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第一話

「あの魔王なんですけど、冒険者登録とかできますかね? あっ、これ登録料です」


 俺が訪れたのは、魔王城から一番近い街であるトルスタへとやって来てた。なんていうか、検問とかそういうのがあったけど、ゼルファスはこの街によく来ていたらしく俺も魔王ゼルファスと同じ顔だったので門番をしていた兵士達は笑顔で通してくれた。


「ふふふ。おかしな冗談ですね。確かに、魔王はあなたのように黒い髪をしている者が多いですが。魔王ならば、わざわざ冒険者登録なんてしに来られませんよね? そのようなことをする暇があるのでしたら、ちゃっちゃと世界征服をしてくださいませ、魔王様」

「あははは、ですよねー。すみません冗談です。でも冒険者登録をするのは本当ですので。手続きお願いします」

「かしこまりました。では、こちらの用紙にある項目全てに記入をしてください」


 我ながら馬鹿なことを言った。普通に考えて、信じてもらえなくとも魔王ということは隠しておくべきだというのに。ともあれ異世界に来たとなれば、定番はなんと言っても冒険者登録。これをすれば冒険者になれてクエストを受注。

 それをクリアすれば、報酬として金やら素材やらが手に入る。

 

 異世界ものでいえば、定番だ。

 しかしながら、本当に魔王なのに信じてもらえなかった。まあ、容姿が一般の中学三年生だからかなぁ。高校生ぐらいだったら信じてもらえていたんだろうけど……ま、信じてもらえないほうがこちらとしてはラッキーなのだが。

 それにしても言葉が通じ、文字も読めて書ける。これも魔王の記憶と魂のおかげなのだろう。だが、隠し財産だからもっとあると思っていたが、さほどなかった。どう見えても学生の貯金程度のもの。冒険者登録を終えた後は、宿を取るつもりだがさほどいい宿は無理だな。


(魔王だから戦いには困らないだろうけど)

「あのーすみません」

「はい。本日は、どのようなご用件でしょうか?」


 用紙にペンで記入していると、隣の受付から声が聞こえる。俺は、なんとなく視線だけを送って見ると……そこに衝撃の人物がいた。

 綺麗なブロンドの長い髪の毛、白をベースにした奇妙な服装。

 そして……腰あたりに生えている白き翼。なんだか小さめだけど、邪魔にならないようにわざと小さくしているのだろうと勝手に理解してみたり。


 あ、あれって天使じゃね? どう見ても天使だよな? なんで、天使がこんなところに。すると俺の背筋に嫌な寒気が。

 魔の存在である今の俺は、聖なる存在である天使に拒否反応をしているのだ。


 だが、それほど拒否反応をしていない。もしかしたら、体が人間である俺のものだからだろうか? もし、体も魔王のものであるのならもっとひどいことになっていただろう。それとも、魔王だからこそ天使でも幾分かは耐性があるってところか。


「私、天使なんですけど。冒険者登録なんてできますかね?」

「天使? ……あら? 天使様だったんですか?」

「はい。天使です。これでも、天界では結構能力の高い天使でして。でも、天界に居てもなーんにも面白いことがないから、人間界に降りてきちゃったんだよー。あっ、降りて来たんです」


 降りてきちゃった、じゃねえだろ。

 そんな「ちょっと暇だから出かけてくるわ」みたいなノリでいいのか? 天使っていうのは、もうちょっと人間に崇められるような存在じゃないのかよ。

 どう見ても、ただの遊び人のようにしか見えないんだけど。そして、あまり敬語は得意ではないみたいだ。後で思い出したかのように敬語に変えていたのが証拠だ。


 というか、普通に天使って信じちゃうんだね。俺は、魔王だって信じてもらえなかったけど。もしかして、格好の問題なのか? それとも身に纏っているオーラ的なものの問題なのか?

 見た目がただの中学三年生なのが悪いのか……それとも単純に世界の敵たる魔王が冒険者になりに来るわけがないと思っているのか。


「あの、もう書き終わりましたか?」


 そこへ、ペンが止まっていた俺に話しかけてくる受付のお姉さん。

 ハッと我に返り、残りの項目に記入していく。そして、全て書き終えた俺は、ペンを置いて用紙を受付のお姉さんに渡した。


「すみません。できました」

「はい。では確認させてもらいます。……確かに。では、タカムラ・リョウジさんですね。登録料金千五百ルドを提示してください」


 千五百か、結構高いな。

 俺はてっきり千ぐらいだと思っていたのに。それでもこっちにはそれ以上の金があるから別に問題はない。

 ちなみに、ルドというのはこっちの世界でいう通貨だ。簡単に覚えるのであれば、日本の十円玉や、百円玉、千円札などと同じようなもの。

 ゲームなどでは、そういう通貨になっていることが多い。どうやらここでもそうだったらしい。もし金貨とか銀貨とか中世風だったらどうしようかと。

 俺は、千ルド札と五百ルドを取り出し、提示する。それを受け取った受付のお姉さんは、ハンコを取り出して、先ほど俺が書いた用紙に押した。


 すると、用紙が光に包まれ、一枚のカードへと変化したではないか。

 これには俺は驚愕。

 おそらく、これがギルドカードなのだろう。


「では、こちらがギルドカードになります。クエストを受ける際には必ず必要となるものですので。なくさないようにしてくださいね?」

「はい。わかりました」

「それでは、ギルドカードのご説明に移りますが、よろしいでしょうか?」


 ギルドカードを受け取り、受付のお姉さんが問いかける。

 そんなもの、いつでもオッケーだ。


「かまいま」

「ええー!? 足りないのぉ!?」


 途中まで言いかけたところで、隣から叫び声があがる。

 それは、先ほどの天使の声だ。何事だ? と思い視線を送ると千ルド札を手に持って震えていた。


 あぁ、なるほど。俺は、それだけで察した。

 登録料金が足りなかったんだろう。災難だなと思った瞬間……視線が合ってしまった。やべっ! と瞬時に視線を逸らすも見てる。

 めっちゃこっちを見てるんですけど!


「……」

 

 や、やめろ。そんな目で俺を見るな。期待しても何も出ないぞ! 

 ……いやいや、俺だって魔王のに正直きついんだ。五百ルドでも、これから生活していくうえで必要不可欠! いくら相手が美少女だからって。


「……うぅ」


 なっ!? ついに泣き脅しか!? ……あぁ、もう! しょうがないなぁ。

 俺は、自分の良心に従って涙を流す天使さんへと五百ルドを渡した。


「これ、使ってくれ」

「え? いいんですか!? そ、そんなぁ、悪いですよ~。赤の他人からお金をもらうなんて~」


 この天使は、何を白々しい。

 それに、あげるんじゃない。貸すんだよ……。


「後で返してくれればそれでいいから、ほら」

「そうですか~? それじゃあ、遠慮なく! あざーっす!!」


 こいつ、調子のいい奴め。ふう、とため息を漏らしながら、受付のお姉さんのところへ戻ると、すごくにこやかな笑顔で迎えてくれた。


「ふふ。随分とお優しい魔王様なんですね」

「あははは、魔王らしくないですよねー。そ、それよりも、説明をお願いします」

「くすっ。はい、かしこまりました。では、ギルドカードをよく見てください。このギルドカードには、登録者の名前、年齢、職業、冒険者ランクなどが記載されております。冒険者さん達は、主にこのランクに見合ったクエストをこなし、ポイントを貯めて上のランクを目指すのです」


 ギルドカードを見ると、確かに俺の名前や数字などが書かれている。それにしても、ゼルファスの年齢が表示されるかと思ったが、俺の年齢が表示されるんだな。

 

「あのステータスとかはないんですか? レベルとか」

「ステータス? レベル?」


 この反応とギルドカードを見る限るよういった類のものはないようだ。となると、ここはゲームのような要素はなし。ただ純粋に、己の力を鍛え戦っていくってことか。


「あ、いえなんでもないです。すみません、説明を続けてください」

「はい、わかりました。冒険者ランクは、SからDまであり、最初は誰もがDからのスタートとなります。ちなみに、冒険者になれば誰でも職業を与えられ、身体能力も上がります。職業はご自由に変更することができるので、自分に見合った職業をお選びになってくださいね」


 そうだったのか。レベルやステータスの概念はないが、そういう不思議なシステムはあるのか。

 ちなみに、俺の職業はっと……自分はいったいどんな職業なのかを確認するために、ギルドカードをよく確認した。

 そこに書かれていたのは。


《魔王》


 ……魔王って、職業だったんだなぁ。

 これって、いいのか?


「それともうひとつ」

「なんですか?」


 少し困惑している俺に、受付のお姉さんが人差し指を立てて、説明をする。


「中には、特殊な職業などに就いている方々も居ます。それは【特異職業】と名称になります。この職業は、その者の人生そのものなので変えることはできません。ちなみに【特異職業】とはあまり出ないので、詳しくはご説明できないのですが」


 くすっと笑う。うん、そうだね。確かに、そんな特異な職業に就いている奴がうじゃうじゃ居たら大変だよなぁ。


「おお! 私の職業《天使》だって! これって、さっき言ってた【特異職業】ってやつなの?」

「はい。その通りでござます。それにしてもやはり天使様は《天使》だったということですね。【特異職業】はその職業だけの特殊なスキルがありますので、有意義にお使いになってください」

「それってつまり私だけのスキルってことぉ? わっはー! すっごーい!!」


 どうやら、隣の天使も俺と同じような【特異職業】になったらしい。

 すごく大喜びをしている。

 そして、俺が天使のほうを見ていると、受付のお姉さんがまた微笑む。


「よかったですね。無事に登録できて」

「そうですね。それよりも、説明の続きを」

「わかりました。後は、簡単なものです。ギルドカードは冒険者の貯金通帳の役割もあります。全国どこのギルドでもギルドカードは使用できます。それと、クエストのクリアしたかしていないかはこちらで読み取ることで確認できますので、嘘はつけませんよ?」

「嘘、とは?」


 気になったんで、問いかけてみた。


「例えば、魔物討伐のクエストを受けた際に、倒していないのに倒した、という嘘の報告をしてもギルドカードにはしっかりとその映像記録がありますので、嘘は無理ということなんです」

「なるほど。採取の場合は、その品物を持ってくることでクエストがクリアできるけど、魔物討伐はそうもいかない。一々確認しに行く要員が必要になるから、大変。だけど、映像記録なら」

「要員を出さなくても大丈夫、ということですね。さて、ご説明はこれで終わりですが。何か質問はありますか?」


 うーん、どうだろうな。とりあえずは、だいたいのことは理解できた。

 クエストを受けるには、このギルドカードが必要。偽造することはできないってことだな。

 ギルドカードは全国どこでも使えて、貯金通帳の役割も果たす。最後に、ギルドカードにはそのクエストの映像が記録されるというハイスペックな機能が備わっている、と。

 後は、魔王の記録を合わさってるから大丈夫だろう。


「いえ。特にはありません」

「そうですか。では、何かありましたらいつでも受付に。私達でできることならなんでもご相談してください。よい、冒険者生活を心より応援しております」

「ありがとうございます。じゃあ、また」


 冒険者登録は終わった。俺はさっそくクエストを受けながら金を貯めて、冒険者ランクを上げようとその場から立ち去ろうとしたところ。


「ちょっと待ったあぁ!!」

「うおっ!?」


 考え事をしているといきなり正面にあの天使が立ちはだかった。

 な、何なんだ? いったい。ギルド内ではただでさえ、その真っ白な翼で目立っている天使が堂々と大声を上げて、俺の目の前に。

 右手を突き出して、止まれ! と指示している。

 まさか、俺が魔王だということばれてしまったのか? そうだとしたら、天使としてその聖なる力で俺を浄化する気じゃないだろうな。

 謎の圧力。

 空気が重くなり、冷や汗が自然と出てくる。

 右手を下げて、キリッとした表情を引き締め、口を開いた。


「改めまして、お金を貸してくれてありがとうございました」

「あっはい。どういたしまして」


 ……って! ただのお礼じゃねえか!

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