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第二話

「で、何?」

「いやー、せっかくだからもっとお互いのことを知ってもいいかなぁって。私、天使のエルジェ! ……エルジェ!!」

「……霊児りょうじ


 どうして、俺は天使と一緒に話をしているのだろうか。本来なら俺は、この後にクエストを受けるはずだった。この魔王の力をさっそく試すために。異世界でのというか魔法を扱ったり、肉弾戦をするのはどんな感じなのか。

 元の世界では、ちゃんばら程度ならやったことがあるが、それとは次元が違いすぎる。

 炎を操ったり、本物の刃物を振り回したり、命の危険と常に隣り合わせな世界。何も能力がない俺であるのなら、少しは慎重にいくところだが……今の俺は魔王の力を持っている。

 なので、少しぐらいはしゃいでもいいかな? なんて。

 それなのに。


「ねえねえ? 霊児はどんな職業なの? 私? 私はねえ? 聞きたい? ねえねえ? 聞きたい?」

「……ああ。聞きたい」

「ええ? そんなに聞きたいのぉ? しょうがないなぁ。じゃあ、教えてあげるよ!」


 なんだろう。正直うざい。なんていうか最初の時もそうだったけど、なんだか急に親しくなった瞬間に、これまたものすごくうざくなった。

 どう考えても、聞いて欲しいくせにチラッとチラッと視線を送ってくるし…。

 くっ! 美少女なのに、このうざさはなんだ。男だったら、この場で殴ってやりたいぐらいだ。だが、暴力はいけない。

 まずは冷静になるんだ。すぐに怒りで我を忘れて、暴力に転じるのは危険な奴だ。

 ここは堪えよう。


「お、おう! 教えてくれ! すっごく気になる!」

「えへへ~、実はねぇ……私は《天使》という【特異職業】だったんだよ!! すごいでしょ!!」


 自慢げに、ギルドカードを突き出してくる。

 うん、わかってた。だって隣に居たし、大きな声だったから筒抜けだったし。今さら、どうやってリアクションをとれというのか。


「マジで? それはすごいな。やっぱり、天使は職業も《天使》なんだな。【特異職業】なんてかなり珍しいものなのに。お前は、これからすごい奴になると思うぞ」

「そ、そう? いやー、そこまで言われると照れちゃうなぁ。でも、当然だよね! 天使である私が職業が《天使》以外なはずないもんね!! これからは、一人の冒険者として名を上げていくぞ!!! おおー!!!」


 とりあえず、褒めてみたけど。こいつは、思った以上にちょろい奴なのかもしれない。


「ふう……」

「ねえねえ!! そういえば、霊児ってどんな職業なの!! おせーて!」


 びくっ! そっぽを向いて、ため息を漏らすと、体が反応するような質問をされてしまった。ど、どんな職業かだって?

 それはお前、なんていうか。その……やばい、このままどうやってやり過ごすか考えなければ。


 いや、別に嘘を言えばいいんじゃないだろうか? 職業は、ギルドカードを見せない限りばれないわけだし。

 でも、スキルとか使えばそれが違う職業だって、ばれてしまう可能性も。

 いやいや、こいつの目の前でスキルを使った場合だ。別にこいつと一緒に戦うわけじゃないんだから、気にすることはない。

 そうと決まれば、嘘の職業でも言うか。


「実は」

「おお!? 霊児も【特異職業】なんじゃないの? これぇ! 職業《魔王》だって!」

「……え?」


 予想外。まさか、俺が考えている中でこのアホ天使は、俺のギルドカードを勝手に取り出し勝手に俺の職業を見てしまった。

 真横から聞こえるやかましい声。

 振り返ると、そこにはあの天使エルジェの姿が、ギルドカードをしっかりと手に持っていた。


「あれ? 魔王? 魔王って……うーん、どこかで聞いたことがあるような? なんだっけ? ねえねえ、魔王ってどんな職業なの?」


 これは奇跡なのか。こいつが若干アホだったせいでもあり魔王のことを知らない。これはチャンスだ。このままこいつに魔王というものをどんなものか嘘の情報を植えつけてやる。

 そうすれば、俺が浄化されることはない。

 そもそも俺、魔王だって思われたいのか。そうじゃないのか……どっちなんだ? 俺は、魔王だということをなぜか子供のように最初は自慢したかった。

 

 しかしながら、最初ですごい躓いてしまい、なんとなく挫折。そもそも、世界征服なんてそんな大それたこと俺には無理。他の魔王に任せておけばいいじゃないか。そして、今は、天使という魔族にはかなり苦手な聖なる力を持っている奴に魔王だとばれた。

 だが、その肝心な天使は魔王が何なのか度忘れしている。

 ……チャンスだ。


「そうだなぁ。《魔王》っていう職業はな」

「うんうん」

「魔法使いの王様みたいな職業だ」

「マジで!?」


 魔王と言っても色々な魔王がある。

 悪魔の王。

 魔法使いの王。

 魔物の王。

 ひとつに魔王と言っても、色々な魔王がいるわけで。俺は、その中で、一番まともなものを選択した。

 これなら、大丈夫なはずだ。


「ああ。と言っても、それほどすごいものじゃない。俺はまだまだ初心者だ。ちょっと魔法に関してはすごいところがあるけど。熟練者には負けるな。だから、あまり《魔王》っていう職業はすごくないんだ。お前の《天使》ほどじゃないよ」

「へー、そうだったんだぁ」

「だから、あまり俺の職業を周りには黙っていてくれ。こっちは修行の身だからな。お願いします、天使様。そして、私目にギルドカードをお返しください」


 嘘の情報を植え付け、そして相手を褒め称える。ここまですれば、このアホ天使は調子に乗ってくるはずだ。

 チラッと、エルジェを見ると……とても嬉しそうな表情だった。

 めっちゃ輝いている。

 褒められて、崇められてめっちゃ喜んでる。


「い、いやー! 天使様だなんてそんな大した存在じゃないよ~。そっかー、王って言っても、修行の身かかぁ……うん、わかった! 周りには霊児の職業を言わない! 約束するよ! この天使エルジェが!! 約束しようじゃないか!!! さあ、ギルドカードを受け取るがいい」


 ……本当に、調子に乗りやすい奴だな。

 扱いやすくていいけど。キリッとした表情で、俺にギルドカードを差し出してくる。なんだか、勝手に奪っておいて偉そうに渡すのはなんとなく、むかつくけど。

 ここは我慢だ。

 俺は、膝をつき王から褒美を貰う者のようにギルドカードを受け取った。


「ありがとうございます、エルジェ様」

「うむ」


 そう言った瞬間、顔が紅潮する。

 別に恥ずかしがっているわけじゃなさそうだ。むしろ喜んでいる。おそらく、今自分がとてもかっこいいとでも思っているんだろう。

 そんなエルジェを無視して、俺はギルドカードを簡単に奪われないように、内ポケットへと仕舞い込み、その場を去ろうとする。

 がしかし。


「ちょっと待ったあぁっ!!!」

「うぼおっ!?」


 背後からのダイレクトアタック。

 つまり、俺はあのアホ天使から抱きつかれたのだ。勢いがすごかったらしく、俺は顔面から倒れてしまった。

 い、いってぇ。いくら魔王の耐久力でも、あの勢いで顔面強打は痛いんだな。


「お、お前! いきなり何をするんだ!!」

「もう少し、お話をしよう!」

「もう話すことはない! それよりも、俺はこれから宿を探さなくちゃならないんだ。クエストをするにも泊まるところがなくっちゃ、落ち着くこともできん!!」


 宿にしばらく泊まれるぐらいの金はある。なので、これから泊まる宿を探して、それからクエストを受ければいい。

 俺は、順序を間違えていた。

 最初から、クエストに行ったらそのまま疲労した体をどこで癒す。

 この街には大浴場がある。

 だが、そこに泊まれるわけじゃない。宿が必要なんだ。クエストで疲れた体を大浴場で解し、そしてふかふかのベッドで癒す。もうぐっすりだろうなぁ。

 あぁでも、夕飯なんかも待ち遠しいな。


 腹いっぱい飯を食べればそれだけで、いつも以上にぐっすりだろう。そういうわけだから、この天使を早く剥がして俺は宿を探さねばならない。

 くそっ! それにしてもこいつ結構胸があるから、それが背中に押し付けられて……いかん!

 魔王たる俺が、天使の胸で欲情することなど……! だがしかし、俺はまだ十五歳。なんていうか、すごくうざい奴だけど、仕方ないんだ! 思春期なんだもん!


「宿!? そうだった……。宿のことすっかり忘れてたよ! ね、ねえ! お願いがあるんだけど!」

「いやだ」

「まだ何も言ってないじゃん!?」

「どうせ、一緒に宿を探してだの。宿代を貸してだの言うつもりなんだろ?」

「なんでわかったの!?」


 お前の考えることなんて単純すぎてわかりすぎるんだよ。そ、それよりも、早くこの体勢をどうにかしなくては。

 さっきから、めちゃくちゃ目立っている。ただでさえ、このアホ天使のせいで目立っているっていうのに、この体勢はだめだろ。だが、これが逆だったらどうなっていたことか。

 上が女で本当によかった、うん。


「お前は、早くクエストで自分の宿代を稼いで来い。もう冒険者なんだから自分の金ぐらい自分で稼げ!」

「だ、だってぇ……今日は、もう疲れちゃったから早く休みたいんだもん。天界から人間界まで苦労したんだよ~? お金だって、天界にはないからなんとか物を売って稼いだんだし。ねえねえ? お願い~! お願いったら、お願い~!!」

「こ、こら! うねうね動くな!?」


 こ、この! 胸を押し付けてきやがる。

 くっ…! 落ち着け。このままではこいつの術中にはまってしまう。落ち着くんだ、こいつはアホだ。

 アホだから、自分の胸を無自覚に男へと押し付けていることに気づいていない。

 この弾力ある胸。天使というのは、これほどのものなのか! いや、俺は実際胸を触ったことがないから人間の胸がどれほど柔らかいのかはわからないけど。

 だが、こいつの胸はかなりの上物だと俺の男としての本能が教えてくれている。


「そ、そこいらにいる冒険者に頼めばいいだろう。お前は天使だ。頼み込めばすぐにでも金を渡してくれるだろう。だから、離してくれ」

「え~! でも~、そんなことしたら二人からお金を貸してもらっていることになるから、返す時に忘れちゃうかもしれないじゃん? そうしたら、借金がどんどん増えて行って……」

「ならねえよ! ちょっと宿代を貸してもらうだけだろ! それぐらいはなんともないだろ! てか、それぐらい覚えておけ!! 鶏か、お前は!!」

「鶏じゃないよ! 天使だよ!!!」

「そんなもん見ればわかるわ!! 例えだよ!!」


 くそ、このままではいつまで経ってもこいつから開放されない。しかもこいつ、以外とパワーがあるんだな。

 それに、女の武器まで使いやがって……。この感触に慣れてしまったら逃げられるものも逃げられない! どうする? ここはもう、折れて宿代を貸してしまうか?

 ……なんだか、ここにきて金を貸してばかりなんだけど。

 それも、敵である天使に。

 でも、この場を切り抜けるためにはこれしかないか。


「……ふう。わかった」

「え?」

「貸してやる。宿代」

「本当!?」

「ああ。だから、離してくれ。頼むから」

「わかった!」


 や、やっと離れてくれたか。

 この天使め。知らないとはいえ、悪魔に。それも仮にも王に金を集るとは。


「一番安い宿にするけど、それでいいか?」

「もちろん!」

「……はあ。行くぞ」

「はーい!」


 早くこの天使から離れなければ! じゃないとこっちの身が危うい。

 はあ、俺が想像していた異世界ライフとなんと違う……いや、魔王と融合している時点からもう狂って居るいるんだろうな。

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