第一話
状況を整理しよう。俺は、融合した魔王ゼルファスと精神の間というところで出会い、試練があると言われた。
そして、目を覚ますと俺の隣には黒髪ロングヘアーの幼女が。
幼女は俺のことをゼルファスだと思い込み、エルジェ達が部屋に入ってきたタイミングで空間を歪めて……引き籠りでもしていそうな部屋へと導いた、と。
カーテンを開けて外を確かめたが、ここはどうやら田舎のようだ。目の前に田んぼが見える。俺が住んでいた田舎と似たような同じぐらいのな。
車はあまり通っていないし、電柱はあり、土で固められた地面が広がっていた。
よく田舎にありそうな住宅。
この部屋がある家はどうやら一軒家のようだ。
「うわぁ! 見たことのないものばっかり! これ食べ物かな?」
「す、すごいです! 箱の中の画が動いています! いったいどんな原理なんでしょうか!?」
当然エルジェとレリルは巻き込まれ、俺にとってはそんなに珍しくないものを物珍しそうに触り見ている。
魔王ゼルファスの記憶が正しいのなら、今現在、俺の足にくっついているこの子は……魔王。いや、正確には魔王としての資格がある血筋と言ったところか。
この子は、魔王の娘なんだ。
ニートな魔王(仮)クローナ=ルフェルズ。ゼルファスととても仲がいい魔族の中で最年少だ。
それもそのはずだ。彼女はまだ見た目通り十二歳なんだ。魔族はかなり長寿で、ある一定の年齢になれば見た目はそこでストップすることが多い。だから、見た目と年齢が合わないなんて普通だけど、彼女は見た目通りまだ幼い子供。
強力な能力のせいで今は無理やり魔王に祭り上げられた女の子なんだ。
「ねえねえ! 霊児! この食べ物なに!?」
「ん? あぁ、それは、ポテトチップスっていうお菓子だ。どうやら味はコンソメのようだな」
「ポテト!? これが? こんな薄っぺらいのが? へぇ………じゅる」
食べたいんだな。
絶対、あれは食べたいと思っている。皆から崇められている存在の天使が、だらしなく涎を零している。こんな姿見せられないな。
「クロ。おーい、クロさんやー」
「ふにゃ……どーしたの? ゼルー」
まだ俺のことをゼルファスだと思っているようだ。寝ぼけているとはいえ、魔力の波長なんかでゼルファスだと思っているのか?
「クロ。よーく見てみろ。俺はゼルファスであってゼルファスじゃない。俺は、霊児っていうんだ」
「え? ……霊児?」
徐々に意識が回復していくクローナこと愛称クロは、パッと一瞬で目覚め俺のことを見詰めている。しかし、その瞳には恐怖の色はない。
「そうだ。でも、俺は霊児であってゼルファスだ。わかるか?」
「……うん。この温もりはゼルファスそのもの。でもどうしてあなたからゼルファスを感じるの? ゼルファスは?」
「訳あってゼルファスは俺の体と融合している。それで言われたんだ。クロを頼むって」
「うん。だから迎えに来たの。ゼルファスにしかできないこと」
ゼルファスの今までなかった記憶が流れ込んでくる。なんとか力を微量だが取り戻したゼルファスが記憶も解禁、ということになったんだろう。
試練か。
その試練ってのは……。
「霊児ー!! これなに! これ!?」
「ひうっ!?」
と、そこへ空気を読まずに元気いっぱいのエルジェが携帯ゲーム機を持ってやってくる。そのせいで、クロは驚き俺の後ろに隠れてしまう。
このアホ天使め。俺は、クロをかばう様に立ち上がりエルジェと対峙する。
「エルジェ。少し声のボリュームを下げてくれ。クロが怖がってる。実は、この子は対人恐怖症なんだよ」
「クロ? もしかして、霊児の後ろにいる子のこと?」
小首を傾げて問う。俺は、ああと短く返事をすると、ふむふむと頷いてから一度携帯ゲーム機を置き、俺の後ろに隠れているクロへ天使のような微笑で向き合う。
あ、ようにじゃなくて本物の天使だった。
「はじめまして、私は天使のエルジェだよ」
だが、エルジェのことを見ずに俺の足にしがみ付き身を震わせている。クロに植えつけられた恐怖はそう簡単に晴れることはない。
いつも誰とでも仲良くなるエルジェでも無理か? ……いや、今のエルジェはいつもと何かが違うように見える。いつもアホみたいに元気いっぱいなエルジェではなく、どこか落ち着いた感じだ。
「私ね、クロと仲良くなりたいんだ。友達になりたの! ……だめかな?」
「とも、だち?」
ずっと俺の後ろで震えていたクロが友達という言葉にクロは反応する。
クロは、対人恐怖症になっていても友達を欲している。だが、見知らぬ人と話すことや出会うことに恐怖で身が震え、どうすることもできない。
唯一、心を開いていた魔王ゼルファスをいつも頼っていた。クロの父親が亡くなって数日に起こったあの出来事からずっと。
「うん! 友達!! それに、クロに教えて欲しいこといっぱいあるんだよー。例えば、これのこととか? これなんていう板なの? ボタンとかいっぱいあるけど」
「えっと……そ、それは」
頑張れクロと、携帯ゲーム機の説明をしようとするクロの頭を撫で、勇気を与える。
「……げ、ゲーム機」
しばらく間が空いたが、言えた。今まで、ゼルファスとしかまともに話せなかったクロだったが、ちゃんと会話を成立した。
「そっかー。ゲーム機って言うんだー。ありがとうね、クロー!!」
名前がわかったようだが、何をするものかはわかっていない。しかし、そのお礼としてエルジェはクロに抱きつこうと手を広げるが。
「あれ?」
見事に俺の後ろに隠れて、避けられてしまった。そして、くいくいと何か言いたそうにズボンを引っ張ってくるので、俺はしゃがみこんで耳を傾ける。
「ふむふむ」
「な、なんて?」
さすがのエルジェでもこの状況で何を言われるのか不安になっているようだ。クロから聞き届けた言葉を俺は、ストレートに投げつける。
「触らないで、だってさ」
「ががーん!? そ、そこまで……!」
少しは心を開けたようだが、まだまだのようだな。でも、この調子だと対人恐怖症も克服できるかな? とりあえずは、試練をなんとかしなくちゃならないな。
「でも、よく頑張ったぞクロ。少しだけど、エルジェとは接することができそうか?」
「………うん。会話、ぐらいなら」
「よし。じゃあ、さっそくやるか?」
「うん」
ゼルファスがこうしてクロに呼ばれるのは、クロが寂しくなったり、会いたいと思った時に呼ばれる。ただ、事前に連絡する方法がないので、それは突然にやってくる。ある時は、食事をしている最中。またある時は就寝しようとする時。またまたある時は、トイレに篭ろうとした時……。
ゼルファスは、随分なお人よしで通っているためどんな時でも笑顔でクロに連れられてこっちに世界に来てしまう。これも、クロのためだと。
そんな優しいゼルファスに、クロは迷惑だなと理解していてもついつい甘えてしまうのだ。
「クロ。今日は何をして遊ぶ? 言っておくが、俺はこっちの世界出身だからな! どんなものでドン! と来いだ!! あっ、エルジェ。お前はここに居ろ。勝手にうろつくな」
「なんで私だけ!?」
さっそく部屋から出ようとしていたので、俺は釘を刺して置いた。そんな中、レリルが一冊の漫画を手に持ってこちらに近づいてくる。
「あの、どうやらここは私達の居た世界とは別の世界のようですけど。これは、この世界の言語が書かれた本ですよね?」
「ああ、そうだ。……クロ。この二人にもあれをやってくれ」
「……うん」
静かに頷き、指を動かす。何も起きていないように見えて、実は今のでこちらの言語が理解できるようになったのだ。
所謂、翻訳魔法だ。この翻訳魔法はその言語をかける側が知り尽くしていないとかからない。クロはこの世界に……地球に二年も居る。
それに、頭もいいし、子供というのは吸収力がすごいって聞く。こうして、部屋に篭りながら言語を学び楽々と翻訳してしまった。
「それで、こっちの世界の言語が理解できるはずだ」
「本当です! この読めなかった本も読めるようになりました!
「よしよし。エルジェ、お前もそこらにある漫画を読んだり、ゲームをしたり。とにかく大人しくしてなさい」
「わ、わかったよー。おとうさーん」
「誰だがお父さんだ」
「私は、この本を読んでいますので」
それを見届けて、俺は本当に部屋を出て飲み物などを補充するため階段を下りていく。一応、クロはここに居候という形で住まわせてもらっている。
その家主は、今は居ないらしい。おそらく、私用で出ているのだろう。
ここの家主は、クロをかなり気に入っている。
その理由は……まあ、説明しずらいことだ。一言で説明するならば、クロの幼い見た目が家主の心を射止めた、かな。




