第九話
「グリド城に転移したのはいいとして、だ。どうせだったら、クロの部屋に直接転移したかった」
「うわぁ、なんだか壮大なまでに歓迎されちゃってるねー」
「そんな悠長なことを言っている場合ではないと思いますが」
リーさんのおかげで無事にグリド城へと転移した俺達は頭を抱えている。
それはなぜか? 簡単な話だ。
転移したところが、敵が集まっている中心部だったからだ。つまり、俺達は敵に囲まれている。目の前にグリド城があるというのに、これでは進めるに進めない。
皆が皆、血の気の多い目つきをしている。そのために、絶対逃がしてはくれないだろう。しかも、こっちには悪魔族の天敵である天使も居るわけだから、余計にな。
こうなると、手段はひとつしかないわけで。
「ゲームだとこういう場所に来るのは、ラスボスの手前なんだよね~。私達はまだレベルが五十も超えていないのに」
と、エルジェは、渋々と腕組をしながら言う。
「お前、そこをゲーム脳で言うか?」
「漫画だとこういう展開は、仲間と一緒に乗り越えるのが常識というものですよね? 霊児さん」
今度は、レリルが変な例えで言ってきたので。
「お前は、漫画脳かよ」
徐々に、地球の娯楽に染まっていき、考えまでがそっちに染まってしまう。地球の娯楽というのはおそろしいもんだと改めて実感した。
ため息を漏らしながらも俺は【紅魔の鎧脚】を装備する。
「じゃあ、俺は……こういう展開はアニメだったら最終回直前! 時間の都合上カットされるか、静止画でまとめられるのが常識だ!! いくぞ! お前ら!!」
「おうー!!」
「了解しました!!」
俺達は突き進む。クロを、仲間を、友達を助けるために!
・・・・・
多くの兵士達を撃退した俺達は、クロの部屋へと向かいながら【魔の見鏡】で様子を伺っている。移動している最中でも、兵士達は容赦なく襲ってくるが片手まで撃退している。
『ほう。魔王とな? クローナ様。あなた様は自分で魔王を名乗られましたね?』
『そうだけど?』
『ならば、私どもと一緒に世界中に攻め込みましょう。あなた様と私の力が合わされば、世界のゴミどもなど容易く』
『黙って』
『……おや? ご機嫌斜めですかな?』
自分の意見も聞かずに、話を進めているプロテスにクロは一喝する。それほど大きい声ではないが、それでも周りを静かにするほどの威圧感はあった。
さすがのプロテスも一瞬だが、言葉を飲み込み黙ってしまう。
それでも、冷静さを保ちいつものように言葉を発する。
『プロテス。あなたの言うようには絶対ならない。私は、世界を侵略しようなんてしない』
『それはいけませんぞ、クローナ様。我々、悪魔はより強さを求める種族。そして、同時に弱き者をもっとも嫌う種族でもあります。魔王軍がどうしてあるのかクローナ様もお分かりであると、このプロテスは思っていたのですが』
『そんなこと知ってる』
『でしたら』
『でも、私は他の悪魔とは違う。お父様もそうだった。争いを好まず、悪魔という種族の常識を変えようとしていた』
蘇るグリドさんとの記憶。いつもグリドさんは話してくれた。悪魔は、強さを求めるばかりに他者を、弱き者を見下し殺してきた。それを変えようと、魔王となったグリドさんは他の悪魔に、そして同じ魔王達に話、その常識を変えようとしていた。
クロも、大好きな父親からその話を聞いて、自分も賛成したのだ。悪魔の常識を変えて、もっと他者と仲良くなれば、よりいい世界になると。
悪魔も周りから軽蔑されるような種族にならないはずだ、と。
『それは私も知っています。グリド様は、ことある毎に我々は変わらなくてはならないと言っておられました。ですが……そんなことは無理だと私は思ったのですよ! 悪魔の常識を変える? 他者と、弱き者と仲良くなる? なんて、めでたい考えをするお方なんだと。私は正直、呆れて言葉も出ませんでしたよ』
『だからお父様を……殺したの?』
ぎゅっと、拳を作り強く握り、プロテスを睨みつける。
もう誰が、グリドさんを殺したのかは明らかだ。
『おやおや? お気づきになられていたのですか?』
『誰もが気づいていた! お前が、グリド様を殺したことなど!』
『我々は、我々の軍にしかわからない道を移動していた。そこを襲撃されるということは、内通者がいるということ。事前に情報を知っていたと言うことだ。そして、グリド様を倒せるような実力者と絞り込むと、お前が一番に上がるんだ!』
兵士達も気づいていた。
グリド軍の軍会議で決めた道を、グリド軍にしかわからない道を移動している時に襲撃を受け、不意打ちとはいえ、グリドさんを倒せるほどの実力者など一人しかいない。
だが、それをわかっていても自分達にはどうすることもできなかった。
自分の無力さに兵士達は悔やみながら、プロテスに従っているフリをしていたのだろう。その悔しさは、今の兵士の表情を見れば明白だ。
知っていた上で、プロテスに忠誠を誓った兵士達のほうが圧倒的に多かったのだろう。
『ほうほう。それは、私としたことが失念していましたね。そこまでわかるような強さを持っていたということに。いやはや、強いと言うのはなんとも罪なことか。はっはっはっはっは!!』
顔を抑え、高笑いをするプロテス。
こいつは根っからの悪魔だ。より強さを求め、他者を殺し、見下し、実力をつけてきた。だからこそ、こうして高笑いできる。
ただ口だけじゃない。しっかりと、相手を見下せるほどの実力があるのだ。そんなプロテスの姿を見て、エルジェはとても嫌そうな顔をしている。やはり、天使だから悪魔の思考というのは理解できないし、嫌気がするのだろう。
『くくく……さて、お話もこれぐらいにしておきましょう。クローナ様。あなたが、魔王として世界へと攻め込まないのであるのなら……実力行使をするしか、ありませんね?』
にやっと、笑い手をかざした時だった。クロを護ろうとしている兵士の体が突然捩れた。
『させない!』
兵士の体が歪み、別空間へと誘われそうになるも、クロはそれを阻止した。
兵士の体は捻じれたように見えたが、すぐに元に戻り、何ともなかったかのように兵士は立っている。
『何をされたのですか? クローナ様?』
自分は、兵士を別空間へと、一人では決して出られない空間へと誘おうとした。
だが、それはできなかった。
どうして? その答えは、クロが知っている。そう思ったであろうプロテスは問いかけると、クロは表情ひとつ変えずに答える。。
『あなたがやった空間の歪みを元に戻しただけ』
本来ならばかなり高度な技なのだろう。プロテスの表情は、少し恐怖を感じているようにも見える。
『さすがはクローナ様と言ったところでしょうか』
『そして』
クロはさらに空間転移を発動させる。自分とプロテス、そしてプロテスに従っている兵士達だけを城の外に転移させた。
「ちょっ!? せっかく部屋の一歩手前まで辿り着いたのに……」
「いや、待て。この場所……あそこだ!」
せっかくクロの自室手前まで辿り着いたというのに、タイミング悪く転移してしまった。しかし、鏡に映っている場所に俺は心当たりがあった。それは、丁度近くの窓から見える草原だ。
「よっしゃー!! 今行くよ!! クロー!!!」
クロを視界に捉えたエルジェは、待ちきれなかったようで、窓を突き破って飛んでいく。……後始末が大変そうだ。
「これ以上は、誰も傷つけさせない! 私が―――ふぎゅっ!?」
クロがかっこいい台詞を言おうとするも、エルジェの空気の読まなさに邪魔されてしまう。よほど嬉しかったのかプロテスとその兵士達を飛び越えて、クロに抱きついた。
「クロー! 無事だった? 変なことされてない?」
「え、エルジェ?」
言葉の途中で、何かにぶつかって倒れてしまった。
空気を読まない騒がしい声。
悪魔とは正反対な光ある姿。プロテスはもちろんだが、クロもエルジェがここに居ることに驚いているようだ。
「おっす、クロ。助けに来たぜ」
「クロさん。ご無事で何よりです」
「霊児、それにレリルも。皆、どうして」
そこへ、俺達もプロテス達を飛び越えてクロの下へ到着。どうしてここに居るのかと、首を傾げるクロに対し俺達は当たり前のことを告げた。
「友達だからに決まっているだろ?」
「え?」
「だね! 私達は友達を助けに……迎えに来ただけだよ!」
「友達なら当たり前ですよね」
友達なら当たり前。恥ずかしくもなく、まさかこんな言葉を言う時がくるとはな。ただ、今は恥ずかしい気持ちではなく、とてもいい気分だ。
そして、クロにもその言葉が深く染みたらしく、嬉しそうに微笑む。
「……うん!」
はい、いい笑顔貰いました。
「よーし! そんじゃまあ……さっさと悪い奴をやっつけて一緒に帰るぞ。クロ!!」
にやっと微笑み、尻餅をついているクロに手を差し伸べ、力いっぱい助け起こす。すると、今まで黙っていたプロテスが口を開く。
「あなた方は、クローナ様のご友人なのですか?」
「おう、そうだが。それがどうしたんだ?」
「空間魔法を使えないあなた方がどうやってここへ?」
あー、なるほど。やっぱりプロテスもクロがいないからこっちの世界へは来れないと思っていたんだな。
「うちには、頼りになる賢者様が居るからな。ロリコンおやじに連れて行かれた友達を助けに行くために、ちょちょいっと、空間転移をしてもらったんだよ」
プロテスの疑問に答えると、素直に驚いていた。やはりリーさんの名は、この世界ではかなり有名のようだ。それもそのはずか。全ての魔法を会得した賢者だもんな。
そこへ、エルジェが俺の服を引っ張ってくる。
「霊児。ロリコンってなに?」
「私も知りません。どういう意味なんですか?」
そうか。かなり地球に順応してきたと思っていたが、まだロリコンの意味を知らないのか。
「いいか? ロリコンって言うのはな」
プロテスを明らかにチラ見しながら、俺は二人にこそこそとロリコンの意味を教える。
ちょっと過剰にな。すると、意味を知った二人は、クロを庇うように立ち塞がり、敵意剥き出しでプロテスを睨みつける。
「クロに近寄るな! ロリコン!!」
「き、危険な存在です。ロリコン……死すべしです!!」
「貴様。いったい何を吹き込んだ?」
プロテスは不機嫌そうだ。しかし、俺はしーらねと視線を逸らす。
そんな態度に更に不機嫌そうになるが、すぐ冷静さを取り戻し紳士風に喋り出すかと思ったが。
「まあいい。貴様達がいくら集まろうとも、私には勝てないということ教えてやろう!!」
まるで本性を露にしたかのような変わりっぷりだ。
「おいおい。さっきまでの紳士口調はどこへ言ったんだよ? 言っておくが、俺達をあまりなめないほうが良いぞ?」
「どういう意味だ?」
俺は、プロテスの問いを無視し、クロに微笑みかける。そして、四人の絆に解放された新たな力を解放せんと魔力を爆発させる。
すると体中から、目に見えるほどの濃く膨大な魔力が生み出される!
「クロ。今から、良いものを見せてやるぞ」
「良いもの?」
「ああ。お前がすっげえ喜ぶものだ。いくぜ!! 【熱血武装】!!!」
練り上げた魔力は、コードを認識したかのように俺を包み込んでいた魔力が雄大な青から、情熱の赤へと変化する。
それは、一瞬の出来事。灼熱の炎は弾け飛び、包み込まれた俺の姿を露にする。
その姿は、赤き装甲に身を包んだヒーローだ。まるで特撮に出てきそうな仮面を被ったヒーローの姿に、機械な翼が生えている。
そんな姿を見たエルジェ、レリル、クロの三人は子供のように目を輝かせていた。
《か、かっこいい!!!》
三人同時に感動の言葉を漏らした後、クロだけがその姿に見覚えがあり、目を丸くしながら問いかけてきた。
「霊児。その姿って」
「ああ。こいつは、地球で大人気のヒーローアニメ! 【熱血武装ダイフェニックス】を元に作られた強化武装だ!!!」
熱血武装ダイフェニックス。
それは、熱き闘志を持った主人公の熱士が熱き闘志を具現化させ武装として身に纏い、悪と戦っていくヒーローアニメ。
どこまでも真っ直ぐで、何事にもチャレンジ精神を忘れずに挑んでいく。
そんな主人公熱士にクロは憧れていた。
自分もあんな風になれたらと。ゼルファスが、そんなクロのことを思って、この熱血武装を開発し、完成させたのはよかったが、お披露目をしようとした時期に殺されてしまった。
だが、こうして俺が代わりにお披露目をすることができた。ゼルファス……当然見てるよな。これから、やるぜ。この熱血武装で!
「クロ。お前のために作った熱血武装で俺が、あいつをやっつけてやるからな!」
「ゼル?」
どうやら、俺の姿が一瞬ゼルファスに見えたようだ。まあ、今は全身鎧で包み込まれているからどうなのかは疑問なところだが。それとも、ゼルファス本人が一瞬だが出てきたのか?
「……違うよ、霊児」
「ん?」
くすっと微笑みクロは前に出る。
「そうだね」
「そうですよ」
それに続くようにエルジェとレリルも前に出てきた。
「……だな。ここは、俺たちが! だな。おっしゃあ!! やったるぜ!!」
さあ、ここから最終ラウンドだ。




