第五話
「まあ? あなたが、ゼルファスの後継者さん? まだ少年じゃないの」
「後継者ってほどじゃないよ。俺は、ゼルファスに命を救ってもらったようなものだし。その恩返しみたいなものかな?」
「だが、こいつにはゼルファス以上の何かを感じる。この俺を、友として迎え入れてくれた男だからな。寮児は。実力も申し分ないしな」
「あら? キースがそこまで認めた子なのね、ふふ。いい友達ができてよかったわねぇ、キース」
「ふっ。俺のこれからの目標は、友達百万人だ!!」
魔王ルヴィアの城に来て、俺達は応接間に迎え入れられた。今は俺のことや、ゼルファスのこと、その他、これまであったことをルヴィアに話している真っ最中だ。
それにしても、だ。通常のクロの自室が四個分以上はありそうな広さに豪華なシャンデリア、カーペット、ソファー、テーブル、暖炉などなど……もはや、王族の部屋に居る気分だ。
ソファーには俺、キース、ロイスの三人が座り、向かいにはルヴィア一人が座っている。
エルジェ達は、この城に入ってからどこかへと連れて行かれてしまったが、どこに行ったんだろう?
魔王ルヴィア=エスティアーノは、悪魔達の間でも五本の指に数えられる実力者。特に接近戦では負けなしという強さを誇る。
シルバーブルーのウェーブのかかった長髪に、ルビーをはめ込んだ瞳にちょこんとあるホクロ。
豊満なバストに細い腰、張りのあるヒップ。なぜかセーラー服を着ているのかが、すごく気になるが、詮索したらめんどくさそうなので触れないでおこう。
見た目は、優しさが溢れる年上のお姉さんなんだけど。……よく考えたら、俺の周りの居る年上の女性って、かなり奇抜な人が多いよな。
ユリアさん、リーさん、そしてルヴィア。ルヴィアも年上なのだが、対話する前に魔王同士で敬語っていうのも変でしょ? と言われて敬語を使っていないのだ。
「目標が大きいのは良いことだわ。ふふ。あら? どうやら支度ができたようね」
一通りの会話を終えると、誰かが入ってくる気配を感じた。おそらく姿を消したエルジェ達だろう。しかし、部屋に入って来た彼女達の姿は。
「……何をやっているんだ? お前ら」
各々違う服を着ていた。
「やっほー!! お待たせー!!」
エルジェは、ナース服。これぞ白衣の天使とでもいうのか。いや、実際天使だけど。ミニスカのナース服をばっちり着こなし、白ニースの間に出来る絶対領域が完璧だ。
それに、改めて見るとエルジェもユリアさんやルヴィアに負けない大きな胸を持っている。普段は、子供っぽく馬鹿な一面があるため忘れていたが、美少女なうえにスタイルも抜群なんだよな、こいつ。
「ちょっとこれ、スカートの長け短くありませんか?」
そして隣のレリルは、どう見ても巫女服ですね。しかも、レリルの言うように袴の長けが短い。というか、もはやミニスカートじゃないか。
緋色と白のシンプルな巫女服を、これでもか! というぐらいコスプレ用に改造した巫女服を身に纏い、くいくいと長けの短さを気にしているレリルは手で見えないよう抑えている。
頬を紅潮させているので、かなり恥ずかしいのだろう。
「皆良く似合ってる」
最後に、クロだけど……うん。どう見ても小学生だね。可愛らしいフリルの付いた洋服に同じくスカート。白黒の縞々なニーソとブーツ。そして、極め付きには赤いランドセルを背負っている。 まだ十二歳だけあって、似合いすぎるほど似合っている。
「なんで、コスプレしているんだ? それに、どうしてエルジェとレリルだけ学生風じゃないんだ?」
「私の趣味よ!!」
「あっ、そうですか」
ルヴィアが興奮した表情で断言するので、俺は反論せずに静かに引き下がる。どこかへ消えたと思ったらコスプレをしていたとは。
ルヴィアなら何をすると思っていたけど、予想通りだな。
「てか、このコスプレ衣装をどこから? どう見ても、この世界にあるものじゃないだろこれ」
この世界にはランドセルもなければ、巫女服だってない。ナース服はギリギリあるかもだけど。明らかにこっちの世界に存在するものとは思えない。
……いや、待てよ。まさか! とクロを見た刹那。
「クロちゃんから貰ったのよ!!」
「ぶい」
はい、予想的中。クロは、どう? と言わんばかりに俺にピースサインを送ってくる。
「そういうことだったのか」
クロが、ルヴィアに届け物があると言っていたのは、これのことだったわけか。
本当に、クロは変わったな。嬉しいような、嬉しくないような……複雑な気分だ。
「あ~ん! 三人とも! もっとこっちを見て! はい! そこで笑顔! うんうん! いいわ!! お姉さん興奮してきたわー!!」
なーんか、こういう光景どこかで見たような。
「褒められるとやっぱり嬉しいね?」
「た、確かに嬉しいですけど。なんだかあの興奮具合が怖いです……どこかで味わったようなあの怖さが……!」
「もうトラウマなっているようで。ご愁傷様」
素早い動きで、カメラのシャッターを切るルヴィア。いったいどこでカメラなんて手に入れたのかは、まあ聞くまでもない。
だが、これでは話が進まない。
「ルヴィア。そろそろここに来た本題に入りたいんだけど」
「はい! そこでくるっと回って!」
「む、無理ですよ。こんな短いので回ったりしたら、見えちゃいます!」
「それがいいのよ! スカートからのチラリズムが堪らなく欲求を駆り立てるの!! あぁ、でも! その恥ずかしそうにスカートを押さえつける姿もいい!!」
おや? 俺の言葉は届いていないようだ。
「そろそろ、本題をだな」
それでも負けじと喋り出すのだが。
「エルジェちゃん! そこで、こう前屈みになって! 人差し指をこうよ! そしてそこで「こら! 怪我しているのに無茶して! あんまり言う事聞かない子は、天国に連れて行っちゃうぞ!」って、甘い声で!! 且つ可愛らしくも怒った表情で!!」
なんだその欲望丸出しな要求は!? というか、怪我を治すナースが天国に連れて行っちゃだめだろ!
「えっと、こうかな?」
「そうよ! はい! そこで、さっきの言葉を!」
「こら! 怪我をしているのに無茶して。あんまり言う事聞かない子は天国に連れて行っちゃうぞ!」
おっと、これは素直に可愛い。不覚にも、ドキッとしてしまった。素材が完璧な分、アレンジをすればこうも違うとは。出会った当時は、あんなにうざかったのになぁ……あぁ、懐かしい。
「素晴らしいわ!! さっきのは、ちゃんと映像と音声、そして写真に収めておいたから!!」
あっ、いつの間にかメイドが増えてる。一人が映像機を構え、また一人が音声機を構え、そしてルヴィアがカメラを構えている。なんて完璧な布陣なんだ。
「そろそろ」
本題にだな。
「クロちゃん。もっとランドセルを両手で包むように! そして、上目遣い!」
「こう?」
「バッチリよ!! やっぱり、可愛い子を眺めている時が至福の時間だわ~!!」
……ふっ。ここまで、無視されたのは初めてですよ。だが、俺は怒らない。冷静になるんだ。
大らかな心持で居るんだ。
「さーてと、そろそろ」
終わりか? カメラを下げたので、撮影が終わったと思い再度話し合いの続きをしようと提案するが。
「ああ。そろそろ、本題に」
「次の衣装に着替えに行きましょう!!」
「ちがーーーーうっ!!!」
遂に叫んでしまった。いや、叫ばずには居られなかったんだ! さっきまでのクールになっていた俺よ、早いお別れだったな。
「あら?」
さすがに、俺の魂の叫びは響いたようで、ルヴィアはやっと俺のことを見てくれた。
「違うだろ! そこは!! そこは、そろそろ俺達がここに来た理由を聞こう、じゃないのか!?」
「今まで叫ばなかった霊児はすごいと思うぞ、僕は」
「さすがは、我が親友だ。まあ、ルヴィアよ。そろそろ話し合いに戻ろうじゃないか? 撮影会はまた今度にしてくれ」
そう言って、両隣に座っていた男達が俺をフォローしてくれた。それが効いたようで、しょうがないわねぇ、とメイド達にカメラを預け、パチン! と指を鳴らす。
すると、メイドがお菓子と紅茶などを運んできた。
「ごめんなさいね。つい興奮しちゃって。周りが見えなくなっていたわ」
本当だよ、まったく。
「ふう……俺のほうこそ、叫んで悪かった」
魂の叫びを出したことにより、また冷静になった俺は一礼する。
「いいのよ、謝らなくても。私が悪かったわけだし。それよりも、お話のほうお願いできるかしら?」
紅茶の入ったカップを手に持ち、笑顔で言う。俺も、目の前に置かれたお菓子を摘み首を縦に振って、ここに来た理由を話した。
最近になって謎の集団が現れ、村や町を襲っていること。そして、それを阻止するためにギルドから派遣された部隊が全滅したこと。
その勢力が今西に居ることを。全てを話し終わると、ルヴィアはカップを置いてから、そうと頷く。
「前々から、そんな報告はあったけれど。まさか、そこまで大事になっているなんて」
「ルヴィアさんは、やっぱり知っていたんですね」
「一応はね」
さすがにルヴィアの耳に入ってこないわけがないか。
「でも、その謎の勢力って本当に何なんだろうね?」
「それがわからないから、謎なんだと思う」
「まさか、俺から離れていった部下達が? いや、あいつらにそんな力あるはずは」
そういえば、キースの元部下達って今何をしているんだろう? キースは何も言わないけど、今の言い方だと気にしていないわけじゃないようだが。
「僕も、街の人から聞いた。女子供かまわず殺していく残虐非道な集団だって」
ロイスの発現に少し空気が重くなる。
いったい、どんな奴らなのか。そして、何をしたいのか? ただ殺しを楽しんでいるの狂った奴らなのか? まだまだ情報が少ないから、なんとも言えないが、放置はできないのは確かだ。
「とりあえず、わかったわ。こちらから偵察を出して調べさせてみるわ。教えに来てくれてありがとう」
「別に、大したことじゃない」
「さて、それじゃあ……撮影会に戻りましょうか!!」
話が終わったところで、ぐわっと雰囲気が一変。先ほどの興奮状態のルヴィアに変わり、すかさずメイドがカメラを差し出す。
だがしかし、それを止める者が居た。
「待ってくれ」
「……何かしら? 勇者さん」
ルヴィアを呼び止めたのは、ロイスだった。静かにソファーから立ち上がり、鞘に収まっている剣をルヴィアへと突きつけた。
おいおい、いったい何をするつもりだ?
「君は、接近戦では負けなしと聞いている」
「ええ。確かに、私は負けたことはないわ。それで……何を言いたいのかしら?」
ルヴィアも、何を言いたいのかを察したようで、カメラから手を離してロイスと向き合う。
「魔王ルヴィア。僕は、君に剣の勝負を申し込む」
お前は、いきなりなにを言い出すんだ? 今のロイスの顔は、強敵に出会えたという嬉しそうな顔だ。
お前、そんな戦闘好きだったっけ?
「ふふ。面白いわね。この悪魔の王たる私に勝負を挑むなんて」
「悪魔の王だからこそ、勇者である僕は挑みたいんだ。自然だろ? 勇者と魔王が戦うのは」
確かに、そうだけどさ。それにしても、ロイスにはなんだかんだで誤魔化していたような気がするけど、気づいていたんだな。
「まさか、ルヴィアを殺すつもりか?」
と身構える俺だったが。
「本来なら、勇者である僕は敵である魔王を倒さないといけない。でも……旅をしていたおかげで、悪魔にもいい奴がいるってことは知っていたからな。殺すんじゃない、倒すんだ」
そうか……悪魔だからって全てが悪だって決め付けるような奴じゃないとは思っていたけど。いい奴だな、お前って。
「それで? 受けてくれるのか?」
「もちろん。……受けてもいいわ。私も丁度、勇者の実力ってものを見たかったし。でも、ひとつだけ忠告しておくわ」
「なんだ?」
それはとても気持ちいい笑顔だった。眩しいはずなのに、どこかどす黒いものを感じる。
そんな笑顔で、ルヴィアはこう忠告した。
「死んじゃったら、ごめんなさいね」
「残念だけど、僕は死なない。勇者は魔王には負けないからな」
まるでロイスが負けるような発言に対し、ロイスも負けじと大きく出る。
まさか、こんなことになるなんて。二人の間に見えないはずの火花を散っているように見える。
これが、勇者と魔王の宿命だとでも言うのか。
「これは大事になってきたな、霊児」
「だな。どうなることやら」
「どっちが勝つんだろうね?」
「ロイスさんの実力はこの目で見ましたけど、あれで本気じゃないのは私でもわかりました」
「ルヴィアもあまり本気で戦ったことがないから、お互い未知数」
本当に、どうなるんだろうなこれから。




