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第五話

「……ここは? またゼルファスの?」

「違うよ」

「そのわりには、出てきたじゃないか。てか、お前に言いたい事があるんだが? あんた、地球は始めてみたいなことを言ってたけど」

「まあまあ、そのことについてはまた後で聞こう。それよりも」


 ゼルファスがとあるところを指差す。そこには……クロ? だが、少し幼い。いや、今でも幼いけど。それにここはクロの住んでいた城か?


 まだ十歳の子供。可愛い洋服に身を包み、髪の毛もしっかりと揃えられ、お嬢様と言う風貌だ。今の大きいシャツ一枚に、ぼさぼさの髪の毛とは大違いだ。


 どうやら大きな図書館で一人本を読み耽っているようだ。そこへやってきたのはクロの父親、四大魔王が一人、グリド=ルルフェルズ。

 グリドさんは、四大魔王中でも、最年長で長的な位置にある。

 温和な性格で、仲間思い。母親が早死にしてしまって落ちこんでいた娘を一番大事にしている良い父親でもある。

 漆黒の髪の毛に、赤い瞳。

 羽織っているマントは、魔王としての証。顎鬚を良く似合うダンディな魔王だ。


「クローナ、また図書館に篭っていたのかい?」

「外に出るのは嫌い。外には悪いものが多過ぎる」


 母親を失ってからは、極度に外に出ることを嫌うようになったクロ。祖tに出れば、危険なものがいっぱいあると思いこんでしまっている。

 仕方ないこととはいえ、このままではクロは一人も友達を作らず孤独になってしまう。なんとかしようとグリドさんは最善を尽くしているのだが、全然効果がない。


「だが、少しでも外で友達を作って」

「どうせ魔族の私となんて、誰も友達になってくれない。それに、私にはお父様と城の皆。それにゼルがいるから、今更新しい友達なんて必要ない」

「困ったな」


 そんな昔のクロのことを見ている中、俺はゼルファスに問いかける。


「なあ、これって」

「今、君はクロと心を通わせたことにより記憶の干渉をしているんだ。これは、クロの過去。クロが思い出したいけど、思い出したくない過去……」


 そうか。これが、クロの人生を変えてしまった出来事なのか。


「そうだ、クローナ。お父さんな。明日からちょっと家を空けなくちゃならないんだ」


 と、頭を撫でながら切り出す。


「じゃあ、いつ帰ってくるの?」


 不安そうに問いかけるクロ。


「そうだなぁ。明日は帰れないが……その次なら帰れるはずだ。だから、使用人の皆と一緒に待っててくれるか?」

「本当に?」

「ああ、本当だとも。もうクローナを悲しませるようなことはしないさ」


 娘の不安そうな顔を見たグリドさんは、再度頭を撫でながら微笑む。母親を失い、さらに自分までいなくなってしまってはクロの精神がどうなってしまうか。それを考えれば、本当は戦いに赴くのは控えるべきなのだろうが、グリドさんは魔王だ。

 上に立つ者として、戦場へと赴かなくてはならない。


「この頃、グリドさんが戦っていたのは魔王の座から下ろそうとしている魔族達が集まった反乱軍だったんだ」

「グリド様。そろそろご出立のお時間です」


 ゼルファスが説明をしていると、また一人図書館に入って来た。右目に丸いめがねをかけており、どこか戦略家のような雰囲気がある。パッと見は執事のような風貌だが、あいつは。


「ゼルファス。あいつが」

「ああ」


 先ほどまで穏やかな雰囲気だったゼルファスも、男の登場に顔を歪める。


「わかった。クローナ、行って来る。しばらくの間、待っててくれ」

「ご心配いりませんよ、クローナ様。私と私の部下達が必ずやグリド様を護ってみせます。このプロテスに全てお任せを」


 彼の名はプロテス。グリド直属の部下で、信頼厚い男だ。


「うん、よろしくプロテス」


 クロが生まれる前からグリドさんに仕えているプロテスは、誰よりも信頼されているためクロも彼の言葉に安堵している。おそらく、ゼルファスの次に信頼をしていたかもしれない。

 それが……。


「では、娘のために反乱軍をさっさと倒してくるとしよう!」

「かしこまりましたグリド様。このプロテスも全力を尽くします」


 こうして、グリドさんはちゃんと帰ってくると約束をし、魔王城を頼れる部下達ともに後にした。クロは、使用人と共にグリドさんが出かけるのを見守り、いつものように部屋で本を読む。

 グリドさんが戻って来た時に、素直に甘えてみよう。いつもそっけなくしているが、本当は優しい父親に思いっきり甘えたい年頃の女の子なんだ。


 だが、そんな子供の純粋な願いは叶わなかった。

 グリドさんが約束した日。

 クロは、グリドさんが帰ってきていると思い自室から出て城を歩いていた。

 すると、グリドさんの部下とプロテスが丁度玄関先で目撃した。グリドさんが戻ってきていると思い込み、その場所を聞こうと二人へと近づいていくが。


「プロテス! 貴様、よくも!!」


 まるで親の敵を相手にしているような荒げた声に、クロは思わず近くの部屋に隠れてしまう。いったいなにが起こっているのか? こっそりとドアの隙間から観察しながら耳を傾ける。


「おや? どうしたのですか。私は今回のことを早急に知らせなくてはならなのですが」


 声を荒げる兵士に対し、プロテスはいつものように冷静に対処をしている。


「ふざけるな! この裏切り者が!! よくも……よくも魔王様を!!」

「こらこら。そんなに声を荒げたら、傷口が開いてしまうぞ? それに」


 プロテスが口を閉ざすと空気が変わる。その変わりようにはクロも感じた。まるで、冷気が漂っているかのように冷たい……。


「クローナ様に聞こえてしまう」

「ひっ……!?」


 首が落とされた。まったく目で追えないスピードで。ただ、今の俺にはちゃんと追えた。一瞬にして、魔力の刃を生成し、兵士の首を落としたところで刃を消したのだ。当時のクロは、その残酷な光景に血の気が一気に引き尻餅を突いてしまった。


「まったく。生き残りが居たとは……おい」

「はっ」


 兵士が静かになったところで、雰囲気が一気に変わったプロテスが部下を呼ぶ。


「この死体を処理しろ。私は、城の者達に今回のことを知らせた後、クローナ様の下へ行く」

「かしこまりました」


 そう言って、兵士の死体を魔力の膜で包み込み、まるでゴミを持っていくようにその場を後にする。


「さて、私も行きますか」


 プロテスが去った後、クロは壁に寄りかかり乱れた呼吸を整えている。


「まさか、プロテスが……」


 まだ十歳とはいえクロはかなり鋭い。先ほどのやり取りから、グリドさんがどうなったのか。そして、プロテスが何をしたのかを察していたのだ。

 

「そんな……なんで……!」


 あれだけ信頼していたプロテスに裏切られた。そして、父親であるグリドさんも……。


 涙が流れてくる。

 信じない。父親が死んだなんて、プロテスが裏切ったなんて信じない。

 信じたくないのに、涙が流れてくる。


 そのまま、クロは部屋に篭ってしまい、しばらく誰とも話さなくなった。

 食事もとらず、ずっと部屋に籠もりっきり。

 そんな中、魔王城では重要な会談が行われていた。

 それは、現四大魔王であるグリドさんの死により、次なる魔王を誰にするか、というものだ。グリドさんの忠実な元部下であるプロテスは考える。

 普通ならば、次期魔王は血統者であるクロになる。しかしながら、クロはまだ十歳。魔王となるべく教育はまだ本格的に行われていない。


 そして、今のクロは精神が不安定。

 力も覚醒していない。

 魔力はかなり高いものの、それを行かせる能力がまだない。それだけを考えれば、魔力の高い人間と同じだ。そこで、プロテスが考えた案とは……。


 ドン! と鍵をかけたクロの自室のドアが無理やりこじ開けられる。引き籠っていたクロは突然の大きな音に驚き、誰が入ってきたのかを確認した。

 そこには、数人の兵士達とプロテスが立っていた。


「こ、来ないで」


 明らかにプロテスのことを嫌がっている。その反応に、プロテスはにやりと笑みを浮かべ口を開いた。


「おや、どうなされたのですか? クローナ様。私です、プロテスです」


 丁寧な言葉遣いであるが、どこか貪欲なものが滲み出ている。

 クロはいつもと違うプロテスに怯え、身を丸めた。


「……何しに来たの」


 敵意むき出しで、問いかけるクロに対しプロテスは怪しい笑みを浮かべたまま丁寧に語り始める。


「はい。簡単なことでございます。知っていての通り……お父上は戦場で命を落としました」


 落とした、のではない。プロテスが殺したのだ。念入りに作戦を練り、グリドさんを騙して……! 


「ですので、我々には次なる魔王が必要なのです」

「わ、私は、魔王になんかならない」


 断固としてクロは断った。しかし、プロテスはそんなことは想定内という顔で言葉を続ける。


「いえ。私が望むのは魔王としての血縁。つまり、あなたに魔王になっていただかなくとも大丈夫ということなのです」

「どういうこと?」


 プロテスが何を言っているのか理解していない。

 そんなクロを庇おうと使用人が前に出てきた。


「お、おやめください! プロテス様! クローナ様はまだ十歳なのですよ!? そのようなことは!」

「ええい! 使用人の分際で私に意見しようと言うのか! 控えろ!!」

「きゃっ!?」


 無慈悲な攻撃。

 使用人は、床に倒れこみ動かなくなった。

 それを見たクロは更に身を震わせる。


「我々、悪魔はより強さを求める種族! 軟弱な者などいらぬ! さあ、クローナ様。こちらに」


 笑顔。

 だが、その笑顔は落ち着くものではない。

 恐怖を感じるものだ。近づいてくる兵士達もどこ異様な目をしている。もう見てられない! と俺はプロテスの前に出る。


「おい! 止めろ!!」


 しかし、俺の体をすり抜けていく。当たり前のことだ。これは、クロが体験した記憶の世界。それを俺はただ見ているだけの傍観者なのだから。

 助けようにも助けることができない。


「いや……」


 プロテスが近づく毎に、クロは後ろに下がる。


「さあ、こちらへ」


 恐怖がどんどん膨れ上がっていく。もう逃げ場がない。どうすることもできない。力が覚醒していないクロでは、戦うこともできない。


「いや!」

「さあ!」

 

 そして、ついに恐怖が頂点まで達した時。


「いやああああああああっ!?」


 聞いたことのないクロの悲鳴が響き渡り体が輝いたと思いきや、空間が歪む。


「なっ、なんだあれは!?」

「いったいなにが」

「おぉ! これはまさか……空間を操る魔法! くくく! あははは……あーっはっはっは!! やはり、魔王の血縁は素晴らしい! こんなにも素晴らしい魔法を持っているのだから!!」


 と、高笑いしながら手を伸ばすプロテスだったが、クロはどこかへと姿を消してしまった。同時に、空間は真っ白になり残ったのは俺とゼルファスだけになった。


「……この後、黒は僕のところへやってきた。無意識に、僕に助けを求めてきたんだろう。でも、最初は僕にも怯えていた。まあ、こんなことがあった後だから仕方ないことなんだろうけどね」

「なあ、ゼルファス」

「なんだい?」


 俺は、ぐっと拳を握り締めてゼルファスにある決意を言う。


「俺、クロを絶対護ってみせる」

「……あぁ、僕の代わりにやってくれるかな?」

「もちろんだ」

「僕がやるべきことなんだろうけど。当時、僕のところでも反乱軍の動きがあったからね」


 それで、別世界である地球にってことか。


「よし。さっそく、プロテスの動きを調べてみるか」

「ああ。そうしてくれると助かる」

「あっ、ところでお前。俺に嘘を」

「では、頼んだよ」


 問い詰めようとしたが、ゼルファスは姿を消してしまう。こういう時便利だよな。魂だけの存在っていうのも。

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