第三話
「ふっ。あの程度の魔物など我らの敵ではなかったな!」
「キースの魔法ってすごいねぇ。派手だし、詠唱もかっこいいし!」
「現在の魔法は簡略化されて、魔法名を宣言し、その分の魔力を練り上げることで発動できますが。キースさんのは【詠唱魔法】と言って、呪文詠唱をしないと発動しません」
「キースのは、詠唱することで時間はかかるけどその分、破壊力が違う」
キースが使う【詠唱魔法】というのは、大昔にあった最古の魔法だ。ファンタジーのイメージとしては、やはり呪文詠唱して魔法を発動させるというのが定番だろうが、俺達の世界では呪文詠唱などせずに魔力を練り上げ、魔法名を宣言しただけで発動することができる。
「我が、魔法は強大にして至高! 詠唱なくして、魔法などとは言えん!! ……む? このポテトはなかなかうまいではないか。すまない! そこのウェイトレス! ポテトのおかわりを頼む!!」
「かしこまりました~」
クエストを終えた後、俺達はギルド内でキースが冒険者になったことと、初めてクエストクリアを祝して軽い祝杯を開いている。
と言っても、いつもみたいに食べ物を食べて楽しく会話をしているだけだけどな。
それにしても賑やかなになったよなぁ。最初は、俺とエルジェだけだったのに今では、三人も仲間になって、精霊王に始まり、魔王が二人。
いったいどんな組み合わせなんだろうな。
自分でもどうしてこんなパーティーになってしまったのかわからない。
だが、強いのは確かだろう。
先ほどもキースのランク上げのために、討伐クエストを受注して十分もしないうちに終わらせてきたところだ。
でも、少し不満がある。不満というか、このパーティーの欠点だ。
それは……俺だけしか接近戦ができる奴がいないってことだ!
俺以外は、遠距離系かサポート系。
エルジェとキースはバリバリの遠距離系。
レリルとクロはサポート系。
レリルの場合は、たまーにだが接近戦をしてくれるのだが。基本、俺しか接近戦をする奴がいない。
このパーティーの欠点は、バランスだ。
遠距離に偏っているんだ。
どうしたものか……クエストをやっている最中に俺は考えた。
今度、仲間にするとしたら接近戦のできる奴にしようと。
これ以上増えるの? と疑問に思うだろうが……増えそうだよなぁ。俺の直感がそう告げている。でもまあ、正直なところこのパーティーで苦戦するのが想像できないので急ぐ必要はないんだけど。
「霊児、霊児」
「なんだ?」
今後のことを考えて居ると、エルジェが話しかけてくる。俺は、耳だけを傾けフォークでこんがりと焼けた肉を頬張った。
「さっきギルドに戻ってくる時にロイスを見かけたんだけど」
「ロイスを? あいつ、この街を出たんじゃなかったのか……」
一時期俺達とパーティーを組んで【魔精霊】を倒してくれた勇者ロイス。
その勇者は実力はかなりのものだ。ただ極度の方向音痴という冒険する者としては最悪の能力を持っているため、この街へ来る途中の森で三日も迷子になってしまったことで、付けられたあだ名が迷子勇者と俺が命名してやった。
あの一件以来、あいつはこの街を出て勇者として世界を救う旅に出たことになっていたが……あっ、勇者が倒すはずのラスボスさんがここに居るな。
まさかとは思うが、キースのことをどこかで知って戻ってきた? いや、そんな器用なことをあいつができるはずがない。付き合いこそ一日にも満たないが、そう思えるんだ。
「どうしたのだ、我が親友よ。俺の顔に何か付いているのか? さっきからじっと俺を見ているが」
おっと、どうやら俺はキースのことをいつの間にか見詰めていたようだ。
「あっ、ソース付いてる」
「なに!? どこだ!?」
「拭いてあげますから、じっとしててください。キースさん」
本当に口元にソースが付いていたので、それをレリルが丁寧に拭いてやると、すっきりした表情で礼を言う。
「ありがとう、レリル。まさか、本当に付いているとはな。いつもなら、こんな無様な姿を晒す事はないのだが……お前らと一緒に居ることが楽しくて、緩んでしまうようだ。だが、こういう傾向も友と楽しくやっていると思うと、気分が良い」
しみじみと語るキースの顔は、世界を侵略せんとしていた魔王とは思えないほど穏やかなものだった。
よほど友達ができたことが嬉しいようだ。もしかしたら、友達のために危険なことも例え火の中水の中、魔物の大群の中! とでも言って飛び込んで行きそうだな。
「ちょっと風に当たってくる」
「どこか具合でも悪い?」
いきなり外に出ることを言ってきたので、クロが心配そうな表情で問いかけてくるが、俺は安心させるため優しく微笑む。
「大丈夫、どこも悪くないって。ただちょっと一人で考えたいことがあるから外に出るだけだ。すぐ戻ってくるから安心してくれ」
「うん。じゃあ、いってらっしゃい」
「おう」
他の仲間達にも一言告げてから、ギルドの外に出る。
風は頬を撫で、心地良い。俺の魔法があれば、風がなくとも自由に体温を変えることができるけど、それをすると魔力を常に消費することになるので、使わない。
とか言っているけど、地球ではよく使っていたものだ。三十度以上の真夏日の時なんて、皆が皆、俺にくっ付いていたからなぁ。
クーラーが故障して、扇風機を出そうとしたが電気代節約とかなんとかで、俺の魔法で自分の体温を下げて、人間氷枕的なものになっていた。
それでも、足りない場合は俺がうちわで風を送っていた。
俺は体が冷えているから暑くないので、そんな役割に。クロは、すっぽりと包めるぐらいの小柄な体系だったので、一人だけ冷たくて気持ちいいという顔をしていたのをよく覚えている。
「ん? あれは……ロイスか?」
風を感じていると、道端でキョロキョロと周りを見渡しているあの勇者を発見。
エルジェの言うように、この街に戻ってきていたのか。
せっかくだから、声をかけることにする。
「おーい! ロイスー!」
「おぉ! 霊児じゃないか!」
俺だとわかり、ロイスは真っ直ぐこちらへと駆け寄ってくる。
「エルジェがお前のことを見かけたって言っていたから、まさかとは思っていたが……こっちにはいつ戻ってきたんだ?」
「二日前だ。食料が尽きてしまってな。今は、クエストをやりつつ金を貯めて食料を買っている」
「食料が尽きたってことは、この街を出て次の街に行ったのか? ……いや、次の街に行ったんだったら、ここでは買わないか。そっちの街で買ったほうがいいしな。どうしてこっちに?」
些細な疑問だ。なんとなく予想はできるのだが、一応間違いかもしれないから、ロイス自身に聞いてみることに。すると実はなと、前置きをしてからため息交じりで語り出す。
「また、迷子になってしまったんだ……」
「またかよ……」
予想はできていたことだったが、本当にそうだったとは。
この勇者、本当に旅向きじゃないよなぁ。ギャグでやっているんじゃないのかと思うほどだぞ、この迷いようは。
「お前達と別れてから、次の日に僕は旅立ったんだ。そして、次の街へと向かう途中、魔物に襲われている馬車を助けて、お礼に次の街まで送ってくれることになったんだ」
「へえ。それじゃあ、迷わず次に街に行けたんだな」
「ああ。無事にな。だが、そこから問題だった」
「問題?」
また予想ができるけど、俺はそのままロイスの話を聞く事にした。
ロイスは、空を見上げ思い出すようにしみじみと語る。
「次の街に辿り着いた僕は、馬車の助けもあってほとんど食料を消費せずに辿り着けることができた。だから、僕はしばらくそこで休息してから旅立ったんだが……出る方向を間違って、来た道を戻っていたようなんだ!」
「……そうか」
なんだか、予想通り過ぎてこんな言葉しか出てこない。
「そして、それに気づかずに僕は旅を続け、少し迷ったがなんとか街に辿り着いたんだ。しかし! 見覚えのある街並みだった。おかしい? ここってまさか? と昨日、一度宿に泊まり考えた結果」
「自分が戻ってきていたことに気が付いたってことか?」
「ああ。まさか、来た道を戻ってしまうとは! 馬車に乗っていたから、景色など見なかったからこうなってしまったのか!」
本気で自分が情けないと思っているのか、その場に崩れ落ち地面に拳を叩きつける迷子勇者。そんな勇者を待ち歩く人々がどうしたんだろう? と見詰めながら素通りしていくがロイスは全然気づいていない。
「まあ、過ぎたことを考えてもしょうがないって。とりあえず、食料は少なくなっているんだろ? だったら、ここにしばらく居ろよ。そう落ち込むなって」
と、魔王である俺が勇者を元気付けるのだった。
「ああ、そうするつもりだ。情けない勇者だ……くっ!」
元気付けるが、それでも自分の情けなさを悔やみ続ける。
どうしたものか……よし、あれをこいつにやることにするか。
「ロイス。今、俺達のパーティーが軽い祝杯をしている真っ最中なんだけど、加わっていけ。腹減っているだろ?」
「そうだが」
「なら、来いって。【魔精霊】の時の礼みたいなもんだ。焼き鳥を奢るぜ?」
焼き鳥という言葉に、ロイスは反応する。こいつが鶏肉を好きだということは出会った時に教えてもらったことだ。
落ち込んでいるこいつに好きな食べ物で元気付けさせる。
我ながらいい考えだ。それに、あいつらと話せばすぐ元気になるだろ。
「……わかった。それじゃあ、遠慮なく食わせてもらおう」
「おう。食べろ食べろ」
少しは元気が出たようで、一緒にギルドの中へと入っていく。
そして、まだ楽しそうに会話をしている皆下へ……あれ? でも、何か忘れているような気が。
「あっ! 霊児! それにロイスだ!! やほー、久しぶりだねー!」
まず最初に気づいたのはエルジェだ。持ち前の明るさで、元気よく手を振る。
「ロイスさん。【魔精霊】の時以来ですね。お久しぶりです」
そして、同時期に出会ったレリルが丁寧に会釈をする。そんな二人の挨拶にまた元気を取り戻したロイスは笑顔で手を挙げ、挨拶を交わした。
「ああ、久しぶりだな。二人も元気そうで……ん? そっちの二人は初めてか?」
やば。そういえばクロとキースのことを失念していた。クロはまだ大丈夫だとしても、キースはどうしたらいいだろうか……などと悩んでいると、キースが先に動き出す。
「うむ。俺は、霊児の親友にしてエルジェ、レリル、クロの友であるキースだ。お前は、霊児達の友か?」
まずは危なげもなく紳士的に喋り出す。
「友? いや、友っていうほど仲が良い訳じゃない。言うならそうだな……ライバルと言ったところかな?」
まあ、ライバルって言えばライバルかもな。
「ライバルか。それもいい関係だな。気に入った! ロイスとか言ったな少年! このキースともライバル関係になろうではないか!」
実質ライバルのようなものなんだが、この二人って。
「少年って……まあいいけど。見たところかなりの実力者っていうのはわかる。僕で良ければライバル関係になってもいいぞ」
「ふっ。我が魔法の前に敵はない」
「僕の剣の前にも敵はない」
互いに自慢げに言いながら、握手を交わす。
また奇妙な仲が成立してしまったな。本来なら倒す側と倒される側であるけど、こっちのほうが平和的だし、面白そうだからいいとしよう。
それに、この展開は実にいい。見ている俺もほっと胸を撫で下ろせる展開だ。
「私はクローナ。皆はクロって呼ぶから、それで。仲良くしてね」
男同士で握手を交わしている中に、小さな女の子クロが入っていく。
俺もそうだが、ロイスからでも見上げるような形になるこの身長差よ。
「ああ。よろしくクロ。僕はロイスだ」
「よろしく。ところでロイスって」
「なんだ?」
「冒険者?」
クロ、お前まさか。帆と安心していた俺を再度不安にさせるクロの問いかけに、俺は止めに入ろうとするが。
「いいや。僕は勇者だ」
遅かったようだ。
「……そうなんだ。私は魔王なんだよ」
「ちなみに俺も魔王だ!」
はい、わかってたけどお前達素直すぎなー。
「……そうか。よろしく頼む」
「うん」
「共に精進していこうじゃないか!」
しかし、俺の予想とは裏腹にロイスの反応が薄い。
どうなっているんだ?
「なあ、ロイス」
「どうした、霊児」
声を潜め、ロイスをこっちに呼び寄せ、疑問をぶつけた。
「お前、あの二人が魔王だって聞いた時、反応が薄かったが」
「ああ。だって、お前と同じなんだろ? だったら、あの時全部やったからな。もう驚くことはないだろ?」
「そ、そうか。お前も、成長したんだな」
「これぐらいで成長したとは言えないだろ。さあ、早く僕に焼き鳥を食わせてくれ!」
「お、おう。じゃあ、席に座っておいてくれ」
「ああ」
ロイスはこれで良いとして、後はあの二人だな。
俺は、ロイスが席に座ったのを確認した後に、すぐクロとキースを呼ぶ。そして、ロイスと似たような疑問をぶつけると。
「そのことか。ならば、俺はあまり気にしてはいない。今の俺は、世界征服など考えていないからな。それに、勇者と言っても話し合えばわかる男だと俺は感じた。だから、このまま交友関係を持とうと決心したのだ」
「私は、別に勇者とか関係ないかなって。皆仲良くが一番」
こいつらは本当に変なところで抜けているよなぁ。一人でドキドキしてた俺が馬鹿みたいだ。
「おーい! もう注文してしまうぞ!」
待ちきれずに居たロイスの声を聞いて、俺は気持ちを切り替える。確かに、今更だよな。この世界は、俺が思っているほど常識に囚われない奴らばかりなんだ。
「勝手に頼んじまえ! 今日は俺の奢りだ!! お前らもなんか頼んじまえよ!」
「え!? 本当!? じゃあじゃあ、ポテトの山盛りを!」
「私は、もうデザートにします」
「俺は、まだまだいける!」
「私もデザート」
「おう! 頼め! 頼め!!」
抜けているけど……そういうところがあるから、こんな風に敵同士で仲良くできるんだろうな。




