いつの間にかルヴィアの頬に、ほんのわずかだが切り傷ができていた。

 キースが言っていたことはこのことだったのか……。


「あのルヴィアに傷を負わせるとは。やるではないか、ロイス」

「そうだな。でも」

「ああ。”ルヴィアを傷つけてしまった”な」

「え? え? どういうこと?」

「お二人は何を知っているんですか?」

「あれ」


 あまり俺達の言っていることを理解していないエルジェとレリルだったが、すぐにわかるとクロが静かに指差す。

 釣られるがままにルヴィアを見る。

 そこには、頬から流れる血を指で掬い、じっと見つめるルヴィアの姿が。

 しばし沈黙する空間の中、どうしたんだろう? と首を傾げるエルジェとレリル。


「ふふっ」


 ペロッと、掬った血を舌で舐め、ルヴィアが笑った。


「なっ!?」


 今まで温厚な瞳をしていたルヴィアだったが、次に開眼した瞬間、感じた事のない溢れんばかりの魔力が解放された。

 体全体から溢れ出る魔力は、凄まじい威圧をこちらにまで与えてくる。


「あーあ、やっぱりか」

「ふっ。久々に傷つけられたんだ。これは早めに止めないと」

《と、止めないと?》

「この辺り一帯が消し飛ぶぞ」

《ええええええ!?》


 魔力が溢れ出ているルヴィアは、【アシュレイ】を右手に持ったまま左手を真横にかざす。 

 すると【アシュレイ】を抜いた時のように幾何学な文字が描かれている魔法陣が展開し、剣の柄が現れた。

 ただ違うとすれば【アシュレイ】とは違い、真っ黒な……そうどす黒いオーラが溢れ出ている。

 そのオーラは、徐々にルヴィアを包み込んでいき……あぁよし、止めよう。


「いくぞ、キース」

「ああ。任せておけ」

「私も、行く」

「よし! 魔王三人! 突撃!!」


 あれを抜き放つ前に俺達は戦いの場へと突撃していく。

 何がなんだかわからないエルジェとレリルを置いて。

 俺は一瞬のうちに、熱血武装を身に纏いパワーを集束。


「弾けろ!!!」


 熱血波動をぶつけそのオーラを弾けさせた。そこからクロが、その大きすぎる力を空間を歪ませることで周りに被害が及ばないように結界のようなもの張る。

 残りのキースはというと。


「止めぬか、馬鹿者が」

「はう!?」


 ルヴィアにお灸という名の脳天チョップを食らわせた。

 短い声を上げて、ルヴィアは頭を抑える。

 さっきまでの邪悪な雰囲気から一変し、涙目になりながらキースを見て訴える。


「もう~。何するのー! キース!」

「ふっ。貴様が、調子に乗ってあれを使おうとするから悪いのだ。俺は、それを止めただけだ」

「まったく何してんだよ、ルヴィア」

「霊児君……」

「おいたはめ」

「クロちゃん……」


 魔王三人に叱られ、しゅんとするルヴィア。

 そこへ何がどうなっているんだ? と説明を要求してくるようにロイスが近づいてきた。


「まあ、とりあえずだ。この試合はこれで終わり。判定は、一撃を入れたロイスの勝ちってことで」

「ええっ!?」

「当たり前だろう。文句は言わせんぞ?」

「でも~!」

「あっ、ロイスの腕」

「え? 腕? ……いつの間に、怪我を」


 勝敗をどうするかと言い争っていたら、クロがロイスの右腕に切り傷があるのを発見した。

 もしかすると、ルヴィアも一撃を入れていたのか?

 そう考えると……。


「……しょうがない。じゃあ、この勝負引き分け!」

「引き分けかぁ。まあ、負けじゃないからいいかしら」


 いいのかよ。


「お前は、負けず嫌いだったな。そういえば」

「私とボードゲームした時も、勝つまでやるって言ってた」

「だって、負けるのって悔しいじゃない。はあ……それにしても、ちょっと疲れちゃったわ。それに汗もかいちゃったし……クーロちゃん」

「なに?」


 にこっと笑って、クロに抱きつくルヴィア。


「一緒にお風呂に入りましょう! エルジェちゃんも! レリルちゃんも!! もう、隅々まで体を洗ってあげるわ! さあ! お姉さんを受け入れなさい!」

「やだ」

「あぁん! いけず~!」

「まったく、さっきのあれはなんだったんだって変わりようだな」


 一気に毒気を抜かれたかのように、ロイスは聖剣を封印して頭を掻く。


「まあ、それがルヴィアのいいところでもある」


 ……そうだな。なにはともあれ、これにて勇者と魔王の戦いは終わり。決着というほどの終わり方ではなかったがな。

 あのまま行けば、本当に死闘になっていただろうから、これでいいんだ。


「エルジェちゃーん! レリルちゃーん! お姉さんと一緒にお風呂に入りましょーう!!」

「え? なんで?」

「まだ、そんな時間じゃありませんよ?」

「いいのよ~! ほらほら! うちの大浴場へごあんな~い!」


 元気に、女子達は去っていく。

 残された男三人は……待っていればいいだろう。


「よし、俺達は適当に待っていようぜ?」

「ああ。そうするとしよう」

「僕もそうするよ」

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