第七話
「うわあ! また一ぃ!?」
「お前、本当に運が悪いな?」
エルジェの運の高さは平均よりも高めだったはずなんだが。運のステータスというのは、こっちの世界では役に立たないのだろうか? それともたまたまか?
「むぅ。やはり、兄は生きていたんですね! この大ピンチに助けに来る展開。胸が熱くなります!!」
あれから調べ物が終わり、俺達は再び地球へと戻っていた。そして、約束通り四人でパーティーゲームをプレイしている最中である。
四人でパーティーゲームをして、二時間は経っただろうか?
もうすぐ昼になりそうな時刻。やり始めた頃は、まだクロは俺から離れずびくびくしていたけど、今では素直に嬉しそうな顔をしている。
エルジェは誰だけ運が悪いのか。
サイコロの目がかなり悪い。中々五や六が出ずに、先に進めないで居る。レリルは相変わらず漫画に熱中しながら、器用にゲームをして中々いい成績だ。
俺はというと普通かな。
よくもなく悪くもなく、と言ったところだ。クロは無類の強さを誇り、独占している。
「むう。こ。ここからだよ! ここから!! 最初だけ運が悪かっただけもん! ここから逆転してみせる!!」
「そんなこと言って、中々逆転できていない天使さんはどこの誰だったかな?」
「エルジェさんですね」
「エルジェ」
おっと、レリルが乗ってきた。
それに、小さかったがクロも。ぼそっと俺にしか聞こえない声だったが、それでも心を開いてきたようだ。この調子なら、大丈夫だよな
「そうだ。そろそろ休憩にしよう。もうすぐ昼だし。エルジェにレリル。お前らは人数分のカップ麺にお湯を入れてくれ。俺はちょっとトイレに行って来る」
「はいはーい。何味がいい?」
「うーん……やっぱりしょうゆだな!」
「私は、塩がいいです。あっさりしていておいしかったですから」
「私は断然、カレーだね! 辛くておいしかった! クロは?」
にこにこと、テレビに視線を向けているクロにエルジェは問いかける。
クロは、テレビから視線を離さないまま、
「味噌」
と、呟いた。会話が成立した。エルジェはそれだけで嬉しそうになり。うん! じゃあ、すぐ持ってくるねー! と早足で階段を下りていく。
その後をレリルは遅れないようにと追いかける。
「……ねえ、霊児」
「ん? なんだ」
俺も早くトイレで用を足そうと立ち上がったところで、クロの声を聞く。
「……ううん。やっぱりなんでもない」
何か言いたそうにしていたクロだったが、口を閉ざし機嫌良さそうにライトノベルを手にした。
「そうか。じゃあ、俺はトイレに行って来る」
「うん」
なんとなく、なんとなくだけど、クロが言いたかったことがわかったような気がする。
あの嬉しそうな顔、友達ができて、楽しいという顔だった。おそらくだが、友達と一緒に遊ぶのって、楽しいねと、そう言いたかったんだと思う。
ただの予想だけどな。でも、今のクロだったらそう言ってもおかしくはないと俺は確信している。俺は、昔のクロをゼルファスの記憶でしか知らないけど、今のクロを見ていると大分変わったから嬉しく思う。
とりあえず順調だよな、ゼルファス。安堵した表情で俺は階段を下りてトイレに向かう。
エルジェ達がこっちの世界に来て、クロと関わったは正解だったのかもしれない。
偶然クロの能力で地球に来たのではなく、それは必然だった。もしかしたら、クロの心を開くために呼ばれた存在、だったりしてな。
「よーし! 全員分のお湯を入れ終わった! さっさく持って行こう!」
「エルジェさん。落ち着いて運んでくださいね? せっかく入れたお湯が零れちゃいますから」
トイレから出ると、丁度エルジェ達がカップ麺にお湯を入れて二階へと持って行こうとする時だった。
「おう。丁度よかったな。一緒に行こうぜ」
と、合流し二階へと向かおうと階段に足を踏み込んだ時だった。
「は、離してぇ!!」
「この声は、クロ!?」
「え? え?」
「急ぎましょう! 霊児さん!」
「ああ!」
クロの叫び声に尋常じゃない事態だと察した俺達は急ぎ、階段を駆け上り部屋のドアを開けた。
「遅かったですね。では、さようなら名も知らぬ者達よ」
「クロ!!」
部屋に突撃した時にはもう遅かった。そこに居たのは、あのプロテスであった。
漆黒の鎧に身を包み、クロを拘束して空間の歪みが完全に閉じた。
どうして、プロテスが地球に? ここにはクロの空間を操る魔法ぐらいでしかくる術はないはずなのに。もし、それ以外の方法で来たのだとしたら。
「くそ!! 迂闊だった!! 俺は、なんのためにクロと一緒に居たんだ!!」
護るためだ。仲良くなるためだ。クロに……友達と遊ぶのはこんなにも楽しいことだって教えるためだ。ゼルファスに、クロは絶対護るって誓ったのに。
一瞬の油断で、こんな……。
「霊児! さっきの奴って、前に話してくれた」
「ああ、プロテスだ」
いつまでも悔やんでいる場合じゃない。
「だったら早く追いかけないと!!」
そうだ、早く追いかけないといけない。
しかし。
「エルジェさん。それは無茶です」
「どうして! クロを助けに行くのが無茶だって言うの!!」
「そうじゃない、エルジェ。俺達だったら、クロを助けることができる」
「じゃあ!」
「だが! 追いかける手段がないんだ」
俺の言葉を聞いて、さすがのエルジェも理解したようだ。俺達は、どうやって地球に来たのか。そう、クロの空間魔法の力で来たんだ。
もちろんあっちの世界へもクロの力で行っていた。だから、クロがいない今の俺達には移動手段がないんだ。助けに行こうにも、助けに行けないんだ……!
「そんな……じゃあ、私達はクロを助けに行くこともできないで、ずっと地球で悔しい思いをし続けなくちゃならないってこと? そ、そんなやだよ! 私は絶対諦めないから!! 希望は絶対にある!!」
エルジェの気持ちは痛いほど理解できる。
俺もレリルも同じ気持ちだからな。まさか、プロテスの異様な動きの正体が空間魔法を習得するためのものだったとは。だが、クロみたいに何度も操れるとは限らない。プロテスは高位の魔族ではあるが、空間魔法を何度も使えるほどの魔力と技術は持っていないはずだ。おそらく、ほとんどの魔力を費やしたに違いない。それも、別世界へと転移するほどだ。
今のプロテスは、魔力がゼロに等しいはず。攻めるなら今が好機なのに……。
「……待ってください。もしかしたら、いけるかもしれません」
「ど、どういうこと? あっ! もしかして、レリルが!」
レリルのいけるという言葉に、彼女が空間魔法を使えるようになったのだと勘違いをしているエルジェ。俺もそれに期待をしたが、レリルは首を横に振る。
「すみません。さすがの私でも空間魔法は簡単には会得できません。ただ……使える人に心当たりがあります。それはお二人も見知った人です」
「そうか……あの人なら!!」
「え? え? レリルじゃないってことは、えっと……あっ!」
どうやらエルジェも理解したようだ。いるじゃないか。空間魔法を使えそうな人が!
「み、皆!!」
希望が見えたと思ったところに、その希望が家に戻ってきた。慌しく階段を駆け上がり、姿を現したのは。
「クロちゃんは!?」
現在丁度昼休みであろう賢者リフィアさんだ。おそらく、この家の周りに張っていた結界に干渉されたことに気づき、急ぎ戻ってきたのだろう。
「リフィアさん。実は」




