第四話
「《フレア》!」
しかし、魔法は発動しなかった。どうやら俺はフレアを覚えていないようだ。
「うわ!? ど、どうしたの? いきなり魔法なんか唱えだして」
それは、いつものようにクエストで街を出てしばらくしてのことだ。俺はあることに気が付いたんだ
「いやさ。俺達って全員が【特異職業】だろ? 各々が普通の職業が使いそうなスキルを使っていないなぁと思って」
「確かに、私達は普通のスキルを使ったことがありませんね」
そもそも俺達は冒険者システムにおいて、発現するスキルというものの恩恵がない。【特異職業】と言っても、俺達は元から持っているスキルを使っているに過ぎないのだ
「【特異職業】であるがゆえに、普通のスキルはない。それが特徴だとユリアが言っていた。まあ! 俺は普通のスキルがあろうと【詠唱魔法】を使い続けるがな!! 現代の魔法はどうも俺には合わない!!」
確かに俺達は、他の冒険者とは違い職業が特殊だ。それにより、皆が使っているような普通のスキルを今まで使わずにというか、使えないで居た。
キースも言っていたが、俺達のような【特異職業】になった者達は、普通のスキルが使えないというのが普通なようだ。たまに使える者も居るようだが……。
俺の場合は、魔法を扱うことができるので一通りの魔法はある。だが、それはゼルファスが元から覚ええていた魔法だ。冒険者システムによる共有の魔法ではない。第一スキルというものは、魔法が扱えない者や剣技などを扱えない者達に戦えるようにと生み出されたもの。
そう。冒険者になれば誰でも魔法や剣技が使えるようになるんだ。……本当に、こんなシステムを作った奴って何者なんだろうな。まさか神様とかってオチじゃないよな?
「すまん。変なことで時間を取らせちゃったな」
「気にしない気にしない!」
「どんなに小さな疑問でも気になるものは気になってしまうのは仕方ないと思います」
「そんな疑問を仲間と一緒に解決すれば、大丈夫。ね?」
「だな。よし! 疑問も解決できたし! 今日もクエストを頑張るぞ!!」
《おー!!!》
そんなこんなで、俺達は今回のクエストをクリアするためのものがある場所へと到達し。
「見つけたぁ! これで三個目!!」
のんびりと採取クエストをしていた。今回の依頼は、必要な分だけのキノコを集めるという単純なもの。ここ最近キースが早く俺達に追いつきたいと討伐クエストばかりをしていたので、たまにはこういうのんびりとしたものをやろうと俺が提案したのだ。
「待つがいい! エルジェよ!! それは毒キノコだ!!」
と、発見したキノコを籠に入れようとしたエルジェに指摘するキース。
「え!? そ、そうなの!?」
「明らかに色が毒キノコって色だろ」
エルジェが掴んだキノコの色は紫色の水玉模様がついているものだ。大体紫って毒のイメージだからな、それに今回依頼されたキノコは渦巻き模様があるキノコなのだ。
明らかに違うのに採取しようとしたのか、この天使は。
「このキノコは、食べると神経麻痺を起こすものだ。ちなみに、この水玉に触れるだけでも痺れが出る」
「あ、危なかったぁ……あっ、でも私毒も効かなかった!!」
そういう問題じゃないだろと思いつつ、俺はキノコを採取する。
「エルジェさん。このキノコも毒キノコですよ」
どうやら心配になったレリルが、エルジェの籠から新しい毒キノコを発見したようだ。
「え? でも、これ渦巻き模様だよ?」
レリルが籠から取り出したキノコは、確かに今回の依頼で頼まれた渦巻き模様のキノコ。ウルルダケと言って、煮込むととても美味な味を出すキノコだ。ただ生えている場所がかなり特殊な場所で、よく魔物が多く生息する場所などに生えているんだ。
その理由としては、魔物が生息しているところに生えているからこそ生命力と旨味が濃縮しているそうだ。
「よく見てください。このキノコは渦巻きが逆巻きです」
「……おー」
レリルが見せてくれた図鑑と自分が採取したキノコの渦巻きを見比べて、納得したような声を漏らす。エルジェが採取したキノコの渦巻きは、どうやら俺たちが採取するはずのウルルダケの特徴たる渦巻きとは逆に渦を巻いていたようだ。
俺でも気づかなかった……あっ、これ逆巻きだ。
「ぬ!? 見るがいい、皆!! このキノコを!!」
「どうしたんだ?」
皆で相談しつつ採取を続けていると、キースが突然騒ぎ出す。どうしたのかと、俺達は作業を中断してキースの下へと向かった。
「はっはっはっは!! 今日は実に運がいい日だ!!」
そこには、やたらと小さなキノコを手に持って高笑いしている魔王様の姿が。
「その小さなキノコがどうかしたのか?」
「小さ過ぎて、あまりお腹膨れなさそうだね」
知識のない俺とエルジェは、ただの小さなキノコじゃないかと反応するが、知識ある者達は驚いた表情をしていた。特に図鑑を持っているレリルは、身震いするほどのようだ。
「そ、その野草は!?」
「え? キノコじゃないの?」
「いえ! キノコのように見えますが、これは【キノコ草】と言って、キノコの形をした野草なんです!!」
「それで、この野草はどうすごいんだ?」
正直、知識がないと本当にただの小さなキノコにしか見えないのだ。どれだけ小さいかと言えば、クロの掌ほどだろうか。一口で平らげられそうなほどに小さい。
「うむ。この野草は非常に入手難易度が高く、見つけられたとしてその多くはぐちゃぐちゃな状態で見つかるのだ」
「まあ、これだけ小さいと気づかずに踏みつけられそうだもんな」
「しかし! 俺が見つけた【キノコ草】は健在!! 見るがいい! この光沢! 長い根っこを!!」
そういえば根っこがあるな。キノコみたいな笠部分だけ見てた。
「この【キノコ草】の使い道は二通りあります。根っこを煎じて薬にしてもよし。根っこ以外のところは具材にしたり調味料などにもなります」
「でも、結構小さいからひとつだけじゃ」
「だからこそ、貴重なんです。もしこれで二つ、三つなんかと複数個手に入れられれば」
そんな都合のいいことが起こるわけが。
「見つけた」
「なんだと!?」
今まで会話に参加せずに何をしているかと思っていたが、クロの両手には四つほどの【キノコ草】が。
「ふむ。これだけあれば薬剤師や料理人に高く売りつけることができるだろうな」
「ですが、そうなると私達の分がなくなってしまいます。まずは、まだないか探し出してから話し合い続けましょう!」
「そうであるな!! では、探すぞレリル、クロ!!」
「はい!!」
「任せて」
……あれ? 俺達ってウルルダケを探しに来たんじゃなかったっけ?
「エルジェ」
「なに?」
「俺達は、ウルルダケを探すか」
「いいよー」
そんなこんなで、俺とエルジェは冒険者としてクエストをクリアすべく必要な数のウルルダケを採取するのだった。
・・・・・・
無事採取クエストを終えた俺達は、難なく帰還した。そのおり【キノコ草】の捜索に熱が入っていた三人は、その成果もあってか【キノコ草】をあれから更に四つも見つけ出したという。これで、半分は換金し、残り半分は自分達で調理したり、調合などに使えるのでかなり上機嫌だ。そして、ギルドに戻ると空気が重いことに気づく。
いつもなら楽しく酒を飲んだり、肉を食べたり、笑いがあったりしているはずなんだが。
「ユリアさん。クエストが終わりましたけど……何かあったんですか?」
「あっ。霊児さん。それに皆さんも」
いつものように、受付のユリアさんに報告をしつつ、何があったのかと問いかける。
「謎の勢力が、無差別に村や町などを襲っているらしいんです。それを止めようと中央ギルドから派遣された部隊が……その全滅したと今報告がありまして」
なるほど、それで。
「中央ギルドからの部隊が全滅? それは穏やかではありませんね」
「中央ギルドから派遣される冒険者となれば、かなりの腕の持ち主のはずですが」
「それが全滅とは。その謎の勢力はいったいどれほど強いというのだ?」
中央ギルドから派遣されるとなれば、実力者を認められた精鋭部隊だろう。その部隊が全滅となれば、確かにこの空気も頷ける。
「それで、その勢力は今どうしているんですか?」
「今は、西にあるハルタという町で止まっています。ですが、いつまた動いて村や町を襲うか…」
「西、か。霊児、クローナよ」
「どうした? キース?」
シリアスの空気の中、キースが何かを思い出したかのように話しかけてくる。
「西といえば、奴の城がある方向のはずだ」
「奴? ……あっ」
そういえばそうだったな。俺もすっかり忘れていた。
「なるほど」
西に、奴の城。そのキーワードに当てはまる人物を俺は、いや正確にはゼルファスが知っている。ゼルファス関係といえば……魔王だ。
つまり、西にはゼルファス、クロ、キース以外の最後の魔王……ルヴィアの城があるんだ。
今、謎の勢力は西に居るということは、西に住んでいるルヴィアにそのことが知れ渡るはずがない。
「ルヴィアなら、問題ないと思うけ…。ちょっと気になるな」
その後も、エルジェやレリルから距離を取って、魔王三人だけで、内緒話を始める。
「奴なら、どんな敵だろうとなぎ払いそうだが。一応、確認するだけ確認してみようではないか」
「私も丁度ルヴィアに会う予定だったから、いいと思う」
「ルヴィアと? いったい何のために?」
「届け物」
「届け物?」
いったい何を届けるのだろうか。そもそもルヴィアとあまり交流をしているなんて知らなかったぞ。あっ、でも時々一人で出かけることがあったっけ? 俺はクロも成長したんだと嬉しそうに見届けていたけど、その時か?
魔王ルヴィア=エスティアーノ。
四大魔王の中では、平和主義者の一角……と言っても、今となっては四代魔王全員が世界を侵略しようだなんて思ってもいないだろうけど。
接近戦ならば、魔王の中でも最高クラスで、未だかつてルヴィアを倒した者はいないと言われている。それに加えて、ルヴィアの城に仕えている者達もかなりの実力者だらけだから、攻められても問題はないだろうが、やっぱり気になってしまう。
それに、霊児としては初対面なわけだし、一応挨拶をしにいかなくちゃな。
「じゃあ、ルヴィアの城に行くって事決定か?」
「うん」
「うむ」
「後は、あいつらか」
ルヴィアの城に行くのはいいが、問題はエルジェとレリルだ。
別に、魔王だからとかそういう理由はもう関係ない。
他に問題があるわけで。
「あの二人なら大丈夫であろう」
相変わらず仲間を信じきっているようで、嬉しい限りだよキース。
「二人は置いていけない。仲間として、友達として」
「俺もクローナに同じだ。大丈夫であろう。なに、殺されるわけでもない。一緒に連れて行ってやろうじゃないか」
「……だな」
そうと決まれば、二人にこのことを伝えるとするか。内緒話を終えた俺達は、二人を呼びこのことを伝える。
二人は、うんうんと頷きながら興味ありそうに口を開く。
「四人目の魔王かー。どんな人なんだろう! あれ? どんな悪魔? 魔王? まあいいやどっちでも! それよりも、今すぐ行くんでしょう! だったら、早く行こうよ!」
「ですが、何の連絡もなしに訪問していいのでしょうか?」
さすがは常識人レリル。最近は、エルジェなんか毒されてきたから心配だったけど。大丈夫みたいだな。
「それなら大丈夫。元々ルヴィアのところに行く予定だったし」
「らしいぞ。それじゃあ、クエストクリア報告をしたら、さっそくいくぞ」
クエストクリア報告を忘れずに、報酬はちゃんと受け取らないとな。それが冒険者としての役目だ。
・・・・・・
「到着」
「わー! 大きいねー!!」
「ふっ。俺の城には負けるがな」
「俺の城なんて……」
到着早々、悲しみに陥った俺だったが、すぐに回復。
あのボロ小屋(魔王城)のことを今、このでかい城と比べられると悲しみが俺を襲う。
どうして、ゼルファスの城はあんなボロ小屋なんだよ! 記憶によればもっと大きな城があるじゃないか! そんなところまでブラックボックスで知ることができないし、どうなってるんだ!?
おかしいだろう? なんで隠す必要があるんだ?
「あれ? 霊児達じゃないか」
「ロイス? ロイスもルヴィアに会いに来たのー?」
悲しんでいると、突然勇者ロイスが現れた。あれ以来、ロイスは街に滞在して資金を稼いでいる。
何度もクエストを共にしているんだ。
だが…どうしてロイスがルヴィア城前に?
「ルヴィア? いや、僕はギルドに向かおうとしていたんだが……気が付くとここに居たんだ。そうしたら、霊児達が居るから声をかけたんだよ」
「まさか、空間迷子!?」
「ほう。迷子とは空間を越えることができるのか……それはすごいではないか」
などと、俺とキースが驚いているが。
「違う。空間転移する時に、偶然ロイスが近くに居ただけ。転移する時に、誰かが介入してきた感じがしたから。そうだと思う」
「お前。偶然にしてはすごいよな」
「ロイスよ。さすがは我がライバル! 空間干渉による偶然の転移とはな! 気配する感じ取れなかったぞ」
「いや、そんなことで褒められても嬉しくないんだけど……てか、本当にここどこだ?」
褒められているのに全然褒められていないという微妙な反応をするロイス。そもそも、ロイスにとってはここがどこなのかが気になってしょうがないようだ。
さて、そんなロイスのためにもさっさと門を潜ろうじゃないか。
「お前ら、気を引き締めろよ」
しかし、門を潜る前に気を引き締めなくてはならない。
「わかってる」
「俺は常に気を引き締めているから、大丈夫だ」
「いったい何があるんだろうね?」
「さあ?」
「僕も行く流れなのか? これ」
目の前に聳え立つ大きな門にぐっと力を入れると、まるで自動だのようにすーっと開いていく。そして、視界に広がる光景は。
《おかえりなさいませ!! ご主人様!!》
城の入り口まで続くメイド達の道だった。いや、それだけじゃない。俺達が入るやいなや城の扉が勢いよく開き、そいつが出てくる。
「ようこそ! ルヴィア城へ!! お姉さんが大歓迎しちゃうわ!! 特に、可愛い女の子を!!!」
出てきたのは、なぜかセーラー服に身を包んだ最後の魔王ルヴィアだった。
こ、これは予想外過ぎる!?




