第二話
「ゼル……ううん、霊児すごい。ゼルでもここまでの強さじゃなかった」
「ふっ、伊達に何もない田舎で過ごしていたわけじゃない! 自然で遊ぶよりも、ゲームという娯楽を友達とやり続けた俺は手強いぞ!!」
拝啓。
父さん、母さん。そして俺の友たちよ。俺は死んで異世界に召喚されたけど、地球に戻ってきている。今の俺は魔王だけど、だけど、今のお前達はどうしている? この部屋のカレンダーを見る限りじゃ異世界と同じ時の流れをしているようだから、もう夏休みは終わる頃か?
「うーんと、うーんっと」
クロは相変わらず部屋に籠もってインターネットをしているし、レリルは物珍しそうに漫画を読みふけっている。
エルジェは、何度もクロと会話をしようとするも、やはり全然会話をしてくれない。そこで、俺と会話をすれば羨ましそうに見詰めている。
最初の一回目は、なんだったのかと疑問に思う。
部屋に居ても退屈だったエルジェは一階へと下りていこうとするので、俺はそれを何度も止める。
見知らぬ風景、見知らぬものがたくさんあるのだ。好奇心の塊であるエルジェが大人しくするというのは無理という話か。
レリルみたいに大人しくしてくれていれば助かるんだが。
「クロ。ちょっとエルジェを大人しくさせるために家を探索させる。いいか?」
ネット対戦で二十連勝なのを諦めて、エルジェを落ち着かせるためにクロに提案する。その提案にエルジェは嬉しそうに笑顔になったところで、クロは静かに頷く。
「物を壊さなければいいと思う」
「ありがとう。おら! エルジェ!!」
「わーい!!」
よほど気になっていたのか、俺がドアを開けると嬉しそうについてくる。部屋を出て右に曲がると、階段がある。そこを下りて分かれ道があり、左に曲がるとリビングで、右に曲がると玄関だ。そして、正面にあるドアが洗面所と風呂場となっている。
「トイレ? こっちの世界のトイレって私達の世界と似ているんだね~」
まずエルジェが開けるのは、洗面所の隣にあるドアだ。まず洋式の座るタイプのトイレ。それを見た後、ドアを閉め少しガラスが多めドアを開く。
クロの部屋や先ほどのトイレとは全然広さが違う部屋。ソファーにテーブル、キッチンなどもある一般的な家庭のリビング。ただエルジェが知っているリビングとは少し違うところもあり、きょろきょろと観察するように移動する。
「あっ! これってクロの部屋にあったのと同じものだよね?」
テレビだ。リビングにはもうひとつのテレビが設置されていた。クロの部屋にあったものは普通に動いていた。だけど、ここのは動いていない。どうやったら動くんだろう? とエルジェはテレビの周りを色々と調べていく。
だが、どこにも何もない。
おっかしいなぁ、と呟きながら戻ろうとするとテーブルの上に何かが置いてあるのを発見。
リモコンだ。
エルジェは、こっちの世界。つまりは地球の文字を読めるようになっていた。だからこそ、そのリモコンになんとか書いてあるのかが理解できる。少なくとも、簡単な漢字ぐらいは読めるだろう。いくらなんでも。
「えーっと……この電源っていうのかな? えい!」
ポチッと、電源と書かれたボタンを押す。
すると。
「わあ! 点いた! おぉ! 本当にどういうことなんだろう? 箱の中に人が……あれ? でも、この箱の中にいるのって……魔法使いだよね?」
エルジェが丁度映したのは、本日日曜の朝九時半に放送している今大人気の魔法少女アニメだった。
ちなみに、現在は九時半をちょっと過ぎたぐらいだ。
魔法少女となった普通の小学生だった少女達が地球を侵略しようと攻めてくる悪と戦っていくアニメ。
絵のクオリティ、脚本、演出、声優、完璧だ! とまで言われているアニメだ。小さな子供から大きな子供まで大絶賛。
そんなアニメをエルジェはなんとなく視聴する。ずっとエルジェの行動を観察していた俺も何気なく一緒にソファーに座りながら視聴中。
最初は、ふーんという感じだったが、中盤に差込み、激しい戦闘が始まると。
「わわわっ!? 危ない! 後ろ! 後ろぉ!!」
夢中になっていた。まるで、小さな子供のように「いけえ!」や「そこだぁ!」などと応援しながら視聴している、異世界の天使様。
最初に言っておくが、エルジェが視聴しているのは、お子様向けに作られたアニメであると。
そして、放映が終了すると、他番組になりエルジェは……目を輝かせていた。
「す、すっごーい!! なにあれ!? あんな魔法使いみたことないよ!!」
それもそのはずだ。あれは、人が作ったものなのだから。何百、何千、何万もの画を描き、動いているように見せるアニメーション。
エルジェは、まだ先ほどの魔法少女アニメが作られたものだと知らない。テレビの中に何らかの方法で閉じ込められている、と思っているのだ。
これが画で、動いているように作られているなど思いもしないだろう。
「ただいまぁ」
「あれ? 誰か、帰ってきた? ソウジ…じゃないよね。女の人の声だったし」
玄関側から女性の声が聞こえた。誰だろう? とエルジェが小首をかしげている。
その声の主のことを俺は知っているが、あえて何も言わず真っ直ぐリビングへと向かってくるのを待つ。
そして、ドアを開けるとそこにはなぜかメイド服っぽい服装をしたポニーテールの女性が。
「あら? あなたは。それに」
エルジェのことを見て驚き、更に俺のことを見てエルジェ以上に驚くもすぐに何かを感じたのか冷静さを保つ。ゼルファスの記憶によれば彼女の力ならば、俺がゼルファスであってゼルファスじゃないことをすぐ見抜いたのだろう。
「エルジェでーす! クロの友達! になる予定!」
「クロちゃんの? ……ふむ」
女性は、エルジェのことをじっと見詰め、次に口を開いて発した言葉は。
「あなた、もしかして天使?」
「え? そうだけど」
「天使が、クロちゃんの」
考え込む女性。どうしたんだろう? とエルジェが疑問に思っていると
「あのー、すみません」
レリルの声がした。おそらく、女性が帰ってきたことでお邪魔しているということを伝えに来たのだろう。レリルの声に、女性は振り返る。
瞬間。
女性は、俺達以上の衝撃を受けたかのように目を見開く。
「やぁん! 可愛い!!」
「え!?」
持っていた荷物を落とし、レリルに抱きついた。
とても甘い声を出し、撫で回している。レリルは突然のことで、身動きが取れないで居る。なんとか、助けを求めようと俺やエルジェへと視線を送るが。
「仲良いねえ~」
この天然はレリルが襲われているのではなく、すぐ仲良くなったと勘違いをしているようだ。
「エルジェさーん!?」
そして、エルジェには初対面なのにこんなにも仲がいいのかぁ、と少し羨ましそうに見ているだけだった。
助けを求めたはずなのに全然伝わっていない。女性を見ると、顔を紅潮していて息が荒い。その面妖な瞳は、顔が引きつるほどだった。
「はあ……! はあ……!はあ……! く、クロちゃんとはまた違った……幼力を感じるぅ!!」
「り、霊児さーん! 助けてー!!!」
正直ただ可愛がっているだけので、危険はないのだが、レリルが必死に助けを求めてくるので女性の肩に手を置き声をかけた。
・・・・・
「へー。それで、あなた達はゼルファス、ううん。今は霊児君と言ったほうが良いかしら? そのゼルファスと融合した霊児君と一緒に冒険者として活動している、と」
「そうだよー。毎日が楽しくて飽きないから霊児と一緒に居てよかったーって、今でも思っているんだ」
確かに、毎日飽きない。ただ元気が良すぎて、いったい何をやるのかわからない時がある。
「なるほどね。あっ、そうそう。自己紹介がまだだったわね。私は、リフィア。リーさんって呼んでね! リーちゃんでも可! あなた達と同じ世界からの出身で、賢者なんて言われていたわ」
などとキリッとした表情で、自己紹介をする。ただし、レリルを抱きつつ頭を撫でながら。まるで、子供を可愛がっているかのように。しかし、リーさんの場合は少し違う。
リフィア=エルド。
その名は、異世界オラタリアでは有名だ。
二十代ぐらいの容姿と美貌。エメラルドグリーンの髪の毛を綺麗に後頭部で纏め、ポニーテールにしている。蒼玉をはめ込んだ瞳は若干たれ目になっていて、物腰は柔らかそうな大人な雰囲気がある。
大人な女性としての豊満なバスト。出るところ出て、締まるところは締まっているグラビア体系。人間で全て魔法を習得し、膨大な知識を得て賢者と昇華した魔法使い。
だが、ある日突如と世界から姿を消し、伝説の存在とまで言われている。レリルは多くの書物からその情報を得ていたので、頭を撫でられながらも会話に参加した。
「リーさんは、突如としてオラタリアから姿を消したと書物で読んだことがありましたが。別世界に召喚されていたんですね」
「ええ、そうよぉ、レリルちゃん」
レリルににへらとした先ほどまでの真剣な表情はどこへいったのか? という締まりのない表情で語り始める。
「私はねぇ、賢者になって更なる高みへと思って色んな書物を読み、儀式をしてきたの。そうしたらね……儀式の途中でちょっとトラぶっちゃってねぇ。気がついたらこっちの世界に転移していたのよぉ。もー! びっくりよぉー!」
別にそうでもないような声音である。
「そ、そうだったんですか。それは不幸な事故でしたね」
「でしょう? でも! 私はめげなかったわ! 私は賢者! 全ての魔法を習得し、膨大な知識を得た魔法使いの頂点! いつかオラタリアに戻れると信じて、この地球でなんとか生活をし続けていたの! ある時は。コンビニでアルバイト! またある時は、颯爽と現れた万能メイドさん! 仕事が続かなくても、身につけていた装飾品を売ったお金があったから普通に暮らせていたけど……そんなある日、クロちゃんとゼルファスが現れたの」
遠い目をしていた。ゼルファスとクロとの出会いを思い出しているのだろう。その時のことは、俺も覚えている。正確にはゼルファスが、だがな。
「ねえねえ。そういえばさ、そのゼルファスっていうのは誰なの?」
「あら? その霊字君から聞いていないのかしら?」
そういえばずっと誤魔化してきたんだった。
「は、はい。どういう方なのですか? クロさんとお知り合いのようですけど」
「私もしりたーい! 教えてよ! リーさん!」
二人とも興味津々のようだ。
リーさんは、そうねぇと考え込んでから、俺のことを一度見る。俺が説明をしてもいいところなんだけど。俺は、静かに首を縦に振る。
「いいわ。じゃあ、話してあげる。ゼルファスがどんな存在かを」
リーさんは語り始めた。ゼルファスとクロとの出会いを聞きつつ、俺はゼルファスの記憶からその時のことを思い出す。




